2022年2月28日

この特別論文は、「「北東アジアにおける核使用リスクの削減(NU-NEA)」プロジェクト– 二度と核兵器が使われないために –」のために執筆されたもので、RECNA、ノーチラス研究所、アジア太平洋核不拡散・軍縮ネットワーク(APLN)のウエブサイトに同時に公開されます。


リスクを削減するのか、利用するのか?
核兵器に関する思想の多様性と北東アジアにとっての意味
 
Van Jackson

(要旨)
本論文は、核兵器の戦略的安定性に関する理論、通常時の構造的理論であれ、危機時における対応であれ、「米国の考え方」は必ずしも単一的ではない、ということを指摘したものである。核兵器の使用や投資に関与する米国の政策決定者は、政治的・イデオロギー志向に大きく制約されているのが現実だ。従来、核兵器に関しては歴史的に見て、米国ではいわゆる「核のタカ派(軍事的威嚇や強制を支持する)」と「核のハト派(武力による威嚇に反対する)」に大きく分かれてきた。しかし、ここ20~30年の間に、米国の政策コミュニティでは核の戦略的安定性と核兵器の(非)功利性という二つの軸に対し、多様な考え方や優先順位が表れてくるようになった。本論文は、その多様な考え方を、「軍備管理派」(戦略的安定性へのリスクを削減することを追求し、通常兵器の拡大はかえって核兵器使用のリスクを高めると考える)」、「伝統的核兵器派」(相互確証破壊の論理を受け入れる)、「核兵器最優先派」(戦略的安定性は核戦力の優越性、核軍拡による支配によって強化され、先制核攻撃も辞さない)、そして「未来の戦争戦略派」(核兵器の役割を安全保障政策の中心から外し、精密誘導兵器などの先進通常兵器に重点を置く)、の4つに分類する。これら4つの異なるグループの考え方のうち、どれが政策決定者の関心をより集めるか、が今後極めて重要だ。米国の核兵器使用可能性、あるいは敵国の核兵器使用につながりかねない引き金的行動を起こす可能性は、上記4つの考え方の論理と優先傾向により、長い時間の流れの中で、または危機時やショックな事件に直面した時に、高くなったり低くなったりすると考えられる。

キーワード: 米国、核戦略、核兵器使用、北東アジア、バイデン政権

著者紹介
ヴァン・ジャクソン教授は、ウエリントンにあるビクトリア大学国際関係の教授であるとともに、カナダのアジア・太平洋財団の特別フェロー、アジア・太平洋核軍縮・不拡散リーダーシップ・ネットワーク(APLN)の上級フェローでもある。主要著え書には、米・北朝鮮関係に関する2冊の著書に加え、間もなく出版される「Pacific Power Paradox: American Statecraft and the Fate of the Asian Peace」(イエール大学出版)がある。学界に入る前は、オバマ政権下で国防長官の政策・戦略分野で従事していた。本ペーパーについては、さらなる財政支援を韓国財団による全米科学者連盟(FAS)「米韓通常兵器軍縮のための条件」プロジェクトから頂いた。

本論文の作成にあたっては、マッカーサー財団の助成金により一部支援をうけた。

英語版のみとなりますが、全文(PDF)こちら からご覧いただけます。

 

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2022年2月25日

 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)は、時宜に合ったテーマで、見解文(「レクナの目」)を発表してまいりました。
 2月24日にロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったことで、核リスク増大の懸念が高まっています。この状況を踏まえ、RECNAとしての見解をまとめ、広く発信することといたしました。


 

ロシアのウクライナ侵攻と核リスク

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)見解
2022年2月25日

2022年2月21日、ロシアは、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立宣言を承認し、24日にはウクライナの軍事施設や主要都市への侵攻を開始した。グテーレス国連事務総長は24日、「国連憲章の諸原則と対立する」と批判し、米国、欧州連合(EU)をはじめ日本政府も緊急の制裁措置を決定した。RECNAはこの軍事侵攻を強く批判するとともに、核軍縮・不拡散体制への深刻な打撃や高まる核リスクについて強い懸念を表する。そして改めて核兵器のもたらすリスクを認識し、核軍縮の必要性を訴える。

1. 核兵器が使用されるリスク
報道によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領が20日、ロシアの核兵器を配備する用意があると述べ1 、24日にはプーチン大統領が、核兵器で恫喝するような発言を行った2。あくまでも「抑止」または「威嚇」のための配備と強調してみたとしても、軍事対立が拡大すれば、核兵器が使用されるリスクが高まりかねない。このような核の恫喝は、国際的な秩序や安定を根本から覆す危険性を孕んでいる。核兵器国間の対立が核戦争につながらないよう、早急に軍事行動の停止と関係国間の対話が必要だ。

2. ウクライナ内の原子力施設での事故リスク
24日には、ロシア軍がウクライナのチェルノブイリ原発サイトを占拠したと報道された3。ウクライナには、4つのサイトに15基の原子力発電所が稼働中とされ、総発電量の50%以上を原発が占める。原発は北部ベラルーシ国境近くに6基、南部クリミア地域近くに9基存在している。ジュネーブ条約第一追加議定書で原発攻撃が禁止されていることもあり(ロシアも批准)、これら原発に対して直接攻撃を加える可能性は少ないものの、戦争時においては原発の安全性が確保できない状況が起きる可能性がある4。戦闘による大規模停電や原発運転員の抵抗・逃走による事故など、不測の事態も危ぶまれる。この面からも一刻も早く、軍事行動の停止が求められる。

3. 核軍縮・不拡散体制を侵食するリスク
冷戦直後、旧ソ連の崩壊とともに、ウクライナには約4000の核兵器が残されていた5。これらはウクライナ政府が所有するものではなかったが、1994年、ウクライナが全ての核兵器を返還する条件として、ウクライナの安全を保証することを求め、米英ロシアが合意してブタペスト覚書(1994)6に繋がった。しかし、その約束が守られないことが現実となった今、ウクライナ政府は裏切られたと感じているだろう7。核も含めた安全保障上の脅威に直面する他の諸国が同じ目に合うのを恐れて、核拡散につながることが懸念される。北朝鮮非核化やイラン核合意の再構築に向けた外交への打撃は計り知れない。

今回のウクライナへの軍事侵攻で米ロ間の溝は深まり、核超大国間の軍縮の先行きは一段と不透明になった。核による恫喝をはばからず、軍縮の機会も遠ざける軍事行動は、核不拡散条約(NPT)第6条が定めた誠実な軍縮交渉義務に背く行為である。非核化してNPTに加わったウクライナへの背信と合わせて、ロシアの責任は極めて重い。核拡散リスクが高まったり、NPTへの不信感が強まったりするのを防ぐことは、ロシアの利益にも叶うことであり、直ちに軍事行動をやめてウクライナの原状回復を決断すべきである。

 


1 Tim McNulty, “Ukraine Crisis: Vladimir Putin ready to deploy ‘super nuclear weapons’ on Belarus border”, Express, February 20, 2022. https://www.express.co.uk/news/world/1569066/Ukraine-Crisis-Russia-Vladimir-Putin-latest-nuclear-weapons-Belarus-World-War-3-vn

2 Roger Cohen, “Putin, warning against interference, says that Russia is a ‘powerful nuclear state’”, The New York Times, February 24, 2022. https://www.nytimes.com/live/2022/02/24/world/russia-attacks-ukraine#putin-nuclear-war-ukraine

3 Gul Tusyz, Anastasia Graham-Yooll, Tamara Qiblawi and Roman Tymotske, “Russian forces seize control of Chernobyl nuclear plant, Ukrainian official says”, CNN, February 24, 2022. https://edition.cnn.com/2022/02/24/europe/ukraine-chernobyl-russia-intl/index.html

4 Isabella Begoechea, “Nuclear risk from war in Ukraine isn’t targeted missiles but accidental hits on reactors, safety expert warns”, inews, Feb.23, 2022. https://inews.co.uk/news/world/ukraine-war-nuclear-risk-russia-missiles-accidental-hits-reactors-1478269

5Robert S. Norris, “The Soviet Nuclear Archipelago”, Arms Control Today, Vol.22, No.1, “Loose Nukes Special Issue”, January/February 1992. pp.24-31. https://www.jstor.org/stable/23624674?refreqid=excelsior%3A1cb8c641bcdbc3918b92567baedec9d3&seq=2#metadata_info_tab_contents

6Budapest Memorandum on Security Assurance. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対し、3か国がNPTに加入する決定をしたことを受けて、米、英、ロシアが安全を保証することに合意。1994年12月5日署名。

7 Editorial Board of Wall Street Journal, “How Ukraine was Betrayed in Budapest: Kyiv gave up its nuclear weapons in return for security assurances. So much for that”, Wall Street Journal, February 23, 2022. https://www.wsj.com/articles/how-ukraine-was-betrayed-in-budapest-russia-vladimir-putin-us-uk-volodymyr-zelensky-nuclear-weapons-11645657263?mod=hp_opin_pos_6#cxrecs_s

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2022年2月24日

この特別論文は、「「北東アジアにおける核使用リスクの削減(NU-NEA)」プロジェクト– 二度と核兵器が使われないために –」のために執筆されたもので、RECNA、ノーチラス研究所、アジア太平洋核不拡散・軍縮ネットワーク(APLN)のウエブサイトに同時に公開されます。


朝鮮半島における低威力核兵器の潜在的使用について
 
Eva Lisowski

(要旨)
本論文は、朝鮮半島における紛争において、低威力の核兵器が使用される可能性について、検討したものである。まず「低威力」の定義から検討した。通常、低威力とは10キロトン以下の爆発力を指し、主に短距離で戦場における敵国施設や軍隊を攻撃する目的の、いわゆる非戦略兵器、または「戦術兵器」と呼ばれる核兵器に使われる。次に、米国議会における低威力核兵器に関する法案審議の歴史を振り返り、どの国が低威力核兵器を実際の軍事紛争時に使用するか、しないかについて、3つの典型的なシナリオを記述する。そのシナリオに基づき、HYSPLITコンピュータ・モデルを使用して、0.3と10キロトンの核兵器が爆発した場合の放射性降下物(フォールアウト)の拡散地図を作成する。シナリオとしては、朝鮮半島の場所、季節なども複数検討する。北東アジアに位置する核保有国(米国を含む)の低威力核兵器を比較し、朝鮮半島における低威力核兵器使用に関する7つの「使用ケース」を展開する。

キーワード:朝鮮半島、核兵器問題、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、非核化、力の均衡

著者紹介
イヴァ・リソウスキ―氏は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)核兵器教育プロジェクトのメンバーで、氏は同原子力工学・核科学大学院にて修士号取得。これまで発表した論文のテーマには、大量破壊兵器製造にとっての核物質の魅力度(使用容易度)」の評価、米印原子力協定締結後のインドの核物質生産の分析などがある。現在の中心研究テーマは、核兵器爆発や民生用核施設を目標としたミサイル攻撃の影響評価シミュレーションである。米原子力学会(ANS)の若手メンバーであり、米国原子力産業協会の2019年サマー・フェローに選ばれた。リソウスキ―氏は、マサチューセッツ州ならびに米議会における原子力発電推進運動にも参加した。現在、東京工業大学にて研究員として核セキュリティや核不拡散分野における日米共同研究に従事。現在、東京工業大学原子力工学科大学院修士課程に在学中。

本論文の作成にあたっては、マッカーサー財団の助成金により一部支援をうけた。

英語版のみとなりますが、全文(PDF)こちら からご覧いただけます。

 

◆本プロジェクトの概要は こちら

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2022年2月21日

RECNA編集、テイラー&フランシス社発行の英文国際学術誌『平和と核軍縮』(略称J-PAND)は、第4巻2号を刊行いたしました。全11本の記事はいずれも無料でお読みいただけます。今回は、元国連事務次長の阿部信泰氏(軍縮問題担当)をゲストエディターとして招聘し、米バイデン政権が行っている核態勢見直しがアジア太平洋に与える影響についての特集を組みました。

英語原文ページは こちら

日本語ページは こちら(各論文の要約のみ)

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2022年2月18日

この特別論文は、「「北東アジアにおける核使用リスクの削減(NU-NEA)」プロジェクト– 二度と核兵器が使われないために –」のために執筆されたもので、RECNA、ノーチラス研究所、アジア太平洋核不拡散・軍縮ネットワーク(APLN)のウエブサイトに同時に公開されます。


台湾海峡における核戦争の防止
 
Sheryn Lee

(要旨)
中国の核戦力が増強している中、米国の「戦略的曖昧」政策の劣化と台湾政府の独立志向が強まることは、台湾をめぐる軍事対立の可能性が高くなることにつながる。しかし、台湾海峡において核兵器を使用する可能性は極めて限られた状況においてでしか考えにくい。本論文は、中国としては台湾海峡の軍事バランスを自国に有利にするべく、核による脅しを使うことなく、通常兵器および非軍事手段を用いた「灰色ゾーン」戦術をますます使用してくる、と結論づける。まず、過去の3回にわたる台湾海峡危機を詳細に分析し、核兵器並びに通常兵器を用いての威嚇により台湾統一を成し遂げようとする中国の意図を検証する。次に、米中対立が続く中、米国が引き続き台湾支持を続ける地政学及び戦略地政学的妥当性を概説する。最後に、台湾において強化されつつある民主主義の役割といかに台湾が中国の圧力に対応するかを検討する。それらの分析に基づき、本論文は、台湾海峡の問題が、日本や朝鮮半島を含む北東アジアにおける核兵器使用の可能性にどのように影響を与えるかについて結論を下す。

キーワード:戦略的曖昧性、海峡間関係、核のドミノ効果、米中関係、台湾の独立

著者紹介
シェリン・リー博士は、スウェーデン国防大学(ストックホルム)のリーダーシップ・指令・統御学科の上級講師である。それ以前、リー博士はオーストラリア国家情報局の分析官、マッカリ―大学安全保障と犯罪学科の講師を務めた。オーストラリア国立大学(ANU)戦略国防研究分野で博士号取得。ANUではTBMiller研究員としても従事。米ペンシルベニア大学政治学修士取得するとともにベンジャミン・フランクリン・フェロー、並びにマムフォード・フェローとして研究に従事。戦略国際研究センター(CSIS)パシフィックフォーラムにおいてWSD-Handa客員フェロー、アジア国際戦略研究センター(IISS-Asia)(シンガポール)にてロバート・オニール研究員を務めた。

本論文の作成にあたっては、マッカーサー財団の助成金により一部支援をうけた。

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北朝鮮の核兵器使用の可能性と米・韓同盟による抑止措置
 
Lee Sangkyu

(要旨)
本論文の目的は、北朝鮮が核兵器を使用するケースを作成することである。第一に、増強される北朝鮮の核戦力とその脅威に対抗する米韓同盟の抑止力と報復能力をまず分析する必要がある。第二に北朝鮮の核戦力と核戦略を分析し、それらの戦略に基づいて核兵器使用のケースを示すことになる。北朝鮮が核兵器を使用するケースとして、北朝鮮から見た優先順位や実現可能性を分析する必要がある。そのためのパラメーターとしては、核攻撃がもたらす軍事的効果、米国による報復の可能性、そして一般市民の死傷者数などを用いる。想定されるケースの中には、韓国の移動兵団への攻撃がもっとも考えられるシナリオとなる。それは、そういった攻撃により得られる北朝鮮にとっての利益が最も大きいと考えられるからだ。そのケースにおいては、韓国の通常兵力と北朝鮮の核戦力の非対称性があるために、北朝鮮からの核兵器による挑発がリスクをもたらすことになる。したがって、本論文では、北朝鮮の核脅威に対する米国の拡大核抑止の重要性を強調した。そして、その拡大核抑止を強化する施策も提示した。

キーワード:北朝鮮、核戦力、核戦略、核兵器使用ケース、米韓同盟

著者紹介
リー・サンキュ教授(韓国)は軍人であり、韓国軍事アカデミー(KMA)の助教授である。リー教授の専門分野は朝鮮民主主義人民共和国の核兵器がもたらす脅威、核戦力・核戦略、核兵器の指令・統御システムの評価などである。リー教授は米ユタ大学より原子力工学修士ならびに博士号を取得している。2019年から韓国軍事アカデミーの助教授、2017年から18年までは韓国国防省北朝鮮政策局核政策計画部門に従事した。

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2022年2月9日

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報復のジレンマと東アジアにおける核戦争のリスク
 
Ian Bowers

(要旨)
中国の新規核ミサイル・サイロ、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と韓国の核兵器―通常兵器の軍拡模様、最近公表された米・英協力の下でのオーストラリアの原子力潜水艦取得問題などを合わせて考えると、最近東アジアの安全保障環境が悪化している表れといえよう。地政学、軍事作戦、技術的要素などを踏まえたうえで、本論文は上記のような新たな展開を分析し、東アジアにおける核戦争の可能性、特に朝鮮半島における可能性を評価したものである。

戦略的安定性にとって最も脅威となるのは、「報復のジレンマ」と呼ばれるものだ。これは、米、中国と東アジアの他諸国が通常戦力を用いて、意図的、または意図せざる出来事によって、他国の核戦力を目標に攻撃を加えることが戦略的不安定につながることであり、その結果、相手国はさらに確実な報復能力を追求すること、そしてそれが通常兵器による戦争や抑止戦略の中心となること、というものだ。地域における多くのまた異なった対立や競争的関係を考えれば、地域における軍備管理が成功する可能性は低い。しかし、海洋の存在という地政学的環境や、米中間では「自国の存亡にかかわる脅威」がお互いに存在するわけではないことを考えれば、冷戦時代の対立に比べると米中間の核戦争につながる可能性は低いといえる。

キーワード:米国、中国、通常兵器、軍備管理、核戦争

著者紹介
イアン・バウアーズ博士は、デンマーク王立防衛大学共同作戦センターの准教授。博士の専門分野は、抑止、未来の軍事環境、海上戦力、東アジアの安全保障。博士の論文はInternational Security, the Journal of Strategic Studies, the Naval War Collage Review, Korean Journal of Defense Analysis等に発表されている。最新の研究成果としては、「通常兵器による報復のジレンマ:韓国の抑止戦略と朝鮮半島の安定性」(共著)がInternational Securityに発表されている。さらに、韓国海軍の近代化についての論考、海上戦力と軍事変革に関する編著もある。ロンドンのキングス・カレッジにおける戦争研究分野で博士号取得している。

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2022年2月3日

この特別論文は、「「北東アジアにおける核使用リスクの削減(NU-NEA)」プロジェクト– 二度と核兵器が使われないために –」のために執筆されたもので、RECNA、ノーチラス研究所、アジア太平洋核不拡散・軍縮ネットワーク(APLN)のウエブサイトに同時に公開されます。


朝鮮半島における核兵器問題:課題と展望
 
Anastasia Barannikova

(要旨)
過去30年間*にわたり、朝鮮半島の核兵器問題(KPNI)は、北東アジアにとって最も深刻な脅威の一つとして考えられてきた。現在に至るまで、国際社会におけるいかなる努力―六か国協議、圧力や融和外交、そして最近では2018-19年に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が開始した一連の外交―をもってしても、この問題の解決にめどが立つような有効な成果を上げてこれなかった。ということは、これまでの北朝鮮へのアプローチの妥当性や、朝鮮半島の核兵器問題を解決することの実現可能性に対する疑問につながってくるのだ。

(*ここでは、1990年代からを起点として考えている。当時北朝鮮と米国の関係が悪化し、北朝鮮は核不拡散条約(NPT)からの脱退を表明、最初の「核危機」が勃発した時期である。)

キーワード:朝鮮半島、核問題、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)、非核化、力の均衡

著者紹介
アナスタシア・バラニコヴァ博士はADMネヴェルスコイ海洋国家大学(ウラジオストック、ロシア)の研究員であり、モンゴル北東アジア安全保障・戦略研究所の客員研究員(モンゴル)。2019年には国際戦略研究センター(CSIS)、2020年ミドルベリー国際大学院モントレー校不拡散研究センター、2021年慶南(Kyungnam)大学極東研究所、などの客員フェローを務めてきた。ADMネヴァルスコイ海洋国家大学から歴史学博士号取得。これまでに、科学専門誌、著名新聞、ブログなどで、多くの論文・論評を、ロシア語、英語、中国語、韓国語、モンゴル語、日本語にて発表してきている。

本論文の作成にあたっては、マッカーサー財団の助成金により一部支援をうけた。

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