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【レクナの目】ロシアのウクライナ侵攻と核リスク
2022年2月25日

 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)は、時宜に合ったテーマで、見解文(「レクナの目」)を発表してまいりました。
 2月24日にロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったことで、核リスク増大の懸念が高まっています。この状況を踏まえ、RECNAとしての見解をまとめ、広く発信することといたしました。


 

ロシアのウクライナ侵攻と核リスク

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)見解
2022年2月25日

2022年2月21日、ロシアは、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立宣言を承認し、24日にはウクライナの軍事施設や主要都市への侵攻を開始した。グテーレス国連事務総長は24日、「国連憲章の諸原則と対立する」と批判し、米国、欧州連合(EU)をはじめ日本政府も緊急の制裁措置を決定した。RECNAはこの軍事侵攻を強く批判するとともに、核軍縮・不拡散体制への深刻な打撃や高まる核リスクについて強い懸念を表する。そして改めて核兵器のもたらすリスクを認識し、核軍縮の必要性を訴える。

1. 核兵器が使用されるリスク
報道によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領が20日、ロシアの核兵器を配備する用意があると述べ1 、24日にはプーチン大統領が、核兵器で恫喝するような発言を行った2。あくまでも「抑止」または「威嚇」のための配備と強調してみたとしても、軍事対立が拡大すれば、核兵器が使用されるリスクが高まりかねない。このような核の恫喝は、国際的な秩序や安定を根本から覆す危険性を孕んでいる。核兵器国間の対立が核戦争につながらないよう、早急に軍事行動の停止と関係国間の対話が必要だ。

2. ウクライナ内の原子力施設での事故リスク
24日には、ロシア軍がウクライナのチェルノブイリ原発サイトを占拠したと報道された3。ウクライナには、4つのサイトに15基の原子力発電所が稼働中とされ、総発電量の50%以上を原発が占める。原発は北部ベラルーシ国境近くに6基、南部クリミア地域近くに9基存在している。ジュネーブ条約第一追加議定書で原発攻撃が禁止されていることもあり(ロシアも批准)、これら原発に対して直接攻撃を加える可能性は少ないものの、戦争時においては原発の安全性が確保できない状況が起きる可能性がある4。戦闘による大規模停電や原発運転員の抵抗・逃走による事故など、不測の事態も危ぶまれる。この面からも一刻も早く、軍事行動の停止が求められる。

3. 核軍縮・不拡散体制を侵食するリスク
冷戦直後、旧ソ連の崩壊とともに、ウクライナには約4000の核兵器が残されていた5。これらはウクライナ政府が所有するものではなかったが、1994年、ウクライナが全ての核兵器を返還する条件として、ウクライナの安全を保証することを求め、米英ロシアが合意してブタペスト覚書(1994)6に繋がった。しかし、その約束が守られないことが現実となった今、ウクライナ政府は裏切られたと感じているだろう7。核も含めた安全保障上の脅威に直面する他の諸国が同じ目に合うのを恐れて、核拡散につながることが懸念される。北朝鮮非核化やイラン核合意の再構築に向けた外交への打撃は計り知れない。

今回のウクライナへの軍事侵攻で米ロ間の溝は深まり、核超大国間の軍縮の先行きは一段と不透明になった。核による恫喝をはばからず、軍縮の機会も遠ざける軍事行動は、核不拡散条約(NPT)第6条が定めた誠実な軍縮交渉義務に背く行為である。非核化してNPTに加わったウクライナへの背信と合わせて、ロシアの責任は極めて重い。核拡散リスクが高まったり、NPTへの不信感が強まったりするのを防ぐことは、ロシアの利益にも叶うことであり、直ちに軍事行動をやめてウクライナの原状回復を決断すべきである。

 


1 Tim McNulty, “Ukraine Crisis: Vladimir Putin ready to deploy ‘super nuclear weapons’ on Belarus border”, Express, February 20, 2022. https://www.express.co.uk/news/world/1569066/Ukraine-Crisis-Russia-Vladimir-Putin-latest-nuclear-weapons-Belarus-World-War-3-vn

2 Roger Cohen, “Putin, warning against interference, says that Russia is a ‘powerful nuclear state’”, The New York Times, February 24, 2022. https://www.nytimes.com/live/2022/02/24/world/russia-attacks-ukraine#putin-nuclear-war-ukraine

3 Gul Tusyz, Anastasia Graham-Yooll, Tamara Qiblawi and Roman Tymotske, “Russian forces seize control of Chernobyl nuclear plant, Ukrainian official says”, CNN, February 24, 2022. https://edition.cnn.com/2022/02/24/europe/ukraine-chernobyl-russia-intl/index.html

4 Isabella Begoechea, “Nuclear risk from war in Ukraine isn’t targeted missiles but accidental hits on reactors, safety expert warns”, inews, Feb.23, 2022. https://inews.co.uk/news/world/ukraine-war-nuclear-risk-russia-missiles-accidental-hits-reactors-1478269

5Robert S. Norris, “The Soviet Nuclear Archipelago”, Arms Control Today, Vol.22, No.1, “Loose Nukes Special Issue”, January/February 1992. pp.24-31. https://www.jstor.org/stable/23624674?refreqid=excelsior%3A1cb8c641bcdbc3918b92567baedec9d3&seq=2#metadata_info_tab_contents

6Budapest Memorandum on Security Assurance. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対し、3か国がNPTに加入する決定をしたことを受けて、米、英、ロシアが安全を保証することに合意。1994年12月5日署名。

7 Editorial Board of Wall Street Journal, “How Ukraine was Betrayed in Budapest: Kyiv gave up its nuclear weapons in return for security assurances. So much for that”, Wall Street Journal, February 23, 2022. https://www.wsj.com/articles/how-ukraine-was-betrayed-in-budapest-russia-vladimir-putin-us-uk-volodymyr-zelensky-nuclear-weapons-11645657263?mod=hp_opin_pos_6#cxrecs_s

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