REC-PP-12
核兵器禁止条約発効:新たな核軍縮を目指して(2021年1月)
吉田 文彦 , 中村 桂子 , 広瀬 訓 , 西田 充 , 黒澤 満 , 鈴木 達治郎
それはあまりに素晴らしい輝きで、まぶし過ぎたのだそうだ。
レイキャビクでの首脳会談(1986 年)で、レーガン米国大統領とゴルバチョフ・ソ連共
産党書記長が核廃絶合意寸前まで折り合った。事前の予想をはるかにこえた、かつて例をみ
ないほどの交渉の進展だった。だが、米国側の大がかりなミサイル防衛研究開発計画をめぐ
る溝を埋めきれず、最終合意は幻に終わった。
レイキャビクに同行したソ連中枢に近い人物は後日、その時の二人の首脳の心境をこう
解説していた。両首脳は、突如、地平線の向こうで、太陽が光(核廃絶の合意)を放つのを
見た。無論、二人ともその光を目指していたわけだが、予想外に急に、しかもあまりにまば
ゆい輝きだったので、そこですぐに光をつかみとる準備ができていなかった――。
あの時、地平線の向こうに姿を消した光が、また輝きを取り戻そうとしている。核兵器禁
止条約(TPNW)が発効し、私たちは核兵器を違法化する多国間条約のある時代を迎える。
核保有国や核の傘国はこの条約に背を向けたままであり、当面は、「核抑止に依存しない非
核国」が参加する条約にとどまる。だが、作家の佐藤優さんはこう強調している。
「シニシズム(冷笑主義)に陥ってはいけない。それこそ、冷戦時代に米ソが中距離核戦
力(INF)全廃条約を結んだ時も、できるはずないとみんな言っていたわけですから。ある
タイミングで、すっとできる時がある。歴史の一種の巡り合わせがあるんです」
今度は光を引き寄せ、タイミングを見逃さずに、しっかりと私たちのものにしなくてはい
けない。TPNW 発効はそこに向けた新たな出発点である。
そんな歴史的な変曲点に立つ今、TPNW について考えるべきことを、このポリシーペー
パーでまとめることにした。目次(次頁)にあるように、6 本の論考で構成されている。
TPNW を通じて、核廃絶へと近づいていくには何が必要なのか。何を活かしていけばいい
のか。思考や議論を重ねて、解や一致点を模索していく挑戦の始まりである。
是非ご覧ください。
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