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「人道的軍縮」と市民社会:韓国の対人地雷対策の検証(2022年3月)
目加田 説子
「軍縮」という言葉は、特定の兵器の規制や削減、禁止、廃棄などを意味する。すなわち、「軍縮」の具体的な対象は基本的には武器であったり、武器に関する措置であったりする。したがって、個々の「軍縮」条約は、対象となる武器の名称・範疇や、武器に関する規制措置を冠するのが通例だ。生物兵器禁止条約(1972 年発効)、特定通常兵器使用禁止制限条約(1983 年発効)、化学兵器禁止条約(1997 年発効)などである。
それでは、「人道的軍縮」は、「軍縮」とどのような共通点・相違点があるのだろうか。人道的軍縮は比較的新しい概念であり、その定義についてまだ確立されたものが存在するわけではないが、次のような点を指摘できるだろう。まず共通点だが、特定の兵器の規制や削減、禁止、廃棄など、従来の「軍縮」が内包しているアジェンダが「人道的軍縮」にも含まれているところである。だが、重要なことは、むしろ相違点にある。
「人道的軍縮」の場合には、(1)従来の軍縮アプローチとは対照的に、国家の安全保障だけでなく、人々の安全と福祉を守ることを重視する、(2)特に兵器がもたらす「人的・環境的影響」を軽減することで民間人の保護を強化することを目指す、といった点が特徴的である。「軍縮」という言葉を広義に解釈し、さらには人道主義に高い優先順位をつけることによって、特定の兵器の削減や制限・禁止に留まらず、兵器に関わる問題全般への対処に必要なさまざまな措置を包含している。「人道的軍縮」に基づく条約が、武器に関する条文だけでなく、人道的観点から被害者の救済を条文に盛り込んでいるのは、そうした理念に基づいている。
対人地雷禁止条約(1999 年発効)、クラスター爆弾禁止条約(2008 年発効)などの成功例によって次第に広まってきた「人道的軍縮」は、今や最大級の非人道兵器の廃絶をめざす核兵器禁止条約(2021 年発効)へと進化した。核兵器禁止条約も第7条で、核爆発実験を実施した国に対し、被害者に対する援助について規定している。
このような歴史的潮流の中で、「人道的軍縮」としての核兵器禁止条約を運用していくにあたり、先行の条約から得るべき教訓は何なのだろうか。もちろん、核兵器は他の兵器とは異なる非人道的な属性を有しているのは論を俟たないが、人道主義をどのように政策に実装し、非人道的な被害に向き合っていくかという点では、先例が参考になる面も少なくないだろう。以上のような視点から、この論考では、対人地雷禁止条約の締約国ではないにもかかわらず、同条約の規範力を活用しながら、地雷除去や被害者救済を進めてきた韓国の事例に焦点をあて、「人道的軍縮」に欠かせない要素を考えてみたい。
是非ご覧ください。
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