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「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない」- 5核兵器国首脳共同声明の意義と課題 – (2022年3月)
吉田 文彦 , 黒澤 満 , 西田 充 , グレゴリー・カラーキー , 小泉 悠 , 樋川 和子 , 朝長 万左男
核兵器不拡散条約(NPT)で核保有が認められている5核兵器国(N5)が2022年1月、核軍縮・不拡散に関する共同声明(N5首脳共同声明)を発表した。注目点のひとつは、「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない」とのフレーズが入っていたことだ。1985年11月のジュネーブでの米ソ首脳会議の共同声明に盛り込まれ、思い切った核軍縮に進む時代精神を象徴するような表現となったのがこのフレーズだった。
最初に口にしたのはロナルド・レーガン米国大統領で、ジュネーブの2年前の1983年11月に来日した際、国会での演説で使った。「米国大統領としてのみならず、一人の夫として、父として祖父として申し上げる。貴重な現代文明を維持するには、政策(の選択肢)はたったひとつしかないと私は確信している。核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない」。ただ、米ソ緊張が高まっていた時期であり、レーガンのこの信念はほとんど注目されることなく終わった。
レーガンはその約二月後の1984年1月の米国議会での一般教書演説でもこのフレーズを使って、ソ連に呼びかけた。「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない。米ソが核保有する価値は、核不使用を確かなものにすることにしかない。しかし、それなら(核不使用を徹底するためなら)、核兵器を全面的に廃止する方が良くはないだろうか?」。だが、この言葉も多くの耳目を集めることがないまま、他事に埋もれていった。
結果的に、ミハイル・ゴルバチョフが1985 年3 月にソ連指導者になった後に、このフレーズが米ソ間で共鳴し、時代精神を象徴するような表現となった。逆に言えばそれまで、政策関係者も、学術関係者も市民社会も、レーガンの渾身の言葉の含意を事実上、見逃していた。歴史では時間を経てから、節目となった言葉や出来事の含意に気づかされることが少なくないが、このフレーズも例外ではなかった。
それを歴史の教訓として考えた時、このたびのN5首脳共同声明の含意とは何なのだろうか。見逃してはならない点、今後の核軍縮に活かすべき点は何なのだろうか。そうした視点から、本ポリシーペーパーを編むことにした。核大国ロシアがNPT内の非核国ウクライナへ軍事侵攻した今、こうした問いが一段と重みを増しているように思える。
是非ご覧ください。
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