2012年11月1日
米国が3か国イニシャチブに反対
ここでは、米国をはじめロシア、フランスなど核兵器国が一般討論(10月8日~16日)と核兵器に関するテーマ別討論(10月17日~22日)においてどのような姿勢を示したかを中心に報告し、「核兵器のない世界」に向けたこれらの国々の対処の姿勢を論評する。
大統領選挙直前の時期にあたる米国の姿勢は、一貫して後ろ向きとの印象を禁じ得ない。10月10日の一般討論に登壇したローズ・ガテマラー国務次官補(英文)も10月17日のテーマ別討論に登場したローラ・ケネディ軍縮大使(英文)も、オバマ大統領のプラハ演説を引き合いに出して、「核兵器のない世界」を目指すために米国は活発に活動していると強調した。そして、米ロのSTARTが順調に実行されていると述べ、ステップ・バイ・ステップ(一歩一歩)の方法でしか「核兵器のない世界」に近づく方法はないと従来の主張を繰り返した。日本政府が同じ主張を自信に満ちた様子で強調する姿を見るたびに、その後ろに、筆者はいつもこのような米国の姿勢を二重写しにしてきた。
米国は、そのようなステップ・バイ・ステップの次の第一歩は兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約、FMCT)であると考えている。そしてFMCT交渉開始がジュネーブ軍縮会議(CD)で行き詰まっている状況を打破するために、CDに代わる道を追求することを辞さないと述べてきた。ガテマラー氏は10日に「米国はいつも革新的であったし今もそうである。軍備管理や不拡散においても例外ではない」と述べた。しかし、10日に、オーストリアが、CDの停滞を破りFMCTを含む核軍縮アジェンダ全体を前進させる意図で「革新的」提案(第1報参照)を行った後に米国が用意した17日の演説は、オーストリア提案に真っ向から反対するものであった。
17日、FMCT交渉のために米国が追求してきたCDへの対案――5核兵器国といくつかの国が議論してきたもの――が、停滞を打ち破る唯一の方法であると主張したのちにケネディ米大使は次のように述べた。
「核兵器のない世界を達成するために代案となる総体的アプローチの要求が出ている。目指すところは同じであるが、根本的なところでこのアプローチに同意できない。軍縮は誰もが知るように困難な仕事である。近道はないしステップ・バイ・ステップ・アプローチの他に実際的な代案はない。一気にすべてを達成しようとするとより現実的な努力がおろそかになる。このような理由で、核軍縮を扱う新しい国連機構を設立しようとする提案を我々は支持しない。このような機構は決して現状より良いものにならない。」
これは、強い内容をもった失望すべき意見表明である。米国の「革新性」は従来の路線の継承を前提とする範囲のものだということを示す結果になった。CDがFMCT追求の唯一の場であるべきであるという意見は、ロシア、中国、フランス、イギリスのすべてが繰り返した。オーストリアら3か国イニシャチブの前に立ちはだかるこの壁に対して、今回の第1委員会がどのような結論を出すのか、注視したい。
P5、核軍縮停滞に反省なく、努力を自賛
米国は、戦略と非戦略、配備と非配備を含むすべての核兵器の次なる削減についてロシアと対話を始めていると述べた。また、米国は新型核弾頭を製造することを禁じているし、新しい任務を核兵器に与えていないことを改めて確認した。しかし、核弾頭の寿命延長計画や弾頭の非核部分の改造で事実上の新型核弾頭の開発や新任務の付与(の可能性)を行っているという専門家が指摘してきたことに対して反論する情報は与えられなかった。
STARTの一方の当事者であるロシアは、STARTに関して米国とは異なる取り上げ方をした。さらなる核兵器削減のための米国との交渉について、きわめて率直に悲観的見解を表明したのである。それは米国のミサイル防衛に関する深刻な懸念に基づくものであり、警告に近い内容である。10月10日、ミハイル・ウリャノフ・ロシア外務省安全保障問題及び軍縮部長は次のように述べた(英文)。
「実際には、(米国との)新しい(核削減)合意はますます幻想になりつつある。グローバルな弾道ミサイル防衛システム(BMD)を開発する一方的な計画を性急に実行しようとすることから生じている構造的な変化によって戦略的安定性が悪影響を受けている。本質的に、これは他人の安全保障を犠牲にして自分の安全保障を確保しようとする試みであり、ヨーロッパと国際的な安全保障という根本的原則に反している。すべての国が、このような措置がもたらす破滅的な結果に気付いているわけではない。しかし、実際のところ遠からず核軍縮の望みが絶たれてしまう傾向が生まれている。さらに、制限もなく、あるいは全体的な国際的文脈や他の国家が抱く正当な関心への考慮もなく、BMDシステムを一方的に配備することは、不可避的に対抗手段を引き起こし、危険な対決の前提やおそらくは新しい軍備競争を生み出すであろう。」
ロシアはMDがある種の現実的な脅威に対して有効であると認めることによって、米国にMDに関する米ロの対話を促し、演説の中で両国に利益となるMDの構築の可能性を呼び掛けた。この呼びかけは新しいものではなく、すでに米国議会によって強く拒否されてきた。今回も事態を改善する役割を果たさないと見るべきであろう。
ロシアの警告に真実味があるだけに、冷戦時代と同じ東西対立の構造を再現させない世界的世論が必要になっている。
中国の演説にも新味がなかった。米ロという国名を掲げることは避けながら、最大の核兵器を保有する国(複数)が核兵器の大幅削減に先頭を切って取り組むべきだと主張するとともに、それによって包括的な核軍縮の条件が生まれると述べた。その先の適切な時期に、国際社会は核兵器禁止条約を結ぶべきであるとも述べた。中国が一貫して強調してきた先行不使用(ノー・ファースト・ユース)政策や、無条件に非核兵器国に対して核兵器の使用や使用の威嚇を行わない(無条件の消極的安全保証)政策をとっていることを強調し、すべての国がこれらを行うことを義務付ける条約を締結すべきであると主張した。確かに中国の核兵器政策は他の核兵器国と比較してユニークであり、一歩前進したものである。しかし、世界的な核軍縮を進めるためにリーダーシップをとるために何をするかという観点からの、新味のある提案が欠けているのは残念である。
フランスもまた自国が軍縮努力を怠っていないことを強調したが、2010年のNPT再検討会議にすでに述べたことを超える内容はなかった。自国の戦略原理を「厳密な十分性の原則、すなわち国際環境に見合った最低の可能なレベルに保有核兵器を維持する」ものだと説明を改めて繰り返した(10月17日、シモン-ミシェル国連大使)(英文)。中国もまた「国家安全保障にとって必要な最低レベルの核兵器能力の維持」という言葉を使うが、中国と比較したとき、先行不使用、無条件の消極的安全保障などの政策表明がない分だけ、フランスの「原理」――国際環境によって変わる「厳密な十分性」の概念――は、極めてあいまいであるとの印象を拭いえない。
イギリスはNPTの核軍縮義務を履行していると胸を張った。しかし、将来の安全保障環境が不透明である以上、「信頼できる効果的な最小の核抑止力を維持する」と従来の立場を繰り返した(10月18日、アダムソン大使)(英文)。英国の核戦力は、現在、潜水艦戦力のみであるが、2010年の「戦略的国防・安全保障見直し」(SDSR)で定めた削減計画――1隻当たり搭載の弾頭数を48から40に削減し、作戦用弾頭数を120以下に減らせ、1隻当たりの核ミサイル8基以下にし(すなわち5発以下の多弾頭ミサイル)とし、貯蔵核弾頭の総数を180以下にする――という目標について、すでに実行に移されており、潜水艦の1隻についてはすでに弾頭数が40以下を達成したと報告した。また、2015年のNPT再検討会議までに作戦弾頭数を120以下を達成すると発表した。これらの情報の一部は新しいものである。
すべての核兵器国が、NPT合意を順守するためのP5の会合を継続していることについて、彼らの誠意の証として言及した。会合が5核兵器国の信頼醸成に役立っていることは確かであろう。もっとも最近の会議は12年9月27日~28日に北京で開かれた専門家会議であった。10月18日の中国の発言(英文)によれば、それは「主要な核に関する専門用語の定義集に関して作業する初めての専門家会合」であったが、「核に関する用語集を作成する作業を、相互理解と意見交換を強めることを目指してスピードアップすることを決定した。」イギリスが述べているように、P5が2010年NPT行動計画によって求められている「標準的報告様式」の提案を行うためには、技術的議論を一層速めなければなるまい。さらに、形式ではなく透明性を確保したうえでの削減のペースについても、建設的な議論が行われるべきであろう。