『長崎大学広報紙Choho』(長報)は、長崎大学が発行する情報誌です。最新号の Choho vol.81(春季号:2023年3月発行)で「核兵器廃絶研究センターRECNA」が特集されています。是非ご覧ください。
新着情報What’s New
ウクライナ侵攻から一年を迎えて
長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)見解
2023年2月24日
昨年2月24日に始まったロシアによるウクライナ軍事侵攻から一年が経つ。未だ停戦合意への道筋は見えず、犠牲者が増えている。ロシアのプーチン大統領は今月21日に、米ロ間に唯一残る軍備管理・軍縮条約である「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を表明し、23日には陸・海・空軍の核戦力を増強していくと宣言した。米ロ間の緊張は高まっている。相互の現地査察や定期協議を通じて信頼醸成に貢献してきたこの条約が有名無実になり、ロシアが核軍拡路線に逆戻りすれば、核使用のリスクはますます高まって核軍縮の道が閉ざされかねない。
RECNAはロシアの姿勢を強く非難するとともに、同国が核の恫喝を伴う侵略行為を直ちに停止し、法に基づく国際秩序の回復に努めることを強く求める。新STARTの履行停止や核戦力増強の表明は核軍縮の交渉を義務付けた核不拡散条約(NPT)に反する行為でもある。ロシアは直ちに履行停止や核戦力増強を撤回し、軍備管理・軍縮の新たな枠組みを構築するべきである。
核抑止依存の高まりでは、米国を含むロシア以外の核兵器保有国、ならびに「核の傘」国の責任も問われるべきだ。ウクライナ侵攻と核リスク増大を受け、欧州や北東アジアを含む各地でも核抑止依存が一層高まっており、軍備拡張も加速している。利害が異なる諸国間の分断と対立が深まり、まさに「安全保障のジレンマ」と呼ぶべき事態が進行している。
すべての核保有国・「核の傘」国は、77年以上続いてきた「核兵器不使用」の規範を徹底し、核使用リスクの削減に最大限注力しなければならない。そのためにも、2022年1月3日の5核兵器国声明で再確認された「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦ってはならない」の原則に立ち返るべきである。ロシアを含めたG20首脳宣言(2022年11月15日)が「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」と明記した意義も大きい。核保有国・「核の傘」国は、信頼醸成の構築、危機管理対策の徹底を含めた核リスク削減措置を優先するとともに、より抜本的な核兵器の役割低減に向けた施策に踏み出す責任を負っている。
あわせて各国には、「安全保障のジレンマ」を乗り越え、協調的安全保障の道を探る努力が求められる。「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」提言(2018年3月29日)が、核抑止は「長期的かつグローバルな安全保障の基礎としては危険なもの」であり、「すべての国はより良い長期的な解決策を模索しなければならない」と指摘した。来る広島G7サミットは、核抑止を乗り越える創造的な議論の出発点とする必要がある。
※ この見解文について NHK長崎のインタビュー を受けました。あわせてご覧ください。
2022年10月29日(土)に長崎原爆資料館ホールで開催したPCU-NC・RECNA創立10周年記念特別講演会「核なき世界への新たな挑戦-長崎からの発信-」の動画を公開いたしました。
~ 特別講演会 第2弾 開催のご案内 ~
2023年1月21日(土)13:30-15:30 出島メッセ長崎
芥川賞作家・平野 啓一郎 講演会 「核なき世界の想像/創造」
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[過去の動画一覧] |
PCU-NC・RECNA創立10周年記念特別講演会【第1弾】
「核なき世界への新たな挑戦-長崎からの発信-」
「長崎の新たな市民外交に向けて」 【基調講演翻訳(日本語・PDF)】
米国、南アフリカ、国連代表部での勤務、二国間関係局長等を歴任し、2020年10月から駐日特命全権大使を務める。国連軍縮委員会副議長、武器貿易条約交渉ファシリテーターを歴任するなど国際安全保障・軍縮の分野で多くの経験を有し、核兵器禁止条約の採択に至る交渉プロセスにおいても中心的な役割を担った。
「核なき世界に向けた長崎の役割」
宮 崎 園 子 (広島在住ジャーナリスト)
中 村 楓 (ナガサキ・ユース代表団第8・9期生)
ショーナ-ケイ・リチャーズ
この特別論文は、RECNA、ノーチラス研究所、アジア太平洋核不拡散・軍縮ネットワーク(APLN)のウエブサイトに同時に公開されます。国際著作権許可4.0 に基づいて公開されます。
ウクライナ戦争が韓国の安全保障に与える影響
CHEON Myeongguk
「北東アジアにおける核使用リスクの削減にむけて」(NU-NEA)プロジェクト
長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)
アジア太平洋核不拡散・軍縮リーダーシップネットワーク(APLN)
ノーチラス研究所
2022年12月5日
(本プロジェクトの1年目の報告書が発表されて間もない2022年2月24日、ロシアは「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナへの軍事侵攻を開始した。このウクライナ侵攻は世界に衝撃を与え、多くの国々の関係を変えてしまい、とくに「戦争」の概念も変えてしまった。NU-NEAプロジェクトでは、ウクライナ侵攻による国際情勢の変化が、核保有国や核兵器を獲得しようとする国、核抑止に依存する国々の核兵器に関する思考、特に配備や核使用に関する思考、を変えたのではないか、と考えた。そこで、北東アジア諸国の軍事戦略や安全保障政策の専門家に、それぞれの国の政策にウクライナ侵攻がどのような影響を与えたかについて短い論考を執筆してもらうよう依頼した。これはその第五報である)
要 旨
本論文で、著者はウクライナ戦争が韓国の核兵器に対する態度にどのような影響を与えるかについて探索した。その結論は、「北朝鮮の核の脅威に対抗するための抑止力として、独自の核武装という選択肢は最後の手段である」というものだ。独自核武装の選択肢は、ドナルド・トランプ大統領が再び当選し、朝鮮半島から米国軍を撤退させ、さらには北朝鮮の脅威に対する拡大核抑止(核の傘)さえも取り払ったときにのみ検討されるだろう。
キーワード:
韓国、ロシア、ウクライナ、北朝鮮、核兵器、北東アジア、抑止
著者紹介:
チョン・ミョングク(Cheon Myeongguk)博士は韓国国防分析研究所の客員研究員である。研究分野は、北朝鮮の大量破壊兵器(核、化学、生物)と弾道ミサイルである。さらに、抑止論、防衛、対応措置、危機管理、軍備管理なども研究対象である。
この論文は本人の分析であり、所属機関の研究とは無関係である。
英語版のみとなりますが、全文(PDF)は こちら からご覧いただけます。
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