このワーキングペーパーは、「被爆75年記念事業 ナガサキ・核とパンデミック・シナリオプロセス」のために執筆されたもので、RECNA、ノーチラス研究所、アジア太平洋核不拡散・軍縮ネットワーク(APLN)のウエブサイトに同時に公開されます。国際著作権許可4.0 に基づいて公開されます。
パンデミック
C G Nicholas Mascie-Taylor and K Moji
(要旨)
パンデミックは、伝染病が世界に広がる、または国境を越えて広い地域や多くの人たちに影響を与える現象をいう。パンデミックは、人類史上何回も起きており、動物からのウィルス感染が増加しつつあるため、その回数も増えていると思われる。パンデミック・リスクは、「スパークリスク」(例;野生動物からの感染侵入)と「スプレッド・リスク」(感染経路とヒトの感受性による感染拡大)の組み合わせによる。パンデミックへの準備対応策を構築するのは複雑な作業であり、かなりの調整が必要となる。COVID-19のケースでは、感染モデル構築が多くの政府対応にとって重要であった。具体的には、ロックダウン(都市閉鎖)や3密回避等も含まれる。新型病原体のワクチン開発は簡単ではなく、コミュニティによる緩和対応策が不可欠である。COVID-19のケースからは、即時の対応、徹底した検査、デジタル機器による追跡調査、政府やリーダーに対する国民の信頼と国際協力などが重要であることが教訓としてあげられる。
キーワード: パンデミック、人獣共通感染症、パンデミックの影響、コミュニティ緩和策、ワクチン開発、COVID-19からの教訓
著者紹介:
ニック・マスシーテイラー博士は、英国ケンブリッジ大学「人口生物学と健康」担当教授、グローバルヘルス研究部部長を兼務、同大学チャーチルカレッジのフェロー、欧州人類学会会長・副会長を20年間務め、ハンガリー国立科学アカデミーの海外フェローでもある。南アジアおよびアフリカにおいて、栄養・健康状態の調査研究と政府への政策提言を40年にわたって実施してきた。データ解析の専門家として、英国国際開発省、デンマーク国際開発局、世界銀行、その他16か国のデータ解析の基礎・高度教育プログラムを長年運営。博士は、30年以上にわたりバングラデシュで研究し、非感染疾患研究のコホート集団を最近立ち上げた。COVID-19感染症が発症してからは、このコホート(75,000人)を対象とした電話によるCOVID-19の症状と社会・経済影響に関する縦断的データ収集を行っている。
門司和彦博士は、専門は人類生態学で、現在,長崎大学多文化社会学部長、および熱帯医学・グローバルヘルス研究科グローバルヘルス専攻長。熱帯医学研究所教授。2008年から2013年まで、京都の総合地球環境学研究所エコヘルスプロジェクト「熱帯アジアの環境変化と感染症」のリーダーを務めた。東京大学にて保健学修士・博士号取得。2011年から14年まで、日本熱帯医学学会会長を務めた。
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長崎の声:75年間の体験
Masao Tomonaga
(要旨)
核兵器の時代は1945年から始まった。我々長崎の被爆者は、73,000人が人類として最初の犠牲者となった。1947年には冷戦が勃発し、1992年にいたるまで、長期の冷戦時代を74,000人が生き抜いてきた。1955年ごろから、被爆者は反核運動の誕生を目のあたりにしてきた。1962年のキューバ危機は、日本全体を衝撃で襲った。核戦争の恐怖を初めて体験したのである。その時、人類を滅亡させることのできる究極の武器を、人類史上初めて保有したことを私たちは認識したのだ。
1965年の部分的核実験禁止条約(PTBT)、1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)といった、いくつかの良い兆候もあった。1987年には、米・旧ソ連との間で中距離弾道ミサイル(INF)全廃条約も締結された。この条約の結果、1990年代には核弾頭数が大幅に削減された。しかし、同じ時期、私たちは「相互確証破壊(MAD)」理論に基づき、核攻撃を避ける目的で両国が巨大な核戦力を維持するという「核抑止戦略」を確立してしまったのである。1989年の冷戦終了は、熱い戦争を呼び起こすことはなかったが、「核抑止政策」という強力な枠組みが構築され、それが現在までも維持されてきたのだ。
2010年以降、NPTレジームは少しずつその効力を失ってきた。その結果、核軍縮も停滞した。被爆者と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のようなNGOは、強力な団結力をもって核兵器禁止条約(TPNW)のために立ち上がり、2017年に見事にその成立に成功したのである。いま、核兵器廃絶に向けて、NPT支持者とTPNW推進者との間に広がる危険な分断という、新たな課題に私たちは挑戦しなければいけない。この分断を埋めるためには、政府の核保有政策を放棄させるために、市民社会、特に核保有国の市民の力が必要である。数多くの苦難を乗り越えてきた長崎の声を聴かなければいけないのだ。
核兵器のない世界を実現するには、相互に補完しあうNPTとTPNWを一つの条約のように機能させることがカギとなる。今後開かれるNPT再検討会議やTPNWの締約国会議は、信頼醸成、対話、そして新型コロナ感染症(COVID-19)や気候変動対応で見られた科学的協力などを進めていく最高の舞台となるだろう。意図的か事故によるかに拘わらず、人類を滅亡させる核戦争を防止するためには、今後25年間が極めて重要な時期となる。最も重要な体験をしている我々被爆者は、被爆100周年を迎える年までにすべていなくなってしまう。核兵器のない世界を実現することが、21世紀の人類にとって、最も重要な課題なのだ。
キーワード: 核時代、被爆者、冷戦、NPT、TPNW、市民社会、信頼醸成、核なき世界
著者紹介: 朝長万左男博士は自身も被爆者で、爆心地から2.5kmのところで被爆。長崎大学医学部を1968年に卒業。血液学と白血病治療を専門とする内科医として治療に当たるとともに、放射線被曝が悪性腫瘍を誘引するメカニズムについての研究に取り組んだ。長崎大学引退後は、日本赤十字社長崎原爆病院の院長に就任し、2012年からは純心聖母会恵みの丘長崎原爆ホーム診療所所長を務める。2019年には、長崎県被爆者手帳友の会(会員数2000人)会長に選出された。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)国際副会長(北東アジア地域)、核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員長、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)メンバー、被爆者で放射線医者、「長崎の鐘」の著者である永井隆博士に捧げられた如己の会会長。
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米大統領・議会選挙とポスト・パンデミック時代の世界の核秩序
Leon Sigal
(要旨)
米国の政治力と威厳はここ数年減少してしまったかもしれないが、国際機関・制度、同盟関係、そしてマスメディアでは依然重要な役割を演じている。したがって、だれが次の米国大統領に就任するか、そしてどちらの政党が議会を支配するかは、世界の核秩序にとって極めて重要だ。しかし、可能性が低いものの、もしドナルド・トランプが選挙結果に抵抗して今の地位にとどまることに成功するようなことがあれば、失望した選挙民による強烈な反対運動が暴動化する可能性は否定できない。
核兵器問題は、専門家が考える難しい問題だと、多くの人が考えている。大衆運動は政策変更を必ずしも保証するものではない。しかし、最近の3つの有意義な出来事を思い出してほしい。部分的(地上)核実験禁止条約、中距離弾道ミサイル(INF)全廃条約、そしてベルリンの壁崩壊、これらは多くの国における大衆運動がなければ実現しなかった。NGOが組織する市民運動は、一部の国における核兵器開発や政府間合意の監視を推進する役割を果たしてきたのである。
新型コロナ感染症(COVID-19)、経済不況、人種差別、気候変動といった問題に、一般市民が関心を集めているのも無理はない。しかし、その影響もあって、質的な核軍拡により危機管理の安定性が損なわれ、それを防ぐための軍縮分野の国際協力が阻害されていることは問題だ。一方で、トランプ大統領がもたらした、二つの良い影響は今後とも継続する可能性が高い。トランプ大統領は、そもそもどんな戦争にも米国が巻き込まれるのを望んでいないため、核戦争に導くような対立をさらに悪化させることはしないだろう。また、北朝鮮の核開発を抑制するための交渉も継続するだろう。ただし、北朝鮮の厳しい要求をトランプ大統領が飲む覚悟があるとは思えない。
対立候補である、ジョー・バイデン氏も、トランプ大統領と同様の難しい課題に直面するだろう。人事こそが政策そのものであり、バイデン政権が誕生すれば、オバマ前大統領時の政府高官が再びスタッフとして就任するだろう。ということは、同盟関係を重視し、国際協力を進める政策に戻るということだ。バイデン氏がオバマ前大統領時代の「核兵器近代計画」を抑制するかどうかはわからない。しかし、トランプ氏とは異なり、イラン核合意(JCPOA)を復活させるために最善を尽くすだろう。そうなれば、イランの核開発を抑制するのみならず、サウジアラビアの核開発も抑えることにつながるだろう。また、新戦略兵器削減条約(新START)も延長する方向で努力するだろうし、中国とも技術的な対話をはじめ、オープンスカイ条約も破棄することはないだろう。
キーワード: バイデン、トランプ、危機安定性、国際環境、イラン核合意(JCPOA)、新戦略兵器削減条約(新START)、核軍拡競争、オープンスカイ
著者紹介: シーガル博士は、米ニューヨークにある北東アジア協調安全保障プロジェクトのディレクター。過去20年以上にもわたり、北朝鮮とのトラック2(非政府機関による外交)に参加してきた。1985―95年ニューヨーク・タイムズ紙の論説委員。1979年米国務省政治軍事局の国際情勢フェロー、1980年は同局長の特別補佐を担当。1972-74年ブルッキングス研究所外交研究部門ロックフェラーヤング・スカラー。この他、過去プリンストン大学、コロンビア大学等でも教鞭をとっている。主要著書に、”Fighting to a Finish: The Politics of War Termination in the United States and Japan, 1945”, “Disarming Strangers: Nuclear Diplomacy with North Korea”,などがある。
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インドとパキスタン間の地域核戦争の影響: 二つの見方
G. D. Hess
(要旨)
広島型原爆100発ほどを使用すると仮定した、インドとパキスタン間の地域核戦争がもたらす影響について、相反する二つの研究結果が存在する。ミルズ等(2014)の結論は、「世界規模の『核の冬』が起きうる」、というものであり、ライズナー等(2018)の結論は、「『核の冬』はおそらく起きない」というものであった。本論文は、この二つの異なった結論に至った、二つの研究の「異なる前提」について論じたものである。特に、気候変動モデルに使用される黒色炭素(ブラックカーボン)の量と位置と、その入力モデルの相違について分析した。また、その相違の背景や理由についても論じた。その中には、核兵器が人口密集地に落とされた後、どのような火事が起こるか、といった問題も含まれている。また、本論では、両研究が考慮に入れていなかった物理的な現象についても、短く論じている。その結果、限定的な核戦争のもたらす気候への影響については、さらなる研究が必要であり、どういった研究課題が必要かを最後に論じている。
キーワード: 核の冬、モデルの不確実性、灰の発生、火災旋風
著者紹介: ヘス博士は、米国生まれ。米国にて気候科学を学ぶ。1970年にオーストラリアに移り、境界層気象学の研究に従事。大気圏の最も低い地域(数キロメートル)における、物理、化学、生物学的プロセスの分析を対象としている。15年前にオーストラリア気象局を退任し、メルボルン大学の前フェロー。
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日 時: | 2020年6月27日(土)13:30~15:00 |
場 所: | 長崎原爆資料館ホール + オンライン(Zoom)でライブ配信 |
講 師: |
広瀬 訓 (RECNA副センター長) 中村 桂子 (RECNA准教授) |
パネリスト: |
ナガサキ・ユース代表団第8期生 谷口 萌乃香、 中村 楓、 三宅 凜 |
主 催: | 核兵器廃絶長崎連絡協議会(PCU-NC) |
共 催: | 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA) |
講演をする広瀬副センター長 | 講演をする中村准教授 |
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ユース8期生(中村、谷口、三宅) | ライブ配信のようす |
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今回は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当初予定していた国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館交流ラウンジから会場を変更するとともに、Zoomを用いたオンラインでのライブ配信もあわせて実施しました。
初めに、広瀬副センター長が「NPTの現状と課題」について、NPTが発効して50年たった今の課題やその限界にふれ、日本の立ち位置を示しました。そして、国の事情でいろいろな問題を包み込んできたNPTという枠組みが、人の命と尊厳を基準に据えて見直した時、その欠点が露わになったのではないか、と指摘しました。
次に、中村准教授は「NPT・核兵器禁止条約・市民社会」と題し、核弾頭数の推移や、「核兵器廃絶」等の言葉が登場する新聞記事数の推移から、核をめぐる危機感が日本で共有されていないことを示しました。そして、原爆資料館の入り口に掲げられた「長崎からのメッセージ」にふれ、アフターコロナの今だからこそ、骨太のメッセージを発信していくことが、NPTの成功や核兵器廃絶の歩みを進めることに繋がっていくのではないか、と述べました。
パネル討論では、広瀬・中村両講師とナガサキ・ユース代表団の3名が意見交換し、講演に関する質問や若者からの率直な意見について話し合いました。最後の質疑応答は、会場からは勿論、オンラインからも参加して、熱い意見交換となりました。講座には約140人(会場に約100人、オンラインで40人)の方が集まりました。
ライブ配信された動画 |
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配布資料1: | NPT再検討会議へ向けた課題:その現状と問題 広瀬訓 (PDF) |
配布資料2: | NPT・核兵器禁止条約・市民社会~〈今〉をどう活かすか~ 中村桂子 (PDF) |
※本講座の内容は、講演者及び対談者個人の意見を表すものであり、主催団体及び共催団体等の見解を示すものではありません。
【活動報告会】For Our Future 人類みなヒバクシャになり得る 人類みなヒバクシャを生み得る
「ナガサキ・ユース代表団」 (主催:核兵器廃絶長崎連絡協議会)の第8期生7名は、核兵器の問題をより多くの人に自分事として捉えてほしいと活動してきました。
新型コロナウイルスの影響でNPT再検討会議への派遣が中止となった中、NGO関係者や若者らとの意見交換を通じて、7人は何を学び、想い、考えたのでしょうか。
ぜひ、その「生」の声をお聞きください!
また、本報告会では、会場においでいただけない方々のために、ビデオ会議ツール「Zoom」を使って、オンラインによるライブ配信も行います。
(締め切り: 7月24日16時)
オンラインによるライブ配信を視聴するためのURLは後日お送りしますので、届いていない場合は、お問い合せ先(Email: nagasaki.youth8th@gmail.com)へご連絡ください。
REC-PP-11
NPT発効50年:「核のある世界」に立ち向かう(2020年7月)
吉田 文彦 , 鈴木 達治郎 , 広瀬 訓 , 中村 桂子 , 朝長 万左男 , 宮崎 智三 , 河合 公明
NPT発効50年に合わせて北大西洋条約機構(NATO)は「数々の業績を残してきたとは言え、NPTが永続的に成功して当たり前などと考えてはならず、持続的な努力が求められている」との声明を出した。では、時代の変化に合わせて、具体的にどのような「持続的な努力」が必要なのか。このRECNAポリシーペーパーでは、NPTの成果と限界、課題等を分析するとともに、NPTを足場に核廃絶へ近づいていく方策について考える。NPTの未来を考察するにあたっては、日本の外務省が設置した「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の議長レポート(2019年10月)も参考にする。
是非ご覧ください。
REC-PP-10
Nuclear Weapons in the Taiwan Strait(2020年7月)
Gregory Kulacki
1954年秋に始まり1958年秋に終了した台湾海峡危機に際し、米アイゼンハワー大統領は、台湾・中華民国の防衛を目的に、中国本土に対し核兵器で攻撃する準備を整えていた。この危機対応に従事した米国政府高官は、核兵器使用の威嚇を相手に信じさせることができれば、紛争拡大を抑止すると信じていた。その考えは、通常兵器では勝利が確定できない軍事紛争においては、戦術核兵器の先制使用が必要であるとする米国核政策の発展に決定的な役割を果たした。本ペーパーの目的は、中国と旧ソ連の公式保存記録(アーカイブ)の調査を含め、台湾海峡危機を詳細に分析し、前述の「核使用」に関する考え方に疑問を呈することにある。
要約は日本語で読めます。是非ご覧ください。