NPT BLOG 2013
第0報 | 停滞する核軍縮に希望の灯がともるか(2013年4月21日) |
短信1 | 中国の発言にも注目したい(2013年4月21日) |
第1報 | 「軍縮分野では、前進しないときは後退する」(2013年4月22日) |
第2報 | 市民が活用できる多くのヒントがある(2013年4月23日) |
短信2 | 74か国が核兵器非人道声明を発表(2013年4月24日) |
第3報 | 深刻に問われる日本政府の核兵器認識(2013年4月24日) |
第4報 | NGOの関与を「セレモニー」から実質に変える挑戦(2013年4月24日) |
短信3 | 再び中国の先行不使用政策について(2013年4月26日) |
第5報 | 包括的な要求と一歩一歩の要求は両立する(2013年4月25日) |
短信4 | 非人道声明「拒否」に関する日本政府の弁明文書(2013年4月27日) |
第6報 | 不拡散へ高まるIAEAの役割への期待(2013年4月26日) |
短信5 | エジプト代表団、残り会期のボイコットを表明(2013年4月29日) |
第7報 | 中東会議の開催予定が立たないことに強い不満(2013年4月29日) |
短信6 | 中東会議ファシリテーター、報告書を発表(2013年4月29日) |
短信7 | 会議をボイコットするエジプトの言い訳(2013年4月30日) |
短信8 | イラン、日本の核保有の意図の検証を要求(2013年4月30日) |
第8報 | 原子力平和利用の行方(2013年4月30日) |
第9報 | 平和利用、「奪い得ない権利」を使わない選択肢(2013年5月1日) |
第10報 | 準備委員会の改善策について討論(2013年5月2日) |
第11報 | 多くの課題、そして前進への手掛かりを残して終了(2013年5月3日) |
第11報 多くの課題、そして前進への手掛かりを残して終了(2013年5月3日)

(閉会直後のフェルーツァ議長(右)。2013年5月3日。 撮影:RECNA)
2つの文書
2週間にわたった準備委員会も最終日を迎えた。今日は「報告書」の採択が行われる日である。昨日の本ブログで触れたように、報告書草案は、前日(5月2日)の午後6時に配布され、各国の検討に付されていた。ここで言う報告書とは、あくまで今回の準備委員会の事務的、手続き的な事項についてのレポートである。開催日程、参加国数(106か国)、議事進行、提出文書名等が書かれている。
昨晩6時においては、もう一つ別の文書が配布されていた。それが「議長の事実概要」(Chairman’s factual summary)草案である。2週間の会期中に出された各国政府のステートメントや作業文書の内容を議長が要約したものだ。
議長の事実概要は、例年の準備委員会で作成される文書であるが、これをめぐっては往々にして「ひと悶着」がある。つま り、各国政府としては自国の述べた(あるいは提出した)意見や提案が遺漏なく盛り込まれているかに最大の関心があるわけであるが、各国の見解にそもそも隔 たりがあるなかで、議長の要約が「不平等」であると不満が出されるのである。過去の準備委員会においては(少なくとも2007年、2008年において は)、同様の概要について参加国の合意を得ようと試みられたがうまくいかず、結果、「作業文書」の一つとして報告書に添付されたという経緯がある。作業文 書とは、会議における公式文書ではあるものの、あくまで各国や国家グループの責任で出されるものであって、全体で合意した文書ではない。つまり、作業文書 にするということは、議長概要を「議長の私的なまとめ文書」と位置付けることを意味する。昨年の第1回準備委員会においては、ウールコット議長が議長概要 をはじめから作業文書として提出する(=全会一致合意を目指さない)ことを選択し、議論紛糾を避ける判断を行った。
今回、各国政府に配布された草案には、明確にそれが作業文書であると示す証拠はなかった(作業文書であれば文書番号に WPの通し番号が付く)。結果的に、今日の討論のなかで議長はそれが作業文書であることを口頭で明らかにしたが、この若干のあいまいさが今日の紛糾の種と なった。
議長概要に各国が反応
今朝は、通常通りの10時開始が予定されていたが、1時間以上が経過してから事務方より「非同盟諸国」(NAM)が協議中のため開始が遅れること、他方、通訳の関係で13時までにセッションを終了させなければならない旨が通告された。
結局、会議が始まったのは終了予定まで残りわずか40分となった12時20分であった。議長は慌ただしく議事を開始し た。報告書については、参加国リストの最後にエジプトの途中退席の旨が加えられるなどの修正を加え、わずか15分足らずで採択が終了した。議長は各国の協 力に謝意を述べ、続いて議長概要を紹介した。
これに噛みついたのがNAMを代表して発言を求めたイランである。イランは報告書が不正確かつ主観的であり、NAMとして到底受け入れられないと激しい口調で述べた。これに対し、議長からは、前述のように文書が「作業文書」であることが告げられた。
続いて20の国及びグループが発言を行った。議長の努力を称賛する国がほとんどであったが、NAMのいくつかの国は議長 概要の不十分さを指摘した。特に再度発言したイランは、議長に対する個人攻撃ではないという前置きをしつつ、議長概要の作成そのものが無意味であり、今後 は不必要との論を展開した。いくつかの国からは、議長概要の位置づけについて再度明確な説明を求める声もあがった。また、非人道性声明に言及した南アフリ カは、本準備委員会が「核兵器をめぐる議論の大きな転換を目撃」し、核兵器使用の壊滅的結果が「国際アジェンダとして確固たる地位を築いた」と述べ、核兵 器の完全廃棄に向けた各国のさらなる行動を要請した。
こうして予定時間をやや超過した13時20分、第2回準備委員会の閉会が告げられた。会場には拍手が起こった。
議長の事実概要の内容
本ブログの第0報で今回の再検討会議で注目すべき点をいくつか挙げたが、それらについて議長概要がどのように触れているかを以下に関連部分を抜粋(暫定訳)して紹介し、コメントを加える。
◆オープン参加国作業グループ(OEWG)
第26節:複数の加盟国は、ジュネーブ軍縮会議(CD)が核軍縮に関する下部機関を速やかに設置すべきであることを 想起した。多くの加盟国は、2015年再検討会議において核軍縮に関する下部機関が設置されることを求めた。これらの加盟国はまた、2015年再検討会議 が特定の時間枠の中で核兵器を廃棄することをめざした行動計画を採択することも求めた。多くの国が、国連総会決議(A/RES/67/56)に従って設置 されたOEWGが核兵器のない世界の達成と維持に向けた多国間核軍縮交渉を前進させるための諸提案を策定することを求めた。他の加盟国は、核軍縮に向けた ステップ・バイ・ステップの貢献を再確認した。多くの加盟国は、2013年9月26日に核軍縮に関するハイレベル会議を開催するという国連総会の決定を歓 迎した。それらの加盟国は、同会議が核軍縮の目標実現に寄与するものになることへの期待を表明した。
コメント:議長はこのように、核軍縮についての議論の場を①CDの下部機関、②2015年再検討会議の下 部機関、③OEWG、④ステップ・バイ・ステップの議論の場、⑤9月26日のハイレベル会議と列記した。①は行き詰まっている、②は常に要求されている当 然の要求で、おそらく実現、④は次元が違うが従来の繰り返しの主張であり、③と⑤が当面の具体的な新しい関心となる。③のOEWGはここジュネーブで、5 月14~24日、6月27・28日、8月19~30日の間に15作業日を取って行われる。NGOも傍聴が可能であり、政府への働きかけが可能である。すで にアボリション2000に集うNGOがタスク・フォースを作って取り組みを開始している。
◆核兵器の人道的側面
第12節:複数の加盟国は、核兵器のいかなる使用によってももたらされる壊滅的な人道的結果に対する深い懸念を想起 した。多くの加盟国が、一発の核爆発によって引き起こされる受け入れがたい被害に言及し、社会経済的発展へのより広範かつより長期的な影響へのさらなる懸 念、ならびに、現在の再検討サイクルの中でそうした人道的結果の問題が継続的に取り上げられることへの期待を表明した。多くの加盟国が、2013年3月4 日から5日までオスロで開催された「核兵器の人道的影響に関する会議」に言及した。これらの加盟国は、オスロ会議での議論を受けて、核兵器が使用された場 合のそうした人道的結果は不可避であり、被害地に緊急支援を行うことは不可能であることへの重大な懸念を表明した。これらの加盟国は、事実ベースの対話を 通じてこの問題に関する理解を深めるためにメキシコ政府主催で開かれるフォローアップ会議への期待を示した。
第13節:多くの加盟国が、核兵器のいかなる使用もしくはいかなる使用の威嚇も、国際人道 法の基本原則に反することへの懸念を表明した。いくつかの核兵器国は、それぞれの国家政策の下で、いかなる核兵器の使用も、適用可能な国際人道法に従っ て、極限状況においてのみ考慮されることを強調した。複数の加盟国は、国際人道法を含め、適用可能な国際法をすべての国家がいかなる時も遵守することの必 要性を再確認した。
コメント:締めくくりの発言の中で南アフリカが述べたように、確かに2週間の会議におけるハイライトの1 つは非人道性問題への国際的な共通理解の広がりであり、メキシコ会議という具体的な次のステップに向けた期待の高まりであった。しかし一方で、この潮流が 今後どのように核兵器の非合法化に結びついてゆくかについての筋道はまだ明確ではない。議長のまとめが、メキシコ会議についてもまた「事実ベースの対話を 通じて」と明記していることは注目すべきことであろう。日本、韓国、オーストラリア、多くのNATO諸国らの「抵抗」の根深さもあらためて顕在化した。こ れらの国々をいかに説得するかについて、今後の「非人道問題」推進諸国はもちろんのこと、世界の市民の創意が必要とされている。
◆中東決議
第72節:複数の加盟国は、2012年会議の延期に失望と遺憾の意を表明した。多くの加盟国は、組織形態や議題、成 果文書、作業方法、会議に関連するその他の事項についてアラブ連盟が配布した政策文書に留意した。これらの国々は、アラブ諸国がファシリテーターへの建設 的な関与を行っていることへの感謝を表明した。またこれらの国々は、会議の延期に与する議論に反対し、多くの加盟国は、会議延期は2010年NPT最終文 書で合意された約束に対する違反であるとの見解を示した。これらの加盟国は、会議に関する不確定な状況が本条約に及ぼすマイナスの影響について懸念を表明 した。
第73節:複数の加盟国は、2010年に合意された委任事項に従って、同会議を招集するこ とへの支援を再確認した。多くの加盟国が、可能な限り早期、かつ遅くても2013年末までに会議を招集することへの支持を表明した。また、すべての地域国 家が参加して会議を成功させるには、会議の議題及び日程にコンセンサスで合意することも含め、地域国家の直接的な関与が必要であること、ならびに、そうし た合意がなされ次第速やかに会議を招集すべきこととの見解も表明された。複数の加盟国は、同会議招集の期限は守られなかったものの、会議への機会は失われ ていないことを認識した。
第74節:加盟国は、本条約の下における義務と誓約にすべての加盟国が厳格に従うことの必 要性、ならびに、1995年決議の目的実現に資するため、すべての地域国家が関連措置と信頼醸成措置を採ることの必要性を想起した。これらの国々は、すべ ての国家が、この目標の達成を危うくするいかなる措置を採ることも差し控えるべきことを想起した。
コメント:中東決議の履行問題をめぐる行き詰まりは、今回の準備委員会のハイライトの一つとなった。エジ プトが途中で会議をボイコットしたことは、参加国全体をとりまく不信・不満や停滞感を象徴している。議長のまとめのなかに「中東会議に関する不確定な状況 が本条約に及ぼすマイナスの影響」について述べた部分があるが、確かに、単に中東地域の問題としてではなく、NPT全体への影響が懸念される。議長のまと めには、多くの国が遅くても今年中の開催を望んでいると述べている。この問題の帰趨は、来年の準備委員会、ひいては2015年再検討会議に大きな影響を及 ぼすと思われる。
第2回準備委員会は終了した。このブログは、NPT会議全体を万遍なく報告するというのではなく、核兵器のない世界の実 現と維持に必要な国家レベルの議論の状況を伝えるという目的を持って取り組んできた。会議からは核軍縮の深刻な停滞状況が続いていると認識せざるを得ない が、そんな中でも、OEWGへの関与を初めとして、9月のハイレベル会議を含む国連総会、人道的側面のメキシコ会議などに向かって、何をなすべきかを考え る材料は豊富に含まれていた。少しでも読者の役に立つ情報が含まれていれば幸いである。
(「地雷、クラスター弾、化学兵器、生物兵器は禁止された。次は核だ。」と折れた足の椅子のモニュメント脇に掲げられた横断幕。国連欧州本部前。4月25日午後。撮影:RECNA)
第10報 準備委員会の改善策について討論(2013年5月2日)

(セッション終了後、会議場で熱心に討議する各国外交官。 2013年5月2日。撮影:RECNA)
会議9日目の朝は、何かの事情で議長がなかなか登壇せず、予定時間を大幅に過ぎた午前11時にようやく開始を告げる木槌の音が鳴った。当初からのスケジュール通り、今日の本会議は午前のクラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)の議論のみで、午後は明日の最終日に向けた調整時間として休みにあてられた。午前中に発言を求めた23か国・グループは、一部が昨日に引き続き「脱退問題」に言及したが、多くは「NPT再検討プロセスの強化」にテーマを絞った発言を行った。
「NPT再検討プロセス」とは、再検討会議と準備委員会の開催を通じて条約の履行を加盟国が点検する多国間協議の流れのことである。条約発効後25 年に開催された1995年の「NPT再検討・延長会議」は、条約の無期限延長の決定の他に2つの決定を行った。その一つが「再検討プロセス強化に関する決 定」であり、5年ごとに開かれる再検討会議に先立つ3年間、毎年準備委員会を開催することを定めている。これを受けて1997年以降、ニューヨーク、ジュ ネーブ、ウィーンのいずれかで準備委員会が開かれてきた。
現在の再検討プロセスをいかに改善し、より実り多きものにしていくことができるか。インタラクティブな意見交換を奨励する議長の声を受けて、各国政府からはさまざまな具体的提案や意見が述べられた。
NPT準備委員会を日本で開催?
まず発言を求めたのは、過去の会議でもこのテーマで積極的な発言を行っている英国である。英国は具体的な改善案として次のような検討を各国に要請した。
・NPT準備委員会開催地の変更(より多くの政府や市民社会の参加を容易にすべく、別の地域、たとえばナイロビ、サンティアゴ、バンコクなどでの開催を追求する)。
・ウェブキャストなどの技術を通じた会議のネット中継
・最初の2回の準備委員会の開催期間の短縮
・各国の発言時間の短縮
・政府間のインタラクティブな議論や質疑の促進
・文書のオンライン公開
上記の最後の点については、昨年の準備委員会での英国の訴えが功を奏したのか、今年の準備委員会では具体的な改善が見られていた。新たに導入された「ペーパースマート」というシステムにより、これまで国連の公式ウェブでは公開されなかったクラスター発言を含め、関連文書が比較的迅速にウェブ上で一般公開されるようになったのである。
各国の論点
主な論点をいくつか紹介する。
◆会議の開催場所
日本、南アフリカ、ニュージーランド、ケニアからは、他の地域でNPT会議を開くことに前向きな発言があった。とりわけ日本は、「広島」の具体名とともに 「いくつかの都市が会議誘致に関心を持つかもしれない」と述べ、政府として今後の議論に積極的に参加する意向を示した。他方、フランス、ドイツ、スペイン などからは、主にコスト増を理由に、現在の3都市以外で会議を開催することに否定的な意見が出された。ベラルーシなどからは、コスト面に加え、代表部が置 かれていない都市での開催には多くの外交官や専門家を派遣しなければならず人的体制が組めないとして、同じく変更に難色が示された。
◆各国ステートメント
ドイツ、米国、フランスらは、発言時間をより厳しく制限するべきと主張した。特にフランスからは「時間を超過したらマイクの音を切れ」などのやや過激な提 案があった。実際、各セッションにおいては定められた時間制限を守らない国も目立ち、とりわけイランにおいてはその傾向が顕著であった。制限時間をオー バーする国に対しては、発言機会の平等に反するという指摘もなされた。ドイツからは、声明内容の重複が避けられないとして、準備委員会における現在の「一 般討論」→「クラスター」→「クラスター特定問題」の構成そのものを見直す必要性が指摘された。
◆インタラクティブな議論
ブラジル、メキシコ、スペインなどからは、予定稿をただ読むのではない、各国間の対話を求める声があがった。一方、フランスなどからは、公的な国際会議で は、各国代表は本国からの訓令に基づき国としての立場を代弁するために出席しているのであり、実質的な内容についてインタラクティブな議論を行うことは不 可能であるとの指摘もあった。
◆事務局
NPTの事務局は国連軍縮局が担っている。これまでも加盟国からは、運営の効率化に向けて常設の事務局を設置すべきとの声がしばしばあがっている。ウクライナがその点をあらためて指摘した。一方、フランスはコスト面を理由に反対意見を述べた。
◆準備委員会の意義
いくつかの国は、より本質的な指摘を行った。メキシコやブラジルからは、3回の準備委員会における継続性や、再検討会議に向けた準備としての準備委員会の 意味そのものを問うような発言が出された。2010年再検討会議の議長を務めたフィリピンのカバクトゥラン大使は、2010年に向けた3回の準備委員会 が、再検討会議に向けた具体的な勧告の検討と採択という本来の任務を果たせなかった点を振り返り、単に条約の実施状況について各国の意見を交換するだけの 会議を繰り返し開催することに意味はない、と苦言を呈すとともに、2015年に向けた実質的な改善に期待を示した。
各国政府の発言のあいだには議長がしばしば言葉を挟み、インタラクティブなセッションは12時45分に終了した。
前述の通り午後のセッションはなかったが、夕方6時に「報告書案」「議長概要案」の2つの文書が配布された。これらについては明日の日報で述べる。
第9報 平和利用、「奪い得ない権利」を使わない選択肢(2013年5月1日)

(パレ・デ・ナシオンの庭にある、 ウィルソン米大統領の業績を記念して作られた天球儀。 2013年5月1日。撮影:RECNA)
8日目となり、会議日程も終盤に差し掛かった。焦点の一つであった中東問題の議論が終わったからなのか、あるいは単に今日がメーデーのためなのかは不明だが、開始前の本会議場はいつもに増して閑散とし、どこか気の抜けたような印象を与えていた。
30分遅れで始まった午前セッションは、前日午後に引き続きクラスター3(原子力の平和利用)の議論にあてられた。予定では午前一杯の時間が確保さ れていたが、16か国が発言を終えた時点で議長が続く発言国がないことを宣言し、12時を前に閉会が告げられた。15分遅れで始まった午後は、3か国が追 加的に発言を求めた後にクラスター3が終了し、15時30分、クラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)の議論が開始された。し かし発言を求めた国は8か国に留まり、16時20分、わずか1時間に満たずにセッションが終了した。クラスター3特定問題の議論は明日午前も続く予定であ る。
オーストリアの選択
クラスター3議題での各国の発言主旨は、ほぼ一致していたと言える。すなわち、第8報の後半でも述べたように、平和利用の「奪い得ない権利」と、 IAEAを中心とした国際協力の必要性を再確認するとともに、IAEA保障措置、高い国際基準での安全性及び保安確保の重要性を強調するものである。とり わけ途上国からは、「奪い得ない権利」(NPT第4条)の制限につながりうるようないかなる措置も受け入れられないとの強い姿勢が示された。
福島第一原発事故についても昨日同様、安全性強化の必要性、あるいは既にとられた安全対策の紹介といった文脈での言及が 続いた。その一方で、若干異なるトーンで福島の教訓をとらえていたのがオーストリアである。ちなみに同国は昨年の第1回準備委員会でもほぼ同じ趣旨の発言 を行っていた(英語)。
NPT加盟国は平和利用を推進するという「奪い得ない権利」を有しているが、同時にそれを「使わない」という選択肢も有している、我が国はその選択 をした、と切り出したオーストリアは、過去の事故が示すものは「原子力は決して100%安全なものにはなり得ない」という事実であると主張した。とりわ け、「核燃料サイクルに関連した長期的な影響ならびに責任という点を考えれば、原子力は持続可能な開発に貢献しない。むしろ、それは天災あるいは人災にか かわらず追加的なリスクを生んでいる」とし、「安全性、保安、さらには拡散の懸念を鑑みれば、原子力は気候変動といった他の世界的課題に立ち向かう上での 有効な手段ではない」と述べた。
条約脱退をめぐる議論
クラスター3特定議題の議論では、北朝鮮核問題を背景とした「NPT脱退問題」にとりわけ焦点があてられた。NPTはその第10条1項において、 「この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合」には、いずれの加盟国も条約から脱退する権利があると 認めている(すべての加盟国及び安保理に対する3か月前の通告と「異常な事態」についての説明をともなうことが条件である)。
脱退の権利そのものについては条約上の規定として議論の余地はない。しかしNPT加盟国が平和目的の核技術や物質を軍事目的に転用し、条約脱退を もって法的義務から逃れるという「権利の濫用」を防止する必要性が繰り返し指摘されてきた。米国、EU、日本などが脱退防止策の強化や核物質の返還など脱 退時に要求されるべき具体的措置を提案する一方、一部の途上国からは、そうした措置が脱退の権利の侵害につながるとの反論がなされてきた。午後の最後に短 く脱退問題に触れたブラジルや南アフリカの発言にもそうした警戒感は色濃く示された。この問題は2010年再検討会議での争点の一つでもあり、引き続き 2015年に向けても焦点化してゆくと思われる。
第8報 原子力平和利用の行方(2013年4月30日)

(スイス政府主催の非人道性問題に関するサイドイベントの様子。2013年4月30日。撮影:RECNA)
会議7日目の午前中は、クラスター2特定議題(中東など地域問題)であったが、議事の開始が20分程遅 れ、冒頭フェルーツァ議長より、準備委員会への出席を拒否しているエジプトが議事に復帰することを強く期待しており、エジプト抜きで中東問題を検討するこ とは可能な限り回避したいので、先に中東以外の地域に関する議事を行いたい旨の提案があり、了承された。その間に議長の意を受けて、誰かがエジプトの説得 に当たっている様子であった。したがって、まず中東以外の地域について、5か国が発言を行い、さらに、その発言に対して、イランと日本が、自国に向けられ た批判に対する反論を行った。(日本とイランの応答については、「短信8」参照)結局「その他の地域」に関する検討は30分程で終了し、その後、結局エジ プト欠席のまま中東に関する議事が10時50分から再開され、27か国が発言、最後に中東会議ファシリテーターのラーヤバ大使から短い発言があり、午前中 の議事とクラスター2特定議題の検討を終了した。午後は、クラスター3(原子力の平和利用)に移り、発言したのは20の国・グループである。また、最後にシリアが自国に対する批判に対し、反論した。
中東問題へ議論が集中
クラスター2特定議題については、前日のエジプトのボイコット宣言の余波が残っている感じで、議長の議事運営ぶりからも、「この際、他の地域のこと は脇に置いて、中東問題だけでも何らかの見通しをつけておきたい」という意向がはっきりと窺えた。すでに多くの国が一般演説やクラスター1で北朝鮮の問題 に言及してこともあり、日、米、韓が再度北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの開発を放棄すべきであると強調した他は、南アジアとイラン、シリアに若干の言及が あった程度で、ほとんどの国が発言を見送り、中東問題に可能な限り議論を集中したいとの議長の意向に協力した。結果として、中東問題の深刻化の影響を受け て北東アジアの問題は事実上棚上げで、単に各国の北朝鮮批判の羅列に終わってしまった。同時に二つの大きな地域的な問題を扱うのは、やはり限られた時間の 中では難しいのかもしれない。しかし、2015年の再検討会議は、会期が十分にあり、北東アジアの問題にも時間を充てることは物理的には可能であろう。そ れまでに北東アジア非核兵器地帯に関する議論を、各国に間にどれだけ浸透させることができるかが課題である。
前日と同様に、中東とNAMの国々は、中東非大量破壊兵器地帯が1995年のNPT無期限延長の条件であったとして、その実施に具体的な進展が見ら れないこと、昨年予定されていた会議が、突然一方的に延期されたこと、会議の新しい日程やアジェンダ、具体的な成果の見通し等が一切明確にされていないこ とに対し、そろって強い不満を表明した。これに対し、西側諸国を中心に、中東情勢の厳しさから、会議の延期 に一定の理解を示す国々もあったが、発言したすべての国が会議の早期開催、具体的には2013年末までの開催を要求した点では、同じであった。これに対し ラーヤバ大使より、依然としてすべての国が中東会議の開催を支持していること、イスラエルを含む中東すべての国が準備作業への参加を表明していることを挙 げ、会議の推進に対するコンセンサスは維持されているという見方を示し、準備作業を継続すると述べた。
クラスター3:原子力の平和利用
原子力の平和利用については、原子力の平和利用の権利はすべての国家が有する奪うことのできない権利であり、すべての国が原子力の平和利用から得ら れる利益を享受すべきであるという点、および国際社会において、その実現に対して中心的な役割を果たすのがIAEAであり、IAEAを強化すべきという方 向性において、意見はほぼ一致している。また、原子力の平和利用に際しては、IAEAの保障措置、国際的な基準に基づく安全性およびセキュリティの確保 が、「三点セット」であることも、確認された。福島第一原発の問題に言及した国も散見されたが、それは福島第一原発を重要な教訓として活用すべきとの意見 であり、福島第一原発の問題が原子力の平和利用の推進に障害になるという見解を示した国は現時点では見当たらなかった。
午後の議論で特徴的だったのは、原子力の平和利用において、「非エネルギー分野」での平和利用の推進の検討に多くの時間が割かれたことであろう。放 射線やラジオアイソトープを、医療、保健衛生、畜産、農業、食糧生産、環境保全等、様々な分野に応用し、開発途上諸国の経済社会開発に役立てるべきである との主張である。この主張そのものは妥当な内容であり、先進国側も概ね同調した。しかし、そのための国際協力の中心となるIAEAは、本来開発援助機関と して設立されたものではないため、開発途上諸国に対するこの分野の開発援助は、通常予算ではなく各国の自発的拠出金で賄われている。そのために、予算が不 安定で、規模も必ずしも大きくないという制約がある。その点に関し、開発途上諸国側からは、開発援助をIAEAの主要業務とすべきであるとの主張が相次い だ。IAEAの強化という点については、異論が出ていないものの、保障措置と不拡散に関する分野を重視する先進国側と、開発援助を重視する開発途上諸国側 との間には、隔たりが感じられた。確かに開発援助は現在の国際社会において重要な分野であり、IAEAがその能力を強化することは歓迎すべきことであろう が、保障措置の実施や、原子力安全の確保のような、本来の業務が後回しになるような事態は避けなければならないだろう。
【短信8】イラン、日本の核保有の意図の検証を要求(2013年4月30日)
30日午前のクラスター2特定議題の冒頭ではエジプトのボイコット問題に対処する時間がほしいという議長の意向で、「中東以外」の地域問題に関する発言が先に行われた。
まず、日本、米国、英国、韓国、オーストラリアが発言し、北朝鮮、イランの核問題を中心に早期の平和的解決の必要性を訴えた。
続いて発言を求めたイランのソルタニエ大使は、これらの国々のアプローチがNPT加盟国の協力関係を損なう「ダブルスタンダード」であり、「対立的姿勢を止めるべき」と強い口調で非難した。
ここまではいわばNPT会議での「よくある光景」と言えなくもない。
しかし昨日のイランが、そうした批判のなかでも特に激しく日本を「やり玉」にあげていたことを紹介しておきたい。イラン は、東京都知事が数年前に核武装の可能性について言及したこと、日本が大量のプルトニウムを保有していること等を指摘し、「しかるべき国際機関が日本の核 武装の意向の有無について確認することを求める」と述べたのである。
これには即座に日本政府が反応し、都知事発言については承知していない、日本はNPTを完全遵守しており、IAEAにより平和利用が担保されている、との旨が述べられた。
イランの主張の正当性はともかく、ここで立ち止まって考えるべきは、日本の「道義的権威(モラル・オーソリティ)」ではないだろうか。
都知事に限らず日本の政治家の間でしばしば聞かれる「核武装発言」や、余剰プルトニウムを生み続けている日本の核燃料サ イクル政策について、しばしば日本国内ではそれを「国内問題」の枠で議論しがちである。しかし実際問題として、他国から不信を抱かれかねない日本の発言や 政策は、国際舞台における日本の発言力を損なわせるという深刻な結果を生んでいる。これはもちろん「核の傘」依存政策にも言えることだ。
本来であれば、「唯一の戦争被爆国」として、日本はどの国よりも堂々と、ゆるぎない説得力をもって核拡散問題に立ち向か うことができるはずである。それが、たとえ「言いがかり」に過ぎないとしても、イランの発言のように、「では日本はどうなのだ」と突きつけられてしまう現 実があることを日本の私たちは知るべきではないだろうか。(中村)
【短信7】会議をボイコットするエジプトの言い訳(2013年4月30日)
エジプトが、4月29日午後の発言によって、その後の会議をボイコットしたことは【短信5】で伝えた。そこにも書かれているように、準備委員会が始まる前まで、アラブ・グループのなかで準備委員会全体をボイコットすべきという深刻な議論があった。ここでは、4月23日の一般討論の中でエジプトが述べていた議論(英語)を紹介しておく。
エジプトは「NPTにおける中東問題の重要性はNPTの4番目の柱と呼ばれるほどだ」と歴史的経過を指摘した。「アラブ諸国は中東に核兵器の無い中 東を実現するという希望を持ってNPTに参加している。にもかかわらず、30年以上が経ってもイスラエルはNPTに参加していない。」
エジプトのみならず、多くの国が自覚していることであるが、1995年のNPT再検討・延長会議において、NPTの無期限延長が全会一致で合意され たのは中東決議が同時に採択されたからであった。つまり、今日あるNPTはその一部として中東決議を内包している。とくにエジプトは、その後新アジェンダ 連合に参加してNPTの合意履行に積極的に貢献してきたという自負がある。そしてやっと、2010年再検討会議の合意によって、中東決議を履行するための 地域のすべての関係国が参加する会議を2012年中に開催することを決めた。一歩進みだしたかに見えた。にもかかわらず、それが実現できなかった。その後 の経過をエジプトは次のように批判した。
「(会議準備の)措置を直ちにとるのではなく、(会議召集の)ファシリテーターが指名され会議のホスト国が決まるのに1年も費やした。アラブ諸国は ファシリテーターと積極的に関与し、イスラエル以外のすべての地域の国が2012年会議への参加を表明したにもかかわらず、招請者は一方的に、地域国家に 相談することもなく会議の延期を決定した。この延期は2010年行動計画に対する誓約違反である。<合意を守れ>という厳しい要求にもかかわらず、今日ま で新しい日程は示されていない。」
エジプトの発言の中で注目されるのは、アラブの春で起こっている市民的要求の高まりに言及し、核に関する中東の現状を一刻も早く解決しなければなら ないと主張している点である。会議の招集者は、米、ロ、英、国連の4者であるが、準備委員会における今後の議論を注視したい。(梅林)
【短信6】中東会議ファシリテーター、報告書を発表(2013年4月29日)
29日午後のクラスター2特定議題(地域)の冒頭、中東会議ファシリテーターのヤッコ・ラーヤバ大使の発言があった(第7報参照)。この発言とは別に、中東会議の開催にかかる状況は、正式な報告書の形で準備委員会に提出されている。報告書全文の暫定訳を紹介する(英語、和訳)。
これは2010年再検討会議「最終文書」の「IV.中東、とりわけ1995年中東会議の履行」に盛り込まれた実際的措置7(B)において、「ファシリテーターは2015年再検討会議ならびにその準備委員会において報告を行う」と決定されたことに基づいた措置の一環である。
単純に比較することはできないが、4ページ、28項目もあった昨年の報告書(英語、和訳)と比べ、今回の報告書はその半分に満たない長さである。事務的な報告書の行間に、ファシリテーターの苦心の跡が垣間見えるようだ。(中村)
第7報 中東会議の開催予定が立たないことに強い不満(2013年4月29日)

(壇上でケイン国連高等代表と協議する 中東会議ファシリテーターのラーヤバ大使(右)。 2013年4月29日午後。撮影:RECNA)
会議6日目の午前中は、先週に引き続きクラスター2議題((核不拡散、保障措置、並びに非核兵器地帯)の協議が続き、22か国・グループが発言した。また、午後はクラスター2特定議題(地域)であったが、フェルーツァ議長より、冒頭に中東会議のファシリテーターを務めているフィンランドのラーヤバ大使(選任の経緯等については、昨年のNPTブログ参 照)から報告があるので、まず中東に限定して集中的に検討を行い、その後で他に地域に関する検討に移りたい旨の提案があり了承された。クラスター2特定課 題で、午後に発言したのは22の国・地域であった。中東問題については、発言を求める国が多く、まだ20か国程度が30日の午前中にも発言する予定であ る。
不拡散体制の強化
NPTの目的を考えれば、あまりにも当然のことであるが、核不拡散の問題を協議すれば、「核不拡散体制の強化」という点では必ず各国の意見が一致す る。さらに、もう少し具体的には、「NPTの普遍化」という言葉が繰り返し使われた。「普遍化」が何を意味するのかというと、一つは締約国の拡大である。 特に今回の準備委員会ではイスラエルと北朝鮮への言及が繰り返されている。当然と言えばあまりにも当然である。また、あまり直接的な非難はないが、イン ド、パキスタンに対してもNPTへの参加を促すべきであるとの意見も当然ある。もちろん、これらの国々に対しては、「まだNPTに加わっていない国は、速 やかに非核兵器国としてNPTを批准し、自国の核関連施設をすべてIAEAの保障措置の下に置くべきである」という形で呼びかけるのがスタンダードとなっている。核兵器の保有国を増やさないという、「核兵器の水平的な拡散」の防止である。
さらにもう一つ、5核兵器国に対し、「核兵器国も、もともと民生用だった核関連施設や核関連物質だけでなく、解体した核兵器から取り出した核分裂性 物質も軍事的に再利用されないよう、IAEAの保障措置を受け入れるべきである」という要求を出す国も、非同盟諸国を中心に少なくない。さらに、これを水 平的な拡散に対し、すでに核兵器を保有している国が保有する核兵器の強化や改良を進める「核兵器の垂直的な拡散」を防止する措置の一つであるとして、水平 の不拡散を補完し本当の意味で普遍的な核不拡散体制を構築する一環であるとの見解も繰り返された。核兵器国も、米ロを中心に、国際的な保障措置の導入にあ る程度前向きの部分もあるが、まだIAEAと包括的な保障措置協定を結ぶような段階ではなく、取り組みが不十分であるとの批判も強い。しかし、FMCTが 成立すれば、核兵器国に対する保障措置の履行のかなりの部分は条約上の義務としてカバーされることになり、期待を表明している国も多い。
また、「不拡散の新しい脅威」として、「非国家アクター」つまりテロ組織のような存在による核兵器の使用の危険を指摘した、モロッコ、オランダ、スペイン共同のワーキングペーパーに代表されるように、核関連物質や情報の不正な流出を防止するための貿易管理も、不拡散体制の強化という観点から、その重要性を指摘する発言が相次いだ。
「中東非大量破壊兵器地帯」という難関
クラスター2特定議題(地域)では、まず中東会議ファシリテーターのラーヤバ大使(フィンランド外務次官)から、会議 の招集者である米、英、ロと国連事務総長、中東各国、関連国際機関、さらに市民社会の協力と、スタッフの献身的な努力の結果、中東会議の開催に必要な準備 のほとんどは完了したが、時間の不足で、開催は延期せざるを得なかった旨の報告があった。しかし、予定の日程で開催はできなかったが、開催そのものが不可 能になったわけではなく、イスラエルを含むすべての当事国が準備作業の継続を望んでおり、これまでラーヤバ大使とスタッフが各国と個別に協議する形で主に 準備を進めてきたが、今後は多国間協議に移行し、早期開催を目指したいとした。
この報告に対し、中東会議が事実上イスラエル一国の反対に基づき、他の中東各国に意向を無視する形で延期されたことに抗議し、エジプト代表が退席し た(「短信5」参照)ことに象徴されるように、中東各国はそろって強い不満の意を表明した。また、新しい会議の日程やアジェンダすら未定であることから、 実質的な準備が進んでいないという批判も相次いだ。米英ロの共同招集国は、複雑な中東情勢の中でのラーヤバ大使の尽力を評価し、早期開催に努力する意向を 示し、日本も中東の非大量破壊兵器地帯は1995年のNPT無期限延長のパッケージの一部であり、イスラエルを含め、中東のすべての国は、NPTだけでな く、化学兵器、生物兵器を含めて、すべての大量破壊兵器の禁止条約を批准すべきで、不拡散体制の普遍化という観点からも中東会議の早期開催を支持するとい う発言を行った。退席したエジプトにしても、最も強く主張したことは、「いつまで待たせるつもりか」ということであり、発言したすべての国が中東会議の早 期開催、年内開催を強く求めているという点では意見の一致が確認できたと言えるだろう。核不拡散体制の普遍化という観点からも早期開催が強く求められる。
【短信5】エジプト代表団、残り会期のボイコットを表明(2013年4月29日)
29日午後のクラスター2特定議題(地域:中東問題)で最後に発言したエジプト代表は、2012年12月にヘルシンキで開催される予定だった中東非大量破 壊兵器地帯に関する国際会議が、事前に中東各国に何の協議もなく突然延期されたことに対し強い不満を述べた後、「1995年の中東決議の受け入れがたい、 履行の失敗の継続に抗議するため、この声明の直後から、NPT再検討会議の第2回準備委員会の残りの会期から離脱することをエジプトは決定した」と述べ (エジプトの声明(英語))、 そのまま代表団全員が退席した。中東会議の延期は、準備委員会の直前まで、アラブ各国が準備委員会自体をボイコットするかどうか協議していたほど深刻な問 題であり、エジプトとしては、最初からボイコットするより、中東会議の延期に対して抗議の声明を出したうえで、残りの会期をボイコットすることで、より各 国に明確なメッセージが伝わると判断したとのことであった。これに対し、フェルーツァ議長は、「事前に何の連絡もなく、このような行為が行われたことはと ても残念であるが、仕方がない」とコメントしたに止まった。(広瀬)
第6報 不拡散へ高まるIAEAの役割への期待(2013年4月26日)

(国連欧州本部前の国際連盟時代の遺産モニュメント、 軍備の無い世界を象徴。2013年4月26日。撮影:RECNA)
開会 から5日が過ぎ、ちょうど会議スケジュールの半分を終えたところで、週末を控え、準備委もやや「中休み」(「中だるみ」ではないことを切望する)という感じで、予定よりも議事が先行しているために、「時間調整」として、会議は午前中のみであった。
NPTの三本柱のバランス
しかし、これは決して単純に「することが無い」わけではなく、実はなかなか厄介な事情も絡んでの決定である。NPTでは、「核軍縮」、「核不拡 散」、「原子力の平和利用」の三つの条約の目的が、しばしば「三本柱」と呼ばれ、いずれも同じく重要であり、この「三本柱」は対等に扱われなければならな いというコンセンサスが締約国の間で共有されている。そのため、会議においても、「核軍縮」(クラスター1議題)、「核不拡散」(クラスター2議題)、 「原子力の平和利用」(クラスター3議題)には、それぞれまったく同じだけの時間が割り当てられている。そして、いずれかの議題の検討において、議論が出 尽くし、発言を求める参加国が無くなった場合に、今回のように予定より早く議事を終了させることはできるが、その分余った時間を、他の議題の検討時間の延 長に充てることは、「三本柱」の公平の原則に反するとみなされかねないのである。それだけこの「三本柱」の間のバランスは重要視されていると言わなければ ならない。このブログは核軍縮に関心を集中して報告してきたが、今回の会議の一般演説においては、実際には、原子力の平和利用の促進と、原子力分野での技 術協力の拡大強化に力点を置いた国が少なくなかった。多くの開発途上国にとっては、安心して原子力の平和利用を進めることが最大の関心かもしれない。
第5報にクラスター1でのブラジルの発言を取り上げたが 、それは具体的措置を行程表の下に置くよう主張するものであった。実はその前に、25日の午前にロシアが具体的措置について発言していたので取り上げてお きたい。要約すると次のような内容であった。核兵器が非人道的な兵器であることは分かりきったことであり、今さらそれを改めて指摘するために時間を費やす べきではない。現実に核兵器を削減するために必要な具体的な方策についてこそ議論すべきである。特に財政面での制約をどのように克服するかという重要な問 題については、ほとんど協議が進んでいないので、むしろ現実に核軍縮の促進に必要な技術的、経済的な裏付けの確保に議論の力点を移すべきである。また、こ れに対し、イランが、技術的な議論を先行させようとするのは、核兵器国が核軍縮の実施を遅らせるための隠ぺい工作に過ぎないという批判を行った。イランの 批判はともかくとして、核軍縮の推進に必要な、財政的、制度的な問題も含めて、技術的な側面にも国際社会がきっちり対応してゆくことは、それ自体は重要な ことである。
IAEAの役割への共通した評価
26日の午前中には、クラスター2(核不拡散、保障措置、並びに非核兵器地帯)の議論が始まった。ここまでの議論では、非同盟諸国とEUを含め、発 言したほとんどの国が非核兵器国の原子力関連施設を監視する国際原子力機関(IAEA)の保障措置(セーフガード)の強化と、IAEAにより広い権限を与 える追加議定書の重要性を指摘した。また、非同盟諸国は、核兵器保有国も、同様の措置を受け入れることで、核兵器の材料となる高濃縮の核分裂性物質の生産 と、解体した核兵器から取り出した核分裂性物質の保管と民生利用を国際的な監視下に置くべきであると主張している。これは実質的に現在検討中で、今回の会 議でもしばしば言及されている兵器級核分裂性物質生産停止条約(FMCT)の検証制度とほぼ同じものである。そして、多くの国が、このような制度を実現す るための技術的な側面を検討する目的で、国連総会が設置した政府専門家グループ(Group of Government Experts)の活動に期待を表明していることは、具体的なステップとして当然であろう。
ちなみに 、クラスター1特定議題(核軍縮、安全の保証)においても、主に非同盟諸国などから、NPT再検討プロセスの中に、この議題 に関する小委員会を設置し、集中的に検討すべきであるとの提案がなされている。また、早急にCDで検討すべきであるとの意見もあった。効率性という観点か らは若干疑問も残るが、26日の午前のセッションで発言したウクライナのように、NPTの再検討プロセス、CD、国連総会等、使用可能なすべての場で追求 すべきという、思い切った意見もあった。このように、特に重要な問題については、別に検討の場を設け、専門家を交えて協議するというのも有効な選択肢であ ろう。
従来、多国間の軍縮交渉に関しては、その理念と方向性、原理原則のような議論は国連総会で行い、具体的、技術的な詳細な交渉はCDで実施するという ある程度明確な役割分担があった。しかし、CDの機能不全が、現在の多国間軍縮交渉に混乱をもたらしているという側面は否定できないだろう。そして、それ が、具体的なステップやその行程についての議論の進展を困難にさせており、ブラジルやロシアの発言の遠因であるとも言えるだろう。幸いなことに、クラス ター2議題においては、IAEAという、技術的、専門的な議論のベースとなりうる組織が存在しており、ここまで発言してきたすべての国がその有用性と強化 の必要性に言及している。「核エネルギーを軍事目的に利用させないためには、どのような手段が有効であるのか」、ここから核軍縮の具体的な進展のひとつの 手掛かりがつかめることを期待したい。
【短信4】非人道声明「拒否」に関する日本政府の弁明文書(2013年4月27日)
第5報で書いたように、25日午前のクラスター1の議論なかで、日本政府は、24日の「核兵器の非人道的影響に関する共同声明」に賛同しなかった理由について声明の最後で言及した。関連部分の抜粋訳を紹介する(英語、和訳)。(中村)
第5報 包括的な要求と一歩一歩の要求は両立する(2013年4月25日)

(会議後に談笑する議長フェルーツァ・ルーマニア大使(左)。2013年4月25日午後。撮影:RECNA)
会議4日目の午前は、昨日に引き続いてクラスター1議題(核不拡散、核軍縮、並びに国際安全保障に関連する条項の履行 問題、及び安全の保証問題)についての意見発表があり、19か国・グループが発言した。この議題は午前中に終了する予定であったが終わらず、午後に入って 追加して10か国・グループが発言した。午後4時過ぎになってクラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証)へと議事が移り、 10か国・グループが発言した。前回の準備委員会にも同じ印象を受けたが、この2つに議題を分けることに余り有用性が感じられない。特定問題で発言希望国 は多くなく、会議は30分の時間を残したまま閉会となった。明日も午前は同じ議題に当てられているが、次の議題へ移る可能性がある。
非人道的影響の共同声明についての余波
会議は概して一方通行の演説であったが、昨日の「核兵器の非人道的影響に関する共同声明」に関して日本政府の弁明や発表国である南アフリカの発言な ど、興味深い余波があった。日本政府は午前のセッションの6番目に予定の順序で発言し、南アフリカは19番目に予定外の発言を求めたように見えた。
聴きながらのメモであるが、日本政府は共同声明に賛同しなかったことについて、「日本は真剣に、真摯に南アが発表した声明を検討した。唯一の被爆国 として核兵器使用の被害を理解している。声明の基本的内容や、そこで言われている核使用の短期的影響、社会経済的影響についての内容を支持する。しかし日 本の置かれている状況を考慮すると賛同できない。日本は声明の修正について協議をしたが合意には至らなかった。将来、同じテーマの声明が出た際は賛同する 可能性を追求したい」というような説明を行った。相手があることなので南アなど他国との協議の内容をすべて明らかにできるとは思わないが、「置かれている 状況」や「修正」と述べていることの内容について、日本の市民、とりわけ被ばく者、そして広く世界の市民に説明する必要がある。「状況によっては核兵器の 使用が許される」という立場が説得力もつとは考えにくいが、そのような立場は、日本政府の意に反して、北朝鮮の核兵器開発を許さないという国際世論を弱め ることになるだろう。
同じように聴き取りのメモであるが、南アフリカ代表は、直接的に日本に反論する形ではなく次のような趣旨を述べた。「核兵器の人道的側面の問題はグ ローバルな問題であって、すべての国家が取るべき方向性を示すものであり、特定の国が置かれている個別の環境の問題を持ち込むべきではない。」この発言 は、日本政府が修正協議の中で日本の「置かれている状況」という論理を展開しながら文言の修正を強く求めたことに反論する意味があったと推察される。
午前の会議の発言国にスイスが含まれていた。スイスは第0報で述べたように、赤十字国際委員会を擁し、核兵器の非人道的側面における国際世論を先導してきた。この日の発言(英語)においても、前日の77か国共同宣言や3月のオスロ会議を引用しながら基本的な立場を強調した。
「私たちは、昨日、77か国を代表して南アフリカが発表した共同声明を全面的に支持します。スイスは、核兵器は安全を生み出すものではなく、国際社 会、そして人間社会への脅威であると確信します」「核兵器のいかなる使用も防止すること、したがって核の惨害を防止することは、みんなの責任です。実際、 NPT第6条はすべての締約国が核軍縮を進めることを要求しています」「核兵器の使用を防止するとともに禁止し、究極的には他の大量破壊兵器と同様に核兵 器を廃絶するためには、より具体的な手段と道具を開発することが必要です。スイスは核兵器のない世界という共通の最終目標への道を拓くために、核兵器の漸 進的な非正統化の努力に貢献し続けます」。
「ステップ・バイ・ステップ」の硬直を乗りこえる
核兵器の使用を絶対的に否定するという原則的な立場と、それを実現するために具体的な措置を講じてゆくこととは、決して矛盾することではない。それ を、ことさらに対立的に説明し続けているのは、日本政府や米国やフランスであるように見受けられる。スイスは発言の中で、スイスが力を入れている2つの具 体的措置について説明した。
一つは、未だに数分の中に核兵器を発射できる態勢を維持している高度の警戒体制を緩和させる、いわゆる「警戒体制の解除」(ディ・アラーティング)の問題である。スイスはチリ、マレーシア、ニュージーランド、ナイジェリアと5か国で「ディ・アラーティング・グループ」を形成してこの問題に取り組んできた。2010年合意の行動計画の中でも、行動5e(和訳)として「核兵器システムの作戦態勢をいっそう緩和すること」が求められ、核兵器国はその努力の結果を2014年準備委員会で報告することが義務づけられている。グループは昨日の午後のクラスター1会議でこの問題で共同声明(英語)を出している。スイスは発言の中で、米ロが最低限の取り組みとして2015年までに警戒体制を緩和するように求めた。
スイスのもう一つの取り組みは、核軍縮を逆戻りさせないという「不可逆性の原則」をいかに守らせるかという問題である。これについては、スイスは今回の会議に単独で作業文書「2015年再検討会議における不可逆性原則の効果の強化」(WP.32)(英語) を提出した。作業文書は、不可逆性の順守を明らかにするために、保有核兵器に関する包括的で正確な情報を定期的に提出するという核兵器国の誓約、核兵器国 が原子力平和利用と説明している分野における査察の拡大、核兵器計画から外された核物質の恒久的な保障措置が確実にできるように国際原子力機関 (IAEA)の検証制度を強化すること、などを課題として掲げている。
このようなステップ・バイ・ステップの措置と非人道性を基調とする核兵器禁止への包括的なアプローチに関して、2つは対立するものでないことを、午 後のクラスター1会議でブラジルが発言した。「主に核兵器国が主張する段階的アプローチと核兵器禁止条約(NWC)の作成により核軍縮を達成しようとする アプローチは対立するものではなく、その違いを論じることはあまり意味はない。仮にNWCを作成するにしても、条約の交渉にはやはり行程表が必要であり、 順を追って進めるという意味では段階的アプローチと本質的に異なることはない。本当に重要なのは、どちらのアプローチを選択するかということではなく、核 兵器の廃絶へ向けて明確な行程表を作成し、ある程度の柔軟性はあっても良いが、具体的なタイムフレームを打ち出すべきである。CTBTの次のステップが FMCTであるとするなら、いつまでにFMCTを成立させ、その次に何を実施するという行程を示すべきである」というような趣旨であった。
これに対し、それまでほとんど個人の意見を出さずに機械的に議事を運営してきた議長が「各国間の意見の交換を促す建設的な意見であり、議論を活性化するために歓迎する」と発言したのが印象的であった。
この種の議論は、NPT再検討会議はもう卒業していなければならないはずだとの感想を強くした。記憶に鮮明に残っているが、2005年再検討会議に おいてマレーシアなど6か国が作業文書「核兵器のない世界の確立と維持のために要求される法的、技術的、政治的諸要素」(NPT/CONF2005 /WP.41)(英語)を提出した。その中で、核軍縮への道筋について、「ステップ・バイ・ステップ」「包括的」「段階かつ包括的」と類型しながら、それぞれが有用である局面を述べているのである。NGOが開発したモデル核兵器禁止条約も、そのような考え方に立っている。
【短信3】再び中国の先行不使用政策について(2013年4月26日)
中国が、いかなる場合においても核兵器を先に使うことはないという、最初の核実験の当時からの「先行不使用」(ノー・ファースト・ユース)政策を変更したかも知れないという憶測について、ブログの【短信1】で紹介した。そして、「第1報」において、今回の中国の一般討論を聴く限り、政策に変化があるとは考えにくいことを述べた。
同じ問題が「ニューヨークタイムズ」紙上で論じられている。4月18日付で、カーネギー平和財団のジェイムス・アクトン氏が上記の憶測のオピニオン記事を書いたのに対して、「憂慮する科学者連盟」(UCS)の中国問題専門家グレゴリー・カラーキー氏が投稿(4月24日付) して「政策変更は考えにくい」と述べている。彼が根拠として引用したのは、4月8日のジュネーブにおける中国軍縮大使の公式発言である。本ブログの第1報 の情報は本国外務省軍備管理・軍縮部門トップ(NPT準備委員会中国代表団長)による、より新しい公式発言となる。(梅林)
第4報 NGOの関与を「セレモニー」から実質に変える挑戦(2013年4月24日)
4月24日午前のセッションは、予定通り3時間すべてがNGO意見発表にあてられた。これは、準備委員会(あるいは5年毎の再検討会議)の公式プロ グラムの一環として、NGOが各国政府代表の前で意見を述べるというものである。NPT再検討プロセスにおける関与拡大を求めたNGOの働きかけによって 始まり、2000年再検討会議以降、政府と市民社会をつなぐ重要な接点の一つとして取り組まれている。
意見発表に先立ち、議長からは今準備委員会の登録NGO数が53、NGO主催の並行イベント数が37にのぼることが紹介され、市民社会の積極参加を 歓迎する旨が述べられた。しかしそうした言葉の一方で、例年概してNGO意見発表への各国政府代表の参加態度は芳しいものではない。今年も例外でなく、国 名のプラカードがずらりと並んだ本会議場の机は3分の2以上が空席であった。5つの核兵器国の参加があったことは救いであったと言えるが、NGOの意見表 明セッションを「毎年恒例のセレモニー」として軽んじる傾向があることは否めない。また、NGOの中からもセッションの形骸化を懸念し、その在り様を見直 そうとの声があがっていた。
今年の意見表明セッションで目を引いたのは、NGO側によるそうした「マンネリ打開」の努力であった。例年においては、10余の課題についてそれぞ れその分野を専門とするNGO代表者が問題認識を示し、各国政府に勧告を行うという形がとられてきた。しかし、「NPTにおける双方向性と創造性を活性化 させる」(レイ・アチソン)ことを今回の目的に掲げたNGO側は、3時間の構成を一変させてセッションに臨んだ。各テーマの発言者にほぼ平等な時間配分を 行うというやり方を変更し、全体を①基調講演、②パネル・ディスカッション、③キーパーソンの訴え、の3つの部分に分け、より的確かつ魅力的なプレゼン テーションを目指したのである。
こうした企画立案や具体的な起草作業には、実際ジュネーブには来ていないNGOも含め、世界各国のさまざまなNGO関係者の関与があった。起草作業 はメーリングリスト(ML)を通じて主に準備され、そこは常に誰でも参加可能なオープンな場として機能していた。調整役として活躍したのは今年も「平和と 自由のための国際婦人連盟(WILPF)の一プログラムである「リーチング・クリティカル・ウィル」(RCW。レイ・アチソン代表) であった。RCWは、国際機関へのNGO窓口として、また、国連本部が所在するニューヨークやジュネーブの情報拠点として、核軍縮・不拡散問題を中心に精 力的な活動を続けているNGOとして知られている。
以下がそのプログラムである。
■イントロダクション レイ・アチソン(リーチング・クリティカル・ウィル)
■基調講演
「核兵器を再考する」ワード・ウィルソン(英米安全保障情報センター(BASIC)上級研究員及び核兵器再考プロジェクト長)
■市民社会パネル
・ティム・ライト(核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN))(議長)
・ボブ・ムトンガ(核戦争防止国際医師会議)
・ビアトリス・フィン(リーチング・クリティカル・ウィル)
・キャサリン・プライズマン(核戦争防止地球行動)
・セザール・ハラミジョ(プロジェクト・プラウシェアズ)
■キーパーソン発言
・広島市長の訴え 松井一實(広島市長、平和市長会議会長)
・長崎市長の訴え 田上富久(長崎市長、平和市長会議副会長)
・被ばく者の訴え 藤森俊希(日本被団協事務局次長)
・若者の訴え マイラ・カストロ(核兵器禁止若者ネットワーク(BANg))
クリスチャン・N・チョバヌ(核時代平和財団)
全体を通してのNGOの一貫したメッセージは、核兵器使用がもたらす「壊滅的な人道的結果」を根拠に、国際社会が直ちにこの兵器の「非合法化」に向かうべきであること、とりわけ非核兵器国がその潮流において指導力を発揮する必要性があることであった。
基調講演を行ったウィルソン氏は、核兵器に対する人々の考え方がいかに不正確な情報や思い込みにとらわれているかを具体的な事例を挙げて説明した。 「核兵器は戦略的に有効な兵器である」「核兵器は安全であり信頼性がある」「一度発明されてしまった核兵器を廃絶することは不可能である」等々の言説は 「神話」に過ぎないと述べたうえで、ウィルソン氏は、多くの国が依存する核抑止政策が非人道的結果を招きかねないことを歴史的観点から指摘した。
5人のNGO専門家によるパネル討論は、核兵器の非人道性と非合法化をめぐる議論を「一問一答」形式で多角的に、かつ、わかりやすく提示する、とい うユニークなものであった。議長のライト氏が質問を投げかけ、4人のパネリストの一人がそれに回答する、という形である。議論されたテーマにはたとえば以 下のようなものがあった。
「核兵器使用は環境、あるいは社会経済発展にどのような影響を与えるのか。」
「核兵器の非合法化はどのようにして達成可能なのか」
「核兵器近代化をめぐる問題点は何か」
「安全保障上の核兵器の役割を低下するとは何を意味するのか」
「多国間の核軍縮交渉の前進を妨げているものは何か。どのような改善策が必要か」
「市民社会はどのような役割を担うことができるのか」
パネルの最後に議長が会場の政府代表に質問を募ったが、手は上がらなかった。
続いてのキーパーソンの発言においては、広島、長崎両市長、被爆者、ユースがそれぞれの立場から核兵器の非人道性と非合法化の必要性を訴えた。長崎 市長は、3月に開かれた核兵器の非人道性に関するオスロ会議に言及する中で、核兵器を「遺伝子標的兵器」と断じた。これは日本政府代表団の一員として同会 議に出席した朝長万左男長崎原爆病院長がその発表で述べていたものである。
また、ユース代表として2名の欧州の若者が発言をしたが、そのスピーチの起草段階には「ナガサキ・ユース代表団」もかかわっていたことを紹介してお きたい。「私たちは被爆者と同じ苦しみを経験したわけではない。しかし彼らの証言を聴くことで、核兵器の非人道性に想像力を働かせることはできる」という スピーチの箇所は、被爆地の若者の声を世界に伝えたいと起草に参画した「ユース代表団」の提案を受けて盛り込まれたものである。
セッションの最後は各国政府代表との質疑にあてられた。アイルランドがNPTサイクルにおける市民社会の関与拡大に向けた具体策について質問し、 NGO側からは現在の「3時間の意見表明セッション」の枠を超えたより広範な市民社会との接点を目指したい旨、回答があった。草の根の運動だけではなく、 専門家、アカデミアといったさまざまな層における関与が可能であり、また、NGOが本会議中に実際にプラカードを持って発言するということも提案された。
NGOの期待に反し各国政府からの質問はその後出ず、時間を30分ほど残してセッションは終了した。3時間という貴重な枠を「毎年恒例のセレモニー」ではなく、実質的な議論の場として機能させるべく、市民社会の挑戦は今後も続いてゆくであろう。
(NGOセッションの様子。2013年4月24日午前。撮影:RECNA)
第3報 深刻に問われる日本政府の核兵器認識(2013年4月24日)
(非人道性の声明を発表する南ア代表。2013年4月24日午後。撮影:RECNA)
会議3日目の午前中は、NGOの意見を聴く公式セッションに当てられた。午後には一般討論にもどって積み残しの発言が行われた。そこにおいては、8 か国・グループと2国際機関が発言した。国家グループの中では南アフリカが賛同77か国(あるいは74か国)を代表して「核兵器の人道的影響に関する共同 声明」を発表したのがハイライトであった。その内容と経緯の速報は、【短信2】で報告された。また、発言の中には赤十字国際委員会(ICRC)の発言も あった。一般討論は午後4時25分に終了した。その後クラスター1議題(核不拡散、核軍縮、並びに国際安全保障に関連する条項の履行問題、及び安全の保証問題)に関する討論に入った。クラスター1議題に関しては11か国・グループが発言をした。NGOセッションの報告は第4報に委ねて、第3報では24日の午後のセッションを中心に報告する。
新アジェンダ連合の存在意義を再確認
クラスター1の討論において、新アジェンダ連合(NAC)(アイルランド、メキシコ、ブラジル、ニュージーランド、エジプト、南アフリカの6か国)を代表してブラジルが、提出した作業文書「核軍縮」(WP.27)(英語)と「核軍縮における透明性の原則の適用」(WP.26)(英語) について説明を行った。1998年に結成されたこの国家連合は、今年15周年を迎える。設立声明には8か国が名を連ねたが、NATO加盟を目指すスロベニ アが時を経ずして脱退し、長く7か国グループとして活動した。2000年再検討会議において全会一致の13項目合意を勝ちとった立役者として評価されてい る。しかし、今回スウェーデンが現在の右派政権の意思によって脱退し6か国になった。設立声明は現在もなお輝きを失っておらず、非同盟運動とは異なるリベ ラル中堅国家の連合として核軍縮に重要な役割を担っている。NACに注目する意義の一つは、メキシコがこのグループに下支えされることによって核軍縮・不 拡散イニシャチブ(NPDI)でも役割を発揮できる構造が見えるからである。
NACの「核軍縮」作業文書は2010年合意以来の進展について整理しながら、2015年への課題を述べている点で有益である。2010年以来の進展については、米ロが新START条約によって戦略兵器の数が削減されたことを評価する一方で、「保有核兵器の近代化を継続し高性能で新型の核兵器を開発し、その目的のために巨額の投資を行っていることは、核兵器国が行った約束に違反している」と述べている。また、昨日の本ブログで日本がリードする核軍縮・不拡散イニシャチブ(NPDI)に関連して述べた「核兵器の役割の低減」に関しては、核兵器国がこれを進めていないと指摘した。そして「残念なことに、核抑止政策が核兵器国およびその軍事同盟国の軍事ドクトリンを決定づける特徴であり続けている」 と述べた。このように、NACは、日本やNATOの安全保障政策が変わっていないことも指摘している。また、2010年合意で核兵器国が核軍縮について報 告する義務(標準形式の追求や各国に課せられたNPT履行報告)を負ったことについても、今のところに何の前進もないと評価している。CTBTの発効につ いても、要件国であるインドネシアの批准があったもののその他の前進がないと指摘した。ここではすべてを紹介できないが、2010年合意の履行状況に点数 をつけるさまざまなNGOの試みがある中で、この作業文書は国家グループによる核軍縮に関する2010-12年の評価書の性格をもっている。
このような評価を踏まえて、NACは次のような提案を行った。まず当然のこととして、第1報で核兵器国も意識していることを伝えたが、2010年合意の行動5の 完全履行を要求した。行動5には「あらゆる種類の核兵器の備蓄の総体的削減に速やかに向かう」という約束があるが、NACは米ロに対して、配備兵器と非配 備兵器、戦略兵器と非戦略兵器、の区別無く新STARTよりも前進した措置を講じるように求めている。また、核兵器国が行動21で約束した通り、報告の標準様式と頻度について優先的に合意するように要求し、報告頻度については年1回の報告が妥当であると述べた。また、注目すべき提案として、核兵器国と軍事同盟を結んでいるすべての国に対して、「集団的安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割の低減そして除去のために取られた、あるいは今後取られる措置に関して、重要な透明性と信頼醸成措置として、報告すべきである」と述べた。これは、NPDIが昨年の作業文書において述べたことを、非核兵器国に適用した点において注目されるものである。日米安保体制は集団的安全保障体制ではないが、同じ議論になるはずであろう。
「人道的影響」:配慮を加えた声明にも日本は不参加
【短信2】で伝えたように、3月のオスロ会議(127か国が参加)を踏まえて、核兵器の非人道性を訴えて核兵器廃絶を要求する新しい「核兵器の人道的影響に関する共同声明」が、午後の一般討論で発表された。賛同した国の数は発表文書(英文、和訳)では74か国であるが、77か国という情報もあり、未確認である。発表の直前まで、発表者であるアブダル・サマド・ミンティ南アフリカ大使と日本政府代表が談合している姿が見られるほど、日本政府の参加については紆余曲折があった模様である。
昨年10月の35か国(34+バチカン)共同声明(英文、和訳) と比較したときの重要な変化は、冒頭においてこの声明と核不拡散条約(NPT)との関連を明確に位置づけたことであろう。NPTの前文は「核戦争が全人類 に惨害をもたらすものであり、したがって、このような戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払い、及び人民の安全を保障するための措置をとることが必 要であること」という文章で始まるが、この警告こそ、壊滅的な人道的影響を自覚していた証であると声明は説いた。これによって、2010年合意文書のみな らず、NPTそのものが再検討会議において人道的側面を考慮の対象にしなければならないことの根拠を与えるものとなる。
オスロ会議に127か国が参加したのは、会議が人道的結果の科学的知見を共有する場として厳しく限定的に定義されていたからであるとされる。日本政 府が参加できた理由はまさにそうであったであろう。また、前の共同声明にあった「核兵器を非合法化する努力を強めなければならない」という文言が無くなっ たことで、今回の声明は日本政府などが受け入れやすくなる側面があったであろう。しかし、十分に非人道的側面が露わになったオスロ会議の後において、如何 にして核兵器廃絶への道を描くかという次の議論は避けることのできない議論である。そして、そこに入り込むとこれまでの分岐した議論が再燃することにな る。第1報で伝えた、フランスのオスロ会議に反発する激しい言説がそれを示している。
日本が賛同しなかった理由も同じような議論に行き着かざるを得ない。日本が「核兵器が二度とふたたび、使用されないことに人類の生存がかかっていま す」という今回の宣言の一文の、「いかなる状況下においても」に異議を唱えたと伝えられることは間違いないであろうが、言葉をいじって済む問題ではないと 考えられる。「いかに非人道的あっても、日本にとっては核兵器に役割がある」という日本政府の認識が露わになったのである。これは、かくも非人道的と認識 される核兵器に依存しなくても、より安全な安全保障への道があるのになぜその方向に進もうとしないのか、という問題とつながって問われ続けることになる。
【短信2】74か国が核兵器非人道声明を発表(2013年4月24日)
4月24日(水)午後の一般討論の終わり近く、74か国(77か国という情報もあり、確認中)を代表した南アフリカが、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」(英文・和訳)を発表した。2012年5月の第一回準備委員会(ウィーン)での16か国声明(「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」)(英文・和訳)、10月の国連総会第一委員会(ニューヨーク)での34+1か国声明(英文・和訳)に続くものである。
昨年出された2回の声明がほぼ同一の内容であったことに対し、今回の声明はタイトルを含め内容面で大きな変更を加えたものとなった。もっとも重要な 点は、核兵器の「非合法化」の文言が消えたことであった。核兵器のもたらす「壊滅的な人道的結果」のみに焦点を置くことにより、より多くの署名国を獲得す ることを狙ったものである。禁止条約の制定へと議論が発展することを嫌う国々をも巻き込み、非人道性を基盤とした国際的な共通認識を拡大させようとの考え 方は、3月4-5日に開催されたオスロ会議とも軌を一にしている。
「核の傘」依存政策との整合性から昨年の声明への署名を拒否していた日本政府の去就が注目されていたが、今回も74か国に名を連ねることはなかっ た。日本政府が最後まで修正を要求していたのは「核兵器が二度とふたたび、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっている」の一 文のなかの、「いかなる状況下においても」の文言であったとみられている。(中村)
第2報 市民が活用できる多くのヒントがある(2013年4月23日)
会議2日目も一般討論が続いた。午前中に15か国・グループ、午後に18か国・グループと1国際機関が発言した。まだ発言希望国が残っており、明日 の午後にも一般討論が続くことになった。今日の午前の発言国の中には、日本とオーストラリア主導で結成された10か国グループ「核軍縮・不拡散イニシャチ ブ」(NPDI)を代表したオランダがあった。午後の会議では、第0報で掲げた注目国であるメキシコ、コスタリカ、ノルウェーの発言があった。会議周辺で は、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」が新しく出されることを巡ってNGOの活動が活発化している。
重みを増すNPDIの存在と責任
NPDIを構成するのは、日本、オーストラリア、ポーランド、オランダ、ドイツ、カナダ、メキシコ、チリ、トルコ、アラブ首長国連邦の10か国であ る。NPDIは今回の準備委員会のために4月9日のオランダのハーグで第6回外相会議を開催した。それは、オスロで「核兵器の人道的影響」国際会議が開か れた約1か月後でもあった。そのときの共同声明(英文、和訳)がNPDIの今回の行動の基礎となっている。昨年の準備委員会においては、NPDIを代表する演説はトルコが行ったが、今回はハーグ会議を開催したオランダが行った。昨日の会議で日本政府を代表して北野充大使(軍縮不拡散・科学部長)が発言(英語)したが、その中でNPDIは会議に6個の新しい作業文書の提出を準備していると明らかにした。
オランダ代表の今日の演説(英語) は、昨年の作業文書「軍縮・不拡散教育」のアップデートを含めると7個になる作業文書の中味を説明するものであった。当然のことながら、内容は上記共同声 明の域をほとんど出るものではなかったが、その内容には市民が活用して政府に働きかけるべき多くのヒントが含まれていることを指摘しておきたい。出された 作業文書は、①包括的核実験禁止条約(WP.1)、②輸出管理(WP.2)、③非戦略核兵器(WP.3)、④核兵器の役割削減(WP.4)、⑤核軍縮不拡 散教育(WP.12)、⑥核兵器国における保障措置の適用拡大(WP.23)、⑦非核兵器地帯と消極的安全保証(WP.24)。括弧内は会議における公式 の文書番号である。
現在までのところ全体で27個の作業文書が提出されているが、国家グループで7個の作業文書を出しているのは、非同盟運動が同じ7個を出している他 にはない。数が多ければ好いというわけではないが、NPDIの存在感が増していることは否めない。しかも、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダといった 西側の影響力のある大国が含まれているから、その言動は重みを増して行かざるを得ないであろう。被爆国日本がそのなかで背負う責任を日本政府は強く自覚し て欲しいし、市民は強い関心と監視の目を注ぐべきであろう。
NPDIは全会一致の方針で運営されている。今日のNPDI演説の中には、メキシコのような積極的な国が正論を主張することによってもたらされてい ると思われる好い結果を窺うことができる。メキシコがイニシャチブをとっている「核兵器の非人道性」の主張を核軍縮の原理として強めようとする動きや、 「オープン参加作業グループ」(OEWG)によって停滞しているジュネーブ軍縮会議(CD)の行き詰まりを打開して核軍縮会議を前進させようとする動きに ついて、NPDIがいずれも肯定的に表現している。
活用すべき例の一つは、作業文書「核兵器の役割削減」(WP.4)に書かれている次のような一節である。
「(核兵器の)量的削減は安全保障戦略や軍事ドクトリンにおける核兵器の役割や重要性を削減する措置を伴わなければならない。このような措置は完全核軍縮の目標に重要な貢献をし、また更なる量的削減へと相互に強めあうことになる。」
この言葉は、日本自身にも適用されるべきものである。日本は核兵器の役割を重視して米国の核の傘に依存するという安全保障戦略をとっている。しか し、核兵器を削減し廃絶するためには、核兵器の役割を減らせる努力をせよと、NPDIは言っているのである。言行一致するためには核の傘に依存する現状を 変えてゆく日本自身の努力が問われることになる。たとえば、北東アジア非核兵器地帯の設置へと前進することが、そのような努力の有力な方法となる。
場外で動く「核兵器の人道的影響」に関する共同声明
NPDIに注ぐべきもう一つの関心は、「核兵器の非人道性」を巡って、このグループがどのような役割を果たすかであろう。今日のNPDI演説は 「NPDIメンバー国は、2013年3月4日から5日までノルウェーのオスロで開催された『核兵器の人道的影響に関する会議』に参加した」と述べた。調べ てみると、確かに10か国全てが出席している。何らかの意思一致があったと考えられる。上記の作業文書はこの問題についてのグループの一致点について表現 に苦心をしたことを窺わせている。この表現は、市民が十分に吟味し活用すべきものだ。
「いかなる核兵器の使用も破滅的な人道的結果をもたらすことを考えれば、65年間以上核兵器が使用されなかった記録が永遠に延長されるべきことが至 上命令となる」(第6節)。「この道を確実に進め、核兵器が今後ふたたび使用されることを防止するため、核兵器の使用の可能性が今日よりもさらに遠のくよ うに具体的な努力がされなければならない」(第7節)。
この内容は歯切れが悪いし前後自己撞着にも見える。NPDIは「メキシコがこの問題についてフォローアップ会議を招集すると申し出たことを歓迎す る」と演説の中で表明した。日本政府が歓迎した理由を、作業文書の真意とともに質されてゆくことが大切であろう。国会でも議論されるべき問題である。
このことと関連して、会議場の外で進んでいる大切な動きが伝えられている。オスロ会議に積極的に関わった国際市民運動ICANの情報によると、オス ロ会議を踏まえて新しく出されようとしている「核兵器の人道的影響に関する共同声明」に63か国が賛同しているとのことである。名簿を見ると、NPDIで この中に含まれているのは、チリ、メキシコだけであり、昨年10月の35か国のときと変わらない。現在、署名国を増やす努力が続けられている。因みにメキ シコも所属している新アジェンダ連合(NAC)という現在で6か国の国家グループがあるが、この6か国は昨年10月と同様にすべてが賛同国として名前を連 ねている。
(NGOルームでワークショップを終えたユース代表団。2013年4月23日午後。撮影:RECNA)
第1報 「軍縮分野では、前進しないときは後退する」(2013年4月22日)
(再検討準備委員会の会議場(国連欧州本部内)。2013年4月22日。 撮影:RECNA)
よく分からない理由のために議長席周辺が慌ただしかったが、開会が遅れ、10時開会の予定のところ会議は10時55分に始まった。新旧議長の交代が あって、予定通りルーマニアのコーネル・フェルーツァ大使が第2回準備委員会の議長に就任した。アンジェラ・ケイン国連軍縮局高等代表の開会あいさつ(英語) の後、いくつかの議事事項を決定したのち、第1日目の一般討論が始まった。午前の部に8か国・グループの一般討論、午後の部に17か国・グループと1国際 機関の一般討論があった。この日のうちに米・ロ・英・仏・中のすべての核兵器国が発言した。有力な国家グループである新アジェンダ連合、非同盟運動の発言 もあった。日本政府の一般討論も行われた。
いくつかの決定事項を伝えておこう。
①第3回準備委員会は2014年4月28日(月)~5月9日(金)にニューヨークで開催される。
②第3回準備委員会議長はペルーのロマン-モレー大使とする。
③2015年再検討会議は2015年4月27日(月)~5月22日(金)にニューヨークで開催する。
停滞状況を反映したケイン高等代表の演説
昨年の開会演説(和訳) と比較したとき、アンジェラ・ケイン高等代表の開会発言は慎重なものであった。昨年の演説は「軍縮に法の支配を」と訴えた国連事務総長の5項目提案にも触 れながら、2010年再検討会議の合意文書に登場した核兵器禁止条約や国際人道法の話題を積極的にとりあげた。国際人道法については「NPT 再検討プロセスに国際人道法が到来し、留まっている」と高揚した口調で述べた。しかし、今年の演説には核兵器禁止条約や国際人道法への言及は一切無かっ た。また、昨年には核保有を目指す新しい国についての憂慮を示すと同時に、核兵器国が核兵器の近代化を進めていることへの憂慮を述べることを忘れなかった が、今年は前者を強調するに留まった。
ノルウェーが127か国を集めた「核兵器の人道的影響」の国際会議を3月に開催した直後の時期に、ケイン高等代表が国際人道法について触れなかった のは何故だろうか?そこにはさまざまな意味を読み取ることが可能であろう。一番の理由はノルウェーの動きが、国連の外に有志国家による条約交渉の場を生み 出す可能性が出てきていることへの配慮ではないかと思われる。国連加盟国全体を代表するケイン代表の立場としては、NPT合意の文脈だけで語ることのでき ない局面を迎えているという認識を反映せざるを得ないであろう。だとすれば長崎の私たちにとって変化は悪いことではない。とはいえ、第0報で述べたノル ウェーからメキシコへのバトンタッチがそのような展開になるという見通しについて、私たちはまだ何の情報も持っていない。
ケイン演説の慎重さは、過去1年における核軍縮・不拡散の状況の停滞振りを反映していることも否定できない。2012年中の開催を決定した中東会議 について、ケイン代表が「早ければ今年中に開くことができる」としか演説の中で言えなかったのは、招請者の一つである国連にとっては大きな痛手である。た とえ小さくても合意したことについて前進を勝ちとらなければNPTプロセスそのものの信頼性が損なわれるであろう。そのような小さな前進をいくつか示した ものの、「NPTの場でいま最も必要とされているものは、いかにのろく、いかに困難であっても、前に進むという感覚を取り戻すことである」というのがケイ ン代表の基本認識であった。そして、ダグ・ハマーショルド元国連事務総長の1960年の次の言葉を彼女は引用した。「この(軍縮の)分野においては、停止は存在し得ない。前に進まなければ、すなわち後退するのである。」
5核兵器国の発言が出揃う
午前中に米国が、そして午後に他の4核兵器国が発言し、5核兵器国(P5)の冒頭の一般演説が出揃った。概して言えばP5各国の発言に新味はなかっ た。NGOや積極的な国々は、2015年再検討会議に向かう準備委員会の役割について、繰り返し次のように言っている。「準備委員会は、単に2010年合 意の履行を点検することではなくて、将来に向かう実質的な新しい合意を形成することが必要である。」しかし、P5の発言の共通の特徴は2010年の行動計画を自国が忠実に実行していることを強調することであった。彼らが特に重視しているのは、「核兵器国は上記(注:a~gの7項目がある)の履行状況について2014年の準備委員会に報告するよう求められる」(行動5)、「すべての核兵器国は、信頼醸成措置として報告の標準様式について可能な限り早期に合意する」(行動21)という約束の履行である。
イギリス以外の4か国は発言の中で、そのような合意を履行するためのP5会議が継続されていることに触れた。実際、今回の会議の直前、4月18~19日に第4回のそのような会議がジュネーブにおいて開催され、共同声明も出されている。中国の演説(
) は、P5会議で設置された「核に関する重要用語の定義集」作業グループ(議長:中国)が2015年再検討会議に結果を報告する予定であると述べている。こ のような作業が信頼醸成上必要なことは認めるが、それを5年間の成果とするのでは話にならない。上記の行動5の7項目にしても、履行達成に関する基準が極 めてあいまいであり、いくらでもお茶を濁すことができる。P5会合が保守的な場ではなくて積極的な場になるためには、もっとオープンな場になる必要があ る。
P5の発言のなかで注目点をいくつか拾っておきたい。まず、ロシア(英語) が中東会議延期について強い怒りを述べているのは印象的であった。まず、米・ロ・英・国連という共同招請国に「延期する権限はない」と断言し、「ロシアは 同意していない」と述べた。そして、「我々も延期に同意したかも知れないが、全ての中東諸国の同意を得た後であり、新しい日付の発表を伴うものでなければ ならない」と主張し、「すぐにも日付を決めることを主張する」と述べた。今回の再検討会議で注目点の一つとなろう。
フランス(英語) が暗にオスロ会議を批判していると思われる強い言葉を発した。「このような(核兵器のない)世界を達成する条件は、具体的な手段によって導かれた段階的で 集団的な努力の結果でなくてはならない。最近のとあるイニシャチブ(複数)が企てているような、今回の会議のような既存の場を傷つけ、2010年行動計画 のステップ・バイ・ステップのアプローチに疑問を投げかけることは、核軍縮を前進させないであろう。」
本ブログの【短信1】で中国の「先行不使用」政策に変化があるかどうかに注意を喚起したが、中国の一般演説(英語) ではそのような変化はまったく見られなかった。「中国はいかなる時においても、いかなる状況下でも、核兵器の先行不使用の政策を順守する。また、非核国や 非核兵器地帯に対して、無条件に中国は、核兵器を使用したり使用の威嚇を行なわない」と述べた。余りにも同語反復なので、もう少しフォローする必要を感じ ているが、重要な外交の場における明確な発言である。
【短信1】中国の発言にも注目したい(2013年4月21日)
雨のジュネーブから写真が届いたので掲載します。
(会議が開かれる国連欧州本部。2013年4月19日午後。撮影:RECNA)
今回の会議で中国の代表が、これまで繰り返してきた核兵器の無条件の「先行不使用」(ノー・ファースト・ユース)政策について、どのような説明をするかについて注目したい。
というのは、4月16日に発表された中国の国防白書が、最新であった2年前の国防白書まで欠かさず強調してきた「先行不使用」や「非核国への絶対的不使 用」について述べていないからだ。これが重要な政策変更を意味するという憶測を呼んでいる。「軍縮・軍備管理」という章自身が無くなっているためにこう なったのかも知れないし、逆に変更したので章を無くしたのかも知れない。(梅林)
第0報 停滞する核軍縮に希望の灯がともるか(2013年4月21日)
(会議が開かれる国連欧州本部)
昨年の第1回準備委員会(ウィーン)に引き続いて、2015年核不拡散条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会が、2013年4月22日 (月)~5月3日(金)にスイスのジュネーブで開催される。会議場は国際連合(UN)欧州本部である。この場所は国際連盟の本部として1938年に完成し たもので仏語でパレ・デ・ナシオンと呼ばれる。後述するように、「核兵器の非人道性」の原理が最近の核兵器廃絶への国際的気運を牽引してきたが、それには 赤十字国際委員会(ICRC)が大きな貢献をした。そのICRCは道路を隔ててパレ・デ・ナシオンと対面する場所にある。またスイス政府はICRCを代弁 する政府として、その主張を支援する役割を果たしてきた。昨年10月22日、国連総会において(34+1)か国を代表して「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」を発表したのはスイス政府であった。その意味では、今回の準備委員会がジュネーブで開催されることは、会議を包み込む良好な環境を醸成するのに一役買うと期待される。
会議スケジュール
第2回準備委員会の議長はルーマニアのコーネル・フェルーツァ大使(CORNEL FERUŢĂ、カタカナ表記は在日ルーマニア大使館による)と予定されている。
公表された暫定プログラムによると以下のような日程が想定されている。午前のセッションは10時~午後1時、午後のセッションは午後3時~午後6時である。
【4月22日(月)】午前:開会、一般討論 / 午後:一般討論
【4月23日(火)】午前:一般討論 / 午後:一般討論
【4月24日(水)】午前:NGOの意見発表 / 午後:クラスター1議題(後述)
【4月25日(木)】午前:クラスター1議題 / 午後:クラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証)
【4月26日(金)】午前:クラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証) / 午後:クラスター2議題(後述)
【4月29日(月)】午前:クラスター2議題 / 午後:クラスター2特定問題(中東及び1995年中東決議の履行など地域問題)
【4月30日(火)】午前:クラスター2特定問題(中東及び1995年中東決議の履行など地域問題) / 午後:クラスター3議題(後述)
【5月1日(水)】午前:クラスター3議題 / 午後:クラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)
【5月2日(木)】午前:強化された再検討プロセスの効率向上
【5月3日(金)】午前:準備委員会報告書草案の検討 / 午後:準備委員会報告書草案の検討と採択、その他
NPT再検討会議は、条約のすべての条項や過去の合意文書(1995年、2000年、2010年における決定、決議、合意)に照らして現状を検討 し、改善策を議論する会議であるが、諸問題を次のような3つの問題群(クラスター)に分けている。この分け方は、2010年のNPT再検討会議における主 要委員会I、II、IIIへの議題の配分に従ったものである。
【クラスター1議題】
核不拡散、核軍縮、並びに国際安全保障に関連する条項の履行問題、及び安全の保証問題
【クラスター2議題】
核不拡散、保障措置、並びに非核兵器地帯に関連する条項の履行問題
【クラスター3議題】
平和目的の核エネルギーの開発研究、生産、並びに利用への条約締約国の奪い得ない権利に関連する条項の履行問題、及びその他の条項の問題
第2回準備委員会の注目点
第2回準備委員会の注目点は何だろうか?
それを考えるために今回の会議に至る流れを振り返っておきたい。2005年の再検討会議が何の成果もなく失敗に終わったのに反して、2010年再検討会議はいくつかの前進を勝ちとった。なかでも64項目の行動計画を含む全会一致の最終文書が採択されたことは重要な前進であった。その背景には米国にオバマ政権が登場し「核兵器のない世界」への世界的潮流が生まれたことあった。2010年合意には次の3点の新しい要素があった。
①核兵器禁止条約の交渉、あるいは相互に補強しあう「別々の条約の枠組み」に関する合意を検討するべきとの国連事務総長の提案に初めて言及した。
②核兵器の非人道的性格について、NPT合意文書として初めて言及した。その内容は1996年の国際司法裁判所の勧告的意見よりも強いものであり、例外を許さない表現となった。
③1995年のNPT再検討・延長会議で採択された中東決議の履行について、2012年中の中東非核・非大量破壊兵器地帯設立のための関係国すべてが参加する国際会議の開催など、具体的な次の一歩が決定された。
残念ながら、昨年の第1回準備委員会を含め、その後の経過を踏まえたとき、核軍縮の動きは総じて停滞していると言わざるを得ない。その停滞を打ち破る動きがどのようにして生まれるのだろうか?私たちは第2回準備委員会において次のような点に着目して監視したい。
(1)コスタリカと「オープン参加国作業グループ」の行方
上記の①の核兵器禁止条約あるいは「条約の枠組み」は、長崎の私たちにとって極めて関心の強いものであるが、残念ながら直接的な進展は極めて乏し い。しかし、昨年の12月3日に採択された国連総会決議で、国連加盟国すべてが参加できる、核軍縮のための「オープン参加国作業グループ」(OEWG)の 開催を決定したのは、せめてもの前進であった。今年のOEWGの会合は15日間ジュネーブで開催される。この流れはオーストリア、メキシコ、ノルウェーがイニシャチブを とり、16か国が決議の提案国となった。3月14日にその準備会合が開かれ、コスタリカのマニュエル・デンゴ国連大使が議長を務めることとなった。会議は 今年の5月、6月、8月に開催される。したがって、上記3か国や議長となったコスタリカ政府が、この会議に関してどのように発言するかが注目される。
「核兵器のない世界」に向かうためには、核兵器禁止の法的枠組みに関する交渉のテーブルが生まれることが不可欠であり、そのためにはOEWGに限らず大胆なイニシャチブが生まれることが必要であり、この点に関するNGOの動向をつねに注視する必要がある。
(2)メキシコと「核兵器の人道的側面」の動向
②に関しては、昨年の第1回準備委員会で16か国共同声明が出され、秋には冒頭に掲げた(34+1)か国共同声明に 発展した。さらに、ノルウェー政府のイニシャチブによって今年3月4~5日「核兵器の人道的影響に関する国際会議」がオスロで開催された。オスロ会議は影 響の科学的知見を共有することに焦点が当てられたが、会議を終えるに当たって、メキシコがフォローアップ会議を開催すると申し出た。
このような経過から、今回の準備委員会においてオスロ会議の発展がいかに企図されるかが注目される。共同声明の賛同者の拡大が図られる可能性とともに、ノルウェーやメキシコの動向に注目したい。
(3)中東決議履行の行き詰まりの打開と北東アジア
2012年中の開催を決定していた中東決議履行のための国際会議が実現していないことは、第2回準備委員会に暗い影を投げかけている。場合によって は議事進行に深刻な障害が生まれる可能性もある。2011年10月にフィンランドが開催国を引き受け、フィンランドのヤッコ・ラーヤバ同国国務次官がファ シリテーターに決定した。フィンランドの努力にもかかわらず、昨年の11月に招集者(米、ロ、英、国連)は現状では開催が不可能であると発表した。これに 対してエジプトなど中東諸国が強く反発をしている。
この状況の打開がいかに図られるかが、ジュネーブ会議の一つの重要な焦点となる。単に中東問題に留まらず、NPT条約体制の信頼性に関わる問題になりかねないからである。
脱退宣言によって北朝鮮が参加していない会議ではあるが、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化問題は中東と同じように強い関心が集る問題である。モンゴルを初め他の非核兵器地帯の参加国がどのようにこれに言及するかについて、私たちの関心を注ぎたい。
(4)日本政府の動向
当然のこととして私たちは日本政府の動きにたえず関心を払うことになる。被爆国日本が核兵器廃絶のために果たすことのできる役割は大きい。上記の3 つの注目点において日本政府がどのような立場で行動するかを私たちは注視したい。たとえば、人道的側面についての共同声明の署名国拡大が図られたとき、日 本政府がそれに参加する姿勢に転じるかどうかが問題となる。
また、日本政府は、日本政府のイニシャチブで生まれた10か国のグループ「核軍縮・不拡散イニシャチブ」(NPDI)を活用して準備委員会に臨んで いる。このグループに含まれているメキシコなどの積極的な動きを、グループ全体の動きにするためには日本政府がどういう働きをするのかを注視したい。
今回のブログは第0報を初めとする正規の日報の他に、随時のライブな短信も盛り込んで発信する予定である。日報は、梅林宏道、広瀬訓、中村桂子が協働して取り組む。