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NPT BLOG 2012

第0報 事実を正確に、ライブに、市民目線で(2012年4月29日)
第1報 非人道性に新たな光、核兵器国に新展開はなし(2012年4月30日)
第2報 注目すべき16か国声明、特筆すべきメキシコの信念(2012年5月2日・午前)
第3報 非人道性を根拠に、核兵器非合法化への道筋を描くNGO(2012年5月2日・午後)
第4報 P5、中国を議長とする用語定義ワーキンググループを設立(2012年5月3日)
第5報 核軍縮、対照的な日本と新アジェンダ連合の意見表明(2012年5月4日)
第6報 「不拡散」の強化には何が必要か?(2012年5月7日)
第7報 「総論賛成」の後に来るもの(2012年5月8日)
第8報 After FUKUSHIMA…(2012年5月9日)
第9報 北朝鮮は今…(2012年5月10日)
第10報  無事終了。しかしその先は?(2012年5月11日)

第10報 無事終了。しかしその先は?(2012年5月11日)

会議10日目(5月11日)。2週間にわたる準備委員会も最終日を迎えた。開始前の会場には普段よりもざわざわとした空気が流れ、傍聴席には通行証 の色からメディア関係とわかる人々の姿もちらほら見られる。テレビカメラも設置されている。すでに顔見知りになった各国の政府関係者らが、「やっと終わり だね」とのジェスチャーとともに笑顔で前を通り過ぎていった。

当初の予定通り、今日は報告書の採択が行われる日である。報告書草案は、 前日(10日)の午後6時に配布され、各国の検討に付されていた。報告書というと違ったイメージが持たれるかもしれないが、これはあくまで今回の準備委員 会の事務的、手続き的な事項についてのレポートである。すなわち、会議がいつ開かれたか、どの国が参加したか(110か国が列挙されている。ちなみに NGOは60団体)、誰が議長を務めたか、採択された議題は何だったか、どのような配布文書があったか、等が書かれたものだ。

では実質的な内容面の報告はどこにあるかというと、それが同じく昨日夜6時に配布された「議長の事実概要」 (Chairman’s factual summary)である。議長自身が「公正で、バランスのとれたものを心掛けた」と述べるように、過去2週間に出された各国政府の演説や作業文書の内容を 網羅的にカバーした「議長の手による個人的なまとめ」という性格のものである。

この内容にはあとで戻るとして、まずはその「位置づけ」を確認しておこう。議長概要は、今回、準備委員会における「作業文書」の一つとして提出され た。作業文書は、会議における公式文書ではあるものの、あくまで各国や国家群の責任で出されるものであって、全体で合意された文書ではない。実際過去の準 備委員会においては(少なくとも2007年、2008年においては)、同様の概要について全会一致合意を得ることが試みられたが、各国の意見が対立し、結 果としてある種の「格下げ」である作業文書の形で報告書に添付されたという経緯がある。今回、はじめから作業文書として提出する(=全会一致合意を行わな い)背景には、議論紛糾でせっかくの前向きな雰囲気を壊すことだけは避けたいとする議長の意向が強いと思われる。

こうしたことから、最終日において実質的な争点はほとんどなく、45分遅れではじまった会議は、わずか15分程度で報告書の採択を終えた。議長は3 つの目標(「スピーディな議事」「2010年行動計画に関する実質的な議論」「バランスのとれた議長概要の作成」)が実現したとし、各国の協力に謝意を述 べた。

続いて16の国家・国家群が短い発言を行ったが、いずれの国も議長の努力と手腕を称賛するものである。議長概要に対しても、各国は概ね「満足」との 反応を示した。過去、激しい言葉の応酬を展開したイランも、拍子抜けするくらいあっさりと謝意を述べるに留まった。各国と議長のやりとりには冗談もまじる など終始穏やかな雰囲気の一方、ロシアと中国がミサイル防衛への懸念に言及するなど、チクリと釘をさす場面もあったことを付け加えたい。


終了後に談笑するウールコット議長(左)

こうして11時25分、第一回準備委員会の閉会を告げる議長の木槌が鳴り響いた。会場にはたちまち拍手に包まれ、笑顔もあちこちにみられた。

議長の事実概要に戻ろう。まず印象に残るのはその長さである。単純に比較はできないが、2007年の議長概要が10ページ、51項目だったのに対 し、今回は14ページ、100項目もある。ある政府関係者の「作業文書に盛り込んだ具体的提案もよく拾っている」との感想も聞いた。「偏っている」との批 判を回避したいとの思いと同時に、各国からの有益な提案やイニシアティブを国際社会が共有し、今後に活用していくべきとする議長の姿勢を読み取ることがで きるだろう。

本ブログの第0報で注目すべき3つの点をあげたが、それに関して議長概要はどう触れているだろうか。少し長いが、以下に関連部分を抜粋訳して紹介する。

●核兵器禁止条約

多くの加盟国が、核兵器禁止条約を含め、特定の時間枠をともなった、核兵器完全廃棄に向けた段階的計画を交渉する必要性を強調した。いくつかの加盟 国は、核兵器のない世界の実現、維持に向けて、確固たる検証システムに裏打ちされ、明確に定義された評価基準とタイムラインを含んだ、相互に強化する包括 的枠組みを確立するよう求めた。核軍縮における前進を実現させることは、すべての国が共有する責任であることが想起された。(項目13)

●核兵器の人道的側面

加盟国は、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに対する深い懸念をあらためて想起した。多くの加盟国が、そのような事態が起き た場合、こうした人道的結果は不可避であり、被害地への緊急援助の提供も不可能であることに深い懸念を強調した。多くの加盟国が、現在の再検討サイクルに おいて、核兵器使用のもたらす人道的結果の問題が取り上げられることに期待を表明した。(項目9)

多くの加盟国が、核兵器の使用あるいは使用の威嚇が国際人道法の原則に違反するものであると懸念を表明した。いくつかの核兵器国は、自国の政策につ いて、適用可能な国際人道法にもとづき、核兵器のいかなる使用も極端な状況下でのみ検討されると説明した。加盟国は、国際人道法を含む適用可能な国際法 を、すべての国家がいかなる時も遵守する必要性を再確認した。(項目10)

多くの加盟国が、1996年7月8日にハーグで出された核兵器の威嚇および使用の違法性に関する国際司法裁判所の勧告的意見を引用した。(項目11)

●中東決議

加盟国は、1995年再検討・延長会議で採択された中東に関する決議の重要性を想起し、その目的が2000年再検討会議において、また、2010年再検討会議で採択された結論及びフォローアップ行動への勧告においてその目的が再確認されたことを想起した。(項目69)

加盟国は、1995年中東決議の完全履行につながるプロセス、ならびに2010年再検討会議で合意された、その目的に向けた実際的措置の重要性を想 起した。関連して加盟国は、国連事務総長並びに1995年決議の共同提案国が地域国家との協議の下、中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に関する2012 年会議のファシリテーターにフィンランドのヤッコ・ラーヤバ氏を任命し、また、フィンランドを受け入れ国としたことを歓迎した。加盟国は本準備委員会に提 出されたファシリテーターの報告書(NPT/CONF.2015/PC.I/11)に謝意を表明し、次回準備委員会における報告書に期待を述べた。加盟国 は、任命以降、ファシリテーターが広範かつ継続的な協議を行ってきたことに謝意を述べた。(項目70)

加盟国は、2010年再検討会議が採択した結論及びフォローアップ行動への勧告を履行する上で、地域のすべての国の参加するかたちで2012年会議 が開催されることの重要性を強調した。加盟国は、会議の成功に向けては、2010年再検討会議で承認された付託事項にしたがって、すべての国家がさらなる 作業を進めることが必要であるとの認識を示した。加盟国は、ファシリテーター、会議の開催国、地域のすべての国家が協議を加速させ、議論を深化させる必要 性をさまざまに強調した。(項目71)

多くの加盟国が、議題、運営形態、まとめの方法、継続的プロセスに向けたフォローアップ措置等の未決定事項についての明確化を求めた。いくつかの加 盟国は、会議の準備過程において包括性の重要さを強調した。加盟国は、会議開催に向けた地域国家との協議における国連事務総長及び1995年決議の共同提 案国の責任をあらためて想起した。いくつかの加盟国からは、会議の成功をもたらす政治環境を整備する責任は地域国家にあるとの見方が示された。加盟国は、 中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に向けた前向きな一歩としてこの会議が開かれることに期待を表明した。(項目72)

多くの加盟国が、地域にそのような地帯が生まれることは国際の平和と安定のみならず、地域の信頼関係を大幅に強化するものであることを強調した。い くつかの加盟国は、中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に向けては、他の非核兵器地帯の経験を活かすことが必要であると強調した。いくつかの加盟国は、国 際原子力機関(IAEA)、化学兵器禁止機関(OPCW)、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)、生物兵器条約(BWC)支援ユニットなどが当該地帯 の設立努力に有益な役割を担うことができると指摘した。多くの加盟国が、2015年再検討会議で1995年決議の履行問題を扱う下部機関を設置することを 要求した。(項目73)

議題採択を含め滞りなく議事が進展し、今後につながる建設的議論の基盤を築いたという点では、今回の準備委員会は一定の成功をおさめたと言えよう。 本ブログでも紹介した16か国声明など、核兵器使用の非人道性についてかつてなく大きな注目が集まった会議でもあった。しかし一方で、中東問題をはじめこ れまで繰り返しNPTプロセスにおいて議論されてきた多くの根深い問題が「先送り」されているという感は否めない。

次回準備委員会は2013年4月22日から5月3日にジュネーブで開催される。引き続き進展を注目していきたい。

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第9報 北朝鮮は今…(2012年5月10日)

会議も終盤に入り、9目(5月10日)は、予定ではクラスター3の特定課題として、原子力の平和利用とNPTの再検討プロセスの強化が取り上げられ る予定であったが、発言した国は17か国に留まり(日本とアメリカは2回発言したので、発言者は19)、発言内容も極めて短い国が大半だったために、議事 は実質的に午前中で終了し、午後は報告書案のとりまとめ作業に充てられたようである。

今日もやはり福島原発事故を受ける形で、アメリカと日本が原子力の安全性の確保について発言を求めた。また、再検討プロセスの強化については、カナ ダ、日本、ドイツ、イギリス等が、特に各国の履行状況の透明性の確保等についていくつかの具体的な提案に言及したが、NPTがこれ以上締約国の負担を増や すことに対する懸念もあり、なかなか積極的な動きにはつながりにくそうである。

しかし、今日のハイライトは、北朝鮮問題である。NPTからの脱退を宣言している北朝鮮は当然今回の準備委員会 には参加していない。また、今日は直接北朝鮮をめぐって議論が交わされたわけでもないが、NPTからの「脱退」手続きの適正化と乱用の問題を指摘したアメ リカや日本と、「脱退」の権利の行使の規制に反対するイランや南アフリカとの間で、激しい議論の対立が発生したのである。直接の言及こそ無いが、これが北朝鮮の「脱退」が、条約上正当かどうか、という問題であることは、すべて参加者の暗黙の了解に違いない。果たして北朝鮮のNPTからの脱退は成立しているのかどうか?あるいは北朝鮮はまだ法的にはNPTの締約国のままなのか?答えは・・・、「不明」! としか言いようがない。なぜなら、NPTには、誰が(あるいはどの機関が)脱退手続きの有効/無効を判断し、脱退が成立したかどうかを決定する権限がある か、まったく規定がないからである。したがって、北朝鮮はすでに「脱退した」と考えている締約国もあれば、「まだ脱退していない」と考えている国もある。 国連安保理ですら、北朝鮮のNPT脱退が成立しているかどうかについては明言を避けている。国際法の専門家の間でも見解は必ずしも一致していない。国内の 問題と違い、国際社会では、法的な対立があったからといって、裁判で決着をつけるのも容易ではない。

私たちは、当然のように「NPTの締約国」とか「NPTの下では」という言葉を使ってきた。しかし、実は、「どの国がNPTの締約国なのか」という極めて基本的な問題においてすら、そこには簡単に解決できない問題が潜んでいる。そういう一筋縄ではいかない舞台の上で、私たちは「核兵器のない世界」への道を模索しなければならないという現実を再認識した。

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第8報 After FUKUSHIMA…(2012年5月9日)

会議の8日目(5月9日)は、終日クラスター3の「無差別に平和目的のための原子力の研究、生産及び利用を発展させることについてのすべての締約国 の奪い得ない権利に関連する条項の履行問題」に費やされ、32の国と国家群が発言した。特に開発途上諸国からは、発言の冒頭、核軍縮、不拡散、原子力の平 和利用のNPTの三本柱は、いずれも等しく重要であり、相互に関連している旨、繰り返し言及があったことからもわかるように、このクラスター3は、原子力 分野での国際的な援助の拡大を期待する途上国側に対し、安全性やセキュリティの確保を前提に、先進工業国側が慎重な姿勢を取ることが多く、他の二つのクラ スターに比べて、激しい意見の対立もないかわりに、なかなか具体的な議論に発展しにくい雰囲気があると言えるかもしれない。

しかし、今回のセッションでは、ひとつ際立った特徴が見られた。それは言うまでもなく、福島第一原発に関する問題である。発言者のうち、半数は直接 福島原発の問題に言及し、また、それ以外にも直接言及はないものの、福島原発の事故を念頭においていることをうかがわせる、安全対策の強化を訴える発言も あった。全般的には、福島での事故は原子力の平和利用にとって大きな教訓であり、原子力の安全性をより一層高めるべきであるが、原子力の利用の拡大にとっ て、深刻な障害になるようなものではないという評価であった。福島の事故を受けて、原子力推進政策の見直しを行ったり、平和利用の促進に一定の疑問を呈し たのは、タイ、オーストリア、フィリピンぐらいであり、他の国々は、軒並み原子力発電所へのストレステストの実施や安全基準の強化、事故対策の強化等の対 応策の下で、従来通り原子力の平和利用を推進する方針である旨を明らかにしている。中でもジンバブエは、福島原発の事故を口実に、先進工業諸国やIAEA が原子力の安全基準を厳格にすることにより、実質的に開発途上国における原子力の平和利用を阻害するようなことをすべきではなく、福島原発のような事故を 防ぐためには、開発途上国に対して必要な技術協力を拡充すべきであるとして、福島原発の事故が、国際的な原子力の平和利用の促進にブレーキをかけることを 危惧している姿勢を示した。結局、福島原発での事故は、国際的な原子力の平和利用の促進という流れを変えるほどではなく、その流れの中で、スイスやアラブ 首長国連邦が言及したように、原子力の安全性という課題が最優先であることを再認識させたという位置づけが大勢を占めていると言えそうだ。

福島原発の事故については、フランスがかなり具体的に言及しているが、フランスはあくまでも福島原発の事故は未曽有の天災によるものとしており(こ の点は日本の声明も天災により引き起こされたものとしている)、チェルノブイリの教訓を生かして、事故の状況に関し透明性が確保されたことと、人命が保護 されたことをむしろ評価している。もちろん福島原発からも多くの教訓を学ぶべきであるとして、国内レベルおよび国際レベルでの安全性の確保および事故に対 する準備の改善へ向けての方針の表明や提案も行っており、フランスがこの分野でのイニシアティブの発揮へ向けて積極的に動いている姿勢が読み取れる。ま た、興味を惹かれたのは、キルギスタンが、自国内にまだ残っている放射能汚染および放射性廃棄物、特にウランの残滓の処理と除染に対して、切実なアピール を行ったことである。中央アジア非核兵器地帯の一国でありながら、放射能汚染という負の遺産に苦しめられている国があることは、心に留めておくべきであ る。


IAEAの広報展示

福島原発と安全性以外の論点としては、国際的な核燃料サイクルの問題について、経済性と不拡散の観点からの、これを支持する意見が散見された。具体 的には、IAEAの国際低濃縮ウランバンク、ロシアのアンガルスクの国際低濃縮ウラン備蓄、イギリスの核燃料保証などの国際的なメカニズムにより、平和的 な原子力の利用の推進に必要とされる核燃料の安定供給を保証することにより、非核兵器国が、独自に国内にウランの濃縮施設を設ける必要性を無くし、不拡散 体制を強化しようとするものである。フランスが指摘するように、個別に関連施設を建設、運営するよりも、経済的にも優れていることは明らかであるし、施設 が軍事的に転用されるリスクを排除できることから、基本的に方向性としては正しいと考えられる。しかし、スイスが指摘しているように、核燃料の需要に対 し、ある程度、供給元の選択の幅を確保することも、消費国側にとっては重要なことであり、この点はさらに検討が必要であろう。関連して、韓国が放射性廃棄 物の処理の問題、ニュージーランドが核分裂性物質の輸送の安全性の問題に触れていたが、今回はこれらの問題にはあまり大きな関心は寄せられていなかったよ うに見受けられる。福島原発の事故の議論の影に隠れてしまった形かもしれないが、いずれも重要な問題であり、今後、真剣に検討される必要があろう。

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第7報 「総論賛成」の後に来るもの(2012年5月8日)

会議の6日目(5月8日)は、クラスター2の特定課題として、「中東を含む地域の問題」が取り上げられた。主に中東の問題については34の国と国家群、その他の地域については5か国、および議長役の中東決議のファシリテーターであるフィンランドのラーヤバ次官が発言した。


ファシリテーターのラーヤバ次官(フィンランド)

中東における非大量破壊兵器地帯の設置に関しては、2010年の再検討会議の決定に基づき、1995年のNPT再検討延長会議の中東決議の共同提案 国であったアメリカ、イギリス、ロシアが、潘基文国連事務総長と協議のうえ、2012年にその実現へ向けての国際会議を招集することをすでに決定してお り、さらに開催地としてフィンランド、また会議のためのファシリテーターとしてフィンランドのラーヤバ次官を選び、彼に対して今回の準備委員会で進捗状況 について報告するよう求めていたものであった(報告書全文の英文日本語訳)。

発言した各国とも、1995年のNPT再検討延長会議で採択され、その後2000年、2010年の再検討会議で繰り返し確認された中東を非大量破壊 兵器地帯とする構想を積極的に支持し、開催時期を今年の12月に設定したいとするラーヤバ次官の提案に対しても、特に異論は示されず、その準備のために関 係各国、国際機関、NGOなどと協議を重ねてきたラーヤバ次官の活動を称賛し、会議の成功のためには協力を惜しまない旨を強調した。

しかし、率直に言って、いくつかの国が認めているように、中東非大量破壊兵器地帯への道は険しい。予定されている国際会議の開催に関しても、困難な 問題が残っていることは明らかである。多くの国が認めているように、少なくとも中東のすべての国が参加するのでなければ、会議の開催自体が成功とは言い難 いであろう。そして、この会議の成功に不可欠なのが、イスラエルの積極的な参加であることは言うまでもない。現在イスラエルがこの会議の開催にどのような 姿勢を示しているかは必ずしも明らかではないが、ラーヤバ次官が、会議への参加を確約している国が多く、参加を拒否している国は無いが、まだ参加を決定し ていない中東地域の国があることには言及しており、イスラエルはまだ決定を保留していると考えるのが自然であろう。イスラエル自身はNPTの締約国ではな いので、当然準備委員会で発言することはないが、代わりのようにアメリカが、中東非大量破壊兵器地帯構想に関する協議の場を、「イスラエル叩き」の機会と して使おうとするなら、それは何ら建設的な成果を生まないだろうと警告している。これは事実であろうが、アメリカが求めているように、中東非大量破壊兵器 地帯に関する国際会議を、信頼醸成の機会ととらえて、アラブ諸国とイスラエルが建設的な姿勢で交渉のテーブルにつき、予断無く意見を交換するというシナリ オは、中東の現状を考えるならば、実現の可能性は極めて低いと言わなければならないだろう。もちろんこの問題は歴史的に深い理由があるだけでなく、地域の 内外の複雑な要素も背景にあり、容易に解決できるものではない。また、突き詰めていけば、「地域が安定し、自国の安全が保障されて、初めて軍備を縮小でき る」という意見と、「過剰な軍備を廃棄することにより、初めて地域の安全保障と信頼醸成を進めることができる」という意見の、「ニワトリが先か、タマゴが 先か」的な論争にたどり着いてしまい、理論的にも着地点を見出すことは難しい。

しかし、イスラエルにしても、アラブ諸国が入れ代わり立ち代わり自国を非難する声明を繰り返すだけとわかっていて、進んで出席するメリットは見出し にくい。逆にアラブ諸国にしてみれば、少なくとも短期的には、このような会議はイスラエルに対して核兵器の放棄を迫る好機であるし、仮にイスラエルがその ような展開を嫌って会議への参加を拒否すれば、それはそれで中東非大量破壊兵器地帯構想の進展を妨げるものとして、さらに批判を強めることができる。いず れにしてもイスラエルに対して強気の姿勢を見せることに損はないという計算は可能である。率直に言えば、こういう次元での外交的な駆け引きの中に、非核地 帯の設置の推進という肝心の主題が埋没してしまうことが危惧される。そうなってしまえば、結局今まで無益に繰り返されてきた非難の応酬が再現されるだけ で、具体的な進展は期待できないどころか、さらに緊張が高まることにもなりかねない。中東非大量破壊兵器地帯構想の協議が、かえって地域の対立を激化させ るような結果に終わることだけは避けたいものである。しかし、実はこの危惧は、「イスラエル」を「北朝鮮」に置き換えるならば、北東アジア非核兵器地帯構 想にも当てはまる可能性は高い。

そこで、回りくどいようであるが、「非核地帯」の検討を進める際に、NPTの原点に戻り、あえて「地帯」という枠組みから一度離れて、「非核」とい う共通項から議論を再構築してみるという選択肢もあっても良いのではないだろうか。これは、ウクライナや米英露の3か国の共同声明が、2011年11月に ウィーンで開催された中東非核地帯の創設に関連する経験に関するフォーラム(Forum on Experience of Possible Relevance to the Creation of a Nuclear-Weapon-Free Zone in the Middle East)の重要性を指摘しているように、地域の特殊性と同時に、「非核兵器」あるいは「非大量破壊兵器」という達成されるべき目標そのものは同じである という点からも検討を始めるというものである。わざわざ対立必至の切り口のみに集中し、開催前から会議をデッドロック状態にするよりは、アジェンダに柔軟 性を持たせ、少しでも合意点を見出すように議論を誘導するのもテクニックである。

NPTの再検討プロセスにおいて、中東の非大量破壊兵器地帯の設置に関する合意が単独で扱われているのは事実であるが、それは他の地域における非核 兵器地帯の議論を後回しにしても良いということでは決してありえない。その意味では、マレーシアが、ステートメントの結論として、中東、南アジア、北東ア ジア、中央ヨーロッパを同列に並べ、非核兵器地帯の設置を促したのは、当然と言えば当然のことである。昨日のブログでも触れたが、「非核地帯条約締約国およびモンゴル」会議の ような非核地帯の「横のつながり」を示すような動きも実現している。こういう動きを強化することで、外部から非核兵器、非大量破壊兵器の動きを加速するよ うな、世界的な流れを作り、そこに中東も巻き込むという、「中東」という地域的な枠組みに必ずしもこだわらないようなアプローチも結果として効果が期待で きるのであれば、併せて試してみる価値はあるだろう。中東の問題が、時間はかかっても、必ず平和的に解決されるべき問題であることは疑う余地はない。しか し、それは問題を中東という地域の枠組みの中で解決しなければならないということではない。ケイン軍縮問題高等代表が開会の挨拶で述べたように、不動の目 的に対し、柔軟な手段でのアプローチが求められている。

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第6報 「不拡散」の強化には何が必要か?(2012年5月7日)

会議の5日目(5月7日)は、終日クラスター2の議題に費やされた。クラスター2は「核兵器の不拡散、保障措置および非核兵器地帯に関連する条項の履行問題」と定義されている。まる一日で合計31の国と国家群が発言した。

このクラスター2は、1995年のNPT再検討延長会議の際には、3つのクラスターの中でも「優等生」的な扱いを受けていた分野であった。それは、 実際に、少なくとも当時は、「新しい核兵器保有国の出現を防止する」という目的に関して言えば、NPTとIAEAの保障措置が有効に機能しているという事 実を否定することは困難だったからである。しかし、残念なことに、現在では、NPTが「不拡散」において果たしている役割についても深刻な問題が発生して いることはもはや明らかである。

クラスター2において多くの国が言及した具体的な問題は、やはりイラン、北朝鮮、そしてこれは日本ではあまり注目されていないが、シリアの核開発で あった。当然のことながら、これらの具体的な国名に言及した声明は、これらの国々が問題となっている核開発をIAEAの包括的な保障措置の下に置くべき旨 を、論調の違いこそあれ、一様に主張している。もちろんNPTの最大の目的は核兵器の拡散を防ぐことであり、それに反するような行為を認めるべきとの意見 が出るはずはない。しかし、現実の問題として、そのような問題の国に対して、条約上の義務や国連安保理決議を根拠に、厳格な態度も辞さない方針で臨むべき なのか、あくまでも対話と交渉を優先させるべきなのかについては、必ずしも各国の見解が一致しているわけではない。これはイラン、北朝鮮、シリアとの友好 の程度という個別の事情と同時に、原則論としても、あくまでも平和的な交渉を通して問題の解決を図るべきか、あるいは場合によっては制裁の発動のような強 硬手段も選択肢に入れるべきなのか、各国の外交方針の根幹にもかかわる問題でもあろう。興味を惹かれたのは、原子力の平和利用と核不拡散の両立という観点 から、ノルウェーとオーストリアが共同で進めてきた高濃縮ウランの使用の削減と低濃縮ウラン使用の原子炉への転換に関して言及し、作業文書 (NPT/CONF.2015/PC.I/WP.1)を提出していることであり、政治的にデリケートな問題に対し、場合によっては技術的な解決を示唆する という方法も、対立を避けつつ逃げ道を塞ぐという意味では、有効なアプローチとなりうる可能性を感じるものであった。あるいはこのような議論はより具体的 にクラスター3の原子力の平和利用の中で検討されることになるのかもしれない。

また、不拡散体制の強化については、やはりほとんどの国がIAEAの強化と保障措置の完全な履行およびIAEAの査察の拡大を可能にする追加議定書 の受諾を求める旨の言及を行っていた。ただし、一部の国からは、IAEAの活動の拡大を歓迎しながらも、その結果IAEAが収集した情報が外部に漏れた り、不適切に用いられたりすることがないように、IAEAの動きにあらかじめ釘を刺しておこうとするような発言も見られたことは、IAEAのような国際機 関に重要な役割を期待しつつも、自国内のことには極力干渉されたくないという微妙な本音が垣間見られたということかもしれない。


非核地帯について発言するモンゴルのエンクサイハン大使

さらに核テロの防止と核セキュリティおよびそれに関連する核関連物質の輸出管理の問題を提起する国も散見され、特に韓国が、今年3月にソウルで開催された 核セキュリティサミットの成果を反映させたいという意図からか、声明のほとんどを核セキュリティの問題に充てたのは印象的であった。

非核兵器地帯については、多くの国がこれを支持、積極的に設置を促進すべきとの立場で言及し、イギリス、アメリカが東南アジア非核地帯条約の議定書 への批准に関して具体的に言及した。その中でも、モンゴルは、自国が議長を務めた、インドネシアで2115年に開催が予定されている第3回非核地帯条約締 約国およびモンゴル会議の準備会議の報告と、自国を非核地帯として法的に確立するために、この準備委員会の会期中に5核兵器保有国と協議する予定で準備を 進めている旨の発言を行い、5月2日の一般演説とも合わせて、「一国だけでも非核兵器地帯を成立させることができる」という、実に大きなメッセージを発し た。日本の「非核三原則」が国内の政策方針に止まっているのに対し、一国で国際的な法的枠組みを構築しようとする姿勢は、非核への「イニシアティブ」とは 具体的にどういう行動を指すのかを示すものではないかと感じさせるものがあった。

日本は、小澤俊朗大使がIAEAの保障措置、輸出管理、非核地帯一般について、これらを支持するという概ね他の国々と歩調を合わせるようなステート メントを行ったが、すでに一般演説で言及したからか、北朝鮮やイランの問題に繰り返し触れることはなく、中東を含む具体的な非核地帯の問題に関しては、後 刻触れるという予告を行ったので、クラスター2の特定議題で再度発言を求めるのではないかと思われ、何らかの具体的な貢献策が提案されることを期待した い。

クラスター2は、今では「優等生」ではないにしても、NPTの再検討プロセスの中では、あまり思い切った意見や提案が出にくい議題であり、今回もク ラスター1の核兵器の人道的な側面のような、あたらしい視点を持ち込むような発言は見られなかった。しかし、その中で印象に残った指摘は、スイスが、名指 しはしなかったものの、「いくつかのNPT締約国と非締約国の間での原子力分野の協力は、より厳格な保障措置手段の受け入れやすくするための助けとはなら ない。現実に、そのような選択的な原子力分野の協力は、この(NPT)体制の外側に留まる方が、加盟するよりも得るものが多いという印象を与える。これは また、2010年の行動計画で求められているNPTの普遍性の達成へ向けての努力を損なうものである」と、米印原子力協定の締結とそれに続く動きに対し て、厳しい批判を加えたことである。(イランも同調した。)米印原子力協定の評価をめぐっては、様々な意見が対立し、NPTを基盤とする不拡散体制にあえ て抜け穴を作るものとして、厳しい批判があることは周知であり、批判の内容に関しては当然であろう。しかし、取り扱いを誤れば、さらに不拡散体制を揺さぶ るリスクもあり(おそらくイランが今回この問題を提起した裏には、アメリカに対する揺さぶりと自国の立場とインドの立場を比較し、自国の立場を正当化しよ うとする意図があるのでは、と感じられる)、表向きはこの問題に深入りすることを慎重に避ける傾向がある中で、スイスがここであえて一石を投じた真意はど こにあるのか、機会があれば聞いてみたいものである。

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第5報 核軍縮、対照的な日本と新アジェンダ連合の意見表明(2012年5月4日)

会議場の風景

会議の4日目(5月4日)は、3日の正午を過ぎた頃から始まったクラスター1の議題を継続し、午前11時にはクラスター1(特定議題)に 移行た。特定議題への発言国は予想より少なく、正午過ぎには閉会した。午前におけるクラスター1の発言は6か国であり、3日を含めると32の国家・国家群 が発言したことになる。特定議題は「核軍縮及び安全の保証」とテーマ設定されているが、核軍縮についてはクラスター1の中心議題として意見をすでに述べ終 わったからであろうか、ほとんどの国が「安全の保証」に絞って発言した。ここでは11か国が発言するに留まった。

クラスター1に関する日本の意見発表は、5月3日午後、天野万利軍縮大使によって行われた。同じ日の午前に新アジェンダ連合(NAC)としての意見 発表を南アフリカのゾリサ・マボンゴ(Xolisa Mabhongo)大使が行った。日本政府とNACの主張は、共通する部分を持ちながらも重要な点で異なっている。その点をまず説明したい。

日本の天野万利演説(英文日本語訳) の骨格は、核軍縮・不拡散イニシャチブ(NPDI)(注:第2報参照)が取り組む4項目(透明性・報告様式、FMCT、追加議定書、教育)を中心に構成さ れているが、その前提として核軍縮の現状に対する認識が述べられている。すなわち、米ロのSTART発効や英仏の自主的な核兵器削減を歓迎する、しかし、 まだ不十分であり、あらゆる種類の核兵器の削減や核兵器の完全廃棄へのさらなる努力が必要だ、というものである。
新アジェンダ連合(NAC)の演説(英文日本語訳)は、天野演説と同じくSTART発効を歓迎し、また同じように削減が不十分であると指摘する。その上で、日本とは異なって、核兵器削減の障害となっている核政策を巡る現実の姿とその背後にある思考を具体的に指摘した。つまり、「核兵器国の領土の外に配備されている核兵器の削減と除去について進展が見られない」「NPTでの約束に反して、保有核兵器の近代化が継続し、その目的のために巨費が 投じられている」と述べ、「これらは、あらゆる軍事的及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策において、核兵器の役割と重要性が継続していることと結びつ いている」と指摘している。これらは、米国がNATO諸国に戦術核兵器を配備し続けていることや、財政的困難にもかかわらず米国のみならず全ての核兵器国 が核兵器に多額の予算を投入していることを指摘したものである。米国の場合、冷戦期も含めて核兵器の維持管理・近代化に史上最高の予算が投じられている。
NACが述べている次の言葉は、日本がなぜこれらの障害について言及できないのかを説明している。「残念なことに、核抑止政策は、 今もなお、核兵器国及び核兵器国が参加する安全保障同盟の軍事ドクトリンの本質的特性なのである。」日本に引きつけて言うならば、核抑止論に依拠した安全 保障政策、ひいては日米同盟のあり方が、日本の核軍縮政策そのものに限界を作り、日本の説得力を弱めている現実がここに指摘されていると言える。
日本及びNPDIが、NACと違って、核軍縮と国際人道法との関連に沈黙しているのもこのことと関係している。マボンゴの演説は、「核兵器の使用は国際人道法違反となる」と確認し、「核兵器と関連する非人道的結果を、国際法とりわけ国際人道法との整合性も含めて探求し、考慮することが必要である」と述べている。
もう一つの重要な違いは、核兵器のない世界を維持するための包括的な法的枠組み(核 兵器禁止条約もそのような一つの姿である)に関するものである。包括的な枠組みの必要性はNACの設立声明(1998年)に述べられているが、国連事務総 長の発言(2008年)や2010年合意文書における言及を踏まえて、当然のことながら今回のNACの発言もそのことを述べている。これに関する日本政府 の慎重姿勢は変わらず、意見表明に包括的枠組みへの意見は現れなかった。

日本を含むNPDIも新アジェンダ連合も、核軍縮に必要な透明性の向上の重要性を強調している。行動計画5g透明性をいっそう高め、相互の信頼を向上させる」の履行である。これに関連して両グループとも行動計画21に謳われた標準的報告様式の確立の重要性を指摘している。これに関しては日本を中心としたNPDIが作業文書「核兵器の透明性:NPDI」(NPT/CONF.2015/PC.Ⅰ/WP.12)を提出して具体的な貢献をしていることを評価し、その発展に期待したい。
作業文書は、標準報告様式に次の5項目を含めるべきであるとしている。
(a)核弾頭の数、種類(戦略か戦術か)、状態(配備中か非配備か)
(b)運搬手段の数、可能ならば種類
(c)核軍縮努力によって解体及び削減された兵器と運搬手段の数と種類
(d)軍事目的に生産された核分裂性物質の量
(e)軍事的及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性を減じるためにとられた措置
ま た、これらは例示的なものであり、網羅的でも決定的な提案でもないとして、例えば、核兵器維持に費やされた国家予算その他の資源を加えることもあり得る、 と述べている。市民の観点から考えると、そのほかにも、航空機や艦船における核兵器の存在を肯定も否定もしない(NCND)政策の撤廃につながるよう、核 兵器国の領域外の、一定の広がりをもって特定された陸上及び海洋における核兵器の配備の有無などを報告項目に含めることも追求する価値があるであろう。
第 4報で述べたように、核兵器国(P5)は、先立つ問題として、用語の定義の問題に中国を議長として取り組み始めている。日本政府は、その歩みと標準様式の 議論が有機的に結合するような努力をするべきであろう。日本政府が透明性に熱心になる一つの動機は中国の核兵器の透明性が低いとの認識であったと考えられ るが、用語の定義問題を中国と踏み込んだ対話を形成する好機と捉えることもできるはずである。

ところで、日本政府は、上記の透明性の(e)項は、日本政府も報告しなければならない事項であることを認識して いるだろうか?米国の拡大核抑止に依存している日本は、核兵器の役割を低減するために「軍事的及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役 割と重要性を減じるためにとられた措置」を報告する義務がある。日本を特定しているわけではないが、NACのマボンゴ演説は明確にこのことを指摘してい る。
「核兵器国を含む軍事同盟に参加している国は、信頼醸成と透明性の重要な措置として、集団安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割を減じ廃棄するために取った措置、あるいは将来取ろうとしている措置について報告すべきである。」
日米同盟は集団安全保障ではないであろうが、相互安全保障であっても事情は変わらない。

クラスター1(特定議題)に議題が移ってから11か国が発言したが、そのうち少なくとも日本、アメリカ、南アフ リカ、中国、ウクライナは、安全の保証に絞り込んで発言した。安全の保証とは、NPTの文脈では、非核兵器国が核兵器を持たない義務を負った以上、持たな いことによって安全保障上の脅威に曝されることがないことを保証せよ、という意味である。多くの非核兵器国の最近の要求は、法的な拘束力のある国際文書に よって安全の保証を求めることであったが、NPTの2010年合意では、その可能性も含めてジュネーブ軍縮会議(CD)に協議を委ねていた(行動計画7)。
南アフリカは非同盟運動グループ(NAM)やNACの基本的な考え方として、次のように述べた。
「NAM の国家元首や政府、またNAC構成国は、核兵器の廃絶こそが核兵器の使用や使用の威嚇に対する唯一の絶対的な安全の保証である、と一貫して強調してきた。 彼らはまた、核兵器の完全廃棄が達成されるまでの間、普遍的で無条件で法的拘束力のある非核兵器国への安全の保証に関する国際文書の締結を目指して努力す ることを優先課題とすべきである、と一致している。」
米国のローラ・ケネディ大使は、2010年の米国の「核 態勢の見直し」(NPR)で、NPT順守の非核兵器国に対する安全の保証を強化したことを繰り返して説明した。注目されるのは、それと関連して、「核攻撃 を抑止することが核兵器の基本的目的」という立場を「核攻撃を抑止することが核兵器の唯一の目的」に変更できるための条件の確立に努力すると述べ、「唯一の目的」を継続して課題としていると述べたことである。
また、数か月のうちに東南アジア非核兵器地帯の議定書に署名する予定であると述べたことも、第4報で述べたことと関連して注目される。
日 本の天野大使の意見表明の内容は、これまでの日本の立場を出るものではなかった。非核兵器地帯に伴う消極的安全保証に関して多くを述べたが、北東アジア非 核兵器地帯について触れることはなかった。米国や英国が非核兵器国への安全の保証を強化したことを称賛したが、中国がより強い内容で一貫して消極的安全保 証を表明していることにまったく触れなかった。

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第4報 P5、中国を議長とする用語定義ワーキンググループを設立(2012年5月3日)

第1回準備委員会議長ピーター・ウールコット大使(オーストラリア)

第0報に示した暫定プログラムからはずれて、一般討論は3日目、5月3日午前のセッションにずれ込んだ。そこでは18の国家・国家群・国際組織が発 言した。正午を過ぎた頃、クラスター1の議題に入った。午前中に4か国のクラスター1に関する意見表明があり、午後を含めて合計26の国家・国家群がクラ スター1に関する意見表明を行った。クラスター1とは、「核不拡散、核軍縮、国際安全保障、非核兵器国に対する安全の保証(国連安保理決議255と同 984)、そのための効果的な国際取り決め、に関連する条項の履行問題」と定義されている。

第4報では、午前の一般討論で行われた5核兵器国(P5)の共同発表英文)に着目したい。スーザン・バーク米大統領核不拡散問題特別代表が発表した。米国が声明のとりまとめに当たった国だと考えてよいであろう。P5は、2010年合意文書で核軍縮についていくつかの宿題を課せられた。それは行動計画3、4、5に書かれている。

行動計画3は、一国的、2国間、地域的、多国間を問わず、また配備兵器、予備兵器を問わず、さらに戦略、非戦略の種類を問わず、核兵器の削減努力をすると約束したものである。これに関して米国ロシアは、2011年2月にSTARTが発効し、それに沿った削減が実行されていると述べているだけである。イギリスは2020年代半ばまでに核弾頭数を180以下にするというすでに知られている情報について、2011年にその過程が始まったとして2010年合意の履行の証として持ち出している。フランスも、2008年に表明した保有核弾頭数を300以下にするという目標について「最近達成された」として最近の努力の証として持ち出している。検証手段はないが「達成された」という情報は新しい。中国は国家安全保障に必要最低限であると再確認するに留まり、相変わらず数に言及しなかった。このように、行動3に関しては実質的に新たな努力の表明はなかったと言うべきであろう。

行動計画4は、米ロに課せられた行動計画であり、STARTの発効と爾後の削減協議を継続することを求めてい る。第1報で述べたとおり、START以後の削減について米ロは一般演説で全く触れなかったが、共同発表においても当然新しい要素は出でなかった。むし ろ、ウィーンの外で進行している政治状況は困難な状況を報じている。「ボストングローブ」(4月30日、電子版)は、オバマ政権の選挙顧問たちの間で、大 統領が望む核弾頭大幅削減を選挙戦略上どう扱うかについて深刻な分岐があると報じている。またロシア国防省が5月3日に開催したミサイル防衛国際会議(モ スクワ)で、ロシアは米国が進める欧州ミサイル防衛に関する米ロ交渉は行き詰まりを迎えていると述べたと、内外の各紙が伝えている。

行動計画5に関して、共同発表はいくつか新しい情報を提供している。行動計画5には7項目の目標(必ずしも具体的ではない)が書かれているが、要約が容易ではないのでここに全文を引用しておこう。

行動計画5:核兵器国は、国際の安定と平和や、減じられることなく強化された安全を促進する形で、 2000年 NPT 再検討会議の最終文書に盛り込まれた核軍縮につながる措置について、確固たる前進を加速させることを誓約する。この実現に向け、核兵器国はとりわけ以下を めざし速やかに取り組むことが求められる。
a.行動計画 3確認されたように、あらゆる種類の核兵器の世界的備蓄の総体的削減に速やかに向う。
b.全面的な核軍縮プロセスの不可欠な一部として、種類や場所を問わずあらゆる核兵器の問題に対処する。
c.あらゆる軍事及び安全保障上の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性をいっそう低減させる。
d.核兵器の使用を防止し、究極的にその廃棄につながり、核戦争の危険を低下させ、核兵器の不拡散と軍縮に貢献しうる政策を検討する。
e.国際の安定と安全を促進するような形で、核兵器システムの作戦態勢をいっそう緩和することに対する非核兵器国の正統な関心を考慮する。
f.核兵器の偶発的使用の危険性を低下させる。
g.透明性をいっそう高め、相互の信頼を向上させる。
核兵器国は、上記の履行状況について、2014年の準備委員会に報告するよう求められる。2015年の再検討会議は、第6条の完全履行に向けた次なる措置を検討する。

つまり、行動5は、内容的には弱いながらも、a~gの7項目の課題についてP5が2014年の準備委員会に報告することが義務づけられている点にお いて、他の行動計画にはない力をもっている。第1報に簡単に触れたが、共同発表によると、P5は2011年6月30日~7月1日にパリで2010年合意の フォローアップ会議を持った。その中で、中国が議長となって核兵器問題に関わる重要用語について共通の定義を持つためのワーキンググループが設立された。こ れは初めての情報であり、初歩的ながらも重要な意味を持つものと思われる。たとえば、STARTは作戦配備された戦略的攻撃兵器の削減について米ロ2国が 条約を結んだものであるが、STARTの定義では中国は作戦配備した兵器の数はすでにゼロであると数えられる。ここには作戦配備の定義について今後協議し なければならない問題があることを窺わせるものである。また戦略兵器とは何かという定義もP5で共有されていないであろう。P5それぞれの戦略的思考方法 を理解することが、信頼醸成に不可欠であるとするならば、遅まきながらこのワーキンググループの形成には重要な意味がある。
2012年4月4日に核削減の検証についてロンドンで専門家会議を開催したことも報告された。
共同発表は次のP5会議が、2012年6月27~29日、ワシントンで開催されることを確認した。

P5と東南アジア非核兵器地帯条約加盟国(10か国)が議定書について基本合意に達したことについては第1報で 触れたところであるが、共同発表が新しい情報をもたらすことが期待された。しかし、共同発表の文言はむしろ慎重な言い回しになっていることに気付く。つま り、「我々(P5)は、東南アジア非核兵器地帯(SEANWFZ)条約の議定書の署名に向かって進む過程において、実質的な前進があったことを、喜びを もって報告する。我々はこの方向に向かって、とりわけ、核兵器国によるできるだけ早期の署名について、さらにSEANWFZ加盟国と協力するであろう」 と、共同発表は述べている。
非同盟運動グループが「非核兵器地帯」と題する作業文書(NPT/CONF.2015 /PC.Ⅰ/WP.28)を提出しているが、この問題についての記述はもっと断定的である。つまり、「グループは、ASEANと核兵器国の間のバンコク条 約(訳者注:SEANWFZ条約のこと)議定書に関する協議が妥結したことを歓迎し、核兵器国ができるだけ早期に議定書に加盟するよう要請する。グループ は、5核兵器国が2012年7月までに署名することを期待している」と書いている。
合意の内容も含めて情報がさらに必要とされる。

クラスター1については、4日目(5月4日)の推移を見て報告する。

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第3報 非人道性を根拠に、核兵器非合法化への道筋を描くNGO(2012年5月2日・午後)

5月2日午後のセッションは、3時間すべてがNGO意見発表にあてられた。これは、準備委員会(あるいは5年毎の再検討会議)の公式プログラムの一 環として、NGOが各国政府代表の前で意見を述べるというものである。NPT再検討プロセスにおける関与拡大を求めたNGOの働きかけを背景に、現在の形 では2000年再検討会議に始まった。例年、10余の課題についてNGOが問題認識を示し、各国政府に勧告を行っている。

まずは今年のテーマと発言者を見てみよう。

イントロダクション ビアトリス・フィン(リーチング・クリティカル・ウィル)
長崎市長の訴え 田上富久(平和市長会議副会長)
ノーモア・ヒバクシャ:被ばく者から世界の政府へのメッセージ 岩佐幹三(日本被団協事務局次長)
核兵器及び核エネルギーの危険性と影響 ティルマン・ラフ(核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN))
NPTに欠けているもの シーザー・ジャラミロ(プロジェクト・プラウシェア)
市民社会のイニシアティブ ティム・ライト(ICAN)
若者のスピーチ ミルコ・モンツオリ、アイシャ・イルシャド(核兵器禁止若者ネットワーク(BANg)、アボリション2000)
核不拡散・核軍縮の前進に向けた議員の役割 ジャナ・ジェディコバ(核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)チェコ共和国)
新アジェンダ連合(NAC)国家のNGO アラン・ウェア(平和財団軍縮安全保障センター)
勧告 スージー・スナイダー(IKV パックス・クリスティ)

上記のテーマ設定を含め、NGO意見発表の内容に関する調整は、専用に設置されたメーリングリスト(ML)を通じて準備されてきた。言葉の問題など から、欧米のNGO関係者が結果的に参加者の多くを占めるという側面はあるものの、このML自体は希望すれば誰でも参加が可能であり、極めてオープンな運 営がされている。発表は10人のみであるが、各スピーチの実際の草案作りには100人を超える人々がかかわっている。半年近くに及ぶ活発な意見交換のかじ 取りをしてきたのは、「平和と自由のための国際婦人連盟(WILPF)の一プログラムである「リーチング・クリティカル・ウィル(RCW)」である。RCWは核軍縮・不拡散に関する国際機関へのNGO窓口として、また国連本部が所在するニューヨークやジュネーブの情報拠点として、精力的な活動を続けているNGOだ。

取り上げられるテーマには時局の動きにあわせたNGOの関心が反映されている。だが一方で、その訴えの重要性が変わらないもの、すなわち被ばく者、 若者、被ばく地の市長、国家議員といったところは、ほぼ毎年において登場してきた。北東アジア非核兵器地帯については、2004年(梅林宏道)と2005 年(チョン・ウクシク)が発表した。

政府の反応はどうであったか。今回の準備委員会には60団体・480人のNGO関係者が参加登録したと伝えられる。会議に並行しては、被ばく者の証 言やパネル展示を含め、多様なNGO主催のサイドイベントが連日開かれている。しかし多くの政府関係者にとっては、このNGO意見発表が「市民の声」を聴 くほぼ唯一の機会であることだろう。

ところが、この午後のセッションの会場に入ってまず気づくことは、政府関係者の姿の驚くほどの少なさだ。体育館のような広々とした会議室の中央に各 国政府代表の机と椅子がずらりと並んでいるが、午前中の一般演説の時に比べて圧倒的に空席が目立つ。座る場所がないほど埋まっているのは、その周囲を取り 囲んでいるNGO傍聴席だけである。これは今年に限ったことではなく、過去の再検討会議、準備委員会でも見られることだ。むろんNGOの声を真摯に聴こう とする政府関係者が相当数いることも事実である。昼休憩に行われたRCWとスイス政府共催のワークショップのように、政府とNGOが共同でプロジェクトを 運営し、その成果を発表するというような取り組みも珍しくない。だがずらりと並んだ無人の机を前に、市民社会の関与の重要性を繰り返す各国政府の言葉がむ なしく思い出された。


NGO意見発表の様子。手前は田上富久長崎市長

内容面でいくつか特筆しておきたい。

全般的に、核軍縮義務の履行の不十分さを指摘し、各国にさらなる努力を要求するというNGOの基本的姿勢は変わらない。核兵器国が巨額を投資し続ける保有核兵器の近代化計画にも強い懸念が示された。

その上で、今回のスピーチの特色は、64項目の行動計画を含む2010年再検討会議の合意文書を 足掛かりに、その履行を通じて「核兵器のない世界」への道筋を具体的に描こうとしているところにある。スピーチの多くが、2010年の成果の一つである 「(核兵器使用の)壊滅的な人道的結果」への言及に触れ、そうした非人道性を根拠に、時間枠を区切った核兵器廃絶に向けた行動、具体的には核兵器禁止条約 (あるいは法的枠組み)の交渉開始を求めたものであった。いくつかのスピーチにおいては、その実現に向けた技術的・法的・政治的側面の検討を含むロード マップの策定作業を始めるべきことが具体的に訴えられた。潘基文事務総長主催の核兵器廃絶ロードマップ会議の2014年開催はその一つである(これは 2010年最終文書に草案段階で盛り込まれていたが、核兵器国の抵抗を受けて削除された内容である)。

また、今年の特徴の一つとしては、2011年の福島第一原発事故を受けて、「平和利用」の潜在的な危険性への警鐘が、慎重な表現ながら各所に盛り込 まれたことも挙げられる。「核兵器及び核エネルギーの危険性と影響」は、核兵器によって安全を担保するという考え方と、核エネルギーによって世界的なエネ ルギー需要を満たすという考え方がともに、「間違った前提」に立っていると指摘する。それはすなわち、人間の手によって作り出されたもっとも危険な技術 が、人間の手によって制御可能である、という前提だ。

最後に、とりわけ日本に関連することとして、北東アジアに非核兵器地帯を設立することが、「核兵器のない世界」の目標達成につながる筋道であるとの認識が、国際NGOの要求として明確に挙げられたことを指摘しておきたい。

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第2報 注目すべき16か国声明、特筆すべきメキシコの信念(2012年5月2日・午前)

傍聴席でメモを取るRECNAスタッフとアシスタント(手前の2人)

5月1日の休日(メーデー)を経て、5月2日、準備委員会は2日目を迎えた。この日、午前に一般討論の続きが行われ、午後にはNGOの意見表明の セッションが行われた。一般討論では18の国家・国家群が意見を述べたが、日本はその最初に発言した。水面下では、5月3日からの議題設定の詰めの折衝が 行われている。

この日の一般討論について述べようとするとき、メキシコの働きについて敬意を込めて触れないわけに行かない。メキシコはその演説(英文)の中において3つの国家グループに属していることに言及している。すなわち、1998年に発足した新アジェンダ連合(NAC)(アイルランド、スウェーデン、メキシコ、ブラジル、ニュージーランド、エジプト、南アフリカの7か国)の一員であり、2010年に発足した日本・オーストラリアが主導する核軍縮・不拡散イニシャチブ(NPDI)(オーストラリア、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ポーランド、トルコ、アラブ首長国連邦の10か国)の一員であり、2011年にジュネーブ軍縮会議の現状を打破するために国連総会において勇敢に立ち上がった3か国イニシャチブ(オー ストリア、メキシコ、ノルウェー)の一員である。さらに、今日のハイライトと言うべき「核軍縮の人道的側面」共同声明(16か国)にも新しく加わった。こ のような存在の仕方は、一見、引き裂かれた姿にみえる。NPDIは保守的でどちらかというと核軍縮よりも不拡散に熱心なグループであり、NACなど他の3 グループは核軍縮を意欲的に進めようとする進歩的なグループである。メキシコは、それぞれの国家グループのメリットを引き出すために多国間主義の信念を実 践しているように思われる。敬意を表すべき挑戦である。
メキシコは、NPTが発効して40年以上経つにもかかわらず、核兵器国は第6条の核軍縮義 務を果たしていないと厳しく指摘し「未だに世界には約20000発の核兵器が存在し、その多くが高い警戒態勢で作戦配備されている」と述べた。「この種の 核兵器の保持に正統化は許されない。核兵器のような大量破壊兵器に国際安全保障への戦略的価値を付与するのは理不尽である。それどころか、核兵器は国際平和と安全保障にとって脅威である。核兵器を保持し続ける国があれば、核兵器を獲得しようとし続ける国があるだろう。」従ってメキシコにとっては、核軍縮こそが核拡散を阻止する道だ、ということになる。「不拡散体制を強化する最善の道は核軍縮である。
このような考え方に立つメキシコは、今回の準備委員会にはじまる新しい再検討のサイクルを、「2010年合意(合意文書日本語訳) のロードマップの履行を焦点とするばかりではなく、条約の完全履行ができない障害に向き合い克服することに焦点を当てるべきだ」と主張した。また、昨年秋 に、ジュネーブ軍縮会議(CD)の行き詰まりを打破するために3か国で提案した国連総会決議は今なおテーブルに載っており、今秋にも採択を目指す用意があ るという勇気づけられる発言も行った。

2010年合意より先を目指すべきとするこの立場は、メキシコ自身も属する日豪主導のNPDIとは異なる。NPDIは、逆に2010年合意の履行を点検することに絞って合意形成を目指すグループである。  この日の日本の一般演説(英文日本語訳)は、浜田和幸外務大臣政務官によって行われた。浜田政務官は、NPDIの位置づけを「2010年行動計画の誠意ある履行を促進するために、日本は9か国とともにNPDIを設立した。NPDIは<核兵器のない世界>へのさきがけとして<核リスクがより小さい世界> の実現を目指し、NPT再検討会議に積極的に貢献する決意である」と述べた。NPDIは、準備委員会の直前となる4月26日にイスタンブール(トルコ)で 審議官級の会議を開き、その結果を踏まえて準備委員会に4つの共同の作業文書を提出したと言う。①核兵器の透明性向上を目指す報告様式(2010年行動計画21)、②核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)(同行動計画15)、③国際原子力機関(IAEA)追加議定書(同行動計画28)、④核軍縮・不拡散教育(同行動計画22)である。これらの項目が当面の日本政府の主要な関心であると理解してよいであろう。
日 本政府は非核三原則の堅持を再確認し、ソウルにおけるオバマ大統領の演説がロシアと非戦略核の削減交渉を行う用意があると述べたことに歓迎の意を表明し た。これらはそれ自身、必要な表明であることに違いない。しかし、日本は2010年合意の先に目指すべき目標について、もっと積極的なビジョンを語るべき であろう。NPDIが当面掲げる<核リスクがより小さい世界>という目標の達成も、メキシコが言うように、核軍縮への大胆な取り組みがあってこそ可能なの であろう。メキシコの場合は、NACや3か国イニシャチブなどを基盤として、2010年を超える部分を追求する論理と行動を明らかにしている。日本政府の 演説からは、そのような基本認識を読み取ることができないのは残念なことである。被爆国としての道義的責任を基礎にした独自のイニシャチブを日本政府は持 つべきであろう。
NPDIを創設したもう一方の当事国であるオーストラリアは、初日の4月30日に一般演説を 行った。オーストラリアの演説も弱い内容であり、NPDIの線にほぼ留まっている。オーストラリアも日本も、NPDI設立の前提となった「核不拡散・核軍 縮に関する国際委員会」(ICNND)の勧告(2009年12月)をもはや想起も言及もしていない。ICNNDの勧告は緩やかなものであったが、核兵器の 削減や核兵器国の核ドクトリンの変更により踏み込んだ勧告を行っていた。

前述したように、5月2日のハイライトは16か国が発した「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」(英文和訳) であった。オーストリア、チリ、コスタリカ、デンマーク、バチカン、エジプト、インドネシア、アイルランド、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ナ イジェリア、ノルウェー、フィリピン、南アフリカ、スイスの16か国である。声明はスイスによって発表された。第0報、第1報で紹介したように、この声明 は、NPT史上初めて2010年合意に明示的に登場した新しい国際人道法に関わる視点を積極的に発展させようとしたものである。この動きの背景には、赤十 字国際委員会(ICRC)や「国際赤十字および赤新月社運動」の最近の貢献がある。ヤコブ・ケレンベルガーICRC総裁は2010年NPT再検討会議の直 前に、ジュネーブにおいて、人道機関としての国際赤十字の核兵器に対する経験と立場を外交官たちを前にして直接に訴えた(総裁演説英文和訳)。さらに2011年11月、日本赤十字社を含む多くの赤十字社・赤新月社が提案して「核兵器廃絶に向かって進む」と題する代表者会議決議(英文和訳)をあげたのである。これは赤十字運動が行動に立ち上がったことを意味する。今回の16か国共同声明は、すべての加盟国、とりわけ核兵器国に対して2015年に向かうNPT再検討過程の中で人道的側面を重視するよう求めて次のように締めくくっている。
「こ のような兵器が、いかなる状況の下においても、二度と使用されないことは、最も重要なことであります。これを保証する唯一の方法は、NPT第6条の完全な 履行を通したものを含め、効果的な国際管理の下での、全面的、不可逆かつ検証可能な核兵器の廃絶であります。すべての国家は、核兵器を非合法化し、核兵器 のない世界を実現するための努力を強めなければなりません。・・・この再検討の過程にとって、核兵器の人道的な影響が十分に取り上げられることが極めて重 要です。我々はすべての加盟国、とりわけ核兵器国に対し、国際法および国際人道法の遵守に対する誓約に関し、よりいっそうの注意を払うことを求めます。こ れもまた、2015年の再検討会議の成果に適切に反映されるべきであります。」
第1報で触れたように、ノルウェーは2013年春に、この問題に関する国際会議を主催すると述べ、スイスは2015年に向けてこの課題を優先課題とすると表明している。日本政府がここに名を連ねていないのは極めて残念である。

午後のNGOの意見発表は第3報に掲載する。

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第1報 非人道性に新たな光、核兵器国に新展開はなし(2012年4月30日)

4月30日、いよいよ2015年NPT再検討会議第1回軍備委員会が、ウィーンの国際センター(VIC)(上図)で始まった。午前10時、ほぼ定刻 に開会した。2010年再検討会議で議長を務めたフィリピンのリブラン・カバクトゥラン大使の仮議長で今回の準備委員会の議長としてオーストラリアのピー ター・ウールコット大使を選出した。

ウールコット大使の下で会議の実質が始まった。冒頭に、再検討会議の運営を担っているアンジェラ・ケイン国連軍縮問題高等代表が開会の辞を述べた。

ケイン高等代表は、RECNA開設記念シンポジウムに「核兵器廃絶の達成を子や孫の世代に委ねてはならない」とメッセージを送って下さったことで、私たちの記憶に新しい。高等代表の開会挨拶(英文日本語訳) は、私たちが、本ブログ第0報において「私たちの視点」として掲げた3点を、短い演説の中でありながら明確に指摘した。すなわち、第一に「中東非核・非大 量破壊兵器地帯」に関する関係国会議を2012年中に開催するという2010年合意を想起して、ファシリテーターに任命されたフィンランドのヤッコ・ラー ヤバ氏がこの会議に寄せる現状報告が楽しみであると述べた。次に「核軍縮に法の支配を」という潘基文国連事務総長の言葉を引きながら、2008年10月 24日の彼の核兵器廃絶条約の交渉を促す項目を含む5項目の提案を想起した。そして、2010年再検討会議が初めて国際人道法に言及したことを、「NPT 再検討プロセスの中に国際人道法がやってきたことはもはや誰の目にも明らかだ。そして、それは今もここにある」とはずんだ調子で強調した。
もちろん、NPTが軍縮の分野で効果を挙げるためには三本柱(不拡散、軍縮、平和利用)についてバランスのとれた議論が行われなければならない。ケイン高等代表はそれを前提としながら、次のような鋭い指摘で核兵器国にも警告した。
「とはいえ、NPTはいくつかの深刻な困難に直面している。一方では核兵器の製造や性能の改良が継続されており、他方では新しい国が核兵器保有を狙っている懸念がある。」

高等代表の演説に続いて、一般討論が始まった。この日は午前に11件、午後に17件、合計28件の国・国家群・国際組織の一般討論の発言があった。

5つの核兵器国(P5)すべてがこの日に一般演説を行った。残念ながら、核兵器国の発言に意欲的な提案は現れなかった。重要なことは、米国からもロシアからもSTART(戦略兵器削減条約)を超える核兵器の削減に関する言及がなかったことである。米国の発言は、オバマ政権としては異常なほどに不拡散問題に偏重していた。ロシアは 昨年のSTARTの発効を成果として言及しただけで、その先について言わなかった。この状況は、米国の欧州ミサイル防衛配備を巡って両国が対立を深めてい る現状を反映するものであろう。米国とロシアの双方とも、この問題で厳しい議会の監視の下に置かれている。とりわけ米国においては大統領選挙を控えた国内 事情がある。
核兵器国に核軍縮への意欲が現れなかっただけではなく、核兵器は国家安全保障にとって不可欠であるという昔ながらの論理が短い演説の 中に露出した。米大統領の不拡散問題特別代表スーザン・バーク大使は「強力で信頼のおける世界的な不拡散体制が、現存する保有核兵器を削減し最終的に全廃 する努力にとって不可欠の基盤となる。このような基盤がなければ、核軍縮への前進は確保できない」と述べた。英国のジョー・アダムソン大使は「大量の核兵器の保有が続き核兵器の拡散の危険が存続する限り、英国は、信頼できる核能力の保持のみが不可欠な国家安全保障の究極的な保証となると判断する」と述べて、最低限抑止力としてトライデント戦略ミサイルとその潜水艦の更新を進めると説明した。このような論理では、新たな核保有国が生まれることを阻止する彼らの主張に説得力を持たせることは出来ないであろう。
新しいことではないが、中国が 従来と変わらぬ他の核兵器国と異なる主張を貫いていることを明らかにしておくべきであろう。中国は、圧倒的に多数の核兵器を保有している米国とロシアがま ず大幅な核兵器削減をすべきであり、時期がくれば他の保有国も入って核軍縮交渉のテーブルに着くべきであると主張した。核兵器禁止条約についての交渉も適 切な時期に始めるべきであると言う。そして、中国が核兵器を真っ先に使うことはしないと約束し、核兵器相互先行不使用条約の交渉を主張した。また、中国は 無条件に非核兵器国には核兵器の使用も使用の威嚇もしない約束をするとともに、そのための法的枠組みを作ることにも賛成した。
フランスをはじめ、 核兵器国の発言の中に新しい情報があったことを拾っておこう。2010年のNPT合意を受けて、2011年7月にP5がパリで会合したことは知られている が、今年の6月にワシントンで同様な会議を予定していることが明らかにされた。また、東南アジア非核兵器地帯条約の議定書に関して条約加盟国とP5が協議 して合意に達したことが昨年秋に報道されていたが、この事実が核兵器国によって会議の中で改めて確認された。今日の段階ではその内容は明らかにされなかっ たが、今回の準備委員会の期間に明らかになることを期待したい。

ノルウェーとスイスが、NPTの条約の文脈において、核兵器の人道的側面を改めて強調した。期待した国が期待に応えてくれたと言うべきであろう。ノルウェーは 「2010年再検討会議は不拡散条約が40年前に作られた根本理由を前面に引っ張り出した」という表現で、最終合意文書に明記された「核兵器のいかなる使 用も壊滅的な結果をもたらすことへの深い憂慮」「すべての国がいかなる時も国際人道法など適用可能な国際法を順守する必要性」という言葉を引用した。そし てNPT締約国は、核兵器と国際人道法(IHL)に関心を高め、2015年再検討会議に向けてこの問題をクローズアップすべきだと主張した。そして、ノル ウェーは、自国の努力として2013年春、核兵器の人道的側面に焦点を当てた会議を主催することを明らかにした。
スイスは、2010年合意においてNPTには新しい道が開けたとして、「核軍縮の人道的側面は、これからの数年、スイスにとって優先課題である」と述べた。日本政府にこそ言ってほしいような言葉である。

日本政府の一般討論は5月2日にあるのだろう。オーストラリアの発言や日豪イニシャチブで生まれた10か国グループの発言は今日行われたが、日本の発言を含めた報告の中でまとめて紹介することにする。

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第0報 事実を正確に、ライブに、市民目線で(2012年4月29日)

2015年核不拡散条約(NPT)再検討会議の第1回準備委員会が、明日、2012年4月30日(月)に始まる。準備委員会が開催される場所はオー ストリアのウィーン国際センター(VIC)である。会場は国際原子力機関(IAEA)や包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)などが入っている、私たち もしばしば見慣れている湾曲してそびえるビルディングの中にあるのだろう。この準備委員会のモニタリングは長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA) が4月1日に設立されて最初に取り組む本格的な調査活動となる。

第1回準備委員会の議長はオーストラリアのピーター・ウールコット大使と予定されている。
公表された暫定プログラムによると以下のような日程が想定されている。午前のセッションは10時~午後1時、午後のセッションは午後3時~午後6時である。

4月30日(月) 午前:開会、一般討論 午後:一般討論
5月 1日(火) メーデーで休日
5月 2日(水) 午前:一般討論 午後:NGOの意見発表
5月 3日(木) 午前:クラスター1議題(後述) 午後:同じ
5月 4日(金) 午前:クラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証) 午後:同じ
5月 7日(月) 午前:クラスター2議題(後述) 午後:同じ
5月 8日(火) 午前:クラスター2特定問題(中東など地域問題、1995年中東決議の履行)
5月 9日(水) 午前:クラスター3議題(後述) 午後:同じ
5月10日(木) 午前:クラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)
         午後:同じ、強化された再検討プロセスの効率向上
5月11日(金) 午前:報告草案の検討 午後:報告の採択、その他

NPT再検討会議は、条約のすべての条項に関して現状を検討し、改善策を議論する会議であるが、条約に記載されている諸問題を次のような3つの問題 群(クラスター)に分けている。この分け方は、2010年のNPT再検討会議における主要委員会Ⅰ、Ⅱ、Ⅲへの議題の配分に従ったものである。
クラスター1題:核不拡散、核軍縮、国際安全保障、非核兵器国に対する安全の保証(国連安保理決議255と同984)、そのための効果的な国際取り決め、に関連する条項の履行問題
クラスター2議題:核不拡散、保障措置、非核兵器地帯、に関連する条項の履行問題
クラスター3議題:平和目的の核エネルギーの開発研究、生産、利用への条約締約国の奪い得ない権利に関連する条項、及びその他の条項の履行問題、

過去の例では会議がプログラム通りに進まないことが少なくない。とりわけ特定問題に何を掲げるかについて紛糾する。しかし、今回は概ね2010年再検討会議における合意の際の良好な流れを受け継いでおり、議題設定に紛糾はしないであろうと考えられている。

さて、核兵器廃絶を目指して設立されたRECNAは、第1回準備委員会をどのような視点でモニターするのだろうか?
まず基本的な認識とし て、準備委員会は2015年に開催される本番の再検討会議を有意義な会議にするための準備会議であり、今年はその第1回目であるという前提を確認しておこ う。したがって、2015年会議において何を獲得したいのかという目標が、準備委員会を見る視点に反映されるべきであろう。「核兵器のない世界」への道の 一つの段階として捉えたとき、2010年合意は、それまでのNPT再検討会議にはなかった3つの積極的な要素が含まれていた。2015年は、それらの要素を飛躍的に前進させる会議となることを私たちは期待する。3つとは次の3つである。
1.2010 年合意文書は、核兵器禁止条約の交渉、あるいは相互に補強しあう別々の条約の枠組みに関する合意を検討するべきとの国連事務総長の提案に初めて言及した。 それは大きな成果であった。しかし、核兵器国の抵抗が強く、「提案に留意する」という弱い表現でしか言及されなかった。
2.核兵器の非人道的性格について、NPT合意文書として初めて言及された。その内容は、「いかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明」「すべての国が、いかなる時も、国際人道法などを遵守する必要性」と、例外を許さない強い表現であった。
3.1995年のNPT再検討・延長会議で採択された中東決議の 履行について具体的な次の一歩が決定された。2012年中に中東非核・非核兵器地帯設立のための関係国すべてが参加する国際会議を開催する、そのための準 備を担うファシリテーター(調停人)と開催受入国を国連事務総長とNPT条約寄託国(米、ロ、英)が任命する、という決定である。その後、フィンランドが 開催国を引き受け、フィンランドのヤッコ・ラーヤバ国務次官がファシリテーターに決定した。
したがって、私たちは、これら3つの要素に対して、各 国が準備委員会においてどのような発言や行動をするかに注目したい。2010年会議とその後の動きの中では、スイス、オーストリア、ノルウェー、メキシコ などが、注目すべき働きをした。今回の準備委員会において、たとえば、日本政府が北東アジア非核兵器地帯設立に向けて積極的な意見表明をするならば、それ はこれら3つの要素のすべての前進に積極的な貢献をすることになるであろう。
もちろん、米ロの大幅な核兵器削減についての進展、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の行方、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効問題など、懸案の動向を注視することも必要である。アメリカの大統領選挙を睨んだ政治力学も背景として注視しなければならない。
明確な問題意識と視点を据えながらも、見出しに掲げたように、「事実を正確に、ライブに、市民目線で」をモットーにして、明日からウィーン会議のモニター活動に取り組む。

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