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「第3回米朝首脳会談」に関する見解
RECNA
2019年7月1日

 訪韓したドナルド・トランプ米国大統領が6月30日、軍事境界線上にあるパンムンジョム(板門店)でキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と会談した。短時間だが、現職の米国大統領として初めて、境界線を越えて北朝鮮側に歩み入った。今回の歴史的一歩を契機に、物別れとなった今年2月のハノイでの米朝首脳会談のあとに停滞が続く朝鮮半島非核化交渉を再起動させ、協議を軌道にのせることが重要だ。
 外交による非核化に新たな道を開いたのは昨年4月のパンムンジョムでの南北首脳会談1だった。今後は、米朝、南北、さらには中国、ロシア、日本を加えたトップ外交と実務者協議を組み合わせながら、北東アジアでのデタント(緊張緩和)と信頼醸成を進め、非核化への道筋を整えることが急務である。今後はとくに以下の2点に注力すべきと考える。

(1)米国は「ビッグ・ディール」(全面一括合意)提案の軌道修正を
 北朝鮮は昨年9月のピョンヤン(平壌)共同宣言2で、①トンチャンリ(東倉里)のエンジン試験場とミサイル発射台を関係国専門家の立ち会いの下で永久に廃棄する、②米国が相応の措置を取れば、ヨンビョン(寧辺)の核施設の永久的廃棄などの追加措置を講じる用意があると表明した。具体化の条件や措置の曖昧さを残した表明ではあったが、米朝交渉進展へのカギとなる新方針だった。ところがトランプ大統領はハノイで、ヨンビョン以外の「秘密」核施設も含めて一気に完全非核化を迫る「ビッグ・ディール」を持ち出し、生物・化学兵器の廃棄も求めた。これがハノイ会談決裂の原因であり、今後の交渉では両者の溝をどう埋めるかが焦点である。
 しかし、この溝の大きさを考えると、米国が「ビッグ・ディール」に固執する限り、打開はむずかしいだろう。「ビッグ・ディール」を絶対条件とせず、ピョンヤン宣言での北朝鮮案の完遂を基盤にしながら、信頼できる検証措置を制度化し、追加的な非核化措置の段階的実行を北朝鮮に求め、その成果に応じて制裁緩和を進める「アクション・バイ・アクション」(行動対行動)の外交戦略へ軌道修正すべきだ。

(2)首脳外交を活かす実務者協議を
 キム委員長は最近、中国、ロシアとも首脳会談にのぞんだ。そこで示された北朝鮮の考えが、大阪でのG20に出席した中露首脳から韓国大統領に伝えられたようだ。今月に入って米朝首脳間では親書のやりとりもあった。安倍晋三首相も「前提条件無し」で対話にのぞむ意向だ。朝鮮半島非核化に欠かせない北東アジアの安全保障環境づくりには大局観のある外交が必須であり、首脳外交による突破力が必要な場面も少なくないだろう。朝鮮戦争終結のための平和協定締結に向けた米国と南北の3者、米中と南北の4者会談の開催、朝鮮半島の完全な非核化など、南北のパンムンジョム宣言に盛り込まれたプロセスを前進させるため、首脳外交の効用を最大限に活かす実務者協議を進める必要がある。

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1 「南北朝鮮会談と板門店宣言」に関する見解。2018年5月1日。https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/eyes/no13-jp
2 「9月平壌共同宣言」に関する見解。2018年9月20日。https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/eyes/no15

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