核兵器/核物質の解説
(1)原子爆弾と水素爆弾
(2)ウランとプルトニウム
(1) 原子爆弾と水素爆弾
近代的な核弾頭の構造:クリックすると拡大されます
核爆発装置には、最初に開発された核分裂反応による原子爆弾(atomic bomb)、その後の核融合反応を用いた水素爆弾(hydrogen bomb)(熱核爆弾[thermonuclear bomb]とも呼ぶ)の二つがある。原子爆弾の爆発力でもTNT火薬換算でキロトン(kT)、すなわち化学反応による爆弾(~kg)の100万倍の爆発力であり、水素爆弾になるとさらにその1000倍のメガトン(MT)の規模とすることが可能である。
図は、典型的な近代核兵器の構造の概念図である。核融合反応を起こすために必要なエネルギーを「トリガー」(一次爆発装置)と呼ばれる原爆で発生させ、二次爆発装置として核融合装置が搭載されている。この図は米国の大陸間弾道ミサイルに搭載されているW-87型核弾頭のデザインとされており、爆発力は300キロトン程度と推定されている。この図にあるように、近代核兵器には、通常高濃縮ウランとプルトニウムの両方が使われている。核融合装置の部分には核融合反応に必要な重水素化リチウム、原爆の部分には反射材のベリリウム、中性子発生装置等がある。
(出所 Frank von Hippel, et.al “Unmaking the Bomb,” MIT Press, 2014, p. 40)
(2) ウランとプルトニウム
核兵器に必要不可欠な原材料が分裂性核物質(fissile material)である。現在核兵器にも民生利用にも用いられている核物質は二つ、すなわち、ウランとプルトニウムである。
ウランは天然放射性元素の一つであり、幾つかの同位体(陽子数は同じで中性子数が異なる原子核)が存在する。天然ウランは、核分裂がおきにくいウラン238が99.3%をしめており、核分裂性のウラン235はわずか0.7%しか占めていない。そこで、核分裂反応に寄与する同位体の濃度を高める同位体分離作業を「ウラン濃縮」という。通常の核兵器で使用されるのは濃縮度90%以上とされているが、20%以上になると核兵器転用が可能とされており、これらを「高濃縮ウラン(highly enriched uranium: HEU)」と呼び、一方最も普及している原子炉(軽水炉)で用いられている燃料は、3~5%程度に濃縮したものであり、そのウランを「低濃縮ウラン(low enriched uranium: LEU)」と呼ぶ。
プルトニウムは、天然には存在しない人工放射性元素であり、原子炉内でのウランの中性子照射等によって生成される。現在使用されている軽水炉の使用済み燃料には重量で約1%のプルトニウムが含まれている。プルトニウムは使用済み燃料から再処理によって回収することができる。
濃縮度20%以上のHEUとプルトニウム(Pu)は、直接兵器に利用可能であるので、「兵器利用可能物質(Weapons Usable Material: WUM)」または「機微な核物質(sensitive material)」と呼ばれ、特別の防護・管理体制が必要である。IAEA(国際原子力機関)はウラン235が25キログラム、あるいはプルトニウムが8キログラムあれば核爆発装置が作成可能と考えている。
最初の原子爆弾である広島原爆には64キログラムの高濃縮ウランが、長崎原爆には6キログラムのプルトニウムが含まれていたと推定される。本データベースの「核分裂性物質ポスター」ではこの数値を用いて、保有する核分裂性物質の量を相当する原爆の個数に換算している。
(出所 Frank von Hippel, et.al “Unmaking the Bomb,” MIT Press, 2014, p. 36~38)