大量破壊兵器の中でも、毒ガスのような化学兵器や細菌を使用する生物兵器については、兵器そのものに対して、すでにその保有や使用を明確に禁止する条約が成立しており、存在自体が国際法に違反する兵器であると言うことができます。それに対し、まだ核兵器そのものを明文で一律に禁止する条約はまだ成立していません※。核兵器の保有は、NPTや非核兵器地帯条約に加盟している非核兵器国に対しては、法的に禁じられていますが、5核兵器保有国や、それらの条約に参加していない国など、まだ明確に禁止されていない国もあります。しかし、広島や長崎の悲惨な実例でもわかるように、核兵器の使用は、広範囲にわたって、それが軍事施設であろうと民間施設であろうと区別せずに、甚大な被害をもたらします。当然そこには軍人と一般市民の区別もありません。また、生き残った被爆者に対しても、数十年にわたって深刻な放射能障害をもたらす場合が珍しくないことも明らかになっています。このような核兵器の性格を踏まえ、1996年の核兵器の合法性に関する勧告的意見の中で、国際司法裁判所は、核兵器の使用あるいは使用するとの威嚇は、「人道法の原則及び規則に、一般に違反するであろう」と結論付けています。つまり、国際司法裁判所も、核兵器の存在自体まで国際人道法に違反しているとは言わずに、核兵器の使用および核兵器による威嚇に絞って判断したわけです。そのうえで、核兵器を使用する以外の方法で自分の国を守ることが不可能になるような極限の状況に追い込まれたような場合、例外的に使用が認められるかどうかは、実際にそのような状況が起きてみないとわからないとして、明言しませんでした。現実には、核兵器の破壊力の大きさを考えると、核兵器を使用する以外の方法では対処できないようは状況を、具体的に想定するのは困難ではないかという専門家も少なくありません。
※ 2021年1月22日に核兵器の使用、威嚇、開発、実験、生産、取得、保有、貯蔵を包括的に禁止する核兵器禁止条約(TPNW)が成立し、核兵器を禁止する条約は成立しましたが、核兵器を保有するすべての国が条約への参加を拒否しており、また条約に参加している国は国際社会でも少数に止まっているため、具体的な効果はまだ疑問視されています。(2021年5月追記)
(広瀬 訓)