「国際人道法」とは何ですか?

A:「国際人道法」とは、1971年に国際赤十字委員会が初めて公式に提唱した国際法の分野名です。「国際人道法」という名前の特定の条約があるわけではありません。また、具体的にどのような条約が「国際人道法」に含まれるのかという点でも、まだはっきりした合意があるわけではなく、国によって、あるいは、専門家によって、その範囲には多少の意見の違いがあります。※

 一般的には、「国際人道法」とは、以前は、「戦時国際法」、「戦争法」あるいは「武力紛争法」と呼ばれていた国際法の分野の中で、特に重要な部分を占めていた、戦闘行為の制限に関する部分を、現在の国際情勢に合うように修正、展開、進化させたものだという考え方が主流になっています。

 わかりやすく言うと、武力行使の時に、「やって良いこと」と「やってはいけないこと」の区別の基準となっているのが、「国際人道法」だということになります。時々「戦争中なんだから、何があってもそれは仕方のないこと」という言い方をする人がいますが、そんなことはありません。「戦争犯罪」という言葉があるように、たとえ武力紛争の最中であったとしても、「やって良いこと」と「やってはいけないこと」は国際法ではある程度決められているのです。

 「国際人道法」の具体的な内容は大きく二つに分けることができます。一つは、「軍事目標主義」と呼ばれるもので、武力の行使は、相手の軍事力を破壊するという目的にのみ限定されるべきだという、「軍事」とそれ以外を区別する原則です。軍事力の一部分であるとは普通考えられない一般の女性や子ども、お年寄り、病人、あるいは病院、宗教施設、文化施設や普通の民家、また、敵の兵士であってもすでに降伏していたり、沈没した船から脱出して救助を求めている人間などは、攻撃目標としてはならないことになっています。しかし、それらの非軍事的な施設や一般の市民が、軍事的な施設や軍隊のそばにいて、攻撃の巻き添えになってしまった場合や、道路、鉄道、発電所、工場、港湾あるいは空港などのように、民間の施設あるいは市民生活のために必要な施設であっても、軍事的にも利用価値の高い目標を攻撃した場合など、どこまでが国際人道法上許される攻撃の範囲なのか、現実には判断が難しい場合も少なくありません。

 もう一つは、「害敵手段の制限」というもので、武力行使の際に使っても良い武器や兵器と、使ってはいけない武器を区別するものです。この基本的な考え方は、武力の行使というものは、相手の戦う能力や意思を奪うこと、つまり敵を降参させることを目的としているのであり、最初から相手を殺すこと自体を目的としたり、相手に苦痛を与えることを目的としているわけではないということです。武器や兵器を使用した結果として相手が死亡する可能性は高くとも、殺すことが最終的な目的ではないのです。そこで、相手の苦痛を拡大したり、確実に相手の生命を奪うことを目的とした兵器を使用することは、国際法で禁止されているのです。

 したがって、敵に対し、過度の傷害を与えたり、無用の苦痛を与えるように作られた武器を使用してはいけないことが条約により定められています。また、毒ガスや細菌兵器、命中した敵兵に致命傷を与える目的で破壊力を増したダムダム弾や、毒薬や焼夷剤を加えた小銃弾など、特定の兵器を具体的に禁止するための条約もいくつかあります。

 このような武力紛争の際のルールは、もちろん「人道」、つまり、「仮に戦争という極限状態にあったとしても、人間としてこれだけは許されないだろう」という最低限のルールを集めたものだと考えることができます。

しかし、それだけではないという指摘をする専門家も少なくありません。戦争とは「殺し合い」だと思っている人も多いと思いますし、それが間違いだとは言えないでしょう。それでも、戦争は、「敵を最後の一人まで殺すこと」を目的として行われるものではありません。戦争の目的は、相手に自分達の要求を受け入れさせることです。そのためには、相手の抵抗する意思あるいは能力を奪ってしまえば良いわけです。そして、そのために必要な犠牲は、敵味方ともに、少なければ少ないに越したことはないわけです。戦争だからといって、敵に対してあまりに酷いことをしたり、皆殺しにしようとすれば、相手も死に物狂いで抵抗したり、仕返しをしようとするでしょう。そうすると、結果として自分達の損害も増すことになります。戦争の目的を達成するために、不必要な犠牲を出すことは、軍事的に見ても合理的とは言えません。そういう観点から、武力紛争の際に、相互に一定のルールを守ろうとすることは、結果的に軍事的な合理性を保証するものだという考え方もあるわけです。

 

※実際にも、旧ユーゴスラビア国際法廷、ルワンダ国際法的、国際刑事裁判所(ICC)などの国際裁判が、国際人道法違反を裁く目的で設置されていますが、その中では、一般の戦争犯罪だけでなく、集団殺害(ジェノサイド)および「人道に対する罪」としていわゆる民族浄化の際に行われた各種の残虐行為が処罰の対象として含まれているなど、国際人道法そのものの定義と、「人道」という言葉の意味が、やや広く使われています。

(広瀬 訓)

 


<< 前のページへ戻る

このページのトップへ

  • J-PAND
  • ニューズレター
  • ポリシーペーパー
  • RECNA図書
  • 世界の核弾頭データ
  • 世界の核物質データ
  • 北東アジアの平和と安全保障に関するパネル(PSNA)
  • 北東アジア非核兵器地帯への包括的アプローチ
  • nu-nea_project2021-2023
  • Scenario_Project_J
  • 75thProject
  • レクナの目
  • Dispatches from Nagasaki
  • 市民データベース
  • Monitor BLOG
  • 核兵器廃絶長崎連絡協議会
  • 核兵器廃絶市民講座
  • ナガサキ・ユース代表団
  • RECNAアクセス