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INF全廃条約消滅に関するRECNA見解

2019年2月4日

 史上初めて核兵器の削減を義務付け、冷戦終結への導線ともなったのが、米ロ(米ソ)間で1987年に合意された中距離核戦力(INF)全廃条約 [脚注i] だ。核軍拡から核軍縮への転換点を歴史に刻んだ重要条約であるにもかかわらず、米国が2月2日、離脱をロシア側に正式に通告した。ロシアも条約履行停止で対抗すると宣言し、核戦争防止の基礎をなしてきたこの条約は事実上消滅が確定した。RECNAとして米ロを強く批判するとともに、日本政府に対してもINF配備の拒否と北東アジアの核軍縮ビジョンを示すことを求める。

米ロを強く批判する:核戦争のリスクを高め、国際法上も違反
 そもそもINF全廃条約は、「核戦争に勝者はなく、戦われてはならない」(ジュネーブ首脳会談共同声明、1985年)との判断を具現化したもので、核軍縮条約であると同時に核戦争防止の重要な手段でもあった。離脱を先に表明した米国は「ロシアの新型ミサイルが条約に違反しているから」と主張するが、「使いやすい核」への回帰が顕著な点では米ロとも共通しており、条約の破棄は解決にはつながらない。世界の核の約92%を保有する米ロが「核戦争の勝者」をめざすような政策へ同時回帰するのは、世紀の愚行である。
 またINF条約破棄は、新戦略兵器削減条約(新START)[脚注ii] の延長失敗につながるおそれがあり、これは核軍縮を義務付けた核不拡散条約(NPT)6条をないがしろにする行為に他ならず、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見 [脚注iii] に背を向ける行為でもある。6条違反として米ロがICJに提訴されてもおかしくはない。6条に関して最も重い責任を負う核超大国・米ロが、核軍縮をめぐる「法の支配」を軽視することは断じて許されない。
米ロは、「使いやすい」新型核兵器の開発・配備を全面的に中止し、核軍縮交渉を再開すべきだ。

日本はINF配備拒否を:北東アジアの核軍縮ビジョンを示せ
 日本の核軍縮外交・政策も鼎(かなえ)の軽重を問われる。日本は非核三原則堅持を再確認し、さらに2018年4月の板門店宣言に明記された「朝鮮半島の非核化」を達成すべく、日本のみならず韓国へのINF配備拒否も明確にすべきだ。
 トランプ大統領はINF全廃条約離脱表明後、ロシアに加え、多数の中距離ミサイル配備を進める中国なども念頭におく形で、「新たな条約ができればより良い」との考えを示した。日本はこの発言をむしろ好機ととらえ、北東アジアでの核軍縮を構想し、議論を活発化させる役割をになうことだ。そうした核軍縮プロセスを北東アジア非核化プロセスと重ね合わせていくビジョンと具体化の戦略を示すことが、日本の安全保障にも大きく資する。

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i 米ソ(米ロ)両国が保有する、核・通常弾頭搭載の中距離(射程500 ㎞~5,500㎞)弾道ミサイル及び巡航ミサイルの全廃を定め、現地査察を含む詳細な検証義務を定めた条約。廃棄の対象は地上発射型のミサイルのみであり、空中及び海洋から発射されるものは含まれない。1987年12月にレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長の間で調印され、翌88年6月に発効した。
ii オバマ米大統領とメドベージェフ・ロ大統領の間で2010年4月に調印され、翌11年2月に発効。条約発効から7年以内に、米ロ両国がそれぞれ配備戦略核弾頭を1,550発に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)・潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)・戦略爆撃機の配備数を700基に削減する等を規定。2018年2月、両国は条約の定める目標を達成したと発表。2021年2月に失効するが5年間の延長が可能。
iii 核兵器廃絶を求める国際的な運動を背景に、国連総会が1994年に国際司法裁判所(ICJ)に核兵器使用・威嚇の合法性について意見を求めた。1996年7月にICJが出した勧告的意見では、核兵器の使用・威嚇は人道法の原則に「一般的には違反する」(全員一致)とした一方、国家の存亡の危機といった極限の状況の場合の使用については合法か違法か結論できないとした(賛成7、反対7。裁判長賛成)。加えて勧告的意見は、すべてのNPT締約国に、条約第6条に基づき「核軍縮交渉を誠実に行い完結させる義務がある」とした(全員一致)。この判断はその後の核兵器禁止条約採択につながる国際運動の重要な基盤となった。

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