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A/AC.286/WP.5
2016年2月22日
多国間核軍縮交渉を前進させるための公開作業部会

 

「法的なギャップ」、NPT、そして核軍縮交渉を前進させる多様なアプローチ

オーストリア提出作業文書

(暫定訳)

 1. 核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議(2014年12月8~9日、www.hinwvienna14.at)に登場した「人道上の誓約」は、すべてのNPT締約国が第6条に基づく既存の義務を早急かつ完全に履行するとの自国の誓約を一新し、その目的に向け、核兵器の禁止及び廃棄のための法的なギャップを埋める効果的な措置を特定するよう求めるものであった。それが発せられて以来、「法的なギャップ」問題は、2015年NPT再検討会議や第70回国連総会第一委員会などの場で集中的に議論されてきた。

 2. 120を超える国々が「人道上の誓約」に正式に賛同し、第70回国連総会では、「核兵器の禁止と廃棄のための人道上の誓約」と題する決議70/48に139か国が賛成票を投じた。このように、こうした「法的なギャップ」が存在し、NPT第6条義務の完全履行には効果的措置の特定と追求を通じてそのギャップを埋めることが必要であるとの考え方に対し、多くの国が基本的な共通認識を示している。他方、こうした考えに反発し、NPTそのものや核軍縮一般における「法的なギャップ」の存在に意義を唱える国々もある。本作業文書は、こうした「法的なギャップ」について、また、それとNPTとの関係について、さらには、多国間核軍縮交渉を前進させるための多様なアプローチについて論じる。

 3. 第6条の核軍縮義務に比べ、NPTの不拡散に関する規定は具体的に運用されてきた。不拡散に対する核兵器国ならびに非核兵器国の基本的義務は、第1条及び第2条において一般的禁止(核兵器あるいは他の核爆発装置の移転、受領、導入、援助、製造、取得の禁止)として規定されている。第3条は、国際原子力機関(IAEA)との間で保障措置を締結するという非核兵器国の義務を明記している。これらの協定の具体的内容に関する交渉はNPTによってIAEAに「外部委託」される形で、過去数十年にわたり、包括的かつ多層的な保証措置システムが構築されてきた。NPTの不拡散・軍縮規定を補完するその他の条約としては、包括的核実験禁止条約(CTBT)や将来の核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)が挙げられる。非核兵器地帯条約もまた、NPTの目的を具体化し、補完するものと言える。さらに、NPTの不拡散規定は、安保理決議1540、国際的な輸出管理に関する取決め(核供給国グループ(NSG))、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)を筆頭に、これらの着想の元となり、また、さまざまな国内法に盛り込まれてきた。NPTベースの不拡散規定をいっそう強化しようと、拡散に対する安全保障構想(PSI)、グローバル・イニシアティブ(GI)、核セキュリティプロセスといった、参加国を限定したアドホックな追加的取決めも構築されてきた。

 4. このように、NPTの不拡散規定を運用し、補完するためには、追加的でいっそう具体的な法的拘束力のある規定やその他の規範的取決めが必要であるとの一般的合意が存在している。こうした条約や取決めは、普遍性を有するもの、地域的なもの、あるいは参加を限定したアドホックなグループの形があり得る。不拡散の柱に関してNPTに存在する法的なギャップ(複数もあり得る)は、多種多様で効果的な、法的及び非法的措置によって長年にわたって埋められてきたし、現在もその作業は継続している。これらの効果的措置がもたらす、意図された、そして複合的な効果としては、グローバルな不拡散に対する規範の強化や、締約国のNPT上の義務及び誓約を果たすための枠組みの形成が挙げられる。

 5. 第6条下の義務は唯一の法的拘束力を伴う多国間核軍縮規定であり、よって多国間核軍縮努力の一般的基盤となっている。しかし、いかなる交渉が誠実に追求されるべきであるか、核軍拡競争の停止に関する効果的措置はどのようなものであるか、といった具体的な指針は示されていない。その不拡散義務よりもさらに、第6条の履行に求められる法的及び非法的措置に関連して、NPTにおいては、一つ、あるいは複数のギャップが残されている。

 6. 第6条義務を基盤とし、1995年、2000年、2010年をはじめとするNPT再検討会議の最終文書に明記されたものを含め、さまざまな効果的措置が、核兵器のない世界の達成と維持に不可欠な要素として特定されてきた。それらには、核兵器の削減と廃棄、安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割の低減、信頼醸成と透明性、多様なリスク削減措置といった非法的措置が含まれる。核実験の禁止(CTBT)や兵器級核分裂性物質の生産禁止(FMCT)の追求は、NPTの核軍縮(ならびに核不拡散)義務の履行に向けた、特定の、あるいは部分的な法的ギャップを埋める効果的な法的措置として広く認識されている。核兵器の使用、生産、備蓄、移転の禁止といった他の法的措置は、NPTの文脈においては未だ細部にわたって検討されていない。しかし、核兵器のない世界の達成と維持に向けてはそのような措置が間違いなく必要である。法的拘束力の有無にかかわらず、検証に関する取決めもまた、とりわけ核兵器のない世界を維持するにあたって重要な要素である。

 7. NPTはその構造上、その完全履行に向けて追加の法的(及び非法的)措置を必要とする。このことは、核不拡散義務に当てはまると同様に、第6条についても当てはまる。前述した要素はすべて、第6条下の既存の義務の完全履行に向けて、また、核兵器のない世界の達成と維持に向けて「埋められる」べき、多様な法的及び非法的なギャップの代表である。NPTの不拡散義務を履行することと同じく、多様な核軍縮措置が可能な限り並行して追求され得るし、またそうすべきである。あらゆる多様な法的及び非法的措置の複合的効果は、第6条の完全履行に結実し、核兵器のない世界の達成と維持に向けた多国間枠組みを提供するものとなるだろう。

 8. 「核兵器の禁止と廃棄に向けた法的なギャップ」の存在はこのように明白である。さらに言えば、すべての締約国に課された第6条義務は、効果的な法的(ならびにその他の)措置を追求し特定する努力を求めていると認識されるべきである。2010年行動計画の「行動1」は、「すべての締約国は、NPT及び核兵器のない世界という目的に完全に合致した政策を追求することを誓約する」としてこの点を強調している。

9. 多国間核軍縮をいかに前進させるかについては、いくつかの異なるアプローチが議論されてきた。たとえば「新アジェンダ連合」は、作業文書の中で、いわゆる「ステップ・バイ・ステップ」「ビルディング・ブロック」「包括的な核兵器禁止条約」「(簡潔型の)禁止条約」「枠組み条約」アプローチといった、さまざまな効果的な法的措置について論じている。最新の作業文書が2015年NPT再検討会議に提出されたNPT/CONF.2015/WP.9である。これらのアプローチはいずれも第6条の履行と、核兵器のない世界の達成を目指している。よって、これらは核兵器の禁止と廃棄に向けた異なる道筋を示したものでもある。

10. これらのアプローチ、とりわけ「ステップ・バイ・ステップ」アプローチと「包括的な核兵器禁止条約」あるいは「(簡潔型の)禁止条約」は、しばしば並列のものとして論じられる。しかし、こうしたさまざまな見解の中には、間違った二分法に基づいているものや、誤解を生じさせているものがある。上述したように、核兵器のない世界の達成と維持には多種多様な法的及び非法的措置が求められる。「ステップ・バイ・ステップ」アプローチはその定義上、多様な措置が必要であることを認識しており、さまざまな法的及び非法的措置の組み合わせや繋がりを本質的に示すものである。概念上、これらさまざまな措置には、「(包括的な)核兵器禁止条約」及び/あるいは「(簡潔型の)禁止条約」の両方が含まれる。「包括的な核兵器禁止条約」は、核兵器のない世界の達成、しかし主にはその維持に必要とされるあらゆる効果的な法的措置に関して、法的拘束力を伴う形で成文化したものを描いている。他方、「(簡潔型の)禁止条約」は、(包括的な)核兵器禁止条約が網羅するすべての効果的な法的措置を盛り込んだものである必要はなく、核兵器の使用、備蓄、生産、移転の禁止を規定するものとなろう。法的拘束力のある禁止を盛り込むも、たとえば検証措置といったすべての措置を含まないものとして、それは「ステップ・バイ・ステップ」アプローチの一つの(法的)措置と考えることも可能であり、「包括的な核兵器禁止条約」の一部として考えることも可能であろう。このように、これらのアプローチについては、それぞれを対立するものや相互排他的なものとしてではなく、補完的なものとしてみなされるべきである。第6条の履行を強化し、核軍縮交渉を前進させるという目標を持つ点で、すべてのアプローチには多くの共通点がある。

11. 見解における相違は根深いものであり、核軍縮に向けたさまざまな法的アプローチそのものよりも、その背後にある動機、核軍縮に対する危機意識、そしてそこから導かれる効果的な法的及び非法的措置の中でいずれを優先すべきかという問題に関係してくる。核兵器保有国とその同盟国が「ステップ・バイ・ステップ」アプローチを好んで論じる際、これらの国々は、核兵器依存の安全保障システムが必要である限り、その維持と矛盾しないものとして、「ステップ・バイ・ステップ」アプローチに言及している。実際のところ、これは法的及び非法的ともに、単に段階的措置に対する支持を示したことに過ぎず、核抑止ドクトリンは、核軍縮が達成された「最終段階」(それがいつかは明記されていない)までの間、本質的には変わらず維持される。したがって、「核兵器の禁止と廃棄のための効果的な法的措置」の特定や追求は優先課題とはならず、少なくとも当面の間はそれが核兵器依存の安全保障システムの維持の必要性と矛盾する(であろう)と考えられているため、これらの国々からは支持されない。

12. 核兵器の影響や関連するリスクに関する人道イニシアティブの焦点化は、核軍縮の速やかな前進、そして核兵器依存の安全保障システムからの脱却に向けた一連の議論を提供してきた。「人道上の誓約」はこれらの議論を基盤とし、新たな証拠を基づく結論を引出し、議論の優先順位を新しく塗り替えるものである。「人道上の誓約」は、人道上の懸念が「核軍縮に関するあらゆる議論、義務、誓約の中心に置かれるべき」ことを明示し、「核兵器に起因するリスクから民間人を防護する」ことの重要性を強調している。また、「核兵器爆発のリスクを低減する中間措置」を数多く列挙している。そして、「核兵器による受け入れがたい人道上の結末及び関連するリスクに照らして(中略)核兵器の禁止及び廃棄に向けた法的なギャップを埋めるための効果的な措置を特定し追求する」ことが急務であると強調するものである。

13. 動機や優先順位に対する異なる見解が、多国間核軍縮交渉をどのように前進させるかや、「核兵器の禁止及び廃棄に向けた法的なギャップ」問題にいかに取り組むかについての意見の相違の中心をなしているようである。「ステップ・バイ・ステップ」アプローチは、核兵器依存の安全保障システムの維持を許す形での核軍縮措置のみが実施可能であると考える。他方、人道イニシアティブは、核兵器に関連した受け入れがたい人道上の結末及びリスクに照らし、喫緊に核兵器依存の安全保障システムからの脱却を図るべく、法的あるいは非法的を問わず、すべての可能な効果的措置を実施すべきであると考える。

結論

14. 「法的なギャップ」の存在の如何や、軍縮及び不拡散に関する法的あるいはその他のギャップを埋める、あるいは対処するためのあらゆる努力がNPTと補完的関係にあるか否かについての見解の相違はいったん脇に置いておくべきであろう。多国間核軍縮交渉をいかに前進させるかについての諸アプローチに関する議論はすでに機が熟している。しかし、これらのアプローチは一般に考えられているよりも補完的な関係にあると言えるかもしれない。「法的なギャップ」に対する実質的な相違の中心にあるのは、異なるステークホルダーの背後にある核軍縮への動機であり、効果的な法的及び非法的措置に対する優先順位をどのように考えるかである。

(暫定訳:長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA))

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