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核兵器のない世界を(抜粋訳)

ジョージ・シュルツ、ウィリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナン
2007年1月4日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙

今日の核兵器はすさまじい危険を呈しているが、それは同時に歴史的な機会をもたらしている。米国の指導者たちは、世界を新段階へと導くよう求められている。すなわち、潜在的危険を孕む者達への核拡散を防止し、究極的には世界の脅威である核兵器の存在に終止符を打つための決定的な貢献として、核兵器依存の世界的な中止に向かう確固たるコンセンサスへと導くことである。

冷戦時代においては、核兵器は、抑止の手段として、国家安全保障の維持に不可欠なものであった。しかし冷戦の終焉によって、ソビエト連邦とアメリカ合衆国のあいだの相互抑止という教義は時代遅れのものになった。抑止は、他の国家による脅威という文脈においては、多くの国家にとって依然として十分な考慮に価するものとされているが、このような目的のために核兵器に依存することは、ますます危険になっており、その有効性は低減する一方である。

北朝鮮の最近の核実験や、(兵器級物質生産の可能性もある)イランのウラン濃縮計画の中止拒否などによって、世界がいま、新らたな、そして危険な核時代のがけっぷちに立っているという事実が浮き彫りとなった。最も警戒を要することは、非国家のテロリスト集団が核兵器を手にする可能性が増大しているということである。今日、テロリストによって引き起こされる世界秩序に対する戦争においては、核兵器の使用は大規模な惨禍を招く究極的な手段である。そして、核兵器を手にした非国家のテロリスト集団は、概念上、抑止戦略の枠外にあり、そのことが解決困難な新しい安全保障上の課題を生み出している。

テロリストによる脅威を別としても、緊急に新たな行動を起こさなければ、アメリカ合衆国は新たな核時代へと突き進むことを余儀なくされるであろう。それは、冷戦時代の抑止よりもいっそう不安定で、心理的な混乱を生み、経済的コストの高いものである。核兵器を所持しうる敵が世界中でその数を増す中で、核兵器使用の危険性を劇的に増大させることなく、かつての米ソ間の「相互確証破壊(MAD)」を再現して成功するどうかは極めて疑わしい。

核兵器によって引き起こされる不測の事態や判断ミス、または無許可使用を回避する目的で、冷戦時代には段階的な保障措置が有効に働いていた。しかし、新たな核保有国はこうした長年の経験による利益を得ることはないだろう。アメリカ合衆国やソビエト連邦は、結果的には致命的とはならなかった数々の過ちから様々なことを学んだ。両国は、意図的にしろ、偶発的にしろ、核兵器が一発も使用されることのなきよう、冷戦時代に絶え間ない努力を積み重ねてきた。今後50年間、新たな核保有国にとって、そして世界にとって、冷戦時代のこのような幸運は望めるのだろうか。

(略)

核不拡散条約(NPT)が描くものは、全ての核兵器の廃絶である。この条約は、

(a)1967の時点で核兵器を保有していない国家が核兵器を取得しないことに合意すること、及び

(b)核兵器を保有している国家は、それを後々放棄することに合意すること、を定めている。

リチャード・ニクソン米大統領以降の民主・共和両党の大統領は全員、この条約下の義務を再確認してきたが、非核兵器国は、核大国がどれほど条約の規定を誠実に遵守しているか、ますます懐疑的になってきた。

核不拡散を推進する強力な取組みが進行中である。「協調的脅威削減(CTR)プログラム」、「地球的規模脅威削減イニシアティブ(GTRI)」、「拡散防止構想(PSI)」、そして国連原子力機関(IAEA)追加議定書などの取り決めは、NPT違反や世界の安全を危機にさらすような行いを探知する強力な新しい手段を提供する革新的なアプローチである。これらの取り決めは完全に履行されるべきものである。北朝鮮やイランによる核兵器拡散問題に対し、国連安全保障理事会の常任理事国に加え、ドイツ・日本を巻き込んだ交渉を行うことが極めて重要である。これらの手段を精力的に追求することを行わなければならない。

しかしながら、これらだけでは、危機に対応する十分な措置とはいえない。レーガン大統領とゴルバチョフ書記長は、20年前のレイキャビクの会談において、核兵器の完全廃棄という、より大きな目標の達成を目指した。彼らのビジョンは、核抑止教義を信奉する専門家の度肝を抜いたが、世界中の人々の期待を膨ませるものであった。最大数の核兵器を保有する両国の指導者たちが、最も破壊力のある武器を廃絶しようと、議論を始めたのであるから。

では、どのような手段がとられるべきだろうか。NPTにおいて取り交わされた約束や、レイキャビクで構想された可能性は結実することとなるのだろうか。堅実な段階を経て、めざす答えに行き着くためには、アメリカ合衆国が先導して最大限の努力を行うことが必要である、と私たちは確信している。

何よりもまず、核兵器を所持している国々の指導者たちが、核兵器なき世界を創造するという目標を、共同の事業に変えていく集中的な取り組みが必要である。このような共同事業は、核保有国の体質を変容させることなどを含むが、これらによって、北朝鮮やイランが核武装国となることを阻止しようという現在進行中の努力にいっそうの重みが加えられることとなるだろう。

合意を目指すべき計画とは、核による脅威のない世界を実現するための基礎作業となる、一連の合意された緊急措置で構成される。そのような措置には、次のようなものが挙げられる。

※冷戦態勢の核兵器配備を変え、警告の時間を増やし、これによって核兵器が偶発的に使用されたり、無許可で使用されたりする危険性を減らすこと。

※すべての核保有国が核戦力の実質的な削減を継続的に行うこと。

※前進配備のために設計された短射程核兵器を廃棄すること。

※上院と協力して超党派的な活動を始めること。たとえば、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を達成するために信頼を深め定期的な審議の場を設けるという理解を得ること、当代の技術的な進歩を活用すること、他の重要な国家にもCTBTを批准するよう働きかけること。

※世界中のすべての兵器、兵器利用可能なプルトニウム、および高濃縮ウランの備蓄を対象にした安全基準値をできるだけ高く設定すること。

※ウラン濃縮過程を管理下に置くこと。その際、原子炉で使用されるウランが、まずは原子力供給国グループ(NSG)を通して、次に国際原子力機関(IAEA)やその他の国際的に管理された備蓄から、相応な値段で入手できるという保証が伴うべきである。また、発電用の原子炉で発生する使用済み燃料が原因となって生じる核拡散の問題に対応することも必要である。

※兵器製造に使用される核分裂性物質の生産を地球規模で中断させること。具体的には、民間レベルでの高濃縮ウランの使用を段階的に廃止してゆくこと、世界中の研究施設から発生する兵器利用可能なウランを除去すること、核分裂性物質を無害なものに変質させること。

※新たな核保有国の出現を許してしまうような、地域での対立や紛争の解決に向けた私たちの努力を倍加させること。

核兵器のない世界という目標を達成するためには、いかなる国家や人々の安全をも脅かす可能性のあるあらゆる核関連行為を防止し、それらに立ち向かう、効果的な措置を講じる必要がある。核兵器のない世界というビジョン、ならびにそのような目標の達成に向かう実際的な措置を再び世に訴えることは、アメリカの道徳的遺産と一致した力強いイニシアティブとなるであろうし、またそのようなものと受け止められるであろう。このような努力を積み重ねれば、次世代の安全保障に極めて前向きな影響を与えることができるであろう。大胆なビジョンなくては、これらの行動が正しいことも、緊急であることも理解されないだろう。逆に、行動なくては、このビジョンは、現実的であるとも実現可能性であるとも思われないことであろう。

私たちは、核兵器のない世界を実現するという目標を立て、その目的の達成に求められる行動を精力的に起こすことを支持する。その際、上記のような措置をとることからまず始めなければならないのである。

 

(翻訳:特定非営利活動法人ピースデポ)

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