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国連、そして核兵器のない世界における安全保障(抜粋訳)

潘基文・国連事務総長
2008 年10 月24 日、ニューヨーク

 

(前略)
 国連事務総長としての私の優先課題の一つは、世界的な公益を促進し、国境を越えた難題への対応を促進することにある。核兵器のない世界は、優先順位のトップに挙げられる世界的な公益であり、今日の私の話の焦点もそこに置かれる。私は主に核兵器について話す。なぜならば核兵器は比類なく危険なものであり、かつそれらを非合法化するいかなる条約も存在しないからである。同時に、我々はあらゆる大量破壊兵器のない世界に向けて努力していかなければならない。

(略)今日、その無差別的影響、環境への影響、さらに地域的・世界的な安全保障への深刻な影響から、核兵器は2度と使われてはならないという考え方が世界中で支持されている。これを核の「タブー」と呼ぶ人々もいる。それでもなお、核軍縮は、現実の課題ではなく、願望の域を出ないままである。これは、こうした兵器の使用をタブーとしているだけで十分なのかという問いを私たちに突きつけている。

 この分野において重要な決定を行うのは国家である。しかし国連も重要な役割を担っている。国連は、共通の利益となる規範に各国が合意できるような中心的な議論の場を提供する。また合意目標を追求するために、分析、啓発、提唱する。

 さらに、国連は全面完全軍縮を長きにわたって追求してきており、これは国連の存在そのものの一部となっている。軍縮及び軍備の規制は国連憲章でも謳われている。国連総会が1946 年にロンドンで採択した決議第1 号は、「大量破壊に適用しうる兵器」の廃絶を求めるものであった。歴代事務総長はこれらの目的を支持してきた。これらの目的は何百もの国連総会決議で取り上げられ、全加盟国が繰り返し支持を表明してきた。

 その理由は明白だ。核兵器は恐ろしい影響を無差別に生みだす。使用されずとも大きな危険をもたらす。事故は常に起こりうる。核兵器の製造は一般の人々の健康や環境に害を及ぼしうる。そしてもちろん、テロリストが核兵器や核物質を入手する可能性も否定できない。

 ほとんどの国家は核オプションの放棄を選択し、核不拡散条約に基づく誓約を遵守してきた。しかしいくつかの国家は、このような兵器の保有をステータス・シンボルと見なしている。また、いくつかの国家は、核兵器には核攻撃に対する究極的な抑止効果があると考えている。推計26,000発が未だに存在するゆえんである。

 残念なことに、核抑止ドクトリンは伝染性のものであることが立証されている。これによって不拡散はいっそう困難となり、それゆえに、核兵器が使用される新たな可能性を生んでいる。世界は朝鮮民主主義人民共和国やイランの核活動を引き続き懸念している。対話を通じた平和的手段によりこれらの懸念に対処しようとする努力に支持が広がっている。

「核のルネッサンス」が起ころうとしていることも不安材料である。そこでは、気候変化と闘う努力を強化していくうえで、核エネルギーはクリーンでかつ環境への排出物の少ない代替策と見なされる。大いに懸念されるのは、このような考え方が、拡散やテロの脅威から防護しなければならない核物質の生産量と使用量を増加させることである。

 軍縮への障害を乗り越えることは容易ではない。しかし、軍拡がもたらす損失やリスクには十分な関心が向けられていない。巨額な軍事予算によって多くの利益が損なわれていることを考えてほしい。軍事的優位の飽くなき追求によって消費される膨大な資源を考えてほしい。

(略)

 このようなコストと核兵器固有の危険性に対する懸念は、核軍縮の大義に新たな命を吹き込もうという思考を世界中で生み出してきた。そのなかには、ハンス・ブリクス氏が率いた大量破壊兵器委員会や、新アジェンダ連合とノルウェーによる7カ国イニシアティブがある。オーストラリアと日本は核不拡散及び核軍縮に関する国際委員会を立ち上げた。市民グループ、そして核兵器国もそれぞれに提案を行っている。

 フーバー・プランもその一つだ。本日この場に、こうした努力を主導する方々にご出席頂いたことは幸いである。キッシンジャー博士、カンペルマン氏、あなた方のこれまでのご尽力と偉大な叡智に感謝申し上げる。

 これらのイニシアティブにはいっそうの支援が与えられるべきである。世界が経済や環境の分野で危機に直面するにしたがい、この惑星の脆弱性や、世界的な課題に対する世界的な解決策の必要性に、より多くの人々が気づきはじめた。こうした意識の変化もまた、国際的な軍縮の課題を活性化させる一助となるだろう。

 こうした精神にたって、今日は5 つの提案をしたい。

 第1 に、私はすべてのNPT 締約国、とりわけ核兵器国に対し、核軍縮へと繋がる効

果的な措置に関する交渉を行うという、条約に基づく義務を果たすことを強く求める。

 各国は、相互に補強しあう別々の条約の枠組みに合意することにより、こうした目標を追求することが可能である。あるいは長年国連において提案されてきたように、確固たる検証システムに裏打ちされた核兵器禁止条約の交渉を検討することも可能である。コスタリカ及びマレーシアの要請を受け、私はすべての国連加盟国にこの条約の草案を配布した。これは良い出発点となるものである。

 核保有国は、世界唯一の軍縮交渉の場であるジュネーブ軍縮会議(CD)において、その他の国々と共にこの問題に積極的に取り組むべきである。世界は、米国とロシア連邦のそれぞれが保有する核兵器の大幅かつ検証可能な削減を目指した2 国間交渉の再開も歓迎するだろう。

 各国政府はまた、検証に関する研究開発にさらなる努力を払うべきである。核兵器国による検証問題の会議を開催するという英国の提案は、正しい方向に向かう具体的な一歩である。

 第2 に、安保理常任理事国は、核軍縮プロセスにおける安全保障問題に関する協議を、たとえば軍事参謀委員会のような場で開始すべきである。これらの国々は、非核兵器国に対し、核兵器の使用あるいは使用の威嚇の対象としないことを明確に保証することができる。安保理はまた、核軍縮に関するサミットを呼びかけることもできるだろう。NPT 非締約国は自国の核兵器能力を凍結し、自国の核軍縮に対する誓約を行うべきである。

 私の3 番目の提案は、「法の支配」に関するものである。核実験及び核分裂性物質の生産に関しては、一方的モラトリアムしかこれまで存在していない。CTBT を発効させ、CD における核分裂性物質生産禁止条約の交渉を即時、無条件に開始するための新たな努力が必要である。

 私は、中央アジア及びアフリカ非核兵器地帯条約の発効を支持する。核兵器国が、非核兵器地帯条約のすべての議定書を批准することを奨励する。また、私は非核兵器地帯を中東に設置するための努力を強く支持する。さらに、私はすべてのNPT 締約国に対し、IAEA との保障措置協定を締結するよう、また、追加議定書の下で強化された保障措置を自発的に受け入れるよう要請する。核燃料サイクルがエネルギーあるいは不拡散に関する問題に留まらないことを我々は忘れてはならない。その行く末は、軍縮の未来をも左右することになる。

 私の4 つめの提案は、説明責任と透明性に関するものである。核兵器国は目標に向かって自国が何を行っているかについての説明文書をしばしば配布しているが、そうした報告が一般の目に触れることはほとんどない。核兵器国に対し、それらの資料を国連事務局に送付するよう求めるとともに、より広範囲に普及させることを奨励する。核保有国は保有核兵器の規模、核分裂性物質の備蓄量、特定の軍縮面での達成について、公開している情報量を増やすこともできる。核兵器の総数について公式の見積もりが存在しないという事実は、さらなる透明性が必要であることの証左である。

 5 番目、そして最後の提案として、多くの補完的措置が必要であることを挙げたい。そうした措置には、他の種類の大量破壊兵器の廃絶、大量破壊兵器を使ったテロを防止する新たな努力、通常兵器の生産及び取引の制限、ミサイル及び宇宙兵器を含む新型兵器の禁止などが含まれる。国連総会が、「軍縮、不拡散、テロリストによる大量破壊兵器の使用に関する世界サミット」の開催を求めるブリクス委員会の勧告を受け入れることも可能である。

 大量破壊兵器を使ったテロの問題は解決不可能との見方もある。しかし、軍縮において現実的かつ検証可能な前進が図られれば、こうした脅威を根絶する能力も飛躍的に高まる。特定の種類の兵器の保有自体を禁止する、基本的な世界規範が存在すれば、それらに関する管理強化を各国政府に促すことも格段に容易になるだろう。世界で最も恐ろしい兵器及びその材料が漸進的に廃絶されてゆけば、大量破壊兵器を使ったテロ攻撃の実行は困難になる。我々の努力が、テロの脅威を増大させる社会、経済、文化並びに政治状況にも向けられてゆけば、さらに望ましい。

(後略)

 

(翻訳:特定非営利活動法人ピースデポ)

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