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核兵器禁止条約の発効確定を受けて

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)見解
2020年10月25日

 核兵器禁止条約(TPNW)の発効が確定した。「長崎を最後の被爆地に」との被爆者の願いが形となったTPNWの成立は、「人類の生存をかけた闘い」における歴史的な一歩である。条約前文が謳う「すべての人類の安全保障」の確立に向けて世界が踏み出したことを心より歓迎し、被爆地のアカデミアとして核廃絶への一層の尽力と貢献を誓う。

 国際的な核軍縮・軍備管理体制の将来が危ぶまれる現在の世界において、TPNWが有効に機能し、核兵器禁止の規範強化に繋がるか否かは、今後の国際努力にかかっている。発効後一年以内に条約締約国による会議が開催される。条約締約国は、検証体制の確立などの重要議題についての準備を十分に進め、核軍縮の機運を強めてもらいたい。

 TPNWに背を向けてきた核保有国ならびに「核の傘」下の国は、条約発効の意味を真摯に受け止め、自国の核政策の見直しへの転機とすべきだろう。核保有国と非核保有国の分断悪化の主因は、TPNWの成立ではない。核抑止に依存する諸国の軍縮義務軽視こそが問題の根源である。核保有国はNPT第6条に基づいて誠実に核軍縮交渉に戻るべきで、「核の傘」下の国はそれを促す必要がある。核廃絶という目的を共有するTPNWと核不拡散条約(NPT)の運用プロセスは、相互に補強しあうことが可能であり、必須でもある。

 日本を含めた「核の傘」にある未締約国は、すぐにTPNWに署名・批准できなくとも、条約参加の是非に対する具体的検討を市民社会に広く公開する形で実施し、国会の内外で議論を喚起すべきである。TPNWを多国間核軍縮の前進に活用する術について、他の北大西洋条約機構(NATO)諸国とともに検討するとの意向を示したベルギー新連立政権の方針は大いに参考になる。TPNWを活かすために締約国会議へオブザーバー参加し、この条約の目指すところに共感を示すべきだ。

 核保有国と非核保有国の「橋渡し役」を自任する日本政府こそ、率先して範を示さなければならない。広島、長崎の経験を持つ唯一の戦争被爆国として条約発効を歓迎し、その発展に向けた実質的貢献を約束すべきである。事実、締約国会議の想定される重要議題である検証体制の確立や被害者援助の制度づくりといった諸課題において、日本が培ってきた経験や知見が貢献できる範囲は間違いなく大きい。そのような行動は、TPNWの妥当性、正当性を高めるだけでなく、分断の緩和を通じて、日本政府が目標として掲げるNPTを含む核軍縮・不拡散体制の強化への貢献ともなる。

 市民社会は、TPNWの普遍化と規範強化に向け、各国との連携や働きかけを一層強化する必要がある。その原点に被爆者がいて、被爆地があることに思いをいたし、締約国はTPNWの会合を被爆地で開催することを検討すべきである。

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