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2016年8月19日
多国間核軍縮交渉を前進させるための公開作業部会

 

多国間核軍縮交渉を前進させるための公開作業部会(OEWG)報告書
2016年8月19日採択

(抜粋・暫定訳)

Ⅰ. はじめに

1.「多国間核軍縮交渉を前進させる」と題された決議70/33において、総会は、多国間核軍縮交渉を前進させることの普遍的な目標が、引き続き核兵器のない世界の達成と維持であることを繰り返し、また、多国間核軍縮交渉の前進に向け、包括的、包含的、双方向的、かつ建設的な方法で、核兵器に関連した問題を議論することの重要性を強調した。

2.同決議の主文第2及び第3節をもって、総会は、核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範を実質的に議論するとともに、多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置に関する勧告を実質的に議論するための公開作業部会を開催することを決定した。このような勧告には以下が含まれるがそれに限らない。(a)既存の核兵器に関するリスクに関連した透明性措置、(b)偶発的、間違い、未認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し、取り除く諸措置、(c)核爆発がもたらす広範な人道上の結末の複雑性及び相互連関性に対する意識と理解を向上するための追加的措置。

3.同決議の主文第7節をもって、総会は、作業部会がその実質的な作業に関する報告と合意された勧告を第71回国連総会に提出することについても決定した。同国連総会では、その他の関連する協議の場における前進を考慮に入れつつ、作業部会の進捗について評価を行うこととする。

Ⅱ. 組織的事項(略)

Ⅲ. 作業部会の手続き(略)

Ⅳ. 実質的議論

A. 全般的な意見交換

19.作業部会は、核兵器のない世界の達成と維持に向けた決意を再確認した。これは、多国間核軍縮交渉の前進における普遍的な目標であり続けている。作業部会は、多国間核軍縮交渉を前進させるためには、包括的、包含的、双方向的、かつ建設的な方法で、核兵器関連の問題を議論することが重要であると強調した。これに関して、作業部会は、2000年NPT再検討会議で核兵器国が行った、核兵器の完全廃棄を達成するとの「明確な約束」を想起した。

20.作業部会の作業は、既存の核兵器が人類に呈している脅威とあらゆる核爆発がもたらす壊滅的な人道上の結末に対する深刻な懸念に下支えされていた。これらの壊滅的な人道上の懸念のリスクは核兵器が存在する限り継続する。核兵器の人道上の影響に関する意識の高まりと明確に文書化されたプレゼンテーションは、核兵器のない世界に繋がるような、すべての国家による緊急かつ必要な行動を促すものである。また、作業部会は、すべての国家がいかなる時も、国際人道法を含む、適用可能な国際法を遵守することの必要性を再確認した。

21.こうした議論と、核兵器の人道上の影響に対する意識の高まりを背景に、多国間核軍縮の進展が遅いことが懸念をもって留意された。さらには、過去20年にわたって合意された作業計画に基づく交渉を実施できずにいるジュネーブ軍縮会議(CD)や1999年以降実質的な成果を生み出していない国連軍縮委員会(UNDC)、そして2015年において実質的な最終文書への合意達成が成し遂げられなかったNPT再検討プロセスを含め、既存の国連軍縮機構が直面している重大な試練に対する懸念が指摘された。

22.作業部会は、核兵器のない世界の達成と維持に向けた追加的な法的措置、条項、規範の締結が求められる分野を特定すべく、国際的な核軍縮・不拡散体制の現状について議論を行った。

23.作業部会は、核不拡散条約(NPT)第6条がすべての加盟国の義務、とりわけ核軍縮に関連した効果的な措置について誠実な交渉を追求するという義務を確立していることを想起した。作業部会は、「核不拡散と軍縮のための原則と目標」と題された1995年NPT再検討・延長会議の第3項及び第4項(c)、2000年NPT再検討会議の最終文書で全会一致合意された核軍縮を達成するための実際的措置、2010年NPT再検討会議で合意された結論及び今後の行動に関する勧告の完全な履行が必要であることを再確認した。

24.作業部会は、NPTの条文に条約第6条の履行のために追求されるべき特定の効果的措置に関連して具体的な指針が示されていないことに留意した。作業部会は、条約第6条に含まれる核軍縮義務の履行に求められてきた効果的な法的措置に関する進展に留意した。

25.多くの国(many States)が、核兵器の禁止と廃棄のための現在の国際枠組みには法的なギャップが存在するとの考えを示した。これらの国は、保有、使用、開発、製造、備蓄、移転の一般的禁止といった核兵器のない世界の達成と維持に必要となりうるその他の法的措置がNPTの文脈の中では詳細にわたって検討されておらず、よって緊急性をもって交渉されるべきであることに留意した。

26.他方、一定数の国(a number of States)は、核軍縮のための現在の国際枠組みにはいかなる法的なギャップも存在しないとの考えを示した。これらの国は、NPTとその再検討会議が核軍縮の追求のための必要不可欠な枠組みを提供しているとの考えを示した。

27.一定数の国(a number of States)は、国際的な安全保障環境、現在の地政学的な状況、既存の安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割が核軍縮のためのいかなる効果的措置の追求においても考慮されるべきであると強調した。これらを考慮しないアプローチは、核保有国ならびに自国の安全保障ドクトリンを核兵器に依存している国の参加を獲得することはできないとこれらの国は主張した。これらの国は、保有核兵器のさらなる大幅削減を促進するための条件作りのための手段として、信頼醸成措置の重要性に留意した。これには国家間、とりわけ核兵器を保有する国家間の対立や緊張を緩和するための努力が含まれる。

28.他方、多くの国(many States)は、核兵器の問題に関連しては、国家の利益よりも、集団的な安全保障(collective security)が優先されるべきであると強調した。これらの国は、国家安全保障と集団的安全保障の間になんらの矛盾も存在しないと主張した。これに関連して、核兵器が人類全体にもたらす結末や核兵器が継続して存在することのリスクについて人道イニシアティブが検討を重ねてきたことが留意された。また、それが国境を越え、グローバルに影響しうることから、核兵器のリスクはあまりにも高く、核兵器が国家に存在することはそこに住む人々の防護や安全保障を強化するどころか、むしろ低めるとの見解が述べられた。

29.作業部会は、核兵器のない世界を達成する最良の機会は核兵器保有国の関与を通じたものになるだろうとの考えを示した。

30.一定数の国は、核兵器の総数や安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割を低下させ、消極的安全保証の範囲を拡大するために核兵器国がとるべき諸措置に留意した。

31.しかし、多くの国は、そのような諸措置が核兵器の役割の低下に部分的にはつながったものの、人間社会を危険にさらす能力については手付かずのままであることに留意した。核兵器国が自国の保有核兵器の質的な改良や近代化に引き続き邁進しており、核兵器依存を継続していることに懸念が示された。また、核兵器の使用や使用の威嚇に関連した規範意識の低下が見受けられることにも懸念が示された。

32.よって多くの国は、核兵器の価値を低下させることから、核兵器の容認を前提とした政策や実践に対する国際及び世論の姿勢を変えることを含め、核兵器を忌むべきものにすることに焦点を移していく必要性を強調した。このような変化は、核兵器の禁止及び廃絶のための人道性の誓約とも合致する。この誓約を行った国は、核兵器の容認できない人道上の結末、環境への影響、その他の関連するリスクの観点から、核兵器を忌むべきものとし、禁止し、廃絶することを誓約している。

B. 核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範

33.作業部会は、核軍縮のためのいかなる効果的な法的措置をめぐる進展も、核軍縮・不拡散体制の強化と、NPT第6条の履行をめざしたものとなるべきであり、それらは条約を補完し強化するものでなければならないことを強調した。核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範を議論する上で、多くの可能なアプローチが検討された。

34.過半数の国(a majority of States)[1]は、2017年に、国連総会において、すべての国家、国際機関、市民社会に開かれた形で、核兵器の完全廃棄につながるような、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉を開始することに支持を表明した。この法的文書は、一般的禁止と義務を確立することに加え、核兵器のない世界の達成と維持に対する政治的な誓約を確立するものである。市民社会の代表もこの見解に支持を示した。

35.そのような法的文書が含みうる要素にはとりわけ以下が含まれる。(a)核兵器の取得、保有、備蓄、開発、実験、生産の禁止、(b)核兵器の使用における関与の禁止。これには核戦争計画への関与、核兵器の目標設定における関与、核兵器の管理要員への訓練が含まれる。(c)国家の領土における核兵器持ち込みの禁止。これには核兵器搭載船舶が港湾や領海に入ることを認めること、国家の領空を核兵器搭載航空機が飛来することを認めること、国家の領土内における運搬を認めること、国家の領土において核兵器の配置や配備を認めることが含まれる。(d)核兵器活動に対する融資や、IAEAの包括的保障協定が適用されていない国家に対する特殊核分裂性物質の提供の禁止。(e)条約が禁止する活動に対する直接的あるいは間接的な援助、奨励、勧誘の禁止。(f)核兵器の使用及び実験の被害者の権利を認め、被害者への支援提供と環境修復を誓約すること。このような文書に含まれる要素や条項については交渉の対象になることが留意された。

36.核兵器を禁止する法的拘束力のある文書は、それが核兵器の廃棄に関する措置を含まず、不可逆的、検証可能かつ透明性のある核兵器廃棄のための措置を将来的な交渉課題として残していることから、核軍縮に向けた中間的あるいは部分的な措置となりうる。それは、核兵器を徐々に忌むべきものにすることにも貢献すると考えられる。このような文書を支持する諸国家は、これが交渉開始や発効のために普遍的な支持を必要しないことから、直近の行動として最も実行可能であるとの考えを持っていた。決議68/32に基づき、2018年までに開催される国連ハイレベル国際会議がこれらの交渉の進捗を検討すべきであることが提案された。

37.多くの国(Many States)は包括的な核兵器禁止条約(a comprehensive nuclear weapons convention)を支持した。これは一般的義務、禁止事項、そして時間制限を伴う不可逆的で検証可能な核軍縮に向けた具体的な取り決めを明示したものである。これらの国家は、特定の時間枠の中で核兵器を完全に廃棄するための段階的計画が条約交渉及びその締結に向けたプロセスに含まれるべきであると論じた。このような条約は、核兵器が廃棄され、新しい核兵器が製造されていないという保証を各国に与える、非差別的で国際的に検証可能な法的取り決めを構成するものとなる。核兵器を保有する国家の参加なくては核兵器の検証された廃棄のための詳細な条項を交渉することは技術的に困難であることが留意された。多くの国が包括的な核兵器禁止条約の速やかな交渉開始を支持したが、そのような条約は核兵器保有国の参加をもって初めて効果的になりうることに留意された。これらの国家の多くは核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の交渉についても支持を示した。決議68/32に基づいて2018年までに開催される国連ハイレベル国際会議がこれらの交渉の進捗を再検討すべきであることが提案された。

38.いくつかの国(Some States)は枠組み合意(a framework agreement)の可能性について述べた。これらは、核軍縮プロセスの様々な側面を漸進的に扱った相互に補強しあう一連の諸条約から成るもの、あるいは、核兵器のない世界に徐々に進むための「シャポー」合意とそれに続く補足合意あるいは議定書という形のいずれかになる。このようなアプローチは、すべての国家の懸念を同時に考慮に含めることで、柔軟性を備え、信頼醸成措置のための余地を残し、核軍縮に向けた円滑な移行を可能にしうるものである。核兵器の廃絶を達成するための特定の時間枠を必ずしも含める必要はない。交渉されうる第一の補足合意あるいは議定書は核兵器の使用あるいは使用の威嚇の禁止になりうることが提案された。

39.いくつかの国は、混合(hybrid)アプローチについて論じた。これは核兵器を禁止する条約について直ちに交渉を始めることを含みうる。このような条約は、核兵器の完全廃棄に先立って実施される、国家による宣言、国家による履行、検証、段階的破棄、援助、技術協力、非差別的な検証体制に関連した諸議定書によって補完される。このアプローチの支持者は、これが最初は参加に抵抗を示す国も含めてすべての国家を漸進的に関与させていく枠組みを提供するものとなり、よって枠組みアプローチの包括性を反映させつつ、核兵器禁止条約(NWC)と同程度の包括性と有効性を提供するものになると考えている。

40.一定数の国(A number of States)[2]は「漸進的アプローチ」への支持を表明した。これは、すべての核兵器の廃絶という条約レベルの誓約をすでに含んでいるNPTをはじめとする既存のグローバル体制の重要性に焦点を当てたものである。この条約の枠組みのなかで、非核兵器国と核兵器国は、同時並行、同時進行的な効果的な法的及び法的以外の諸措置で構成され、多国間、複数国間、二国間あるいは一方的な性質を持ち、相互に補強しあう、ブロックの積み上げに力を合わせる必要がある。重要なランドマークが、核兵器数が非常に少ないところまで削減され、効果的な検証と手段を伴った、国際的に信頼性のある検証レジームが確立された「最小限地点」である。これらの国家はグローバル・ゼロが手の届くところまで来た段階で、核兵器のない世界の達成と維持のための追加的な法的措置が必要になると考える。そこでは、多国間の核兵器禁止条約あるいは核兵器を保有する複数国間の取り決めといった、非差別的かつ国際的に検証可能な核軍縮枠組みが、どのようにして最後の「ビルディング・ブロック」となるかについて検討することが必要になる。これらの国は、この地点が達成されるまでには相当の作業が残っているとの考えを述べた。漸進的アプローチに基づいて提案されている多くの措置は、コンセンサスをすでに得ている既存の誓約を反映したものであるとの見解が示された。

41.漸進的アプローチを支持する国家は、効果的な法的措置として以下を支持した。(a)包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の達成、(b)核兵器あるいはその他の核爆発装置に使われる核分裂性物質の生産を禁止する、検証可能で非差別的な条約の交渉、(c)米国とロシアの間の新戦略兵器削減条約(START)後継条約の交渉開始、(d)核テロ防止条約の普遍的加入の達成、(e)核物質防護条約の2005年改訂の完全履行の促進、(f)、国連安保理決議1540の実際的履行への支援の提供、(g)非核兵器地帯の強化と、新たな非核兵器地帯と非大量破壊兵器地帯の設立、(h)国際原子力機関(IAEA)保障措置システムに対する支持と強化。漸進的アプローチの下で提案された法的及び法的以外の措置の完全な一覧については付属文書Ⅰを参照のこと。

42.議論された別のアプローチは、NPTに議定書を追加するという案であり、これは別々の法的文書として交渉しうる。このようなアプローチは核軍縮をNPTの不可欠な一部として維持させるものとなる。

43.また、作業部会は、核軍縮のための多様なアプローチの実現可能性と有効性を評価する基準についても議論した。それぞれのアプローチに関し、いくつかの国からは、そのような基準が、範囲、内容、求められる参加国、規範的価値、政治的な実行可能性、成熟度、核兵器のない世界の達成と維持に対する貢献の可能性を含むことが提案された。また、いくつかの国からは、検討されるべき唯一の基準はその範囲のみであるとの見解が示された。さらには、これら多様なアプローチは部分的に重複しており、相互排他的ではなく、核軍縮に対して異なる貢献をしうるという点が留意された。

44.異なるアプローチはさまざまな種類の法的文書や一連の文書を伴うものであるが、そのような法的文書の一部を成すものとして多くの要素が提案された。これに関して、多くの国は、これらが核兵器禁止と直接的に繋がる中心要素や、核分裂性物質、検証に関するものなど核兵器の廃絶に関するその他の要素、さらには被害者支援など、その他の目的に関連したものを含みうることを提案した。これらの要素のいくつかはすでに述べられた通りである。効果的な法的措置に関する今後の明確化の作業にも影響を与えないものとして、提案された要素の一覧については付属文書Ⅱを参照のこと。

45.これらの要素の多くは、NPTやさまざまな非核兵器地帯条約によるもの含め、既存の条約下の誓約として国家が負っている義務と重なることが留意された。特定の条項については、生物兵器禁止条約や化学兵器禁止条約に含まれている基本的義務との類似点が議論された。いくつかの措置は、その追求や履行において核兵器保有国の関与と協力が必須である。それ以外の多くの措置や条項の追求に関して、多くの国は、もしそれらが非核兵器国のみによって追求されたとしても軍縮と不拡散の目的に資するものになりうると論じた。

46.核軍縮の達成への道は一つではないことに留意がなされた。多様な、可能性のある要素や条項がそれぞれの異なるアプローチの下で追求されうるし、多くは複数のアプローチで横断的に追求されうる。可能性のある要素や条項は、軍縮のプロセスとの関連性や核兵器のない世界の達成と維持に向けた努力における潜在的影響において異なるものであることが留意された。また、ある種の措置については、すべての国家、核保有国、非核保有国、そして安全保障ドクトリンにおいて核兵器の役割を維持している国など、国家への適用可能性でも異なることが留意された。

C. 多国間軍縮交渉を前進させるためのその他の措置

47.作業部会は、多国間軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置について議論した。透明性、脅威削減、意識喚起は、検証可能かつ不可逆的な核軍縮を達成する上で重要である。

既存の核兵器に関するリスクに関連した透明性措置

48.作業部会は、不可逆性、検証可能性とともに透明性の原則を重視した。これらは核軍縮のプロセスに不可欠とみられている。透明性なくしては、核軍縮は信頼のある形で検証できないし、核軍縮措置が不可逆的な方法で実行されたことに国家は十分な信頼を持つことができない。また、透明性の強化は、国家間の不信感を軽減し、地域的及び国際的なレベルで信頼と信用を構築するものである。

49.作業部会は、核兵器保有国の報告する情報に一般市民や近隣国、その他の国が確実にアクセスできることの重要性を強調した。これに関連して、多くの国家は、透明性の強化と核軍縮の促進のために国連の枠組みの中で報告メカニズムが確立されることを支持した。

50.核兵器計画及び活動に関連した情報の一般開示に関して、テロリスト、犯罪者、非国家主体による悪意のある使用から機微の情報を防護することの必要性が強調された。

51.既存の核兵器の関連するリスクに関し、異なる国からさまざまな透明性措置が提案された。これには、核兵器国がとりわけ以下の点に関して標準情報を定期報告すべきであることが含まれた。

(a) 自国の領内にある、あるいは他国の領内に配備されている核弾頭の数、種類(戦略あるいは非戦略)、地位(配備あるいは非配備、警戒態勢)
(b) 運搬手段の数と種類
(c) 軍事、安全保障の概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性の低下のためにとられた措置
(d) 意図しない、無認可、あるいは事故による核兵器使用のリスクの低下のためにとられた措置
(e) 核兵器システムの警戒態勢解除あるいは作戦即応性の低下のためにとられた措置
(f) 核軍縮努力の一環として廃棄され削減された核兵器及び運搬システムの数と種類
(g) 軍事目的に生産された核分裂性物質の量。作業部会は、これらの問題に関する基本的な情報が検証及び核軍縮交渉に貢献すると議論した。
(h) 核兵器の近代化に関する計画、支出、施設数に関する情報

52.上述のような標準情報は国連事務総長に提出され、事務総長によって加盟国や一般市民に情報提供されるべきである。

53.多くの国は、自国の軍事及び安全保障概念、ドクトリン、政策において核兵器の役割を維持しているその他の国家もとりわけ以下に関する標準情報を定期報告すべきであると提案した。

(a) 自国の領内にある核弾頭の数、種類(戦略あるいは非戦略)、地位(配備あるいは非配備、警戒態勢)
(b) 自国の領内にある運搬手段の数と種類
(c) 軍備及び安全保障概念、ドクトリン、政策における核兵器の役割と重要性の低下のためにとられる措置

 事故、間違い、無認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し、排除するための措置

54.作業部会は、事故、間違い、無認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクが、核兵器が存在する限り常に存在し続けると考えた。このようなリスクを排除する唯一の手段は核兵器の完全廃棄を達成することである。

55.作業部会は、核兵器爆発に関する、現在の、そして増大するリスクの原因となるいくつもの要素について議論した。これらの要素には、たとえば国際及び地域レベルでの核保有国とその他の国家を含む緊張の高まり、サイバー上の脅威や非国家主体に対する核兵器の指揮統制システムや早期警報ネットワークの脆弱性、核兵器システムの自動化の拡大等が含まれる。同時に、核兵器計画における透明性の欠如を背景に、そうしたリスクの正確な性質の評価が困難であることが認識された。

56.多くの国は、核兵器を高い警戒レベルに維持することで核兵器のもたらすリスクを大幅に増大させ、核軍縮のプロセスに否定的な影響を与えていることに特段の懸念を表明した。これに関して、これらの国は、核兵器の作戦上の地位の低下に向けた措置が人類と国際の安全保障を増大させるものであり、核軍縮、ならびに核兵器に関連したいくつかのリスクを緩和する効果的な措置になると論じた。

57.作業部会は、核兵器の完全廃棄までの間、リスクを低下させ、安全性を高めるための措置の履行に支持を示しつつも、それが核兵器の保有や使用に対する支持を示唆するものでないことを強調した。

58.核兵器の完全廃棄が達成されるまでの間、事故、間違い、無認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し、排除するために、異なる国からさまざまな措置が提案された。これには、核兵器保有国及びその他の関連する国家が以下に向けてさらなる実際的措置を講じることが含まれた。

(a) 配備された戦略核兵器の数を削減すること
(b) 非戦略、非配備の核兵器の数を削減すること
(c) 余剰備蓄とされている核兵器を削減すること
(d) あらゆる種類の核兵器の世界的備蓄の総体的削減に向けて早急に進むこと
(e) 核兵器の運搬手段、特に核兵器搭載巡航ミサイルに関連したリスクを低減すること。これにはすべての核搭載巡行ミサイルを制限し、配備を防ぎ、禁止につなげるような行動が含まれる。
(f) 核兵器削減に関する複数国間の交渉の開始と締結までの間、核兵器の数を削減し、少なくとも現状凍結することを誓約すること
(g) 安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割を低下させ、軍事訓練校において核兵器の役割に与えられた価値を低下させること
(h) 早期発射あるいは警報即発射態勢への依存を低下させ排除する政策を作り、実行し、核戦力の警戒レベルを高めないようにすること
(i) 戦略軍の運用態勢から警報即発射態勢を取り除くという合意を締結し、高い警戒態勢からの段階的な撤退を実行すること
(j) 核兵器の警戒レベルを低下させるための長期的な正式合意の策定を開始すること。これは測定可能な、合意された措置を伴い、合意された時間枠の中で実施されるものとなる
(k) 核兵器備蓄の安心と安全を増大させること
(l) 核兵器の指揮統制システムをサイバー上の脅威から確実に防護すること
(m) CTBTの早期発効までの間、新たな核兵器技術の開発と使用、ならびにCTBTの条項の目的と目標、履行を損なわせるような行為を行うことを控えるとともに、核兵器の爆発実験に関するすべての既存のモラトリアムを継続すること
(n) 核兵器あるいはその他の核爆発装置用の核分裂性物質の生産を禁止する条約の交渉と発効までの間、核兵器目的の核分裂性物質の生産に関するモラトリアムを維持、宣言すること
(o) 核兵器あるいはその他の核爆発装置用の核分裂性物質の生産に用いられる施設を閉鎖、あるいは平和目的に転換すること
(p) 安全保証に関する誓約を十分に尊重し、もしまだそのような保証が供与されていないのであればそれを供与するとともに、非核兵器地帯条約を設置している条約の議定書に関する留保や解釈宣言を取り下げること
(q) 核兵器を含む事故、ならびにそれらの事故に対して講じられた措置についての透明性を高めること

 核爆発がもたらす広範な人道上の結末の複雑性及び相互連関性に対する意識と理解を向上するための追加的措置

59.作業部会は、核兵器使用の人道上の結末に関するものを含めた軍縮・不拡散教育がすべての国、とりわけ核兵器保有国で行われることの重要性を強調した。作業部会は、軍縮・不拡散教育ならびに訓練の総体的な目標が、個人に対し、一国の国民として、また世界市民として、確固たる軍縮・不拡散措置、ならびに効果的な国際管理の下での全面完全軍縮の究極的目標の達成に向けて貢献できる力を持つよう、知識やスキルを授けることであると想起した。

60.作業部会は、各国政府、国連システム、国際機関、さらにはNGO、アカデミア、議員、個人を含む市民社会のそれぞれが、核兵器の脅威や、それが健康や性差、持続的な発展、気候変動と環境、文化遺産の保護、人権といった問題に与える影響についての世論喚起を強化する上で担いうる役割を認識した。

61.作業部会は、将来の世代に知識を伝えるために、ユース非核特使や学生平和大使の促進などを通じて、若い人々を関与させることの重要性を強調した。

62.多くの国は、より幅広い人々に核兵器爆発のリスクをめぐる事実を伝え、それによって情報を与えられた市民層を創るために、核兵器の人道上の影響に関する世論喚起が重要であると論じた。

63.核爆発のもたらす人道上の幅広い影響の複雑性及び相互関連性に対する意識や理解を高めるために、すべての国家がとりうる措置を含め、異なる国からさまざまな措置が提案された。

(a)軍縮・不拡散教育

(i) すべての国、特に核保有国において、核兵器の人道上の結末に関するものを含めた軍縮・不拡散教育を促進すること
(ii) 学校及び大学のカリキュラムの一環として、また、若者の批判的思考を養うことを目的として、平和、軍縮、不拡散、国際人道法を含む国際法に関する教育と訓練を促進すること
(iii) 歴史教科書の中に、広島と長崎の原爆に関する情報、そして南太平洋その他を含めた核実験の結末についての情報を含めること
(iv) シミュレーションやロールプレイといった手段の導入を奨励すること。これらは安全保障上の懸念や脅威認識に関する相互理解を促進するものとなる
(v) 空間情報データ、3Dモデル、ビッグデータ分析などのオープンソース・ツールや技術を社会的検証を促進する手段として利用するためのトレーニングを奨励すること
(vi) 軍縮・不拡散教育に関する国連事務総長による報告書(A/57/124)に盛り込まれた勧告の履行に関する報告を促進する手段として、国内における軍縮不拡散教育のフォーカルポイントを特定すること
(vii) 平和及び核兵器のない世界に資するような国内・国際フォーラムにおいてメッセージを共有するために、若者による平和大使制度の設置を支援すること

(b)核兵器の人道上の結末を理解すること

(i) 国境や世代を超える核兵器使用の結末について、持続的開発、環境、気候変動、文化遺産の保護、人権、人道的行動、子どもの権利、公衆衛生、性差といった相互に関連した問題を含め、草の根レベルでの意識喚起のための努力を促進すること
(ii) 女性や女児の健康に対し核兵器が特有の影響を与えるという事実を特に重視すること
(iii) 核兵器のない世界に向けた特使として被爆者を任命することを支援すること
(iv) 8月29日を核実験に反対する国際デーとして記念すること、核実験被害者の経験を翻訳すること、かつて核実験が行われた場所を訪問することなどを通じて、世界中で行われた核実験の負の遺産について意識を喚起するための努力を支援する
(v) 被爆者の証言を多言語に翻訳するための支援すること
(vi) 核兵器の影響を直接に体験し、被爆者と交流するために、世界の指導者、政策決定者、外交官、学者に広島・長崎を訪問するよう奨励すること
(vii) 核兵器の人道上の影響に関する追加的な国際会議の開催を検討すること
(viii) 核兵器に関連したリスク及び長期的な結末に関する追加的な研究を支援すること
(ix) テレビ、ラジオ、印刷物などの通常メディア、さらにはソーシャルメディアなどを含めたあらゆる形態のメディアを通してアウトリーチ活動を実施すること
(x) 持続可能な開発、気候変動、食糧安全保障、サイバーテロ、人権、ジェンダーといったグローバルな影響を与えるあらゆる分野において、最も高いレベルでのグローバルガバナンスを含め、核軍縮を政策立案に含めていくこと
(xi) 核兵器爆発の人道上の結末を含む、核兵器の脅威に関する世論喚起を強化する手段として、9月26日の核兵器完全廃棄のための国際デーを活用すること

 多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置

64.作業部会はまた、多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうるさらなる措置について検討した。これらの措置には、NPT第6条、1995年NPT再検討・延長会議の「核不拡散と軍縮のための原則と目標」決定の第3節及び第4節(c)、2000年NPT再検討会議最終文書で全会一致合意された核軍縮を達成するための実際的措置、2010年NPT再検討会議で合意された結論及び今後の行動に向けた勧告、とりわけ具体的なベンチマーク及びタイムラインを通じたものを含めた核兵器国に課せられた措置について、即時かつ効果的に誠実な履行を行うことの必要性が含まれている。

65.過去の誓約のいっそうの履行のために、異なる国からは核軍縮交渉の前進に貢献する以下のさらなる措置が提案された。

(a) 核軍縮、CD/1299に基づく核兵器あるいは他の核爆発装置用の核分裂性物質の生産を禁止する条約、宇宙における核軍備競争の防止、非核兵器国に核兵器の使用や使用の威嚇を行わないことを保証する効果的な国際取り決めという4つの主要議題に関する交渉を含め、包括的かつバランスのとれた作業計画の採択を通じてジュネーブ軍縮会議(CD)における実質的な作業に即時に復帰すること。CDが核分裂性物質生産禁止条約の交渉を開始できない場合は、各国はCDの外での交渉開始を検討するかもしれないという見解も示された。CDはその参加国に関する議論を再開すべきであるとの見解も示された。
(b) 国家間、とりわけ核兵器保有国間の対立と緊張のレベルを低減する努力を含め、保有核兵器のいっそうの大幅削減を促進すること。信頼醸成措置はこの点に関して重要な役割を担う。
(c) 包括的核実験禁止条約機関準備委員会の設立決議(CTBT/MSS/RES/1)に則り、核爆発の検知能力を向上させるために、人的及び技術的能力をさらに前進させる努力を支援すること
(d) 非核兵器地帯を強化するとともに、優先事項として、1995年の中東に関するNPT決議の履行を通じた中東における地帯の設立を含め、新しい地帯を設立すること
(e) 新しい軍事能力に繋がったり、新たな軍事ミッションを可能にしたりするような形での既存の核兵器のアップグレートや近代化に向けた努力を中止すること
(f) 技術的、経済的に可能な範囲で、高濃縮ウランの使用を最小限化し、低濃縮ウランを使用するための措置を支援すること
(g) 核兵器の使用あるいは使用の威嚇の文脈で、国際人道法、国際人権法、国際環境法に基づく国際法上の義務について評価すること
(h) 議論や会議において、核兵器の倫理面に関するさらなる評価を行うこと

V. 結論及び合意された勧告

66.作業部会は、核兵器のない世界の達成と維持のために締結が求められる具体的かつ効果的な法的措置、法的条項及び規範について明確化するための追加的な努力が可能であり、また、追求されるべきであると勧告した。作業部会は、NPT及びその中に盛り込まれた誓約の重要性を再確認するとともに、いかなるそのような措置、条項、規範の追求もNPTの三本柱を含む核軍縮・不拡散体制を補完し、強化すべきであると論じた。

67.作業部会は、第34節に概説したように、核兵器の完全廃棄につながる、核兵器の禁止のための法的拘束力のある文書を交渉するため、すべての国家に開かれ、国際機関や市民社会が参加し貢献する会議を2017年に開催するよう、幅広い支持(widespread support)[3]をもって国連総会に勧告した。作業部会はまた、その他の国家[4]が上述の勧告に合意しなかったこと、そしてそれらの国が多国間核軍縮交渉を前進させるためのいかなるプロセスも国家、国際及び集団的な安全保障の懸念を扱うべきであると勧告し、合意されていない第40及び41節で述べられたように、多国間核軍縮交渉を前進させるための並行的、同時進行的かつ効果的な、法的及び法的以外の措置で構成される実際的措置を追求することを支持したことを認識した。さらに、作業部会はその他のアプローチに関する見解が示されたことも認識した。

68.また、作業部会は、各国が適宜、本報告書が提案するように、多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうる様々な措置の履行を検討すべきであると勧告した。これらの措置には次が含まれるがそれに限定されない。現存する核兵器に関連するリスクに関係する透明性措置、事故、間違い、無認可、あるいは意図的な核兵器爆発のリスクを低減し、排除するための措置、核爆発がもたらす広範な人道上の結末のあいだの複雑性や相互連関性に対する認識や理解を増大させるための追加的措置、そして多国間核軍縮交渉の前進に貢献しうるその他の措置。

 VI. 報告書の採択

69.2016年8月16日、17日、19日の会合において、作業部会は、「第71回国連総会への報告」と題する議題6を検討した。

70.A/AC.286/CRP.3に含まれた報告書案に対する投票の要求を受け、A/AC/286/CRP3の第67節の「recognized that there was a recommendation which received」を「recommended with」に置き換え、「The Working Group」に続く第二文冒頭の「also」を削除するという形で口頭における修正が提案された。作業部会は提案された口頭修正を採用することを賛成62票、反対27票、棄権8票の未記録投票で決定した。

71.8月19日の最終会合において、作業部会は、賛成68票、反対22票、棄権13票の未記録投票をもって、A/AC/286/L.1、A/AC/286/CRP.2ならびにA/AC/286/CRP.3に含まれた報告書を口頭修正の通り採択した。投票説明の中でいくつかの発言がなされた。


[1] 過半数の国は、とりわけ、アフリカ諸国(54カ国)、東南アジア諸国連合(10カ国)、ラテンアメリカ・カリブ諸国(33カ国)、一定数のアジア、太平洋、欧州の諸国で構成される。
[2] 一定数の国は、とりわけ、漸進的アプローチを提唱している24カ国で構成される。
[3] この勧告の支持国は、とりわけ、アフリカ諸国(54カ国)、東南アジア諸国連合(10カ国)、ラテンアメリカ・カリブ諸国(33カ国)、ならびに一定数のアジア、太平洋、欧州の諸国で構成される。
[4] この勧告の支持国は、とりわけ漸進的アプローチを提唱する24カ国で構成される。

(暫定訳:長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA))

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