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北朝鮮の核実験をうけて:解説と見解

2016年1月8日(金)

2016年1月6日(水)、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、「水爆実験に成功」との声明を発表し、各地で人工地震が探知されていたことから、北朝鮮が核実験を行ったと判断された。本解説は、今回(北朝鮮では4回目)の核実験の技術的側面、今回の核実験の背景と目的およびその影響、北東アジアの非核化に向けて、の3つの視点から、一般市民をはじめ関心のある方々の参考とすべく、RECNA3教員(鈴木、広瀬、中村)でまとめたものである。

 

1.今回の核実験の技術的側面

 

 *原爆と水爆の違い

今回の最大の特徴は、「水爆実験」という点であるので、原爆と水爆の違いから説明したい。核兵器には核分裂反応による原子爆弾(原爆)と核融合反応を用いた水素爆弾(水爆、熱核爆弾とも呼ぶ)がある。核分裂反応とちがって、水素(重水素と三重水素)の核融合反応でおきるもので、原爆よりも数百倍から数千倍の爆発威力をもつ。原爆ではキロトン(TNT火薬換算)の規模となるが、水爆はさらにその千倍のメガトンの規模をもつことができる。第五福竜丸が被ばくした1954年のビキニ環礁におけるキャッスルブラボー実験も水爆であった。世界最大規模の水爆実験は旧ソ連が行った「ツァーリ・ボンバ」と呼ばれるもので50メガトン級(広島型原爆(15キロトン)の約3,300倍)と言われている。

 水爆では、核融合の必要な巨大なエネルギーを出すために原爆を起爆剤として用いることが普通だ。そのため、原爆の材料である高濃縮ウランやプルトニウムがやはり必要となる。また、爆発後も原爆と同様の核分裂性物質(死の灰)が生成されることになる。

 水爆のもう一つの特徴は、「小型化」である。巨大な爆発力を持つため、核弾頭の小型化が可能となり、ミサイル搭載の核兵器として利用可能となる。過去、水爆実験に成功したのは、米国、旧ソ連、英国、フランス、中国の5か国であり、現在保有している核弾頭のほとんどは水爆で、その爆発規模は数百キロトン程度のものが多いと推定されている。

 水爆とは異なるが、原爆の爆発性能を高める方法として、「ブースター型原爆」と呼ばれるものがある。これは、原爆に重水素・三重水素ガスを混合させ、小規模な核融合反応を起こさせることにより発生する中性子の数を増加させて、爆発力を増大させた原爆である。このブースター原爆だと、通常の原爆の2倍程度の威力が出ると推定されている。

 

 *今回の核実験は水爆だったか?

 包括的核実験禁止条約機構準備委員会(CTBTO)の発表では、今回の地震規模はマグニチュード4.9, 日本の気象庁はマグニチュード5.1であった。これは過去3回の北朝鮮の核実験とほぼ同規模であったといえる。この数値に基づく、核爆発の推定規模は、おおよそ6キロトン程度(韓国国家情報院発表)とされており、第3回目の核実験における推定規模(7~25キロトン)と比べても「比較的小さい核爆発」ということができる。水爆は原爆の数百倍以上の威力を持つことを考えると、この規模は「水爆にしては小さい」という観測が出ている(James Actonカーネギー平和財団)。その結果、今回の核実験は、上記の「ブースター型原爆」ではなかったか、との見方もされている。

 大気中に漏れて出てくる放射性ガスや塵のサンプル分析も行われているが、1月7日現在放射性物質は検出されていない(防衛省発表)。大気中のサンプル分析から水爆かどうかの確認をするのは困難と考えられている。上記のように、水爆に固有の放射性物質は存在せず、重水素、三重水素、またはヘリウムが検知される可能性がある程度だ。それが検知されても、水爆実験由来のものかを確定するのは困難である。ただし、原爆を起爆剤に用いるので、原爆と同じ放射性物質が検知される可能性もある。

 

*「小型化」に成功したか?

 今回の核実験で最も注目すべき点は、果たして北朝鮮が核兵器の小型化に成功したかどうかだろう。水爆実験が成功したとなると間違いなく小型化とその威力は桁違いのものとなるが、たとえ水爆実験でなかったとしても、「ブースター型原爆」が成功したとすれば、爆発威力を増し、ミサイル搭載可能で小型化に成功した可能性は否定できない。だとすると、北朝鮮の核兵器能力は一段と強化されたことになり、国際社会、特に米国にとっては新たな脅威となりうる。このまま、北朝鮮の核開発が進められれば、その核の脅威が飛躍的に高まる日もそう遠くないと考えざるを得ない。

(鈴木)

 

2.今回の核実験の背景と目的およびその影響

 1月6日の北朝鮮による「水爆」実験については、すでに昨年12月に北朝鮮の金正恩第1書記が水素爆弾の保有について言及しており、それを「証明」するために実施されたと考えられる。なぜこの時期に「水爆」実験を実施したのかについては、国内的、国際的な要因があると考えられる。

 北朝鮮はすでに過去に3回にわたり核実験を実施しており、2012年には憲法において自国を「核兵器国」と定義している。これに対し、日本を含む国際社会は、北朝鮮に核兵器の放棄と非核兵器国としてのNPTへの復帰を求めてきた。また、国連安保理は北朝鮮の核実験や弾頭ミサイル技術実験に対し経済制裁を課し、国際社会も概ね北朝鮮に対し批判的な姿勢を示す国が大多数であった。

 北朝鮮としては、核兵器の保有によって国際社会における自国の立場を強化し、より有利な立場から国際社会、特に米国、場合によって中国と交渉することを可能にし、様々な譲歩を引き出せるようになることを期待していた。しかし、北朝鮮の予想に反し、国際社会、特に米中は北朝鮮の要求するような譲歩に応じようとはしなかった。さらに、米国はISや中東の問題に忙殺される傍ら、インドやイランとは核をめぐり大きな妥協を進め、中国は南シナ海、東シナ海をめぐる海洋権益の問題に注力する反面、米中共に北朝鮮問題は一時「棚上げ」状態で、北朝鮮との協議は完全に停滞した。結果として北朝鮮が自国の「孤立化」に大きな懸念を抱いたとも考えられる。

 これに対し、北朝鮮は、従来の原爆実験では米中に譲歩を迫るには不十分との認識から、米中と対等の「一流の核兵器国」であるとの主張を裏付けるために「水爆実験の成功」を誇示しようとしたものであろう。

 国内的には、特に大きな混乱があるわけではないが、社会経済状況は好転せず、国民は疲弊しているという側面は否定できない。このような状況を短期間で改善できる見通しはなく、また、国際的に大きな援助は期待できない。そのような状況の下で、政権指導部が求心力を維持するためには、外的な脅威を強調し、その対抗手段に資金や資源を費やさざるを得ないという説明が説得力を持つ。そして、その「対抗手段」が劇的であればあるほど、政権の威信は高まる。その点からも、原爆を超えた「水爆」の成功は国民に対するアピールとして必要だったと考えられる。

 各国の専門家の間でも、その規模から考えて「水爆実験」の「成功」であったとする北朝鮮当局の発表には疑問の声が出ている。その発表の真偽は別として、今回の実験が「水爆実験の成功」でなければならないという北朝鮮の事情は容易に理解できる。そうでなければ、国内外に対する有効なアピールとはならないと北朝鮮指導は考えているであろう。

 このような北朝鮮の思惑に対し、国際社会は、いたずらに過剰な反応に走ることなく、冷静に対処すべきである。まず必要なことは、このような核実験や核兵器開発能力の誇示が、自国の国際社会における立場を改善するものでも、強化するものでもないことを北朝鮮に理解させることである。そのためには大きな反応はかえって北朝鮮に「水爆」は国際社会に大きなインパクトを与えるという誤ったシグナルを送ることになるであろう。そして、核兵器を誇示するのではなく、別のより建設的な方法で国際社会と対話を試みることがより現実的なアプローチであることを北朝鮮に伝えなければならない。

                                                (広瀬)

 

3.北東アジアの非核化に向けて

今回の北朝鮮の核実験は、北朝鮮の核武装政策が依然変更されることなく、むしろ加速されている可能性を示唆している。しかし、この地域の非核化の可能性を絶つものではなく、むしろ、これまでの国際社会の対北朝鮮政策の限界をあらためて示したものであり、北東アジア非核兵器地帯の実現に代表される新たな安全保障アプローチの必要性を強調するものと考えるべきだ。

その回答の一つとして、RECNAは昨年3月に、3年間の共同研究の成果、「提言:北東アジア非核兵器地帯への包括的アプローチ」を発表した。北朝鮮の非核化のみを目的とするのではなく、北東アジア非核化に密接した諸懸念の同時解決を図る「北東アジア非核化への包括的枠組み協定」を締結し、その中で北東アジア非核兵器地帯の設置をめざしていくという提案である。

北朝鮮の非核化の可能性はこれまでと変わらず存在する。実験に際し発せられた北朝鮮の声明は、「北朝鮮に対する米国の悪意に満ちた、敵視政策が転換されない限り、北朝鮮による核兵器開発の一時中止も核軍縮もあり得ない」と述べている。現在においても自国の核抑止力を堅持しつつ、政治体制への脅威除去を狙うという北朝鮮の外交方針は基本的に変わっていない。こうした状況の中、相互信頼に基づく関係を構築する方途として、RECNAの「包括的アプローチ」は引き続き有効である。抜本的な対応策の転換がなければ、今後も北朝鮮の挑発行為のエスカレーションは継続し、時間の経過とともに解決はいっそう困難となるだろう。

加えて、北朝鮮は、包括的な核兵器禁止の枠組みに対して否定的な態度を示していない。12月7日に国連総会で賛成多数をもって採択された「多国間核軍縮交渉を前進させる」決議は、「核軍縮実現のための具体的かつ効果的な法的措置、とりわけ核兵器のない世界の達成と維持のための新たな法的条項や規範について合意に至ることを目指した交渉を行う」ための公開作業部会を、国連総会の下部機関として2016年にジュネーブで開催することを謳ったものである。この決議に対し、北朝鮮は核保有国・事実上の核保有国の中で唯一賛成票を投じている。もちろん、これをもって北朝鮮が包括的な核兵器禁止の枠組みに前向きであると単純に述べることはできないが、北朝鮮の核問題の根本的解決に向けては、「誰の持っている核もいけない」という国際規範の強化が不可欠である。国際社会が包括的な核兵器禁止枠組みについての議論を前進させることは、北朝鮮の核問題を好転に向かわせる一助となるだろう。

(中村)

最後に、日本の対応について述べておきたい。北朝鮮に対し米国や韓国と協力して厳しい制裁を加えることになるだろう。その対応は当然のこととして、それ以外のアプローチを検討する必要性も明らかになったのではないだろうか。上記RECNAの提案である「北東アジア非核兵器地帯に向けての日韓でイニシアティブ」の実現にむけて、まず非政府機関や専門家で検討を始めることが必要だろう。そのような非政府機関による「対話の場」が今こそ求められている。そして、北朝鮮に対して非核を求める日本自身が「核抑止力に依存しない安全保障政策」に転換することがやはり必要なのである。

(鈴木)

 

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