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イスラエルの核戦力一覧

【概要】
イスラエルは核不拡散条約(NPT)体制の枠外で核兵器保有を続ける国の一つである。核兵器製造は1960年代に始まったとみられているが、同国は一貫して核兵器保有について否定も肯定もしない「曖昧政策」をとり続けている。
 
イスラエルの核戦力に関する情報は極めて限定的であるが、2種類の地上発射弾道ミサイル、航空機搭載爆弾を保有していると見られている。さらに、国外に展開する潜水艦(脚注 2) 参照)において核巡航ミサイルを搭載している可能性もかねてより指摘されている(Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2020)。
 
2020年初頭時点でイスラエルは約300kgの高濃縮ウラン(HEU)と約980 kgの兵器級プルトニウムを保有していると推定される(International Panel on Fissile Material 2021)。核爆弾一発の製造には(技術的レベルなどにも影響されるが)12–18kgのHEUあるいは4–6kgのプルトニウムが必要であることから、イスラエルは180–270発の核爆弾に相当する核分裂性物質を保有していることになる。しかし技術力が高ければ、2–4kgのプルトニウムで核爆弾1発の製造が可能とされており(Union of Concerned Scientists 2009)、その場合、イスラエルが保有する核分裂性物質は、核弾頭およそ262–515発に相当する量となる。
 
Kristensen & Kordaは、核分裂性物質の生産量、核搭載可能な運搬手段に関する情報等を勘案し、2021年4月現在の核弾頭総数を90発と見積もっている(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2021)。これには上述の潜水艦発射の核巡航ミサイル10発が含まれている。なお、核弾頭と地上発射ミサイルとは分離して保管していると見られている。
 
中東においては、核兵器もその他の大量破壊兵器も存在しない「中東非大量破壊兵器地帯」の設立が提唱されている。しかしイスラエルは中東における平和と安定の実現が先と主張し、地帯設立に向けた動きに否定的である。2019年11月にニューヨーク国連本部で開催された地帯設立に向けた初の国際会議にも米国と並んで欠席した。なお、同会議の2回目の開催が2020年11月に予定されていたが、新型コロナの感染拡大を受けて2021年に延期されている。

  赤数字は昨年から変更があった弾頭数です。 2021.6.1現在
●核弾頭保有数      90    
●運搬手段 1), 2)          
名称核弾頭数射程(km)ペイロード(kg)配備年備考
地上発射弾道ミサイル
ジェリコ2251,500-1,800750-1,00019903)
ジェリコ325<4,0001,000-1,300開発中4)
地上発射弾道ミサイル合計50
航空機搭載爆弾

5)
搭載機:F16A/B/C/D/I301,6005,40019806)
航空機搭載爆弾合計30
潜水艦発射巡航
ミサイル
(10)

 

【脚注】                                                                                  
1)核弾頭数、運搬手段の射程、ペイロード、配備年はKile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2020を参考にした。

2)イスラエルはドイツ製のドルフィン級攻撃潜水艦を計6隻配備する予定である。5隻がすでにイスラエルに納入されている(NTI 2021)。5隻のうち3隻は旧型のドルフィン級で、2隻は改良型のドルフィンII級である(NTI 2021)。

3)準中距離弾道ミサイル(MRBM)。固体燃料、二段式、道路移動式。2026年までに段階的にジェリコ3に置き換わると見られている(Missile Defense Project 2018-1)。

4)中距離弾道ミサイル(IRBM)。固体燃料、三段式、道路・線路移動式(Missile Defense Project 2018)。2011年から15年の間に運用開始された(Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2020)。

5)F15I航空機(ストライク・イーグル。イスラエル名:ラアム。25機)の一部も核任務を持つ可能性が指摘されている(Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2020)。

6)98機を保有。その一部が核任務を持つとみられる(Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2020)。なお、イスラエルにおいては、米国製の最新鋭のステルス戦闘機F35をF16に代替する計画が進行している。計50機が2024年までに納入予定であり、さらに25機の購入が検討されている(Center for Arms Control and Non-Proliferation 2020)。                                                                                                  
 
【出典】
Center for Arms Control and Non-Proliferation 2020: “Israel’s Nuclear Inventory,” March 2020, https://armscontrolcenter.org/wp-content/uploads/2020/03/Israel.pdf (2021.4.15アクセス)
 
International Panel on Fissile Materials 2021: “Countries Israel,” 29 April 2021, http://fissilematerials.org/countries/israel.html (2021.5.10アクセス)
 
Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2020: Israeli nuclear forces,” SIPRI Yearbook 2020 Armaments, Disarmament and International Security, Oxford University Press 2020, pp.375-377.
 
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2021: “Status of World Nuclear Forces,” Federation of American Scientists. http://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/ (2021.4.15アクセス)
 
Missile Defense Project 2018: “Jericho 2,” Missile Threat, Center for Strategic and International Studies, May 12, 2017, last modified June 15, 2018, https://missilethreat.csis.org/missile/jericho-2/ (2021.4.15アクセス)
 
NTI 2021: “Israel Submarine Capabilities, “ 18 February 2021, https://www.nti.org/analysis/articles/israel-submarine-capabilities/ (2021.4.15アクセス)
 
Union of Concerned Scientists 2009: “Weapon Materials Basics (2009),” http://www.ucsusa.org/nuclear-weapons/nuclear-terrorism/fissile-materials-basics#.WUTTElFpyM8(2021.4.13アクセス)

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