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中国の核戦力一覧

【概要】       
2019年7月、中国は4年ぶりに国防、軍事に関するいわゆる「白書」を発表した。それによって、従来の核兵器に関する宣言的政策が不変であることを表明した(State Council Information Office of PRC, 2019)。無条件の先行不使用、非核保有国や非核兵器地帯に対しては無条件に核攻撃も核攻撃の威嚇もしないこと、他国との核軍備競争はしないこと、などである。中国の軍人から先行不使用政策に反する発言があるとして、この政策に疑問を呈する議論があったが、2020年の米国防総省の議会報告(Office of the Secretary of Defense 2020)は政策に変化はないとしている。しかし、同報告書は、中国は平時において核弾頭をミサイルと切り離して中央弾薬庫に貯蔵しているという、先行不使用の証とされてきた運用に変化の兆しがあると指摘した。それに対して研究者たちは、詳細な分析をもって、そのように推測する根拠はないと反論をしている(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。
 
中国の核戦力についての公的な発表がなく透明性が問題視されている。研究者の調査では、中国は、核不拡散条約(NPT)加盟核兵器国の中で唯一、継続的に弾頭数を増やしている国である。2020年に推定弾頭数がフランスを上回り、米国、ロシアに次ぐ3番目の核保有国となった。増加は続いている。同じ著者による弾頭数の推定が、2015年8月に250から260に、2017年4月に270、2018年4月に280、2019年4月に290、2020年4月に320、2021年3月に350へと増加した(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2021)。具体的には、DF-5の多弾頭化、DF41多弾頭大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備、DF31移動式ICBMの強化、JL-2潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の増強、などが弾頭数増加の理由である(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。なお、前記の2020年米国防総省報告では、中国の核弾頭総数を「低い200台」と見積っているが、ここでは350と見積っている。このくい違いについて、クリステンセンらは、国防総省はすでに作戦配備されている弾頭のみを数えているのに対して、自分たちは兵器として存在するもの、あるいは運用準備状態にあるものも含めて数えているために生じている差であり、それを考慮すると両者の推測は概ね一致していると説明している(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。
 
これらの傾向は、決して容認できることではないが、上述の宣言的政策と合致するものとして理解することができる。先行不使用政策に立脚すれば、例えば米国からの先行する核攻撃があった時にも核兵器が生き残る可能性を高めるために、移動型の陸上ミサイルの道路外での機動性を向上させたり、潜水艦発射型ミサイルを強化したりする必要がある。また、生き残った核兵器が米国のミサイル防衛で撃ち落とされる可能性を下げるために、多弾頭ミサイルを増やす必要がある。
 
表の弾頭数(すべて概数)は、基本的に文献(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)によっている。現在、米本土に届く長距離弾道ミサイルの弾頭数は、約190発と推定される(DF-5A、DF-5B、DF-31A、DF-31AG、DF-41)。中国の核兵器関連予算の推測は困難であるが、従来総国防予算の5%程度を費やしてきたことから推定すると、2019年における核兵器関連軍事費は89億ドル~134億ドルと推定される(Zhang, Hui 2020)。

  赤数字は昨年から変更があった弾頭数です。 2021.6.1現在
名称NATO名射程(km)核弾頭の威力(キロトン)核弾頭数備考
作戦配備01)
作戦外貯蔵
地上配備弾道ミサイル
東風 DF-4CSS-35,500+3,30062)
東風 DF-5ACSS-4 M213,000+4,000-5,000103)
東風 DF-5BCSS-4 M313,000+3×200-300503)
東風 DF-15CSS-6600??4)
東風 DF-21CSS-52,150200-300405)
東風 DF-26?4,000+200-300206)
東風 DF-31CSS-10 M17,200200-30067)
東風 DF-31ACSS-10 M211,200200-300368)
東風 DF-31AGCSS-10 M3?11,200200-300369)
東風 DF-41CSS-X-2012,0003×200-3005410)
地上配備弾道ミサイル小計258
SLBM
巨浪 JL-2CSS-NX-147,000+200-300 ?7211)
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)小計7212)
航空機搭載
核爆弾2013)
空中発射弾道ミサイル????14)
航空機搭載小計20
作戦外貯蔵合計350
全保有数350

 

【脚注】       
1)核弾頭はミサイルや航空機と別に貯蔵されているので、作戦配備ではなくて作戦外貯蔵と見なす(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。潜水艦発射弾道ミサイルに関しても、常時潜水抑止パトロール体制が確認されていないので同じ扱いとした(脚注11を参照)。

2)東風はドンフォンと読む。残っている最後の移動型液体燃料ミサイル。全て、または一部がトンネル内に配備。米国情報機関によれば単弾頭。80年に配備。インド、ロシアの一部、グアムに届く(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。DF-31に置き換えられつつあり、近く退役する見通し。 

3)東風はドンフォンと読む。液体燃料。サイロ型。単弾頭のDF-5Aと多弾頭のDF-5Bがある。昨年の本データでは多弾頭は3MIRVと計算していたが、最新の米国防総省報告書(Office of the Secretary of Defense 2020)では、5MIRVとしている。ここでは再計算をして、DF-5Aを10基(10弾頭)とし、DF-5Bを10基(50弾頭)とした。

4)配備されているとすれば中国唯一の短距離核ミサイルである。米国CIAが、1990年8月の核実験が短距離弾道ミサイル用の弾頭開発の可能性があるとし、1993年9月には翌年に配備が始まると推定した。DF-15は大部分、核・非核両用と考えられる。弾頭数について推定できない(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020) 。 

5)東風はドンフォンと読む。旧式の射程は1,750kmであったが、新式の射程は2150kmと推定される(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。中国の中距離ミサイルの主力。固体燃料、2段式。道路移動型。米国情報機関によれば単弾頭。1981年に配備。通常弾頭(対地および対艦)のDF-21もあり、昨年の評価では、通常弾頭と同じように交換弾頭があるとしたが、核弾頭にはミサイル数以上の弾頭はないとの評価になった(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。 

6)東風はドンフォンと読む。2016年の軍事パレードに16基登場。2017年にも登場し、注目を集めた。射程4,000kmの道路移動型ミサイルで、グアムを射程内に収める。命中精度が高く、核・非核両用と考えられ、通常弾頭による米空母攻撃の可能性も論じられ、「空母キラー」との異名がある(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019)。国防総省の報告書は核能力を明記している(Office of the Secretary of Defense 2019)。増強されつつあるミサイルである。発射台は100基と見積られるが核能力は20基とし、交換弾頭は通常兵器と推定した(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。 

7)東風はドンフォンと読む。固体燃料、3段式。道路移動型。2006年初期配備。米国情報機関によれば単弾頭。DF-31AGに置き換えらえつつある。米国防総省は射程を7,200kmと推定(Office of the Secretary of Defense 2020)。 

8)東風はドンフォンと読む。固体燃料、3段式。移動型、道路移動とレール移動の両方がある(Gertz, Bill 2016)。2007年配備。米国情報機関によれば単弾頭。単弾頭だが、ミサイル防衛に備えておとりなどを伴うと考えられる。文献によると、6-10弾頭の多弾頭化が可能であり、2016年4月19日、道路移動式発射台から2弾頭の発射テストが行われたことを米国防総省が確認した(Gertz, Bill 2016)。米国防総省は射程を11,200kmと推定(Office of the Secretary of Defense 2020)。1旅団12基が配備され、現在3旅団が存在していると推定(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。 

9)東風はドンフォンと読む。2017年人民解放軍90年パレードに改良型の移動式起立型発射台が登場し、新型ICBMとの推測がでた。国防総省の2019年報告には核兵器能力として記述している(Office of the Secretary of Defense 2019)。改良発射台だが搭載ミサイル数は同数と推定(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019)(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。

10)東風はドンフォンと読む。開発中の移動型あるいはサイロ型。1997年に米国防総省が報告していたが、その後記述がなかった。2014年に復活、開発中と記述され、2019年10月のパレードに18基が登場した。多弾頭の可能性が述べられている(Office of the Secretary of Defense 2019)。3MIRVと推定(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。固体燃料と考えられる(Gertz, Bill 2016)。 

11)巨浪はジュランと読む。単弾頭。DF-31の変形。晋(ジン)級(094型)に搭載するSLBM。12発射管。発射テストに失敗していたが、2013年に発射テストに成功。米情報機関は、2013-14年に初期作戦能力を達成すると予想していた(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。米国防総省は射程を7,200kmとしている(Office of the Secretary of Defense 2020)。この射程距離だと太平洋の遠海に進出しなければ、米大陸の主要都市すべてを射程内に収めることはできない。核弾頭は全潜水艦のミサイルに準備されていると考えられる。

12)6隻の晋(ジン)級戦略原子力潜水艦に搭載される。6隻が現役しているが、4隻が作戦配備。(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。しかし、戦略抑止パトロールが始まっているか否かははっきりしない。平時パトロールは、中国の基本ドクトリンの変更を必要とするとともに、新しい通信システム、指揮・統制の技術も必要と考えられる(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019)(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。 

13)爆撃機「轟(ホン)」H-6(NATO名:B-6)100–120機のうちの20機が核任務を持つと推定。戦闘半径3,100km。1965年配備。中国の爆撃機の核任務ははっきりしなかったが、米国防総省の2019年報告書は、高性能化したH-6Kを核・非核両用爆撃機と記載している。(Office of the Secretary of Defense 2019)。 
14)開発中。H-6爆撃機の改良型H-6Nに搭載予定とされる。米国防総省はCH-AS-X-13と仮に名付けている (Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020) 。 
          
【出典】
Gertz, Bill 2016: “China Flight Tests New Multiple-Warhead Missile,” The Washington Free Beacon, April 19, 2016, http://freebeacon.com/national-security/china-flight-tests-multiple-warhead-missile/  (2021.5.2アクセス) 
 
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019: “Chinese Nuclear Forces, 2019,” Bulletin of the Atomic Scientists, Vol. 75, #4, 2019, https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00963402.2019.1628511?needAccess=true (2021.5.2アクセス) 
 
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020: “Chinese Nuclear Forces, 2020,” Bulletin of the Atomic Scientists, Vol. 76, #6, 2020, https://thebulletin.org/premium/2020-12/nuclear-notebook-chinese-nuclear-forces-2020/(2021.5.2アクセス)
 
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2021: “Status of World Nuclear Forces,” Federation of American Scientists, updated March 2021, https://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/(2021.5.1アクセス) 
 
Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015: “Chinese Nuclear Forces, 2015,” Bulletin of the Atomic Scientists, Vol. 71, #4, 2015, https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/0096340215591247 (2021.5.2アクセス) 
 
Office of the Secretary of Defense 2019: “Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2019,” May 2, 2019. https://media.defense.gov/2019/May/02/2002127082/-1/-1/1/2019_CHINA_MILITARY_POWER_REPORT.pdf (2021.5.2アクセス)
 
Office of the Secretary of Defense 2020: “Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2020,” Aug 21, 2020, https://media.defense.gov/2020/Sep/01/2002488689/-1/-1/1/2020-DOD-CHINA-MILITARY-POWER-REPORT-FINAL.PDF (2021.5.2アクセス)
 
State Council of Information Office of PRC: “China’s National Defense in the New Era,” July 2019, http://english.www.gov.cn/archive/whitepaper/201907/24/content_WS5d3941ddc6d08408f502283d.html(2021.5.01アクセス) 
 
Zhang, Hui 2020: Chapter ‘China’, “Assuring Destruction Forever: 2020 edition,” edited by Allison Pytlak & Ray Acheson, June 2020, Reaching Critical Will. https://reachingcriticalwill.org/images/documents/Publications/modernization/assuring-destruction-forever-2020v2.pdf(2021.5.2アクセス)

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