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英国の核戦力一覧

【概要】
英国は核不拡散条約(NPT)下の核兵器国のなかで最も核保有量が少ない。ただ一種類の核兵器、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)・トライデントのみを保有している。
 
2021年3月16日、英国のジョンソン政権は、核戦力の大幅な増強を含む安全保障・外交政策の統合見直し「競争時代におけるグローバルな英国――安全保障、防衛、開発および外交政策の統合見直し」(Government of the U.K. 2021)を発表した。この政策見直しにより、以下に述べるように、2020年代半ばまでに弾頭数を180以下に削減するとしていた方針を覆し、弾頭数の上限を260にまで引き上げた。これは、これまでの削減方針を逆転させる政策転換であり、NPTでの合意にも反する。今後、国際的に大きな議論と影響を生み出すであろう。
 
2010年5月26日、英政府は唯一の保有核兵器であるSLBMトライデント用の備蓄弾頭数は将来225発を超えず、また、作戦に供する核弾頭数は160発以下であると議会に対して発表した(Hague, William 2010)。2010年10月19日、英国「戦略的防衛及び安全保障の見直し(SDSR)」は225発という上限を再確認するとともに、2020年代中頃までに弾頭数は180以下に削減すると述べた(Government of the U.K. 2010)。2015年、議会で作戦に供される核弾頭は120発に削減した(2015年1月20日)と明らかにされたが、2015年NPT再検討会議に提出した政府報告書においても、これが確認された(Government of the U.K. 2015-1)。また、同年11月、政府の議会への報告書(Government of the U.K. 2015-2)においても同内容を確認するとともに、常時、少なくとも1隻の潜水艦を抑止パトロールに就役させるCASD(Continuous At Sea Deterrent=連続航行抑止力)を政策とした。

ところが、今回のジョンソン政権の「統合見直し」に関する説明の経過において、180以下への削減というのは目標に過ぎず、弾頭数の上限は225発という設定に今日まで変化はなかったことが明らかになった(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2021)。なお、ジョンソン政権は弾頭数を増加させるが。CASD体制は維持するとしている(Government of the U.K. 2021)。

最新の核弾頭の推定は、上記のような経過をふまえて、以前の評価195発ではなく、英政府が上限とした225発に引き上げた(Kristensen, Hans M. & Koda, Matt 2021)。
 
英国は唯一の保有核兵器を次世代版へと更新中である。次世代戦略ミサイル原潜「ドレッドノート」は2011年に設計に入ったが、建造は遅延している。2019年、英国防省は2030年代初期に1隻目が就役予定と述べていたが、今回の政策見直しにおいても、同じ方針が書かれている(Government of the U.K. 2021)。ドレッドノート級に搭載される核弾頭を米国と共同で新規開発中であることが米国で先に明らかにされ、2020年2月25日、ウォレス英国防長官がそれを認めた(Chuter, Andrew 2020)。
 
現在のトライデント運用費用は年間約20億ポンド(約2,900億円)、代替原潜の建造費用は310億ポンド(約4.5兆円)、さらに2030年初期まで現在の原潜を維持する費用は12~14億ポンドと見積もられる(Fenton, Janet 2018)。また、核兵器に費やす総費用について、2019年~2070年までに1,720億ポンド(約26兆円)という試算がある(Fenton, Janet 2020)。

 

赤数字は昨年から変更があった弾頭数です。

2021.6.1現在
名称核弾頭の威力(キロトン)核弾頭数備考
作戦配備
SLBM
1)
トライデントⅡ D5 2)1001203)
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM) 小計120
作戦配備合計120
作戦外貯蔵
SLBM
105
作戦外貯蔵合計105
全保有数225

 

【脚注】   
1)バンガード級()戦略原潜4隻に搭載。それぞれに16基の米国製のトライデントD-5)ミサイルを装備できるが、1隻当たり8基以下に削減するとともに、1隻に搭載する弾頭数を48発から40発に削減(Government of the U.K. 2015-1および2015-2)。常時1隻が海洋パトロールしている抑止態勢(CASD=Continuous At-Sea Deterrent、連続航行抑止)をとっている(Government of the U.K. 2015-2およびGovernment of the U.K. 2021)。1ミサイル当り平均5弾頭の装備となる。

【バンガード級】英国製の最新の戦略原子力潜水艦で4隻ある。1番艦バンガードは199412月、2番艦ビクトリアスは199512月、3番艦ビジラントは19986月、最後の4番艦ベンジアンスは20012月に作戦配備された。設計上の寿命は25年とされる(Ainslie, John 2016)。したがって2020年に1番艦の寿命がくる。

2)D-5は米国製、射程7,400km。英国は50基を維持している。3隻分48基に十分な数である。1基のD-5は最大12個の弾頭を搭載できるが、上記のように現状では平均5発を搭載している。弾頭は米国のW76と同じであるが、部品の高性能火薬部分は英国製であり、他の重要部品は米国製、全体として両国の部品で組み立てられている。20166月に4年振りに潜水艦からのD-5発射実験が米フロリダ州沖で行われたが失敗した。失敗情報は隠蔽されていたが20171月になって暴露され、政治問題化した(BBC 2017)。

3)パトロール中の原潜は40発の弾頭を搭載しているので、その3隻分(120発)が作戦配備と数えられている。これは2010年の発表通りの削減が5年で達成したことを意味する。

【出典】
Ainslie, John 2016: “Trident Shambles,” Scottish CND, March 2016 http://www.banthebomb.org/images/stories/pdfs/shambles.pdf (2021.5.3アクセス)

BBC 2017, “Trident: Defense Secretary refuses to give test missiles details,” 23 January 2017 http://www.bbc.com/news/uk-38714047 (2021.5.3アクセス) 

Chuter, Andrew 2020: “Britain Confirms new nuclear warhead project after US officials spill the beans,” Defense News, Feb. 25, 2020 https://www.defensenews.com/global/europe/2020/02/25/britain-confirms-new-nuclear-warhead-project-after-us-officials-spill-the-beans/ (2021,5.3アクセス) 

Fenton, Janet 2018, Chapter ‘United Kingdom,’ “Assuring Destruction Forever: 2018 EDITION,” edited by Allison Pytlak, April 2018, Reaching Critical Will.http://www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Publications/modernization/assuring-destruction-forever-2018.pdf (2021.5.3アクセス)   

Fenton, Janet 2020: Chapter ‘United Kingdom,’ “Assuring Destruction Forever: 2020 EDITION,” edited by Allison Pytlak & Ray Acheson, June 2020, Reaching Critical Will https://reachingcriticalwill.org/images/documents/Publications/modernization/assuring-destruction-forever-2020v2.pdf 2021.5.3アクセス)

Government of the UK 2010: “Securing Britain in an Age of Uncertainty: The Strategic Defence and Security Review,” October, 2010 https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/62482/strategic-defence-security-review.pdf (2021.5.3アクセス)。抄訳「不確定な時代における英国の安全:戦略防衛・安全保障見直し」、イアブック:核軍縮・平和2011(監修:梅林宏道、NPO法人ピースデポ)pp.299-302

Government of the U.K. 2015-1: “National report on the implementation of actions 5, 20, 21 of the action plan of the 2010 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons; Report submitted by the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland ” (NPT/CONF.2015/29) 22 April 2015 (2021.5.3アクセス)

Government of the U.K.2015-2: “National Security Strategy and Strategic Defence and Security Review 2015,” November 2015 https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/478936/52309_Cm_9161_NSS_SD_Review_PRINT_only.pdf (2021.5.3アクセス) 

Government of the U.K. 2021: “Global Britain in a competitive age – The integrated Review of Security, Defence, Development and Foreign Policy,” March 2021 https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/975077/Global_Britain_in_a_Competitive_Age-_the_Integrated_Review_of_Security__Defence__Development_and_Foreign_Policy.pdf 2021.5.3アクセス)

Hague, William 2010: “Statement on foreign affairs and defense.” Daily Hansard, Col. 181, May 26, 2010. House of Commons Hansard Debates for 26 May 2010 (pt 0005) (parliament.uk) ここから日付で検索。(2021.5.19アクセス)

Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2021: “United Kingdom nuclear weapons, 2021,” Bulletin of the Atomic Scientists, VOL 77, No. 3, 153-158, 2021Nuclear Notebook: How many nuclear weapons does the United Kingdom have in 2021? – Bulletin of the Atomic Scientists (thebulletin.org) (2021.5.19アクセス)

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