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核の終わりの始まりに 「地球人の世紀へ」(社説)

 

 爆心地に近い広島平和記念資料館に、核実験への憤りを刻み込んだ一角がある。

 一九六八年九月九日、ムルロアでのフランスの第二回水爆実験いらい、歴代広島市長が各国の核実験のたびに打った抗議電報を写したプレートである。先月二十九日の中国の実験で五百四十九枚になった。これでも、半世紀にわたって続いてきた核実験の三分の一に満たない。

 この異様な展示物に早く終止符を打ちたい。その願いを託した包括的核実験禁止条約(CTBT)は、ジュネーブの軍縮会議で大詰めを迎えながら、まとまらなかった。来月の国連総会で決着するのを期待する以外にない。

 ○廃絶へ国際連帯を
 この条約が発効したとしても、それが「核廃絶」につながるとは限らない。特定の国だけが核兵器をもったままの世界を恒常化させるおそれは十分にある。

 成立に向かうCTBTを、「核の終わりの始まり」と位置づけて、核のない世界をめざす具体的な道筋を描くときだ。

 核実験の全面禁止へ向かわせたのは、冷戦終結と核拡散の危機という国際環境だったが、世論が条約交渉を誘導した。

 この機運を加速し、核兵器そのものの存在を問い直す国際世論を醸し出していかなければならない。

 その意味で、国際的な非政府組織が国連を動かして、国際司法裁判所(ICJ)に「核兵器が違法かどうか」の判断を求めたのは、時宜にかなうことだった。

 ICJの「勧告的意見」は、どんな場合でも核使用は違法だと明確にいっていない点で不満は残る。けれども、「一般的には、人道に関する法の原則に反する」と述べて、核の使用に厳しい制約をかぶせた。これは、核軍縮を促す大きな力になる。

 このような流れのなかで、CTBT後を構想する動きが出てきている。

 「核廃絶への具体的な軍縮措置を考える」をテーマに、今月初め広島で開かれた国際シンポジウムでは、米国の民間研究機関スチムソンセンターのマイケル・クレポン所長が「これから五十年間、核実験のない世界、(広島・長崎から)百年間、核兵器が使われることのない世界に向けて、共に取り組もう」と訴えた。

 最初の原爆投下を決めた陸軍長官の名を冠するスチムソンセンターは、核廃絶への具体的なシナリオを提言している。

 核保有五カ国の核弾頭数を各国数百発ずつに抑える段階や、すべての核弾頭を解体する段階を経て、部品や核物質を国際機関の監視下に置き、核廃絶を達成する、という筋書きだ。締め切り時間を設定しない段階的方式だが、核抑止思想を超える構想として評価したい。

 オーストラリア政府が世界の軍縮専門家を集めて設置した「核兵器の廃絶のためのキャンベラ委員会」は今月、報告書をまとめた。核廃絶への過程を段階的に検証しながら削減する、着実な道を描いている。

 ○時間割り伴う道筋
 「核廃絶」に期限を設けることには議論がある。インドは期限の明記にこだわり軍縮会議でのCTBT成立をつぶした。

 私たちは、CTBTと切り離して、あえて時間割りを伴った道筋を提唱したい。「核兵器のない世界」の目標を二〇二〇年代に置いた試案をつくってみた(別表)。

 核軍縮の分野では、米国とロシアが調印済みの第二次戦略兵器削減条約(START2)で、弾頭数を三千―三千五百に減らす計画だ。ロシア議会の批准手続きを促進して、早期の発効を望みたい。

 さらにSTART3を経て、フランス、英国、中国も巻き込んだ大幅な核軍縮を来世紀初頭に実現する。核廃絶までの過程では、国連安全保障理事会のような国際機関による共同管理体制が必要だろう。

 原子力の知識は消しようがない。核兵器を封じるには原料を管理するのが一番だ。目下、原発や解体核兵器から出るプルトニウムの国際管理体制が協議されている。

 非核地帯から接近するのも有力な手段だ。すでにアフリカ、東南アジアでも非核地帯条約が採択され、発効を待つ。

 二十一世紀初めには、朝鮮半島や日本を含む北東アジア、インドとパキスタンがにらみ合う南西アジア、アラブ諸国とイスラエルが相対する中東などに拡大したい。核抑止論からの脱却と相互信頼醸成の循環をつくるのが、実現へのかぎとなる。

 核兵器を明確に「違法」とするには、禁止条約があればいい。しかし残念ながら、まだそれを可能にする国際状況ではない。いま大切なのは、核兵器が存在しにくい条約をひとつずつ整備していくことだ。

 CTBTに次いで、兵器用核物質生産禁止(カットオフ)条約を成立させたい。

 核で先制攻撃しない条約や、非核保有国に核を向けない消極的安全保障条約なども核の無意味化につながるだろう。

 ○地球安保が大切だ
 半世紀を超えた被爆者にとって、さらに何十年か後の廃絶など、はがゆい気持ちだろう。私たちもそう思う。だがその一方で、核廃絶は夢想にすぎないという意見も根強いのだ。現実に目を据え、しかも現実に流されず、歩みを進めるしかない。

 核兵器を安全に解体し、管理していくためには、それを作り出してきたのと同じくらいの時間と資金が要りそうだ。

 国境を超えた地球の安全保障という観点から、核のない世界、兵器の少ない社会を求めて、連帯していきたい。

 広島平和記念資料館に五百五十枚目の核実験抗議プレートが追加されることなく、一日もはやく、核廃絶を祝う電文が刻まれる日が訪れますように。

 

<こうして「核のない世界」へ>

核軍縮

核物質管理

非核地帯

条約

現在

米ロ各6000発
(戦略核)

国際原子力機関による
保障措置

南極
中南米
南太平洋

部分的核実験禁止、
核不拡散(NPT)

2000年まで

各3000発に削減

平和利用・解体兵器の
核分裂性物質の国際管理

アフリカ
東南アジア

包括的核実験禁止(CTBT)、
兵器用核物質生産禁止

2001-2010年

五核保有国が
各100発に削減

すべての核分裂性物質の
国際管理

北東アジア
南西アジア
中東

先制不使用、
消極的安全保障(NSA)

2011-2020年

国連安保理へ移管

国連以外
の全世界

2021-2030年

廃絶

非核世界

核兵器全面禁止

 

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