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核態勢見直し(NPR)報告書
要約部分全訳

2010年4月 国防総省

 

 核態勢見直し報告書
 <目次>
 ● 前書き
 ● 要約(以下に全訳)
 ● はじめに
 ● 変化した、今も変化しつつある核安全保障環境
 ● 核拡散と核テロリズムを防止する
 ● 核兵器の役割を縮小する
 ● 削減された核戦力のもとで戦略的抑止と安定を維持する
 ● 地域的抑止力を強化し同盟国とパートナーに改めて安心を提供する
 ● 安心、安全で有効な保有核兵器を維持する
 ● 将来を見据える:核兵器のない世界に向かって

 

要約(全訳)

  2009年4月のプラハでの演説において、オバマ大統領は21世紀における核の危険に焦点を当て、これら深刻で増大しつつある脅威に打ち勝つために、合衆国は核兵器のない世界の平和と安全を追求すると宣言した。大統領はこのような野心的な目標はすぐには―その言葉を借りれば、自らの生きている間には―達成できないであろうことを認めた。しかし大統領はこの目標に向けて、核兵器の数と合衆国の国家安全保障戦略における核兵器の役割の縮小を含む具体的な措置をとるとの決意を明らかにした。同時に大統領は、核兵器が存在する限り、合衆国は、潜在的敵国を抑止するとともに同盟国及び安全保障パートナーに合衆国の安全保障コミットメントが信頼しうるとの安心を提供するため、安全、安心で効果的な保有核兵器を維持すると誓約した。

2010「核態勢見直し(NPR)」は、核の危険を減少しつつ核兵器のない世界という目標を追求することと同時に、より広範な合衆国の安全保障上の利益を増進するための大統領の政策課題を促進する政権の方針の大枠を示すものである。NPRには、大統領の安全保障における優先課題と、2010「4年毎の国防見直し」(QDR)によって示された、それらを支える戦略目標が反映されている。

本NPR報告書は、国際安全保障環境の基本的な変化を述べた後、我々の核兵器政策及び態勢における5つの主要目標に焦点を当てる:

1.核拡散及び核テロリズムを防止する。
2.合衆国の国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小する。
3.縮小された核戦力によって戦略的抑止及び安定を維持する。
4.地域的な抑止を強化し、同盟国及びパートナーに改めて安心を提供する。
5.安全かつ安心で、効果的な保有核兵器を引き続き保持する。

NPRの一義的焦点は今後5年から10年の間にとるべき措置に置かれているが、同時に、より長期的な核戦略及び態勢に向かう道筋もまた考慮されている。合衆国と同盟国、パートナーの安全を確保しつつ核の危険の縮小に向けて前進しつづけるためには、今後の政権交代によっても揺るぐことのない取り組みが求められる。したがって将来にわたって持続可能なコンセンサスを形成することが緊要である。

 

変化した、今も変化しつつある、国際安全保障環境

  冷戦終結後、国際安全保障環境は劇的に変化した。世界的核戦争の脅威は遠のいた。しかし、核攻撃の危険は高まった。

  オバマ大統領が明らかにしたように、今日における最も差し迫った、極限的な危険は核テロリズムである。アルカイダとその同盟者の過激派たちは核兵器を欲している。1度彼らが核兵器を手に入れたならば、彼らはそれらを使うであろうと考えておかねばならない。世界中に存在する核物質は窃盗や強奪に対して脆弱であり、機微な機器や技術は核の闇市場をとおして入手可能である。その結果、テロリストが核兵器を作るために必要な物を手にする危険は深刻なレベルにまで高まっている。

  もう一つの差し迫った脅威は核拡散である。米国及び同盟国とパートナー、そして幅広い国際社会と対立関係にある国家が新たに核兵器を入手する可能性がある。北朝鮮とイランは、核への野望を果たすために、不拡散義務に違反し、国連安全保障理事会の要求を無視して、ミサイルによる運搬能力を追求しつつ、彼らが作り出した国際的危機を外交的に解決するための諸努力に抵抗してきた。彼らの挑発的行動は、周辺地域に不安定をもたらし、近隣諸国が自ら核抑止力を選択するような圧力をうみだす。北朝鮮、イランその他による不拡散軌範の継続的な不履行は、核不拡散条約(NPT)を弱体化させ、合衆国及び国際社会の安全に悪影響をもたらすであろう。

核テロリズムと核拡散という喫緊の増大する脅威に直面する一方で、合衆国は現存する核兵器国、とりわけロシアと中国との戦略的関係の安定を確保するという、慣れ親しんだ課題に取り組まねばならない。ロシアは、合衆国と拮抗する核兵器能力を持つ唯一の国である。しかし、冷戦時に比して、米ロ関係は根本的に変化した。2国間の政策上の相違は依然として存在し、ロシアは強力な核戦力の近代化を継続している。しかし、ロシアと合衆国はもはや敵同志ではなく、軍事対決の可能性は劇的に減少した。両国は核テロリズムと核拡散防止を含む、共通の利益に資する分野における強力を強めている。

  合衆国と中国は、相互依存を深めており、大量破壊兵器(WMD)の拡散と対テロリズムといったグローバルな安全保障課題への対処における共通の責任を拡大しつつある。その一方で、中国に隣接するアジア諸国と合衆国は、保有核兵器の量的・質的近代化を含む中国の軍近代化に引き続き懸念を抱いている。中国の保有核兵器数はロシア及び合衆国のそれに比べてはるかに少ない。しかし、核計画の速度と範囲、さらにはそれらの指針となる戦略やドクトリンといった、中国の核計画をとりまく透明性が欠如しているため、中国の将来の戦略的意図について疑問が持ち上がっている。

  以上のような核の脅威における環境の変化によって、合衆国の核への関心と戦略目標の優先順位は変わった。今後数年間、我々は新しい核能力保有国の出現とテロリスト集団による核爆弾もしくは核爆弾製造用物質の入手の防止を最優先課題としなければならない。同時に我々はロシア、中国との戦略的関係の安定を維持するとともに、新たな核武装国の登場に対抗することによって、合衆国と同盟国及びパートナーを核の脅威もしくは脅迫から守るとともに彼ら自身の核抑止力追求の誘因を減少させなければならない。

 

米国の核兵器政策及び戦力態勢への影響

  我々が、2極軍事対決の冷戦時代から引き継いだ膨大な保有核兵器は、核兵器を志向する、自滅的なテロリストや非友好的な国家体制による挑戦に対処するには適していない。従って、我々の核兵器政策と態勢は、核テロリズムと核拡散の防止という最優先課題に適したものへと再編されなければならない。

  これは、我々の核抑止力が時代遅れであるということを意味しない。事実、核兵器が存在する限り、合衆国は安全、安心で、効果的な核戦力を維持しつづけるであろう。これら核戦力は潜在的敵国を抑止し、世界中の同盟国及びパートナーに改めて安心を提供するための不可欠な役割を引き続き果たすであろう。

  しかし、合衆国の通常軍事能力の比類なき成長、ミサイル防衛における重要な進歩、そして冷戦時代の敵対関係の緩和を含む国際安全保障環境の根本的な変化の結果、上記の戦略目標は従来よりもはるかに少ないレベルの核戦力と、縮小された核兵器の役割によって達成することが可能である。したがって、我々は、伝統的な抑止及び安心の確保という目標を損なうことなく、最も差し迫った安全保障上の挑戦に合致するよう核兵器政策と核戦力態勢を形成することができる。

● 合衆国の核兵器の役割と数を縮小する―すなわち、核軍縮を前進させるというNPT第6条の下での義務に従う―ことによって、我々は不拡散レジームの再強化と世界中の核物質の保安を確立するための措置への参画をNPT加盟諸国に促しうる、より強い立場を確立することができる。

● 信頼性ある核抑止力の維持及びミサイル防衛、その他の通常軍事能力による地域的安全保障構造 (アーキテクチャー)の強化によって、我々は世界中の核兵器を持たない同盟国、パートナーに対する安全保障公約を再確認するとともに、それら諸国が自らの核抑止力を必要としないことを確認することができる。

● 合衆国の核兵器の寿命を延長するための確固とした備蓄核兵器管理プログラムを遂行することによって、新しい核兵器の開発や核実験なしに安全、安心、かつ効果的な抑止力を確保することができる。

● 老朽化した核施設の近代化と人的資源への投資によって、技術的もしくは地政学的な突発事態に備えるために確保する核兵器の数を著しく減少させることが可能となり、退役核弾頭の解体を加速し、他国の核活動に関する知見を改善することが可能となる。

● ロシア及び中国との戦略的関係の安定化と透明性、相互信頼の向上によって、核兵器のない世界へと進むための条件整備と核拡散及び核テロリズムに対処するための基盤を強化することが可能となる。

●国際問題における核兵器の重要性を減じ、核兵器廃絶へと段階的に進むことによって、核兵器保有国が存在する世界に住むことを宿命視する考えを逆転させ、将来の不確定さに備えるために自ら核オプションを手にしようと考える国々にとっての誘因を減少させることができる。

 

核拡散及び核テロリズムの防止

  核兵器のない世界に向けた努力における不可欠の要素として、合衆国はグローバルな核不拡散レジームの再建と強化のための国際的努力の拡大を主導する。そして2010NPRは、これを初めて 合衆国の核政策における最優先事項とする。我々が核の崖淵に近づいているとの危機感が高まっている。それは、今日の危険な傾向に歯止めをかけ、逆転させなければ、我々は、遠からず核武装国が着実に増加し、テロリストが核兵器を手にする世界に住むことになるだろうという危機感である。

  核拡散と核テロリズムを防止するための合衆国のアプローチには、3つの要素がある。第1に、我々は北朝鮮とイランの核の野望を挫き、IAEA保障措置とその遵守を強化し、核の闇取引を阻止し、拡散リスクの拡大無しに核の平和利用を促進することによって、NPTを中心とする不拡散レジームの強化を追求する。第2に、我々は世界中のすべての脆弱な核物質の保安を4年以内に確立するとしたオバマ大統領のイニシャティブの履行を加速する。

  そして第3に、我々は、新戦略兵器削減条約(新START)、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准と発効、そして検証可能な核分裂性物質生産禁止条約の交渉を含む、軍備管理の努力を遂行する。これらは、不拡散レジームと核物質の世界的保安を強化するために必要な措置に対する広範な国際的支持を勝ちとるための我々の力を強化する手段である。

  わが政府のイニシャティブには以下が含まれる:

● グローバル脅威削減イニシャティブ(GTRI)、 国際核物質防護及び協力プログラムの加速を含む世界中の脆弱核物質の保安確立のためのオバマ大統領のイニシャティブを積極的に推進する。これにはエネルギー省の2011会計年予算における核不拡散プログラムへの27億ドル支出増(25%以上)が含まれる。

● 不法な拡散ネットワークを寸断し、核物質の密輸を阻止するための国家的及び国際的能力を向上させ、テロリストの核爆発デバイスに使用され、もしくは使用されようとしている核物質の出所を特定する能力を向上させる、核鑑識能力の拡大を継続する。

● 核兵器のない世界へと前進し続けることを支援する、検証技術の研究強化や透明化措置の開発を含む包括的研究開発プログラムを立ち上げる。

● 大量破壊兵器を入手したり使用したりしようとするテロリストの努力を、手助け、資金援助、もしくは専門知識や安全地帯の提供によって、支援もしくは幇助するすべての国家、テロリスト集団もしくは他の非国家主体に対して、合衆国は全面的に責任追求を行うとの誓約を再確認する。

 

合衆国の核兵器の役割を縮小する

  過去数十年間にわたり、合衆国は国家安全保障及び軍事戦略における核兵器の役割を大幅に縮小してきた。しかし現段階においてさらになすべきこと、できること、がある。

  核兵器が存在する限り継続する合衆国の核兵器の基本的役割とは、合衆国、同盟国及びパートナーに対する核攻撃を抑止することである。 冷戦期においては、米国はソ連及びワルシャワ条約機構の同盟国による大規模な通常攻撃に対する反撃に核兵器を使用する権利を留保していた。さらに、合衆国が国際諸条約に従い自らの化学・生物兵器(CBW)を放棄した後においては合衆国、同盟国及びパートナーに対するCBW攻撃を抑止するために核兵器を使う権利を留保していた。

  冷戦終結後、戦略環境は根本的に変化した。合衆国の通常軍事力の圧倒的優位、ミサイル防衛能力のたえざる向上、CBWの効果を低減する能力の向上によって、非核―通常、化学、生物―攻撃の抑止における核兵器の役割は大幅に縮小された。合衆国は引き続き非核攻撃の抑止における核兵器の役割を縮小してゆくであろう。

  さらに合衆国は、NPTに加盟し不拡散義務を遵守している非核兵器国に対して、核兵器の使用も使用の威嚇も行わないことを宣言することによって、長期わたって続けてきた「消極的安全保証」を強化する用意がある。

  この安全保証の強化は、NPTを全面的に遵守することによって得られる安全保障上の利益を裏書きし、NPTに加盟する非核兵器国に対して、米国及び他の関係諸国とともに不拡散レジームの強化のために協働するよう促すことを意図するものである。

  このように安全保証を強化するにあたって、合衆国は安全保証を提供される資格を有しながら化学生物兵器を合衆国もしくは同盟国及びパートナーに対して使用する国は、通常兵器による熾烈な反撃を受ける可能性に直面するであろうこと、また国家指導者もしくは軍司令官を問わず、このような攻撃に責任を有するいかなる個人の責任も全面的に問われるであろうことを合衆国は断言する。生物兵器の破滅的な潜在能力とバイオ・テクノロジーの急速な進歩を考えたとき、生物兵器の脅威の進化と拡散、そしてその脅威に対する合衆国の対処能力が要求する場合には、合衆国は前記安全保証に必要な変更を加える権利を留保する。

  合衆国の核兵器は、ごく限られた非常事態において、上記の安全保証の対象から除外される国――すなわち核兵器を保有する国、及び核不拡散義務を遵守しない国――による合衆国もしくは同盟国及びパートナーに対する通常攻撃もしくは化学・生物兵器攻撃を抑止する役割を果たす可能性がある。したがって、合衆国は現段階においては、核攻撃の抑止を核兵器の唯一の目的とするという普遍的な政策を採用する用意はない。しかし、合衆国は、このような政策を安全に採用できるような条件を確立するために努力するであろう。

  しかし、これは新しい安全保証の対象とならない国々に対して核兵器を使用するという我々の意思の高まりを意味するものではない。強調したいのは、合衆国は、合衆国もしくは同盟国及びパートナーの死活的な利益を守るという極限的な状況においてのみ核兵器を使用するであろうということである。過去65年以上つづいてきた核兵器不使用の記録をさらに更新することこそが、合衆国とすべての国にとっての利益である。

したがって、NPRの主要な結論には以下が含まれる:

● 合衆国は、核兵器の唯一の目的を合衆国もしくは同盟国及びパートナーに対する核攻撃の抑止に限定することを目指しつつ、通常兵器能力の強化を継続し、非核攻撃の抑止における核兵器の役割を縮小しつづけるであろう。

● 合衆国は、合衆国もしくは同盟国及びパートナーの死活的な利益を守るという極限的な状況においてのみ核兵器の使用を考慮するであろう。

● 合衆国は、NPTに加盟し不拡散義務を遵守している非核兵器国に対しては、核兵器の使用もしくは使用の威嚇を行わないであろう。

 

削減された核戦力レベルにおいて戦略的抑止と安定を維持する

  冷戦終結以降、米国とロシアは作戦配備の戦略核兵器を約75%削減してきたが、いまだ両国とも抑止に必要とする以上の数の核兵器を保有している。政権は、大幅に削減された戦力レベルにおける安定性の確保に向けてロシアと協力することを誓約する。

 

新START

  このプロセスの次の一歩は、すでに失効した1991年の第1次戦略兵器削減条約(STARTⅠ)を新たな検証可能な条約、すなわち新STARTに置き換えることである。NPR策定に向けた初期段階の作業は、この新START交渉における米国の立場を確立し、新条約が規定する削減に照らしていかなる戦力構成が可能であるかを検討することにあった。NPRは次のような結論に達した:

● 米国の戦略的運搬手段、すなわち大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核搭載可能な重爆撃機をSTARTⅠレベルから約50%削減し、また、条約上の削減義務を負う 戦略核弾頭をモスクワ条約レベルから約30%削減しても、安定した抑止を維持することは可能である。

● NPRの分析に基づき、米国は、新STARTの条約上の義務を負う戦略核弾頭数の上限を1550発、 配備戦略運搬手段の上限を700基(機)とすること、また、配備及び非配備の戦略発射装置数の合計の上限を800基(機)とすることでロシアと合意した。

● ICBM、SLBM、核搭載可能な重爆撃機で構成される米国の核の3本柱は新STARTにおいても維持される。

● 安定性の増大をめざし、すべての米国のICBMには、1基に搭載される核弾頭数を1発とする「非多弾頭化」措置が講じられる。

● 米国の地域的抑止ならびに安全の再保証という目的への非核システムの寄与は、ミサイル防衛に対する制限を回避し、重爆撃機や長距離ミサイルシステムを通常兵器に使用する選択肢を維持することによって保持される。

 

大統領の決定時間を最大化する

  NPRは、現在の米戦略部隊の警戒態勢――重爆撃機の常時警戒態勢は解除され、ほぼすべてのICBMが警戒態勢に置かれ、また、いかなる時にも相当数の戦略原子力潜水艦(SSBM)が海洋に出ている――が当面維持されるべきであると結論づけた。NPRはまた、事故、無認可の行動、誤認識などによる核発射の可能性をいっそう低下させるとともに、核兵器使用を許可するか否かの検討において大統領に与えられる時間を最大化するべく引き続き努力がなされるべきであると結論づけた。重要な措置には以下が含まれる:

● すべてのICBMならびにSLBMについて、「外洋に向けた標的設定」 の実施を継続する。これにより、万一の無認可あるいは偶発的発射の際にミサイルは外洋に着弾する。また、ロシアにこの慣行に対する誓約を再確認するよう求める。

● 核危機における大統領の決定時間を最大化するよう米国の指揮統制システムをいっそう強化する。

● 生き残りの可能性 を強化し、即時発射の誘因をさらに低減するようなICBM基地の新しい様態を探求する。

 

戦略的安定性の強化

  ロシアと中国が現在自国の核能力の近代化を行い、さらには両国がともに米国のミサイル防衛や通常軍備のミサイル計画を不安定化要因と主張している中、これら2国との戦略的安定性を維持することが今後の重要な課題である。

● 米国は、さらなる安定性、柔軟性、透明性を伴った戦略的関係を促進することをめざし、ロシア及び中国と戦略的安定性に関するハイレベルの2国間対話を追求してゆく。

  米国にとって、ロシアとの戦略対話は、米国のミサイル防衛及び将来におけるいかなる米国の通常兵器搭載長距離弾道ミサイルシステムも、新たに浮上した地域的脅威への対処を目的に設計されたものであり、ロシアとの戦略バランスに影響を与えることを意図したものではないことを説明する機会となる。また、ロシアの側においては、近代化計画について説明し、現在の軍事ドクトリン(とりわけ核兵器の重要性をどのように位置づけているのか)を明確にし、国境から離れたロシア国内の少数の安全な施設に非戦略システムをまとめているといったような、同国の非戦略保有核兵器に対する西側諸国の懸念を緩和するためにとりうる諸措置について議論する機会となる。

  他方、中国との戦略的安定性に関する対話の目的は、双方とって、相手側の核兵器ならびに他の戦略能力に関する戦略、政策、計画をめぐる見解を伝える場やメカニズムを提供することにある。このような対話のめざすところは、信頼性と透明性の向上、不信の低減にある。2010「弾道ミサイル防衛見直し」(MDR)報告が述べるように、「本政権にとって、米中関係における戦略的安定性を維持することは、他の主要国との戦略的安定性を維持することと同等に重要である」。

 

将来における核削減

  大統領は、核兵器のさらなる削減の検討に向けて、新START後の軍備管理目標に関する見直しを命じた。新STARTのレベルを超えて米国が将来的な核戦力の削減を行う上では、いくつかの要素がその規模や速度に影響を与える。

  第1に、いかなる将来的な核削減も、地域の潜在的な敵への抑止、ロシアや中国との戦略的安定性、米国の同盟国及びパートナーへの安心の提供を強化し続けるものでなければならない。これには、抑止に求められる能力に関する最新の評価、米国ならびに同盟国、パートナーにおける非核能力のさらなる強化、戦略及び非戦略兵器の焦点を絞った削減、そして同盟国及びパートナーとの緊密な協議が必要である。米国は、いかなる潜在的な敵対者が計算したとしても、米国、あるいは同盟国及びパートナーに対する攻撃から期待される利益より、米国からの報復による耐え難いコストの方がはるかに勝るとの結論に達せしめるような能力を引き続き確保する。

  第2に、備蓄核兵器維持プログラムの遂行ならびにNPRの勧告する核兵器インフラへの投資は、技術的あるいは地政学的突発事態に備えるために大量の非配備弾頭を維持するという米政策の転換をもたらし、備蓄核兵器の大幅な削減を可能にする。これらの投資は新START及びその後において、抑止を維持しつつ核兵器削減を促進する上で不可欠なものである。

  第3に、ロシアの核戦力は、米国が自国の核戦力削減の幅及び速度を決定する上で引き続き重要な要素である。両国関係の改善を背景に、2国間における厳密な数字上の均衡の必要性は冷戦時代のように絶対的なものではない。しかし、核能力における大きな不均衡は、双方にとって、また、合衆国の同盟国及びパートナーとの間において懸念を生じさせるものであり、安定的かつ長期的な戦略関係の維持に貢献するものとはならないであろう。したがって、我々は合衆国がより低いレベルに移行する際には、ロシアも我々に同調することを重要視するであろう。

NPRの主要な勧告には以下が含まれる:

● 新STARTが予定しているレベル以下に将来的な核削減目標を定めるための、継続的な分析を実施するべきである。同時に、地域における潜在的な敵に対する抑止、ロシアと中国に対する戦略的安定性、我々の同盟国及びパートナーへの保証を強化してゆくべきである。

● ロシアとの間で新START後の交渉を行う際には、双方の側の非配備核兵器とならんで非戦略核兵器の問題を取り上げるべきである。

● 米核戦力の削減は、我々の同盟国及びパートナーへの安全の保証における信頼性と有効性を維持する形で実施するべきである。米国は、新START後の交渉に向けたアプローチを確立するにあたって、同盟国及びパートナーと協議してゆくべきである。

 

地域的抑止を強化し、同盟国・パートナーに安全を再確認する

  合衆国は、2国間及び地域的な安全保障関係を強化してゆくとともに、これらの関係を21世紀型の挑戦に適合させるべく同盟国及びパートナーと協力しあうことを全面的に公約する。このような安全保障関係は潜在的脅威を抑止する上で不可欠であり、また、それら脅威に隣接する諸国に対して、核兵器を求めることが自国の軍事的あるいは政治的利益を損なうものにしかならないこと知らしめ、また、合衆国の非核の同盟国及びパートナーに対しては自らが核抑止能力を持たずとも安全保障上の利益を確保できるとの保証を提供することによって、我々の不拡散上の目標にも寄与する。

  米国の核兵器は、核兵器を保有し、あるいは保有を追求している地域国家による核攻撃あるいは核を背景とした脅しに対する拡大抑止を同盟国及びパートナーに提供する上で重要な役割を担ってきた。信頼性のある合衆国の「核の傘」は、「3本柱」の戦略軍、重要地域に前方配備された非戦略核兵器、そして地域的紛争に応じて即時に前方配備可能な米国内の核兵器といった手段の組み合わせによって提供されてきた。

  欧州においては、冷戦終結後、前方配備された米国の核兵器は劇的に削減された。しかし少数の核兵器が引き続き残されている。NATO加盟国に対する核攻撃の危険性はかつてなく低下した。しかし、合衆国の核兵器の存在は、NATOの非核加盟国が核計画に参加し、核兵器運搬能力を持つ特殊仕様の航空機を保有するというNATO特有の核分担(ニュークリア・シェアリング)取極めとの組み合わされることによって同盟国間の結束を強化するとともに、地域的脅威を感じている同盟国及びパートナーに対し安心を提供するものとなっている。NATO加盟国を防衛する上での核兵器の役割は、NATOの「戦略概念」見直しとの関係で本年議論されることになる。NATOの核態勢におけるいかなる変更も、加盟国間での徹底した再検討と決定を経てなされるべきである。

  アジア及び中東――これらの地域にはNATOに類似した多国間の同盟構造は存在しない――について米国は2国間同盟及び安全保障関係を通じて、また、前方配備の軍事的プレセンスと安全の保証を通じて拡大抑止を維持してきた。冷戦が終焉を迎えたとき、米国は、海軍の洋上艦や一般目的用の潜水艦からの核兵器撤去を含め、太平洋地域に前方配備された核兵器を撤退させた。以来、合衆国は、危機への対処は中央の戦略戦力及び東アジアへの核システムの再配備能力に依存してきた。

  核兵器は同盟国及びパートナーに対する合衆国による安全の保証の重要な構成要素であることが示されてきた一方で、米国は、通常戦力のプレセンス及び効果的な戦域弾道ミサイル防衛を含む、地域的な安全保障構造(アーキテクチャー)の強化をめざし、非核要素への依存を高めてきた。核兵器の役割が米国の国家安全保障戦略の中で縮小されるにしたがい、これら非核要素は抑止の分担においていっそう大きな位置を占めるようになろう。さらに、効果的な地域的抑止にとっては、非核戦力による抑止にとどまらず、非軍事的抑止、すなわち米国とその同盟国、パートナーとの間での強固で信頼性のある政治的関係の構築が欠くべからざる要素である。

 

非戦略核兵器

  冷戦終結後、米国は非戦略(または「戦術」)核兵器を劇的に削減してきた。今日では、世界中の同盟国及びパートナーに対する拡大抑止の一環として、限定された数の核兵器が欧州に前方配備されているのと、海外配備が可能な少数の核兵器が米国内で保管されているのみである。ロシアははるかに多くの非戦略核戦力を維持しており、そのうち相当数はいくつかのNATO加盟国の領土近くに配備されている。

  NPRは、米国のとるべき行動について以下のとおり結論づけた:

● 戦術戦闘爆撃機ならびに重爆撃機に搭載された前方配備の米核兵器の能力を維持するとともに、安全、保安、使用管理の改善などを伴ったB-61核弾頭の全面的寿命延長を進める。

● 海洋発射核巡航ミサイル(TLAM-N)を退役させる。

● 米国の前方軍事プレセンスを補完し、地域的抑止を強化する長距離攻撃能力の維持と開発を継続する。

● 米国の拡大抑止の信頼性及び有効性を確保する方策について、同盟国及びパートナーとの協議を継続し、適当な場合には拡大する。米国の拡大抑止におけるいかなる変更も同盟国及びパートナーとの緊密な協議なしには行われない。

 

安全、安心、かつ効果的な保有核兵器を維持する

  合衆国は安全、安心、かつ効果的な保有核兵器を維持することを誓約する。1992年に核実験を中止して以降、我々は、弾頭をほぼ当初の設計仕様になるよう改修することによって弾頭の寿命を延長する備蓄兵器維持プログラムを通じて、核弾頭を維持し安全性と信頼性を認証してきた。30年後を見通して、NPRは、議会が命じた備蓄兵器管理プログラムならびに合衆国の不拡散目的に合致した形で既存の核弾頭の寿命を延長させるための最善の方策を検討し、次のような結論に達した:

● 合衆国は核実験を実施せず、包括的核実験禁止条約の批准と発効を遂行する。

● 米国は新型核弾頭を開発しない。寿命延長計画(LEP)は、これまでに実験された設計に基づく核部品のみを使用し、新たな軍事的任務を支援したり新たな能力を準備したりしない。

● 合衆国は、核弾頭の安全性、保安、信頼性を個別事例ごとに、議会が命じた備蓄管理プログラムに合致した形で確保するための選択肢について研究する。LEPにおいては全ての範囲のアプローチを考慮する。すなわち、既存の弾頭の改修、別の弾頭の核部品の再利用、及び核部品の交換、である。

● 核弾頭のLEPを工学的開発へと進行させるいかなる決定においても、合衆国が最優先で選択するのは改修あるいは再利用である。核部品の交換は備蓄兵器管理プログラムの重要目標がその他の手段では達成できない場合においてのみ、そして大統領による具体的な認可ならびに議会の承認が得られた場合にのみ実施される。

  これらの結論に沿って、NPRは次の通り勧告する:

● 現在進行中の潜水艦発射弾頭W-76のLEP、ならびにB-61爆弾のLEPに関する研究及びそれに続く活動には満額の資金が提供されるべきである。

● ICBM用弾頭W-78のLEPに関する選択肢についての研究を開始するべきである。研究には、当該LEPの結果作られた弾頭をSLBMで使用することによって、弾頭の種類を減らす可能性の検討も含まれる。

  安全、安心で、かつ効果的でありつづけるために、合衆国の備蓄核兵器は、国家安全保障に関する諸研究所と支援施設の複合体で構成される近代的な物的インフラや、核抑止維持に求められる専門的能力を持つ優秀な労働力に支えられなければならない。

  人的資源もまた懸案である。国家安全保障に関する諸研究所では、次世代の、最も将来有望な科学者やエンジニアを引きつけ、確保することがますます困難になっている。備蓄兵器管理に関する明確な長期計画や、拡散及び核テロリズムの防止に関する政権の誓約は、挑戦的で有意義な研究開発活動に従事する機会を与えることによって、明日を担う科学者やエンジニアの獲得と確保を強化することに繋がる。

  NPRは以下の結論に達した:

● 備蓄兵器維持にとって極めて重要であり、不拡散をめざす上での見識を提供する、科学、技術及び工学の基盤を強化する必要がある。

● 核兵器複合施設及び要員に対する投資の増額は、我々の保有核兵器の長期的な安全、保安と有効性を確保するために必須である。新たな施設は、国家核安全保障管理局が開発中の備蓄核兵器の維持及び管理計画の要求を支援できるよう規模を定めることになる。

● 建設後50年を経過した施設を更新するロスアラモス国立研究所における化学冶金研究施設更新計画およびテネシー州オークリッジのY-12プラントにおける新たなウラニウム処理施設の拡充のための資金の増額が必要である。

 

未来を見据える:核兵器のない世界に向けて

  2010「核態勢の見直し」の勧告を遂行することにより、合衆国、同盟国、及びパートナーの安全保障は強化され、大統領の示した核兵器のない世界というビジョンに向けた大きな一歩がもたらされるであろう。

  国際的な不安定や安全の欠如を拡大させるというリスクを犯すことなく、究極的に米国や他の国々による核兵器放棄を可能にするためには、極めて多くの条件が必要である。それらの条件の中には、核兵器拡散の阻止における成功、主たる関係国の計画や能力に関する透明性の飛躍的な向上、軍縮義務違反の探知を可能とする検証手段及び技術、それら違反を抑止するに十分な強さと信頼性を備えた執行手段、そして究極的には対立する国家を核兵器の取得や維持へと導くような地域的紛争の解決が含まれる。これらの条件が現在において存在しないのは明らかである。

  しかし我々は、これらの条件を創出するために積極的に行動することができるし、しなければならない。我々は2010年NPRに示された実際的措置を実行することができる。これら実際的措置は世界におけるあらゆる核兵器の廃絶という究極的目標へと我々を導くのみならず、それ自身によって、グローバルな核不拡散レジームを再活性化させ、テロ集団による核兵器ならびに核物質取得に対してより高い防壁を築き、米国と国際の安全保障を強化する。

 

(翻訳:特定非営利活動法人ピースデポ)

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