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ロシアの核戦力一覧 |
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【概要】 | |||||||||||
ロシアの核戦力は米国,フランス,イギリスとは異なり、かなり不透明な部分がある。さらに米ロ間の新START条約に基づくデータについてもロシアは米国と異なり、配備/非配備の運搬手段数の内訳を公表していない。2020年3月1日現在で公表されているロシアの戦略核の配備発射台及び配備弾頭数は、それぞれ485基、1,326発である(U.S. Department of State 2020)。この表と新START条約の数値を対応させるには、「戦略爆撃機搭載」の200を配備爆撃機数の推定値50に置き換えれば良く、結果は496基,1,422発となる。そもそも不透明さが高いことと現実に配備数は日常的に変動していることを考慮すれば妥当な見積もりと思われる。この差は10基程度のSS-18がすでに退役している可能性を示唆している。 また15分以内で発射可能となる警戒態勢(ハイアラート)にあるロシアの弾道ミサイルは約160基で、その多くが ICBM と推定されている(Kristensen, Hans M. 2017)。2008年以降、配備ICBMの96%がハイアラートにあるという指摘がある(Podvig, Pavel 2014)。 ロシアは旧ソ連時代に配備され旧式となったSS-19,-25 の ICBM を新型のSS-27M2で順次置き換えて2021年までに完了させる計画であり,またSS-18も開発中のSS-X-29(サルマート)で置き換えることにしている。ICBMの2019年末時点の「近代化率」は76%で2024年までに100%とする計画である(TASS 2019-3)。戦略原潜及びSLBM についても,最新のボレイ型原潜及び新型SLBMブラバですべて置き換える計画である。爆撃機及び巡航ミサイル、さらには非戦略核兵器とその運搬手段についても近代化が進められている。 近年、ロシアの原潜の海洋パトロールが活発になってきているのは事実である。しかしその数は年に20隻程度で、しかも戦略原潜のパトロールは限定されており、多くは攻撃型原潜によるものと見られる(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2017)。また、昨年ロシアが実施した弾道ミサイルの発射テストは、ICBMが5発、SLBMが6発である。通常のテストでは、ICBMが4発、SLBMが3発(Space Launch Report 2019)で、毎年10月に行っている大規模な軍事演習ではICBMを1発、SLBMを3発発射している。またこの演習では戦略爆撃からの巡航ミサイルの発射や短距離弾道ミサイルの発射を行っている(Podvig, Pavel 2019)。 18年2月、米トランプ政権は「核態勢の見直し」を発表し、戦略核兵器の維持・近代化とともに、より使いやすい小型核弾頭、水上艦/潜水艦から発射する核巡航ミサイルの開発に言及した。これに対抗するかのように18年3月、プーチン大統領は年次教書演説で新型核兵器を開発中であることを明らかにした(Kremlin 2018)。これらのうち、ICBMに搭載し「ミサイル防衛」網を突破できる、極超音速滑空弾「アバンガルド」の2部隊が19年末に実戦配備された(TASS 2019-3)。また迎撃戦闘機 Mig-31K に搭載する極超音速弾道ミサイル「キンジャール」もすでに配備済みとみられる(TASS 2018-2)。さらに小型原子炉を動力源とする、大型核魚雷「ポセイドン」や極超音速核巡航ミサイル「ブレベスニク」の開発も進められている(Hruby, Jill 2019)。かつての冷戦時代の核軍拡競争の再燃が懸念される。 |
【脚注】 | ||||||||
1) |
最新の見積もり(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020-2)にならった。昨年からの変化では、イルクーツク基地の9基のSS-25とヨシュカル・オラ基地の18基のSS-25がそれぞれ同基数のSS-27M2 (移動式)に置き換えられた(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020-1)。一方、極超音滑空弾「アバンガルド」がSS-19に搭載されて2019年末に配備された(TASS 2019-3)。 SS-19からは元の核弾頭はすべて取り外され、ミサイル本体はアバンガルド用に運用延長がはかられている(Podvig, Pavel 2020-4)。 SS-27M2を小型化したICBMのテスト(Podvig, Pavel 2016)と列車搭載型ICBMの開発 (Podvig, Pavel 2017-1)が続けられてきたが、アバンガルドの配備を優先するために現在これらの計画は中断されている(Podvig, Pavel 2017-2; Podvig, Pavel 2018; TASS 2018-1)。また新START条約に適合させるためにSS-18の装填弾頭を10発から6発に、SS-27 Mod 2 の装填弾頭を4発から3発に削減しているとみられる。これらの削減分は作戦外貯蔵とした。 ICBMの弾頭総数については計1,181発という推計もある (Podvig, Pavel 2020-1) がSS-25からSS-27M2 (移動式) への移行状態のカウント法の違いであって両者はほぼ一致している。 SS-18を置き換えるSS-X-29は飛行テストが2020年に開始される予定で、配備は早くても2021年からとみられている(TASS 2019-2)。 |
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2) |
現在、ロシアの戦略原潜は9隻が作戦配備中で、1隻がオーバーホール中である。 デルタIII型は長期のオーバーホールを終えて復帰したリャザン(Navaltoday 2017)以外は退役した。デルタIV型はブリャンスクがオーバーホール中 (Podvig, Pavel 2020-2)、5隻が作戦配備中である。一方、新START条約に適合させるために3隻のボレイ型に装填されるSLBMブラバの弾頭数は標準の6発ではなく4発に削減したとみられる。その結果、配備総弾頭数は計560発となる (3発/基×16基/隻×1隻 + 4発/基×16基/隻×5隻 + 4発/基×16基/隻×3隻)。そのため作戦外貯蔵を計160発とした(オーバーホール中のデルタIV型1隻分の64発、ブラバ非装填分の96発)。 |
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3) | 核兵器搭載可能な戦略爆撃機は約70機で実際に核任務に就いているのは約50機と見積もられている(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020-1)。核任務機の内訳はベアH6が14機、ベアH16が7機、改造されたベアH16改が18機、ブラックジャックが11機。各機種はそれぞれ6発,16発,14発,12発まで巡航ミサイルを搭載できるので、核任務機に搭載可能な総計580発を作戦配備/作戦外貯蔵とみなす。平時には約200発が爆撃機に割り当てられているが、搭載されずにその基地であるアムール州ウクラインカ空軍基地とサラトフ州エンゲリス空軍基地に保管されている。これを作戦配備分とみなす。残りは作戦外貯蔵として中央貯蔵庫に保管されている。また核任務に就いている戦略爆撃に関しては、ベアHを計55機、ブラックジャックを11機、作戦配備のミサイル数を約200とする見積もりがある(Podvig, Pavel 2020-3)。 | |||||||
4) | ロシアの作戦外貯蔵はICBMへの非搭載分、オーバーホール中の原潜分及び非搭載分、爆撃機への非割り当て分及び非戦略核兵器であり、ロシア全土48ヶ所に貯蔵庫があると見積もられている(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2017)。非戦略核弾頭は冷戦終結後、大幅に減り、現在は1,870発程度 (表の 470 + 900 + 500)と見積もられている。各弾頭は様々な発射台に割り当てられているが,平時での作戦配備はせずに中央貯蔵庫に保管されている(Kristensen, Hans M. 2012)。2014年NPT再検討準備委員会においてロシア外務省は、すべての戦術核兵器は非配備のカテゴリーに移されており、中央貯蔵基地(複数)に集約されている、と確認した(Uliyanov, M. I. 2014)。ロシアの非戦略核兵器については注目すべき新しい調査結果がある(Sutyagin, Igor 2012)。それによると作戦配備、中央貯蔵、予備などの概念をロシア軍特有の状況に合わせて見直す必要がある。Sutyagin の分析では、約2,000発の非戦略核兵器のうち、約1,000発が発射台に「作戦割り当て」されており、運搬手段に搭載されてはいないものの即使用可能な警戒態勢におかれている。その中の一部は発射する艦船に積まれたり、発射部隊直属の管理部隊に配備されている。表では Kristensen にしたがって作戦外貯蔵と分類しているが、概念上は Kristensen の作戦配備に近いものが相当数あると理解される。 | |||||||
5) | 陸上発射の戦術核兵器は約470発と推定されている。このうち防衛用のミサイルが約360発(対空ミサイルが290発、弾道弾迎撃ミサイルが68発、沿岸防衛用の対艦ミサイルが4発)である。一方、米国がINF条約違反と指摘した地上発射巡航ミサイルSSC-8(核/非核両用)はすでに4部隊が配備されているとみられる(Army Recognition 2019)。 | |||||||
6) | 海洋発射の戦術核兵器は約900発と推定され、艦船,潜水艦、艦船積載航空機及びヘリコプターに割り当てられている。それらは対艦巡航ミサイル、対潜ロケット、陸上攻撃巡航ミサイル、魚雷、爆雷からなり、ミサイルの多くは核/非核両用である(Kristensen, Hans M. 2012)。一方、米国のINF条約離脱通告を受けて、ロシアも海洋発射型の巡航ミサイル「カリブル」の陸上型への転換を表明した(TASS 2019-1)。 | |||||||
7) | 航空機に割り当てられているのは巡航ミサイル・短距離攻撃ミサイルと無誘導爆弾(gravity bomb)で、約500発と推定される。搭載機は中距離爆撃機ツポレフ22M3(NATOの呼称:バックファイアーC)、戦闘爆撃機スホーイ24M(同フェンサーD)及びスホーイ34(同フルバック)。 | |||||||
8) | 冷戦終結後に実行された,ロシアの退役核弾頭の高濃縮ウランを希釈して米国に原発用核燃料として売却する「Megatons to Megawatts」計画が2013年末に終了した。この事業によって20年間に2万発の核弾頭が解体された(NNSA 2013)。その後も解体作業は続けられ、退役/解体待ちの弾頭数は減少してきた。今後も年間200〜300発の解体ペースが維持されると見られている(Kristensen, Hans M. & Korda Matt 2020-2)。 | |||||||
【出典】 | ||||||||
Army Recognition 2019: "Russia has more SSC-8 cruise missiles than expected, with conflictual range," February 11, 2019. https://www.armyrecognition.com/february_2019_global_defense_security_army_news_industry/russia_has_more_ssc-8_cruise_missiles_than_expected_with_conflictual_range.html (2020.4.30アクセス) | ||||||||
Hruby, Jill 2019: "RUSSIA’S NEW NUCLEAR WEAPON DELIVERY SYSTEMS," November 2019. https://media.nti.org/documents/NTI-Hruby_FINAL.PDF (2019.11.18アクセス) | ||||||||
Kremlin 2018: "Presidential Address to the Federal Assembly," March 1, 2018. http://en.kremlin.ru/events/president/news/56957 (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Kristensen, Hans M. 2012: “Non-Strategic Nuclear Weapons,” Federation of American Scientists, Special Report No. 3, May, 2012. https://fas.org/_docs/Non_Strategic_Nuclear_Weapons.pdf (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Kristensen, Hans M. 2017: “Alert Status of Nuclear Weapons,” briefing to George Washington University Elliott School’s Short Course on Nuclear Weapons and Related Security Issues, April 21, 2017. https://fas.org/wp-content/uploads/2014/05/Brief2017_GWU_2s.pdf (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020-1: "Russian nuclear forces, 2020," Bulletin of the Atomic Scientists, 76:2, 102-117, DOI: 10.1080/00963402.2020.1728985 (2020.3.10アクセス) | ||||||||
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020-2: "Status of World Nuclear Forces (April 2020)," Federation of American Scientists, 2020. http://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/ (2020.4.26アクセス) | ||||||||
Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2017: "Worldwide deployments of nuclear weapons, 2017," Bulletin of the Atomic Scientists, 73:5, 289-297, DOI: 10.1080/00963402.2017.1363995 (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Navaltoday 2017: "Russian nuclear-powered ballistic missile submarine Ryazan returns to service," February 16, 2017. http://navaltoday.com/2017/02/16/russian-nuclear-powered-ballistic-missile-submarine-ryazan-returns-to-service/ (2019.5.27アクセス) | ||||||||
NNSA 2013: "Under U.S.-Russia Partnership, Final Shipment of Fuel Converted From 20,000 Russian Nuclear Warheads Arrives in United States and Will Be Used for U.S. Electricity," December 11, 2013. http://nnsa.energy.gov/mediaroom/pressreleases/megatonstomegawatts (2014.1.8アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2014: “Russian missile force readiness rate,” http://russianforces.org/blog/2014/12/russian_missile_force_readines.shtml (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2016: "Deployment of RS-26 Rubezh reportedly postponed until 2017," May 12, 2016. http://russianforces.org/blog/2016/05/deployment_of_rs-26_rubezh_rep.shtml (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2017-1: "Flight tests of Barguzin rail-mobile ICBM are said to begin in 2019," January 19, 2017. http://russianforces.org/blog/2017/01/flight_tests_of_barguzin_rail-.shtml (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2017-2: "Barguzin rail-mobile ICBM is cancelled (again)," December 4, 2017. http://russianforces.org/blog/2017/12/barguzin_rail-mobile_icbm_is_c.shtml (2019.5.27アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2018: "By cancelling RS-26 Russia keeps its options open," April 2, 2018. http://russianforces.org/blog/2018/04/by_cancelling_rs-26_russia_kee.shtml (2020.3.17アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2019: "Annual exercise of strategic forces Grom-2019," October 17, 2019. http://russianforces.org/blog/2019/10/annual_exercise_of_strategic_f_1.shtml (2019.11.11アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2020-1: "Strategic Rocket Forces," January 4, 2020. http://russianforces.org/missiles/ (2020.1.24アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2020-2: "Strategic Fleet," January 4, 2020. http://russianforces.org/missiles/ (2020.1.24アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2020-3: "Strategic aviation," January 4, 2020. http://russianforces.org/aviation/ (2020.1.24アクセス) | ||||||||
Podvig, Pavel 2020-4: "Life extension for UR-100NUTTH," January 31, 2020. http://russianforces.org/aviation/ (2020.2.1アクセス) | ||||||||
RT 2018: "‘Best New Year’s gift to Russia’: Putin boasts successful test of Avangard hypersonic glider," December 26, 2018. https://on.rt.com/9l8x (2019.5.18アクセス) | ||||||||
Space Launch Report 2019: “2019 Major Suborbital Log,” http://www.spacelaunchreport.com/log2019.html#log2 (2020.3.17アクセス) | ||||||||
Sutyagin, Igor 2012: “Atomic Accounting: A New Estimate of Russia’s Non-Strategic Nuclear Forces,” Royal United Services Institute, November 2012. https://rusi.org/sites/default/files/201211_op_atomic_accounting.pdf (2019.5.27アクセス) | ||||||||
TASS 2018-1: "Avangard Hypersonic Missiles Replace Rubezh ICBMs in Russia’s Armament Plan through 2027," March 22, 2018. http://tass.com/defense/995628 (2019.5.18アクセス) | ||||||||
TASS 2018-2: "Russian fighters armed with Kinzhal hypersonic missiles hold drills with strategic bombers," July 19, 2018. http://tass.com/defense/1014048 (2019.5.18アクセス) | ||||||||
TASS 2019-1: "Russia may develop land-based Kalibr cruise missile by end of year – source," Feburary 7, 2019. http://tass.com/defense/1043620 (2019.5.18アクセス) | ||||||||
TASS 2019-2: "Russian Strategic Missile Forces to be fully equipped with modern systems by 2024," December 16, 2019. https://tass.com/defense/1099597 (2020.1.8アクセス) | ||||||||
TASS 2019-3: "First regiment of Avangard hypersonic missile systems goes on combat duty in Russia," December 27, 2019. https://tass.com/defense/1104297 (2020.1.8アクセス) | ||||||||
Uliyanov, M. I. 2014: NPT/CONF.2015/PC.III/17, 25 April 2014. http://undocs.org/NPT/CONF.2015/PC.III/17 (2019.5.27アクセス) | ||||||||
U.S. Department of State 2020: “New START Treaty Aggregate Numbers of Strategic Offensive Arms, Fact Sheet,” March 1, 2020. https://www.state.gov/wp-content/uploads/2020/04/04-01-2020-March-NST-FACTSHEET-Public-Release-of-Aggregate-Data.pdf (2020.4.3アクセス) | ||||||||
©RECNA 核弾頭データ追跡チーム |