パキスタンは、核不拡散条約（NPT）体制の枠外で核兵器保有を続ける国の一つである。2020年4月現在、パキスタンの保有核弾頭総数は160発と推定される（Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020）。その数はさらなる増加傾向にあり、2025年には現在の英国の保有数を超える220～250発に達するとの見通しもある（Kristensen, Hans M., Norris, Robert S. & Diamond, Julia 2018）。

パキスタンは、核兵器の材料となる核分裂性物質の生産能力も拡大している。2016年末現在の数字であるが、約280kgの兵器級プルトニウムと約3,400kgの高濃縮ウラン(HEU)の保有が推定されている（International Panel on Fissile Materials 2018）。核爆弾1発の製造には（技術レベルなどにも影響されるが）12–18kgのHEUあるいは4–6kgのプルトニウムが必要であることから、パキスタンは215–350発の核爆弾に相当する核分裂性物質を保有していることになる。しかし技術力が高ければ、2–4kgのプルトニウムで核爆弾1発の製造が可能とされており、その場合、パキスタンが保有する核分裂性物質は、核弾頭およそ260–420発に相当する量となる（Union of Concerned Scientists 2009）。Kristensen & Norris はパキスタンが保有する兵器級の濃縮ウランやプルトニウムのすべてを弾頭化していないとし、また、核搭載可能な運搬手段に関する情報等を勘案し、核弾頭数を推定している。また、弾頭は配備されておらず、中央貯蔵施設に置かれているとみられる（Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020）。

パキスタンは核弾頭搭載可能な運搬手段の開発ならびに配備にも邁進している。現在、同国は核弾頭搭載可能とみられる地上発射の弾道ミサイルを8種類（短距離5種類、準中距離3種類）配備し、1種類の準中距離弾道ミサイルを開発中と見られる。さらに核／非核弾頭搭載可能な巡航ミサイルの開発も精力的に続けている。すでに陸上発射型のバブール 1 が配備されており、これを基に射程を伸ばした対地／対艦用巡航ミサイル、さらに潜水艦発射型巡航ミサイルのテストが繰り返されている。

NPT枠外の核保有国の中でも、パキスタンは突出して非戦略（戦術）核兵器の開発に力を入れている国である。これは、通常戦力において軍事的優位にある隣国インドが掲げる「コールド・スタート・ドクトリン」（国境近くに戦車部隊を配置し、必要時に即実施可能な反撃を行うインド軍の戦略）への対抗を主目的に（Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019）、「いかなる形態の攻撃にも対応する『フルスペクトラムの抑止能力』」（ISPR 2017-2）の確立を狙ったものである。 なかでも、「ナスル」は、他に例を見ないわずか60～70㎞の射程距離を持つ短距離弾道ミサイルであり、インドの戦車部隊の侵攻を防ぐ目的で、戦場で核兵器を使用することを念頭においた兵器とみられている（Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019）。