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イスラエルの核戦力一覧

【概要】

イスラエルも、インドやパキスタンと同様、核不拡散条約(NPT)体制の枠外で核兵器保有を続ける国である。核兵器製造は1960年代に始まったとみられているが、一貫して同国は核兵器保有について否定も肯定もしない「曖昧政策」をとり続けている。

イスラエルの核戦力に関する情報は極めて限定的であるが、2種類の地上発射弾道ミサイル、航空機搭載爆弾を保有していると見られる。さらに、国外に展開する潜水艦(脚注 2) 参照)において巡航ミサイルを搭載している可能性もかねてより指摘されている。ここでは、それらの潜水艦発射巡航ミサイルをおよそ10発と推定し、2020年4月現在の核弾頭総数を90発と見積もった(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020)。インドやパキスタンと同様、イスラエルも核弾頭と地上発射ミサイルを分離して保管していると見られる

2014年末時点でイスラエルは約300kgの高濃縮ウラン(HEU)と約900 kgの兵器級プルトニウムを保有していると推定されている(International Panel on Fissile Material 2018)。核爆弾一発の製造には(技術的レベルなどにも影響されるが)12–18kgのHEUあるいは4–6kgのプルトニウムが必要であることから、イスラエルは167–250発の核爆弾に相当する核分裂性物質を保有していることになる。しかし技術力が高ければ、2–4kgのプルトニウムで核爆弾1発の製造が可能とされており、その場合、イスラエルが保有する核分裂性物質は、核弾頭およそ225–450発に相当する量となる(Union of Concerned Scientists 2009)。Kristensen & Norris はパキスタンが保有する兵器級の濃縮ウランやプルトニウムのすべてを弾頭化していないとし、また、核搭載可能な運搬手段に関する情報等を勘案し、核弾頭数を推定している(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2014)。

イスラエルは中東地域でもっとも進んだミサイル技術を有する国の一つに数えられ、さまざまな射程距離のミサイルを保有している。

中東においては核もその他の大量破壊兵器も存在しない「中東非大量破壊兵器地帯」の設立が提唱されているが、イスラエルは中東における平和と安定の実現が先と主張し、地帯設立に向けた動きに否定的である。2019年11月にニューヨーク国連本部で開催された地帯設立に向けた初の国際会議にも米国と並んで欠席した。

赤数字は昨年から変更があった弾頭数で、カーソルを近づけると昨年の数字が表示されます。 2020年6月1日現在
核弾頭保有数 80-9080
運搬手段 1), 2)
名称 核弾頭数 射程(km) ペイロード(kg) 配備年 備考
地上発射弾道ミサイル 50
ジェリコ 2 25 1,500–1,800 750–1,000 1990年 3)
ジェリコ 3 25 < 4,000 1,000–1,300 開発中 4)
航空機搭載爆弾 5) 30
搭載機:F16A/B/C/D/I  30 1,600 5,400 1980年 6)
潜水艦発射巡航ミサイル (10)
【脚注】
1) 核弾頭数、運搬手段の射程、ペイロード、配備年の出典は Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2019。
2) イスラエルはドイツ製のドルフィン級攻撃潜水艦を計6隻配備する予定である。5隻がすでにイスラエルに納入されており、6隻目は2020年に納入の予定(NTI 2019)。5隻のうち3隻は旧型のドルフィン級で、2隻は改良型のドルフィンII級である(NTI 2019)。
3) 固体燃料、二段式、道路移動式。2026年までに段階的にジェリコ3に置き換わると見られている(Missile Defense Project 2018-1)。
4) 固体燃料、三段式、道路・線路移動式(Missile Defense Project 2018-2)。2013年7月12日に発射テストをしたとみられる(Schell, Phillip Paton & Kristensen, Hans M. 2014)。
5) F15I航空機(ストライク・イーグル。イスラエル名:ラアム。25機)の一部も核任務を持つと見られている(Schell, Phillip Paton & Kristensen, Hans M. 2014)。
6) 205機の一部が核任務の一部を持つと推定される(Schell, Phillip Paton & Kristensen, Hans M. 2014)。
 
【出典】
IPFM (International Panel on Fissile Materials) 2018: “Countries Israel,” http://fissilematerials.org/countries/israel.html (2020.5.13アクセス)
Kile, Shannon N. & Kristensen, Hans M. 2018: Israeli nuclear forces,” SIPRI Yearbook 2019 Armaments, Disarmament and International Security, Oxford University Press 2019, pp.338-340.
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2020: “Status of World Nuclear Forces,” Federation of American Scientists. http://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/ (2020.5.13アクセス)
Missile Defense Project 2018-1>, “Jericho 2,” Missile Threat, Center for Strategic and International Studies, May 12, 2017, last modified June 15, 2018, https://missilethreat.csis.org/missile/jericho-2/ (2020.5.13アクセス)
Missile Defense Project 2018-2, “Jericho 3,” Missile Threat, Center for Strategic and International Studies, May 12, 2017, last modified June 15, 2018, https://missilethreat.csis.org/missile/jericho-3/ (2020.5.13アクセス)
NTI 2019: “Israel Submarine Capabilities, “ 16 October 2019, https://www.nti.org/analysis/articles/israel-submarine-capabilities/ (2020.5.13アクセス)
Spiegel Online 2012: “Secret Cooperation: Israel Deploys Nuclear Weapons on German-Built Submarines,” 3 June 2012. http://www.spiegel.de/international/world/israel-deploys-nuclear-weapons-on-german-submarines-a-836671.html (2020.5.13アクセス)
Union of Concerned Scientists 2009: “Weapon Materials Basics (2009),” http://www.ucsusa.org/nuclear-weapons/nuclear-terrorism/fissile-materials-basics#.WUTTElFpyM8(2020.5.13アクセス)
©RECNA 核弾頭データ追跡チーム

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