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北朝鮮(DPRK)の核戦力一覧

【概要】
北朝鮮が保有する具体的な核弾頭数についてはさまざまな見方がある。Kristensen & Kordaは、2019年4月現在の北朝鮮の保有弾頭総数を20~30発と推定している(Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019)。また、Sticker & Albrightは「控えめな見積もり」として15~35発という数字を挙げている(Sticker, Andrea & Albright, David 2019)。Albrightは、北朝鮮が年間3~5発のペースで核兵器の数を増大させているとし、2020年までに25~50発程度、さらに寧辺での軽水炉の運転を含めれば2020年末までに保有核弾頭数が60発に達する可能性を指摘している(Albright, David 2018)。また、米国の国防情報局(DIA)は現在の保有数を最大60発と見積もっている(Nikitin, Mary Beth D. 2019)。DIAは2017年時点で、北朝鮮が年間12発分の核兵器に相当する核分裂性物質を新たに生産していると推定していた(Panda, Ankit 2017)。さらに、米国のシンクタンクRANDコーポレーションは、2019年現在の北朝鮮の保有数を15~60発と見積もり、2020年には30~100発に増加すると予想している(Gentile, Gian et al. 2019)。スタンフォード大学のHecker, Carlin & Serbin は、高濃縮ウラン(HEU)の保有量が不透明なため、公表されている見積もりに20~60発の幅が出ることは理解できるとしながらも、最も可能性の高い数字として35~37発を挙げている(Hecker, Siegfried S., Carlin, Robert L., & Serbin, Elliot A. 2019)。ここでは、2019年4月現在の北朝鮮の保有数として20~30発を見積もる。

北朝鮮はこれまでに6回の核実験を実施した(2006年10月、2009年5月、2013年2月、2016年1月及び9月、2017年9月)。6回目の核実験の威力は200キロトン前後と推定され、熱核融合爆弾を使用したとみられる。

北朝鮮がすでに核弾頭を実戦配備していることを示す公開情報は存在しないが、多くの非政府機関の分析が、北朝鮮は弾頭小型化などの技術段階に達しているとの見方をしている。たとえば、Kristensen & Norrisは、北朝鮮がノドンなどの短射程ミサイル用の核弾頭を実戦配備している可能性を指摘している(Kristensen, Hans. M. & Norris, Robert S. 2018)。弾頭の大気圏再突入が安定して行える技術レベルに達しているかについては懐疑的な見方もあるが、それも時間の問題で、たとえばKristensen & Norris は1~2年で完全な実戦配備段階に入ると予想している(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。

また北朝鮮は、核弾頭搭載可能とみられる弾道ミサイルの発射テストを頻繁に行ってきた。地上発射弾道ミサイルについては、準中距離(MRBM、射程 1,000〜3,000km)、中距離(IRBM、射程 3,000〜5,500km)、長距離(ICBM、射程 5,500km 超)のいずれでも開発を進めており、その一部は実戦配備されている。

朝鮮半島の非核化をめぐる外交交渉の進展を背景に、2017年11月29日のKN-22(火星15号)の発射テストを最後として北朝鮮は弾道ミサイルの発射テストを中止していた。2018年4月21日の国営朝鮮中央通信(KCNA)によれば、金正恩朝鮮労働党委員長が同月20日の党中央委員会総会で、北朝鮮の核能力が「検証された」ため、核・ミサイル実験を中止し、主要な核実験を廃棄すると述べたとされる。しかし2019年2月の米朝首脳会談の決裂を受け、東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場の一部施設の復旧作業が始まっているとの分析結果が報じられていた(38 North 2019)。2019年5月4日には、北朝鮮による飛翔体数発の発射が報道され、続いて5月9日にも2発が発射された。日米防衛当局がこれらを短距離弾道ミサイルと断定する一方、韓国国防省は「新型戦術誘導兵器」であるとして、韓米情報当局が引き続きこれらの詳細を分析している、と述べた(Ministry of National Defense 2019)。

2019年6月1日現在
核弾頭保有数 20〜30
内訳            
地上発射弾道ミサイル搭載 ?          
海洋発射弾道ミサイル搭載 ?          
運搬手段 1), 2)
NATOの呼称(名称) 射程(km) ペイロード(kg) 配備状況 備考
地上発射弾道ミサイル
スカッドER(火星9号) > 1,000 500 2016? 3)
ノドン(火星7号) > 1,200 1,000 1993? 4)
KN-15(北極星2号) > 1,000 ? 開発中 5)
ムスダン(火星10号/BM-25) > 3,000 1,000 2017? 6)
KN-17(火星12号) 3,300〜4,500 1,000 開発中 7)
KN-18(火星13号) > 5,500 ? 開発中 8)
テポドン2(白頭山2号/銀河2号/銀河3号) > 12,000 > 800 2012? 9)
KN-20(火星14号) 10,400 ? 開発中 10)
KN-22(火星15号) 13,000 1,000? 開発中 11)
海洋発射弾道ミサイル
KN-11(北極星1号) > 1,000? ? 開発中 12)
【脚注】
1) いずれのミサイルも核能力の有無は不明である。特に記載のない限り、運搬手段の射程及びペイロード、配備状況の出典は Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018
2) 地上発射弾道ミサイルの発射台はデポドン2のみが固定式発射台、他はすべて道路移動式発射車両。
3) 一段式。液体燃料。ER = Extended Range (延長射程)。2016年9月5日に3連続発射テストを行ったとされる(Schiller, Markus & Schmucker, Robert H. 2016)。最近の発射テストは2017年3月6日で、4発がほぼ同時に発射された。高度260km,飛翔距離 1,000kmで3発が日本の排他的経済水域内に落下した(Wright, David 2017-1)。
4) 一段式。液体燃料。1993年に最初の発射テストを行った(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。発射台は100基以下(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。175~200基が配備されている(NTI 2018)。近年では、2016年8月3日にノドンとされる弾道ミサイル2発を発射。うち1発は約1,000km の飛翔距離で、秋田県の西 250km の日本の排他的経済水域内に落下した(もう1発は発射直後に爆発)。2016年9月3日にもノドンと見られる弾道ミサイル3発が発射され、奥尻島の西 200〜250km の日本の排他的経済水域内に落下した(防衛省 2017)。
5) 二段式。固体燃料。KN-15は、KN-11の陸上版と見られている。2017年2月12日に初の発射テストを行い、飛翔距離は500kmであった(Missile Threat 2017)。同年5月21日に北朝鮮は二度目となるKN-15の発射テストを行った(Missile Defense Project 2017)。
6) 一段式。液体燃料。発射台は50基以下(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。ソ連製R-27(SS-N-6; 液体燃料のSLBM)が基になっている(NTI 2018)。2010年の軍事パレードで初登場した(NTI 2018)。2016年4月~6月に6回の発射テストを実施した(最初の5回は失敗、最後の1回は部分的に成功とみられる)(NTI 2018)。
7) 一段式。液体燃料。最初の発射テストは2017年4月5日だったが失敗。同年4月16日と4月29日のテストも失敗している。同年5月14日に初めて発射テストに成功した。軌道はロフテッド軌道(高度 2,000km,飛翔距離 700km)で、日本の排他的経済水域外の日本海に落下した。飛行時間は約30分間。通常軌道では 4,500km に相当する(Wright, David 2017-2)。さらに同年8月28日に通常軌道(高度 550km,飛翔距離 2,700km)での発射テストに成功した(Wright, David 2017-5)。このとき、津軽海峡上空の宇宙空間を通過して太平洋に落下した。同年9月15日のテストも通常軌道(高度 770km,飛翔距離 3,700km)(Wright, David 2017-6)で、津軽海峡上空の宇宙空間を通過して太平洋に落下した。
8) 三段式。液体燃料。2012年4月15日の軍事パレードで初めて登場した。これまでに発射テストが行われたとの情報はない。当初はパレード用の模型と見られていたが、実際に開発が進んでいる可能性が指摘されている(Missile Threat 2018)。
9) 三段式。液体燃料。2006年に最初の発射テストを行ったが失敗。つづいて2009年4月5日と2012年4月13日に人工衛星発射を意図した飛翔体の発射テストを行ったが、失敗したとみられる。2012年12月12日、北朝鮮は人工衛星の打ち上げに成功と発表。米国も「何らかの物体」が軌道に到達したことを確認。2016年2月7日、北朝鮮は再び人工衛星(地球観測衛星光明星(クァンミョンソン)4号)の打ち上げに成功と発表。
10) 二段式。液体燃料。最初の発射テストは2017年7月4日で、ロフテッド軌道(高度 2,800km,飛翔距離 950km)で行われ、日本の排他的経済水域内に落下した。飛行時間は約39分間。通常軌道では 6,700km に相当する(Wright, David 2017-3)。2回目は同年7月28日で、ロフテッド軌道(高度 3,700km,飛翔距離 1,000km)で行われ、日本の排他的経済水域内に落下した。飛行時間は約47分間。通常軌道では 10,400km に相当する(Wright, David 2017-4)。
11) 二段式。液体燃料。2017年11月29日に最初の発射テストがロフテッド軌道(高度 4,500km,飛翔距離 960km)で行われ、青森県西方約 250km の日本の排他的経済水域内に落下した。飛行時間は約53分間(Missile Threat 2018)。通常の軌道では 13,000km に相当する(Wright, David 2017-7)。これまでに発射テストが行われた北朝鮮のミサイルの中では最大のものであり、米本土が射程範囲に収まるとされる。
12) 二段式。固体燃料。ムスダンの海洋版とされる。2015年4月に水中から空中への「射出テスト」が行われたと見られている。北朝鮮は潜水艦発射と説明しているが、同年5月8日、11月28日(失敗)、12月21日に実施されたテストも同様の水中での射出テストであったと分析されている(梅林宏道 2016)。初となる潜水艦からのSLBM発射テストが行われたのは2016年4月23日、新浦付近の海域であった。この時の飛翔距離は 30km であり失敗と見られる。同年7月9日、8月24日にも同様のSLBM発射テストが行われた。3度目のテストでは 500km の距離に成功したと伝えられる(NTI 2018)。
 
【出典】
38 North 2019: “Tongchang-ri: Rebuilding Commences on Launch Pad and Engine Test Stand,” 5 March 2019, https://www.38north.org/2019/03/sohae030519/ (2019.5.8アクセス)
Albright, David 2018: “Understanding North Korea’s Nuclear Weapon Capabilities,” 9 May 2018, http://isis-online.org/uploads/isis-reports/documents/Albright_North_Korea_slides_for_CTR_talk_may_9%2C_2018_final_pdf.pdf(2019.5.8アクセス)
Gentile, Gian et al. 2019: “Four Problems on the Korean Peninsula—North Korea’s Expanding Nuclear Capabilities Drive a Complex Set of Problems,” RAND Corporation, January 2019, https://www.rand.org/pubs/tools/TL271.html#download(2019.5.8アクセス)
Hecker, Siegfried S., Carlin, Robert L. & Serbin, Elliot A. 2019: "A Comprehensive History of North Korea’s Nuclear Program: 2018 Update," https://fsi-live.s3.us-west-1.amazonaws.com/s3fs-public/2018colorchartnarrative_2.11.19_fin.pdf (2019.5.31アクセス)
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019: "Status of World Nuclear Forces,"Federation of American Scientists. http://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/ (2019.5.8アクセス)
Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018: "North Korea nuclear capabilities, 2018," Bulletin of the Atomic Scientists, 74:1, 41-51, DOI: 10.1080/00963402.2017.1413062
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Missile Defense Project 2017: “North Korea Tests KN-15, says missile is ready for production,” 21 May 2017. https://missilethreat.csis.org/north-korea-tests-kn-15-says-missile-is-ready-for-production/(2019.5.8アクセス)
Missile Threat 2017: “KN-15 (Pukkuksong-2),” https://missilethreat.csis.org/missile/pukkuksong-2/(2019.5.8アクセス)
Missile Threat 2018: “KN-08/Hwasong 13,” https://missilethreat.csis.org/missile/kn-08/#easy-footnote-bottom-8-271(2019.5.8アクセス)
Nikitin, Mary Beth D. 2019: “In Focus: North Korea’s Nuclear and Ballistic Missile Programs,” Congressional Research Service, January 29, 2019, https://fas.org/sgp/crs/nuke/IF10472.pdf(2019.5.8アクセス)
NTI 2018: “Country Profiles: North Korea: Missile,” July 2017. http://www.nti.org/learn/countries/north-korea/delivery-systems/(2019.5.8アクセス)
Schiller, Markus & Schmucker, Robert H. 2016: “Flashback to the Past: North Korea’s “New” Extended-Range Scud,” 8 November, 2016, http://www.38north.org/2016/11/scuder110816/(2019.5.8アクセス)
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梅林宏道 2016: 「D.P.R.K.の核兵器運搬手段 第1版」ピースデポ・ワーキングペーパー No.3J, 2016年9月25日. http://www.peacedepot.org/wp-content/uploads/2016/12/WorkingPaper3J.pdf(2019.5.8アクセス)
防衛省 2017: 「2016年の北朝鮮によるミサイル発射について」, http://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/dprk_bm_20160909.pdf(2017.6.2アクセス)
©RECNA 核弾頭データ追跡チーム

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