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中国の核戦力一覧

【概要】
中国は、NPT加盟核兵器国の中で唯一、弾頭数を増やしている国である。しかし、増加の速度は緩やかであり、従来の核戦略の延長上にある変化と考えられる。同じ著者による弾頭数の推定が、2015年8月に250から260に、(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)、さらに2017年4月に270に増加した(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2017)。 地上配備弾道ミサイルの一部の多弾頭化に起因するところが大きい。多弾頭化はミサイル防衛に対抗する手段とされる。中国は一貫して核兵器の先行不使用政策を取っており(Ministry of National Defense, PRC 2015)、そのために報復核戦力の生き残り可能性を強める兵器近代化に取り組んでいる。量ではない部分で、多弾頭化の進行や戦略原子力潜水艦の抑止パトロールの開始に伴う今後の動向に注目する必要がある。また中国の核兵器に関する透明性の向上が求められる。表の弾頭数(すべて概数)は、断りのない限り文献(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2016)によっている。米本土に届く長距離弾道ミサイルの弾頭数は、約75発である(DF-5A、DF-5B、DF-31A)。中国の核兵器関連予算は2016年において87万ドルであると推定されている(Zhang, Hui 2018)。
赤数字は昨年から変更があった弾頭数で、カーソルを近づけると昨年の数字が表示されます。 2019年6月1日現在
名称 NATO名 射程(km) 核弾頭の威力
(キロトン)
核弾頭数 備考
作戦配備 0 1)
作戦外貯蔵 290240 2)
地上配備弾道ミサイル 3) 220173
 東風 DF-4 CSS-3 5,500 + 3,300 10 4)
 東風 DF-5A CSS-4 M2 13,000 + 4,000–5,000 5 5)
 東風 DF-5B CSS-4 M3 13,000 + 3×200–300 45 5)
 東風 DF-15 CSS-6 600 ? ? 6)
 東風 DF-21 CSS-5 2,150 200–300 80 7)
 東風 DF-26 ? 4,000 + 200–300 25? 8)
 東風 DF-31 CSS-10 M1 7,000 + 200–300 ? 8 9)
 東風 DF-31A CSS-10 M2 11,000 + 200–300 ? 3225 10)
 東風 DF-31AG CSS-10 M3? ? ? ? 11)
 東風 DF-41 CSS-X-20 ? ? (15)? 12)
地上発射巡航ミサイル ?
 DH-10 CJ-10 1,500 + ? ? 13)
潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM) 48 14)
 巨浪 JL-2 CSS-NX-14 7,000 + 200–300 ? 48 15)
航空機搭載爆弾 20
 核爆弾 20 16)
空中発射巡航ミサイル
 DH-20? CJ-20? ? ? ? 17)
全保有数 290270
【脚注】
1) 核弾頭はミサイルや航空機と別に貯蔵されているので、作戦配備ではなくて作戦外貯蔵と見なす(Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。潜水艦発射弾道ミサイルに関しても、常時潜水抑止パトロール体制が確認されていないので同じ扱いとした(脚注14を参照)。
2) 288を丸めた。
3) DF-4、DF-5A、DF-31、DF-31Aは大陸間弾道ミサイル(ICBM、射程5,500 km以上)、DF-15は短距離弾道ミサイル(SRBM、射程1,000 km以下)、他は中距離弾道ミサイル(IRBM、射程1,000–5,500 km)。後者のうち3,000 km以下のものを準中距離弾道ミサイル(MRBM)と呼ぶこともある。
4) 東風はドンフォンと読む。残っている最後の移動型液体燃料ミサイル。全て、または一部がトンネル内に配備。米国情報機関によれば単弾頭。80年に配備。インド、ロシアの一部、グアムに届く (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。DF-31に置き換えられつつあり、近く退役する見通し。
5) 東風はドンフォンと読む。液体燃料。サイロ型。米国情報機関によれば単弾頭。81年配備。80年代初期以来、米国、ロシアを標的とした (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。2015年の米国防総省報告書は、M3型として多弾頭のものがあると初めて記述した (Office of the Secretary of Defense 2015)。2016年の同報告書も同内容を再確認した(Office of the Secretary of Defense 2016)。ここでは、DF-5Aの5基が新しく多弾頭3のDF-5Bになったと計算した。結果として多弾頭ICBMは15基となる。
6) 米国CIAが、1990年8月の核実験が短距離弾道ミサイル用の弾頭開発の可能性があるとし、1993年9月には翌年に配備が始まると推定した。DF-15は大部分、核・非核両用と考えられる。弾頭数について推定できない(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)
7) 東風はドンフォンと読む。旧式M1の射程は1,750 kmだが、新式M2の射程は2,150 kmと推定される (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。中国の中距離ミサイルの主力。固体燃料、2段式。道路移動型。米国情報機関によれば単弾頭。81年に配備。通常弾頭(対地および対艦)のDF-21もあり、核兵器用のミサイルは40基で弾頭数は倍の80発と見積もられる(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。
8) 東風はドンフォンと読む。2016年の軍事パレードに16基登場。2017年にも登場し、注目を集めている。射程4000kmの道路移動型ミサイルで、グアムを射程内に収める。核・非核両用と考えられ、通常弾頭による米空母攻撃の可能性も論じられている(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2016)、(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。国防総省の報告書は核能力を明記している(Office of the Secretary of Defense 2019)。増強されつつあるミサイルであり、核弾頭数を25発と推定した。
9) 東風はドンフォンと読む。固体燃料、3段式。移動型。2006年初期配備。米国情報機関によれば単弾頭。よく分からない理由で、配備の増加が中断している。米国防総省は射程を7,200kmと推定 (Office of the Secretary of Defense, 2019)。
10) 東風はドンフォンと読む。固体燃料、3段式。移動型、道路移動とレール移動の両方がある (Gertz, Bill 2016)。2007年配備。米国情報機関によれば単弾頭。単弾頭だが、ミサイル防衛に備えておとりなどを伴うと考えられる。文献によると、6–10弾頭の多弾頭化が可能であり、2016年4月19日、道路移動式発射台から2弾頭の発射テストが行われたことを米国防総省が確認した (Gertz, Bill 2016)。米国防総省は射程を11,200kmと推定 (Office of the Secretary of Defense 2019)。
11) 東風はドンフォンと読む。2017年人民解放軍90年パレードに改良型の移動式起立型発射台が登場し、新型ICBMとの推測がでた。国防総省の2019年報告には核兵器能力として記述している(Office of the Secretary of Defense 2019)。それ以上の情報はない。
12) 東風はドンフォンと読む。開発中の道路移動型あるいはサイロ型。1997年に米国防総省が報告していたが、その後記述がなかった。2014年に復活、開発中と記述され、多弾頭の可能性が述べられている (Office of the Secretary of Defense 2016、及び Office of the Secretary of Defense 2019)。固体燃料と考えられる(Gertz, Bill 2016)。ミサイルが開発中であるが、核弾頭が準備されている可能性があるので、括弧をつけて(15)発と記した。
13) 地上発射対地攻撃巡航ミサイル。米空軍はその核能力について「通常あるいは核」能力と述べたことがある。ミサイル数は不確実 (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。米国防総省は射程を1,500+kmと評価(Office of the Secretary of Defense 2016)。
14) 4隻の晋(ジン)級戦略原子力潜水艦に搭載される。5隻目を建造中(Office of the Secretary of Defense 2016)。しかし、戦略抑止パトロールが始まっているか否かははっきりしない。ロイター通信の詳細な調査は、常時1隻がパトロールしている体制にはなっていないと評価している(Torode, Greg & Lague, David 2019)。平時パトロールは、中国の基本ドクトリンの変更を必要とするとともに、新しい通信システム、指揮・統制の技術システムも必要と考えられる (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。
15) 巨浪はジュランと読む。単弾頭。DF-31の変形。晋(ジン)級(094型)に搭載するSLBM。12発射管。発射テストに失敗していたが、2013年に発射テストに成功。米国情報機関は、2013–14年に初期作戦能力を達成すると予想していた (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018)。米国防総省は射程を7200kmとしている(Office of the Secretary of Defense 2019)。ここでは4隻用のミサイル48基が生産済みと推定。
16) 爆撃機「轟(ホン)」H-6(NATO名:B-6)100–120機のうちの20機が核任務を持つと推定。戦闘半径3,100 km。1965年配備。戦闘爆撃機が核実験に使われたことがあるが、実戦配備されたか否かは不明 (Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015)。米国防総省の報告書によると、航空機の改造と空中発射弾道ミサイルの開発が行われている(Office of the Secretary of Defense 2019)。
17) 開発中。改良型戦闘爆撃機「轟(ホン)」H-6に搭載予定。米空軍グローバルストライク軍が核能力ありと推定。しかし、米国防省内で統一した記述がない(Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2016)。
【出典】
Gertz, Bill 2016: “China Flight Tests New Multiple-Warhead Missile,” The Washington Free Beacon, April 19, 2016.
http://freebeacon.com/national-security/china-flight-tests-multiple-warhead-missile/ (2019.5.18 アクセス)
Kristensen, Hans M. & Korda, Matt 2019: “Status of World Nuclear Forces,” FAS Nuclear Information Project
https://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/(2019.5.18 アクセス)
Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2015: “Chinese Nuclear Forces, 2015,” Bulletin of the Atomic Scientists, Vol. 71, #4, 2015.
https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/0096340215591247(2019.5.18アクセス)
Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2016: “Chinese Nuclear Forces, 2016,” Bulletin of the Atomic Scientists, DOI: 10.1080/00963402.2016.1194054
http://dx.doi.org/10.1080/00963402.2016.1194054 (2019.5.18 アクセス)
Kristensen, Hans M. & Norris, Robert S. 2018: “Chinese Nuclear Forces, 2016,” Bulletin of the Atomic Scientists, 74:4, DOI: 10.1080/00963402.2018.1486620
https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00963402.2018.1486620?needAccess=true (2019.5.18 アクセス)
Ministry of National Defense, PRC 2015: “China’s Military Strategy,” May 2015
http://eng.mod.gov.cn/Press/2015-05/26/content_4586805_4.htm (2019.5.18 アクセス)
Office of the Secretary of Defense 2015: “Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2015,” April 2015. https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2016%20China%20Military%20Power%20Report.pdf(2019.5.18 アクセス)
Office of the Secretary of Defense 2016: “Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2016,” April 26, 2016. http://www.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2016%20China%20Military%20Power%20Report.pdf(2018.5.17)
Office of the Secretary of Defense 2019: “Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2019,” May 2, 2019. https://media.defense.gov/2019/May/02/2002127082/-1/-1/1/2019_CHINA_MILITARY_POWER_REPORT.pdf(2019.5.18 アクセス)
Torode, Greg & Lague, David 2019: “China’s Furtive underwater nukes test the Pentagon,” May 2, 2019. https://www.reuters.com/article/us-china-army-nuclear-short/chinas-furtive-underwater-nukes-test-the-pentagon-idUSKCN1S80Z3(2019.5.18 アクセス)
Zhang, Hui ,with updates by Allison Pytlak 2019: Chapter ‘China’, “Assuring Destruction Forever: 2019 edition,” edited by Allison Pytlak, 2019, Reaching Critical Will. http://www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Publications/modernization/assuring-destruction-forever-2019.pdf(2019.5.18 アクセス)
©RECNA 核弾頭データ追跡チーム

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