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2.国際人道法とは何か(2012.8.28)
Q1 「国際人道法」とは何ですか?
Q2 「国際人道法」には、具体的にどんな条約がありますか?
Q3 「国際人道法」は、「戦争の方法」を決めているのに、どうして「人道」なんですか?
Q4 核兵器は「国際人道法」に違反していないんですか?
Q5 日本ではあまり「国際人道法」の話題を耳にしないような気がしますが、なぜですか?

 

A1 「国際人道法」とは何ですか?
 「国際人道法」とは、1971年に国際赤十字委員会が初めて公式に提唱した国際法の分野名です。「国際人道法」という名前の特定の条約があるわけではありません。また、具体的にどのような条約が「国際人道法」に含まれるのかという点でも、まだはっきりした合意があるわけではなく、国によって、あるいは、専門家によって、その範囲には多少の意見の違いがあります。※
 一般的には、「国際人道法」とは、以前は、「戦時国際法」、「戦争法」あるいは「武力紛争法」と呼ばれていた国際法の分野の中で、特に重要な部分を占めていた、戦闘行為の制限に関する部分を、現在の国際情勢に合うように修正、展開、進化させたものだという考え方が主流になっています。

 わかりやすく言うと、武力行使の時に、「やって良いこと」と「やってはいけないこと」の区別の基準となっているのが、「国際人道法」だということになります。時々「戦争中なんだから、何があってもそれは仕方のないこと」という言い方をする人がいますが、そんなことはありません。「戦争犯罪」という言葉があるように、たとえ武力紛争の最中であったとしても、「やって良いこと」と「やってはいけないこと」は国際法ではある程度決められているのです。

 「国際人道法」の具体的な内容は大きく二つに分けることができます。一つは、「軍事目標主義」と呼ばれるもので、武力の行使は、相手の軍事力を破壊するという目的にのみ限定されるべきだという、「軍事」とそれ以外を区別する原則です。軍事力の一部分であるとは普通考えられない一般の女性や子ども、お年寄り、病人、あるいは病院、宗教施設、文化施設や普通の民家、また、敵の兵士であってもすでに降伏していたり、沈没した船から脱出して救助を求めている人間などは、攻撃目標としてはならないことになっています。しかし、それらの非軍事的な施設や一般の市民が、軍事的な施設や軍隊のそばにいて、攻撃の巻き添えになってしまった場合や、道路、鉄道、発電所、工場、港湾あるいは空港などのように、民間の施設あるいは市民生活のために必要な施設であっても、軍事的にも利用価値の高い目標を攻撃した場合など、どこまでが国際人道法上許される攻撃の範囲なのか、現実には判断が難しい場合も少なくありません。

 もう一つは、「害敵手段の制限」というもので、武力行使の際に使っても良い武器や兵器と、使ってはいけない武器を区別するものです。この基本的な考え方は、武力の行使というものは、相手の戦う能力や意思を奪うこと、つまり敵を降参させることを目的としているのであり、最初から相手を殺すこと自体を目的としたり、相手に苦痛を与えることを目的としているわけではないということです。武器や兵器を使用した結果として相手が死亡する可能性は高くとも、殺すことが最終的な目的ではないのです。そこで、相手の苦痛を拡大したり、確実に相手の生命を奪うことを目的とした兵器を使用することは、国際法で禁止されているのです。

 したがって、敵に対し、過度の傷害を与えたり、無用の苦痛を与えるように作られた武器を使用してはいけないことが条約により定められています。また、毒ガスや細菌兵器、命中した敵兵に致命傷を与える目的で破壊力を増したダムダム弾や、毒薬や焼夷剤を加えた小銃弾など、特定の兵器を具体的に禁止するための条約もいくつかあります。

 このような武力紛争の際のルールは、もちろん「人道」、つまり、「仮に戦争という極限状態にあったとしても、人間としてこれだけは許されないだろう」という最低限のルールを集めたものだと考えることができます。

しかし、それだけではないという指摘をする専門家も少なくありません。戦争とは「殺し合い」だと思っている人も多いと思いますし、それが間違いだとは言えないでしょう。それでも、戦争は、「敵を最後の一人まで殺すこと」を目的として行われるものではありません。戦争の目的は、相手に自分達の要求を受け入れさせることです。そのためには、相手の抵抗する意思あるいは能力を奪ってしまえば良いわけです。そして、そのために必要な犠牲は、敵味方ともに、少なければ少ないに越したことはないわけです。戦争だからといって、敵に対してあまりに酷いことをしたり、皆殺しにしようとすれば、相手も死に物狂いで抵抗したり、仕返しをしようとするでしょう。そうすると、結果として自分達の損害も増すことになります。戦争の目的を達成するために、不必要な犠牲を出すことは、軍事的に見ても合理的とは言えません。そういう観点から、武力紛争の際に、相互に一定のルールを守ろうとすることは、結果的に軍事的な合理性を保証するものだという考え方もあるわけです。
※実際にも、旧ユーゴスラビア国際法廷、ルワンダ国際法的、国際刑事裁判所(ICC)などの国際裁判が、国際人道法違反を裁く目的で設置されていますが、その中では、一般の戦争犯罪だけでなく、集団殺害(ジェノサイド)および「人道に対する罪」としていわゆる民族浄化の際に行われた各種の残虐行為が処罰の対象として含まれているなど、国際人道法そのものの定義と、「人道」という言葉の意味が、やや広く使われています。
(広瀬 訓)

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A2 「国際人道法」には、具体的にどんな条約がありますか?
 初期の国際人道法には、小さな弾丸などに焼夷剤や炸薬を詰めることを禁止した1968年のサンクト・ペテルブルク宣言や1900年のダムダム弾禁止宣言などがあります。さらに、この二つを含め、主に1899年から1907年の間にオランダのハーグで開催された二回の国際平和会議を中心に成立した1910年の開戦条約、陸戦条約など、交戦国および軍事行動の規則、制限及び害的手段の制限を定めた、「ハーグ法」と呼ばれる一連の条約があります。また、これとならんで、傷病者や捕虜、一般市民、女性や子ども等、戦闘に関わらない人々や施設を保護するために作られた1949年の第一から第四までの、四つのジュネーブ赤十字条約があり、ハーグ法に対して、「ジュネーブ法」とも呼ばれています。この二つが 国際人道法の中でも中核をなすと一般に考えられています。ジュネーブ赤十字条約については、その内容を現代の情勢に合わせるために、1977年に第一、第二の二つの議定書も作られています。  具体的な兵器の規制に関しては、毒ガスを禁止する化学兵器禁止条約、細菌兵器を禁止する生物毒素兵器禁止条約、対人地雷禁止条約、地雷、ブービートラップ、焼夷兵器やレーザー兵器の使用を規制する特定通常兵器禁止条約とそれに続く議定書などがあります。
(広瀬 訓)
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A3 「国際人道法」は、「戦争の方法」を決めているのに、どうして「人道」なんですか?

 サンクト・ペテルブルク宣言の中には、「そのような兵器の使用は、人道の法に反する」という表現が使われており、仮に戦争の中であっても人間として許されない残酷な行為というものが存在するという考え方は昔からあったわけです。それを紛争の際の「人道的な」ルールと呼ぶわけです。しかし、確かに、例えば、国連の人道問題調整事務所は、「人道問題」として、主に大規模な災害の犠牲者の救援を担当していたり、ニュルンベルグ裁判では一般の戦争犯罪とユダヤ人に対するホロコーストのような「人道に対する罪」が区別されているなど、私たちが普通「人道」という言葉を使う時の意味に近い使い方が、国際的にも通用している場合もあり、「人道」の意味が一貫していないために、混乱が生じることもあります。
(広瀬 訓)

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A4 核兵器は「国際人道法」に違反していないんですか?

 大量破壊兵器の中でも、毒ガスのような化学兵器や細菌を使用する生物兵器については、兵器そのものに対して、すでにその保有や使用を明確に禁止する条約が成立しており、存在自体が国際法に違反する兵器であると言うことができます。それに対し、まだ核兵器そのものを明文で一律に禁止する条約はまだ成立していません。核兵器の保有は、NPTや非核兵器地帯条約に加盟している非核兵器国に対しては、法的に禁じられていますが、5核兵器保有国や、それらの条約に参加していない国など、まだ明確に禁止されていない国もあります。しかし、広島や長崎の悲惨な実例でもわかるように、核兵器の使用は、広範囲にわたって、それが軍事施設であろうと民間施設であろうと区別せずに、甚大な被害をもたらします。当然そこには軍人と一般市民の区別もありません。また、生き残った被爆者に対しても、数十年にわたって深刻な放射能障害をもたらす場合が珍しくないことも明らかになっています。このような核兵器の性格を踏まえ、1996年の核兵器の合法性に関する勧告的意見の中で、国際司法裁判所は、核兵器の使用あるいは使用するとの威嚇は、「人道法の原則及び規則に、一般に違反するであろう」と結論付けています。つまり、国際司法裁判所も、核兵器の存在自体まで国際人道法に違反しているとは言わずに、核兵器の使用および核兵器による威嚇に絞って判断したわけです。そのうえで、核兵器を使用する以外の方法で自分の国を守ることが不可能になるような極限の状況に追い込まれたような場合、例外的に使用が認められるかどうかは、実際にそのような状況が起きてみないとわからないとして、明言しませんでした。現実には、核兵器の破壊力の大きさを考えると、核兵器を使用する以外の方法では対処できないようは状況を、具体的に想定するのは困難ではないかという専門家も少なくありません。
(広瀬 訓)

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A5 日本ではあまり「国際人道法」の話題を耳にしないような気がしますが、なぜですか?

 ひとつには、「国際人道法」という分野自体が、比較的新しい分野だということがあるのではないかと思います。また、第二次世界大戦後、「国際人道法」がまだ「戦争法」、「武力紛争法」と呼ばれていた時代には、「戦争を放棄した日本には、あまり関係の無い分野の国際法」だとして、関心を持ったり、専門に研究する人があまりいなかったのかもしれません。しかし、現在では、武力紛争の中だけでなく、より積極的に国際人道法の精神を核軍縮のような問題に反映させようとするような動きも世界的に高まっていますし、国際人道法を専門に研究しようとする若い人も増えてきています。国際法、特に国際人道は、仮に今の日本には直接関係しないと考えられる内容だとしても、「世界のルール」としては、きわめて重要なものですから、多くの人に関心を持って欲しいと思います。
(広瀬 訓)

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