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核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議
2014年12月8~9日
会議報告及び討議結果の概要
(文責はオーストリア政府)
<暫定訳>

 「核兵器の人道上の結末に関するウィーン会議」は2014年12月8~9日に開催された。会議においては、人間の健康、環境、農業、食糧安全保障、移住、経済に及ぼす影響を含め、核兵器使用がもたらす人道上の結末についての議論がなされた。また、許可あるいは無許可での核兵器使用の危険性や可能性、国際的な対応能力、適用可能な規範的枠組みについても議論がなされた。

会議には、158か国の政府代表、国連、国際赤十字委員会(ICRC)、赤十字・赤新月運動、市民社会の諸団体、アカデミアが参加した。

会議には、国連事務総長やローマ法王からメッセージが送られた。ICRC総裁も参加者を前に演説を行った。被爆者、すなわち広島・長崎の核爆発を生き延びた人々や、核実験の被害を受けた人々も列席し、自らの体験を証言した。それらの人々の参加と貢献は、核兵器が一般民間人にもたらした筆舌に尽くしがたい惨禍を例証するものであった。

ウィーン会議は、オスロとナジャリットでそれぞれ開催された過去2回の「核兵器の人道上の影響に関する国際会議」で示された事実情報に基づいた議論を基盤としたものであり、核兵器がもたらす結末や現実的な危険性に対する理解をいっそう深めることに寄与した。また、それらの議論においては、人口密集地域における核兵器爆発に対する人道的対処の困難さが強調された。さらに会議は、国際規範や核兵器の人道上の影響についての「俯瞰図」を示した。各セッションにおける主たる結論は以下の通りである。

・核兵器爆発の影響は、その原因の如何にかかわらず、国境で制御し得ず、地域的、ひいては地球規模の結末を生じうるものである。それは破壊、死、強制移動、さらには環境、気候、人間の健康や福祉、社会経済的な発展、社会秩序に対する深刻かつ長期にわたる被害をもたらし、人類の生存さえ脅かしうる。

・核兵器爆発がもたらす人道上の影響の範囲、規模、相互関係は壊滅的なものであり、それは一般的に理解されているものよりも複雑である。これらの結末は大規模であり、不可逆的なものになりうる。

・核兵器の使用や実験は、それらの兵器が短・中・長期的にもたらす破壊的な影響を証明してきた。地球上の各所で行われた核実験は、健康や環境面での重大な結末という負の遺産をもたらした。これらの実験による放射能汚染は女性や子どもに偏った影響を与えている。食糧供給を汚染し、今日でも引き続き大気中において計測されている。

・核兵器が存在する限り、核兵器爆発の可能性が消えることはない。たとえ可能性は低いとみられるとしても、核兵器爆発のもたらす壊滅的結末を考えれば、危険性は容認しがたいものである。人的ミスやサイバー攻撃に対する核指揮統制ネットワークの脆弱性、高い警戒態勢に維持されている保有核兵器、前進配備、核兵器の近代化といった現状をもってすれば、事故、間違い、不認可あるいは故意の核兵器使用の危険性があることは明白である。こうした危険性は時が経つほどに増大している。テロリスト集団などの非国家主体が核兵器やその関連物質を入手する危険性は今も続いている。

・国際的な対立や緊張関係の激化、そして核兵器保有国における現在の安全保障ドクトリンを鑑みれば、核兵器が使用されうる多くの状況があると考えられる。核抑止は核戦争の準備を必然的に伴うものであり、よって核兵器使用の危険性は現実味を帯びている。警戒態勢の解除や安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割低減といった危険性を低減するための手段を今こそ講じなければならない。核兵器の役割を抑止に限定したとしても使用の可能性を除外したことにはならず、偶発的使用の危険性の問題も残されたままである。核兵器爆発の危険性を回避するための唯一の保証は核兵器の完全廃棄にほかならない。

・いかなる国家あるいは国際機関であろうとも、人口密集中地域における核兵器爆発がもたらす短期的な人道緊急事態ないし長期的な結末に対して十分な対処を講じることは不可能であり、そのような能力はおそらく存在し得ない。とはいえ、準備体制をコーディネートしておくことは、簡易的な核装置の爆発といったテロ行為などによる影響を軽減することにおいては有益であるかもしれない。核兵器使用の人道上の結末を起こさせない唯一の保証として、予防が必須であることが強調された。

・さまざまな法的側面から核兵器の問題を見れば、保有、移転、製造、使用を普遍的に禁止する包括的な法的規範が存在しないことは明らかである。国際環境法は核兵器に対する制限を明示したものではないが、武力紛争時においても適用可能であり、核兵器に適用できると考えられる。同様に、国際保健規則においても核兵器の影響がその範囲に含まれるだろう。国際人道法に照らしてこれらの兵器の使用が可能か否かについては、核兵器の人道上の影響をめぐって過去2年に出されてきた新たな証拠により、さらなる疑問が突きつけられている。人間性を打ちのめし、今となっては誰にとっても受け入れがたいものである拷問のケースと同じく、核兵器使用による惨禍は法的問題に留まらず、道徳的観点からの評価を必要とするものである。

・核兵器爆発が起こった際の壊滅的な結末、そして核兵器の存在そのものに内在する危険性は、法的な議論や解釈のレベルを超えて、倫理面及び道徳面での重大な疑義を生じさせている。

一般的見解及び政策面での反応

各国政府、国際組織、国連機関、赤十字・赤新月運動、市民社会の代表は、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結末に対する深い懸念を想起した。参加者は、「核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議」の開催に歓迎の意を示した。参加者は、若者に対する教育や意識喚起という点でも、核兵器使用や実験の生存者が証言を行ったことに謝意を示した。政府代表の多くが、核軍縮の前進が限定的であることに懸念を表明するとともに、人道的観点がもはや無視すべきものでなく、あらゆる核軍縮議論の中心に据えられるべきであるとの見解を強調した。各国は、核兵器保有の数か国を含む、広範囲の参加があったことを歓迎した。各国は、ここでの議論が2010年NPT再検討会議で合意された行動計画やそれ以前の約束の履行に向けて、また、2015年NPT再検討会議が核軍縮努力の前進につながるような成果を達成することに向けて貢献するとの見方を示した。また各国は、国際的な核軍縮・不拡散体制における重要な要素として、包括的核実験禁止条約の発効の重要性をあらためて強調した。

多くの政府代表は、いくつかの国の軍事ドクトリンが核兵器使用の正当化や運用計画を明らかにしていることに懸念を示した。

核兵器の人道上の影響に関するこれまでの討議において、核兵器の受け入れがたい危険性とならんで、その危険性が一般的な理解よりも高く、また、時とともに増大していることが判明したことに政府代表の多くが留意した。民間人保護は国家の基本的義務であり、特別の配慮が必要である。政府代表の多くは、人類の生存そのものに対する利益として、いかなる場合でも核兵器が二度と使用されるべきでないことを強調した。

多くの政府代表は、核兵器の存在と使用の可能性、そしてそこから生じる受け入れがたい結末が、重大な道徳的、倫理的問題を呈しているとの見解を示した。

持続可能な開発への取り組みという観点から、核兵器に財源が振り当てられていることへの懸念が表明された。

多くの政府代表からは、核兵器使用の可能性やその破滅的な人道上の結末を含めて核兵器がもたらす危険性に対する認識の拡大により、核軍縮の達成に向けた効果的な措置をすべての国家が追求することへの切迫した必要性が強調されてきたとの見解が示された。

各国政府は、核軍縮の諸課題を前進させるための手段や方法に関してさまざまな見解を述べた。核兵器のない世界に向けた前進を達成するためのさまざまな法的拘束力のある集団的アプローチについての検討がなされた。多くの政府代表は、核兵器使用を阻止する最も効果的な方法が核兵器の完全廃棄であることをあらためて確認した。

核軍縮・不拡散の前進や核兵器のない世界の達成に向けたあらゆる側面において、市民社会や研究者が行ってきた重要な貢献に対し、多くの政府代表からは謝意が示された。こうした目的を追求する上では、多国間かつ包摂的なアプローチが不可欠であることを多くの政府代表が強調した。

大多数の政府代表が、核兵器の最終的な廃絶は、核兵器禁止条約を含む、合意された法的枠組みにおいて追求されるべきであることを強調した。

いくつもの政府代表が、ステップ・バイ・ステップのアプローチこそ核軍縮を達成するための最も効果的かつ具体的な方法であると主張した。これらの政府代表は、とりわけCTBT発効や核兵器用核分裂性物質生産禁止条約に言及した。また、これらの政府代表は、核兵器や核軍縮に関する議論においてはグローバルな安全保障環境が考慮されるべきであると述べた。これに関連して、これらの国々は、さまざまな一国、二国間、複数国間、多国間の「積み上げブロック」が、核兵器のない世界を支える上で短・中期的に実行可能であるという提案を行った。

多くの政府代表は、すべてにとっての安全保障の必要性が強調され、核兵器の完全廃棄と禁止を通じることがそれを保証する唯一の方法であることを主張した。これらの国々は、NPTが求めていることと同様に、核軍縮のための効果的な措置で構成される、核兵器を禁止する新たな法的文書を交渉することに賛意を示した。

NPT第6条が述べる通り、核軍縮に向けた効果的な諸措置を追求することはすべての加盟国に課された義務であり、各国がそのような措置を誠実に追求する上で今すぐに講じることができる実際的措置が存在するとの認識が示された。

ある特定の措置に関して前進を図ることができないからと言って、それを核兵器のない世界の達成と維持のための他の効果的な諸措置に関する交渉を誠実に行わないことの口実にはならないとの見解がいくつもの国から示された。そのような諸措置は、非核兵器地帯が例であるように、これまで地域的な文脈で極めて効果的に実施されてきた。

ウィーン会議の参加者は、2015年が広島及び長崎における核兵器使用の70周年であり、これに関連して核軍縮の要求がより明確で強固なものになってきていることを認識していた。核兵器がもたらす危険性とその結末に対する懸念の広がりを、核兵器のない世界の達成に向けた協働の措置へと移行させていくためには、国家、赤十字運動、国際機関、議員、市民社会との協力関係の維持が不可欠であるとの見解が各国から示された。

NPT加盟の圧倒的多数の国々は、来る2015年NPT再検討会議において「核兵器の人道上の影響に関する会議」の成果を含めたすべての関連した進展が考慮されるべきであり、核兵器のない世界の達成と維持に向けた次なる措置を決定すべきことであることに期待感を示した。

(暫定訳:長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA))

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