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弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)報告
要約部分

2010年2月

 

  国防総省は、2009年3月から2010年1月にかけて、最初の「弾道ミサイル防衛(BMD) 見直し」を行った。国会から要請され、大統領指令によって導かれた今回の見直しは、米国のBMDの政策、戦略、計画、実施プログラムを包括的に考察した。国防次官(政策担当)と国防次官(取得、技術、兵站担当)、統合参謀本部副議長も共にこの見直しを指揮した。国土安全保障省と情報コミュニティ、国家安全保障局員、大統領府管理予算局からの参加者もいた。

 

弾道ミサイルの脅威
  弾道ミサイルの脅威は質・量ともに増大しており、この先10年においても同じように増え続けるであろう。現在の世界的な傾向は、弾道ミサイルシステムがより柔軟で、移動性が高く、生き残り易く、信頼性が高く、精度が増し、同時にますます飛距離を伸ばしていることを示している。多くの国家はまた、発射前の攻撃に対する弾道ミサイルの防護を強化し、ミサイル防衛突破の有効性を高めようとしている。いくつかの国家はまた、核兵器や生物兵器、化学兵器の弾頭をミサイルのために開発している。このような能力は、紛争時には軍事的優位の重要な原因となるであろう。のみならず、それは、広範囲の他国への強要圧力を下支えするとすれば、比較的平和な時においても重要な意味を持つ。北朝鮮やイランといった地域的アクターは合衆国を脅かすことになる長距離ミサイルを開発し続けている。米本土に対するこのようなタイプの大陸間弾道ミサイルが、いつ、どのように完成するかは不確かであるが、このような地域的脅威が存在するということには疑問の余地が無い。脅威は明らかであり、現存している。合衆国が部隊を配備し、安全保障上の関係を維持している地域における短距離、準中距離、中距離弾道ミサイルの脅威はとりわけ速いペースで増えている。

 

戦略的および政策的枠組み
大統領の指示に従い、この見直しは次のような政策上の優先事項を設定した:

1.合衆国は、限定的な弾道ミサイル攻撃の脅威からの本土防衛を継続する。

2.合衆国は、地域的なミサイルの脅威から米軍を防衛する。また同盟国や友好国を防衛し、それらの国々が自らの防衛を担えるようにする。

3.新しい能力が配備される前には、現実的な作戦条件下における評価を可能にするような試験を経なければならない。

4.新たな能力の責任ある取り組みは、長期間にわたって財政的に維持可能なものでなければならない。

5.合衆国の弾道ミサイル防衛能力は脅威の変化に適応可能な柔軟なものでなければならない。

6.合衆国はミサイル防衛における国際的努力の拡大を先導するよう努める。

米本土の防衛

合衆国は現在、限定的なICBM攻撃から守られている。これは地上配備型中間飛行段階防衛(GMD)に対して、過去10年間に行われてきた投資の成果である。GMDの絶えざる改良と、潜在的な北朝鮮とイランの長距離弾道ミサイル能力に比較した現在のGMD迎撃ミサイルの配備数を考えると、 合衆国は近い将来にわたって、北朝鮮とイランから予測される脅威に対抗できる能力を持つ。

  将来におけるICBMの脅威が、その成熟速度を含め不確かなものであるということを考慮すると、合衆国にとって現在の優勢な立場を維持することが重要である。しかしこのことは、合衆国が近年と同じ加速度や同じレベルのリスクを伴いながら、これらの能力を発展させていく必要があるということは意味しない。むしろ、合衆国は2010会計年度の予算で始めたように、米本土の弾道ミサイル防衛を見直す―すなわち、地上配備型迎撃ミサイル30基という現在のレベルの能力を維持すると共に、新たな脅威が現れた時に本土防衛が強化されるように、証明された能力をよりいっそう推進していく。

このような目標に向けて、合衆国は次のことに取り組む:

● アラスカのフォートグリーリー、及びカリフォルニアのバンデンバーグ空軍基地において、即応態勢を維持し、現在の作戦能力を発展させ続ける。

● 追加配備が必要になる可能性への予防措置として、フォートグリーリーに14基のサイロをもった第2区域を完成させる。

● イランや中東の他の潜在的な敵から米国に向けて発射されるミサイルの探知能力を改善するため、新しいセンサーをヨーロッパに配備する。

●  ICBMの脅威の高まりに対抗するための将来的な地上配備のために、スタンダード・ミサイル3(SM3)のさらなる開発に投資を行う。

● ミサイル防衛への対抗策に打ち勝つために、センサーや早期迎撃破壊システムに対する投資を増やす。

●  GMDシステムのいくつかの強化策を追求し、次世代のミサイル防衛能力を開発し、そして地上配備型2段階迎撃ミサイルの開発と評価を引き続き行うことなど他の予備戦略を推進する。

 

地域的な脅威に対する防衛
過去10年間、合衆国は短距離および準中距離弾道ミサイル攻撃に対する防衛能力の開発と配備において著しい前進を遂げてきた。これらの中には、ますます確実性を高めている、点防衛に有能なパトリオット部隊、弾道ミサイルの探知、追跡のためのAN/ TPY-2Xバンドレーダー、地域防衛のためのTHAAD(最終段階高高度地域防衛)部隊、宇宙配備センサー、SM-3ブロックⅠAのような海上配備能力が含まれる。

しかしながら、これらの能力は、拡大し続ける地域的なミサイルの脅威と比べたときに、控えめな数にとどまっている。それゆえ、2010会計年予算とそれに続く2011- 2015会計年の期間において、国防総省は配やすとともに、地上配備型のSM-3システム(仮に「陸上イージス」と呼ぶ)や、無人機による弾道ミサイルの同時探知・追跡を可能にする空中配備赤外線センサーなどの新たな能力の開発を行う。より長期的な展望(すなわち2015年から2020年の期間)としては、国防総省はより能力の高いSM-3と、大型高速ミサイル の探知と追跡を可能にする宇宙配備型の持続的な頭上センサーを追求する。

 

地域における能力の統合
脅威が進み技術的解決が成熟するにつれて、地域的な文脈において、より低密度で高性能のミサイル防衛装備の配備について戦略的に考えることがますます重要になってきている。それらの配備は、それぞれの地域固有の抑止や防衛の要求に適したものでなければならない。その要求は、それぞれの地理、脅威の性質、及びミサイル防衛協力関係を築こうとしている軍同士の関係によって、相当に異なる。

抑止と防衛への地域的なアプローチを進めるのにBMDがどのように利用されるべきかの指針について、いくつかの原則がある:

1.合衆国は、地域的な抑止アーキテクチャー(構造物)を強化するために同盟国やパートナーと協力して取り組む。そのアーキテクチャーは強い協力関係と適切な負担の分担という土台の上に築かれなければならない。

2.合衆国は、それぞれの地域固有の脅威や状況に合わせた、段階的で適応性のある地域内ミサイル防衛へのアプローチを追求する。

3.この先10年におけるミサイル防衛装備への世界的な潜在的需要は供給を上回ることが予想されるため、合衆国は移動可能かつ再配置可能な能力を開発する。

  これらの3原則は、地域に応じて適用される。国防総省は、ミサイル防衛能力の配置決定を、世界規模の戦力管理(Global Force Management)プロセスの助けを借りて行う。ヨーロッパ地域に関しては、国防長官と統合参謀本部長が一致して大統領に出した、従来のヨーロッパ・ミサイル防衛防護計画を改定すべきであるという勧告にしたがって、現政権は2009年9月、「ヨーロッパ段階的適応性アプローチ(PAA)」を発表した。

 

国際的な協力の強化
もう一つの鍵となる目標は、ミサイル防衛における国際的な努力と協力の拡大である。合衆国は、弾道ミサイル攻撃の有効性に対する敵国の自信を失わせることで、地域的な敵対国が弾道ミサイルを開発、獲得、配備、使用しようとするのを抑止する状況を作り出そうとしている。この目標に向けて、合衆国は幅広い国際的な協力を追求する。

強固で、実用的で、費用対効果に優れた能力を開発し実戦配備するための同盟国やパートナーとの協力を強化することは、重要な優先度をもつ。ヨーロッパでは、現政権はNATOの文脈で「ヨーロッパ段階的適応性アプローチ」の履行を誓約している。東アジアにおいては、合衆国は一連の2国間関係を通してミサイル防衛を改善 しようとしている。合衆国はまた、中東におけるいくつかのパートナー との協力関係を強化しようとしている。

現政権はまた、ミサイル防衛に関してロシアと中国の関与を追求している。ロシアとは、ミサイル発射の早期警戒、可能な技術面での協力、さらには運用上の協力までをも焦点に据えた幅広いアジェンダを追求している。中国とは、ミサイル防衛を含め、両国家が関心をもつ戦略的な問題についてよりいっそうの対話を追求している。ただこれらの協議を追求するに際して、現政権は米国のミサイル防衛に制約を加えるような交渉は今後も引き続いて拒否する。

 

ミサイル防衛計画の管理
現政権は、十分な試験と評価によって証明され、長期間調達可能な能力を配備することを誓約している。

試験プログラムを強化するために、いくつかの措置が採られている。ミサイル防衛局は、議会の要求を受けて作戦試験評価本部長と緊密な協力をしながら、2009年6月に試験について新しいアプローチを発表した。この計画では、以前の計画のように将来の2年間を見通すだけではなくて、それぞれのシステムの全発展過程にわたって試験活動が設定される。これらの活動には、作戦時パフォーマンスを証明し、かつシステムの有効性の評価を支援するために使われるモデルを確証するように設計された包括的な地上及び飛行テストの組み合わせを含んでいる。新しいマスタープランは半年ごとに見直され更新される。この新しいアプローチは、1年の経験を積んだ後(2010年6月)に評価され、そのときに必要な調整を行う。

ミサイル防衛計画の適切な監督を確実なものにするため、国防総省はミサイル防衛実行委員会(MDEB=Missile Defense Executive Board)の役割と責任を強化した。2007年3月に設立されたMDEBは、国防総省内のミサイル防衛関係者と何人かの国防総省外委員が、協力的なやり方で、監督と指導を行っている。委員会に求められている仕事は、米戦略軍が議長を務める戦争従事者関与プロセス(WIP)の仕事によって補われる。MDEBはまた、弾道ミサイル防衛システム・ライフサイクル管理プロセスを監督する。この管理プロセスは、国防総省が費用を管理するための必要事項を特定し、資源を配分し、国防総省としての見識を与えるために利用するものである。

慎重な調査をした上で、現時点において国防総省は、ミサイル防衛局を統合能力総合開発システム(JCIDS)や完全な国防総省5000調達報告プロセスに組み入れることに利益はないという結論に至った。しかしながら、プログラムの管理における更なる革新をすることの利点はあり、国防総省はミサイル防衛局と各軍の混成プログラム事務所の設立を追求している。

 

(翻訳:特定非営利活動法人ピースデポ)

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